表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第2章 使い魔の里帰り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/335

19 終わった恋、始まる恋

短いですが、やっぱり甘いです。

あと最後の一押しを諦めた為に失恋した男の話もチラリと出ます。

 治療を終えた以上、重傷者用の天幕を占有するのは気が引けると主張してみたが、カスパルには既に病床は足りている事を理由にそのまま朝まで休むよう言い含められてしまった。その代わり、早朝に簡単な聴取をした後にはまた存分に働いてもらうぞと不敵に笑って言いながら、彼は天幕を出て行った。



 簡素な寝台で寝息を立てるアレクの髪をさらりと撫でる。男性にしては柔らかく手触りの良い栗毛の感触を指先で楽しみ、それから少し血色の悪い頬に手を押し当てた。目元には微かに隈が浮かんでいる。

 足元ではルリィがすっかり弛緩し切って寝こけていた。どちらも起きる気配はない。

(――心配かけちゃったな)

 責められ捨てられる事を恐れて言い出せなかった腕の傷。アレクは絶対にそんなことはしないと分かってはいたけれど、それでも、あの異常だった日々を思い出せば、どうしても口にすることなど出来なかった。

 じっとりと胸の奥底にこびりついて離れない恐怖感。

 挫けそうになる心に何度も鞭打って必死に生きて積み重ねて来た最初の二年間の努力は、あの日に一度完全に壊されてしまった。それをどうにか立て直して、再び努力を続ける日々。本当に必死だったのだ。無意味には死にたくない。ただその一心で。

 でももし今ここで、彼に蔑みの目を向けられてしまったら。もう二度と立ち直る事は出来ない気がした。そう思うほどにアレクに心を傾けているという自覚はあったからだ。

 ――この世界に来て、二度目の恋だった。

 一度目はもしかしたら恋とも呼べないものだったかもしれない。異常な状況下で庇護者となった男に抱いた、本能的な依存心。あれがいわゆる吊り橋効果と呼ばれるものだということは、自分でも理解していた。

(――でも、それでも多分、好きだった)

 何くれと面倒を見てくれて「困ったことがあったら何でも言えよ」と言ってくれた彼、冒険者になる事を決めた時に「応援している」と送り出してくれた彼、結果を出せば「頑張ったな」と褒めてくれた彼。子供ではないのに、その大きな温かい手で頭を撫でてくれた――ザックが好きだった。

 あの状況で彼を好きにならない訳が無かったのだ。

 でも、誰かから「忠告」されてその想いに蓋をして、そして――。

『……気付いてやれなくてすまなかった』

 意識を取り戻した時に、酷く辛そうに顔を歪めて抱き締めてくれた彼に、『俺の妹にならないか』――そう言われた瞬間、完全にあの恋は終わったのだ。あの事件に責任を感じてくれて、もう二度と馬鹿な真似をする輩が近付かないように、「兄」になってくれるのだとそう言った。

 「兄妹」になってあの想いを忘れた訳では無かったけれども、もう自分の中では彼の事を兄として認識してしまっている。兄として妹の自分を労わり、気遣ってくれる彼。その事に感謝はしているけれども、ただ、ぽっかりと心に空いた穴と、ふとした折に感じる激しい飢餓感と焦燥感だけはどうすることも出来なかった。

 仲睦まじく寄り添う恋人達とすれ違った時。小さな子供達の手を引いて楽しげに道を行く若い夫婦を目にした時。互いへの温かい気持ちを長く慈しんで来たのだろう老夫婦を見た時。

 ああいう温かいものは、存在の曖昧な異邦人いせかいじんである自分には、永久に手に入らないのだろうという思いが激しく心を焼き、蝕んだ。

 ザック()だって、いずれは伴侶を得て自分の元から離れるだろう。親しくしているナディアやクレメンスだって、きっといつかは、「仲間」という枠を離れ、「家族」というものを作るのだろう。或いは、故郷で待っているかもしれない者達の元へと戻ることもあるかもしれない。

 どれも自分には無いものだし、これからも手に入らないだろう。

 そう思い、孤独感で気がおかしくなりそうになったことも一度や二度ではない。帰る場所も無い異邦人いせかいじんである自分が与えられた居場所を手放さねばならなくなった時、一体どこまで生きていくことが出来るだろうか。

 そんなどうにもならない想いを抱えていた時に、目の前に現れたのがアレクだった。

『お前の居場所になってやる』

 そう言って手を取ってくれた。事あるごとに傍に寄り添ってくれた。手を握り締め、頭を撫でて、何度も抱き締めてくれた。温かい口付けまでくれた。

「……参ったなぁ」

 あんな風に温かく心を満たしてくれた彼に、自分はもう完全に――。




 疲れて眠ったままの彼の両頬をそっと両手で包み込むと、その唇に静かに口付けを落とした。それから唇を離して、彼の頬に自分の頬を摺り寄せる。

 温かい人。優しい人。

(ねぇ、アレク。私は、)



 ――貴方を好きになってしまったよ。


ルリィ「砂糖大根大豊作」



赤毛の剣士と銀髪の双剣使いがフラグ回収出来ずに通常エンドしたので、王兄殿下ルートが解放されたっていう。何を言っているのかわからないと思うが、私も何を言っているのかわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ルリィの締めが秀逸すぎる。センス良すぎ
[良い点] 後書きルリィちゃんの呟きが大好きです!! 砂糖大根がこの先も大豊作であるように願って読み進めていきます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ