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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第10章 追い縋る者、進みゆく者
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25 登場人物紹介(九、十章登場分)

魔獣ガイドと巡るトリスヴァル名所ツアーへのたくさんのお申込みありがとうございました!

【冒険者組合(ギルド)

■アレク・ディア(Alek Dia / Aleksey Fränberg Striydia)

 恋人のシオリが大好きな本作男性主人公。本名アレクセイ・フレンヴァリ・ストリィディア。5月15日生まれ。35歳。トリス支部所属のS級冒険者。竜殺しの英雄、または竜の英雄の称号を持つ魔法剣士。魔狼(マダム)フェンリルの契約主。冒険者向けシェアハウスのオーナー。

 実は身分を隠して市井で暮らしている王兄で、「王位継承権争いの末期に失踪した第三王子」とは彼のこと。称号と肩書が絶賛渋滞中。しかし「紫紺の魔狼」とかいうこっ恥ずかしい二つ名はなかったことにしたい。

 現国王オリヴィエルの異母兄にあたる。身分を捨てて市井に下る際、異母弟や元恋人と少なからぬ蟠りを残していたが、十数年の時を経てようやく解消することができた。三十代の大人となった彼らの共通の思いは「相互理解は大事」である。

 伝えなかったことで大失敗をしてしまった経験からか、アレクは恋人のシオリに自分の気持ちをせっせと伝えまくっている。そんな様子を周囲は生温かく見守っている。

 今回無事気持ちの整理を付けたので、とうとうシオリへのプロポーズを果たした。ついでにそのまま雪崩れ込んで無事卒業した。何からとは言わないが、おめでとう!

 ちなみにプロポーズの際に贈った婚約指輪は日本円にして数千万円相当。プロポーズの感動で流していた涙が乾くのも道理である。しかし、数々の死線を掻い潜ってきた高ランク冒険者の装備品は一つ一つが高価なものが多く、一人分で総額数百万になることも珍しくはないため、そうビビらなくてもいいかもしれない……多分。

 なお、六月の竜討伐で一躍有名になったことで、王子時代の忌まわしい縁を引き寄せてしまった。子どもの頃同じ遊び場にいたというだけで幼馴染だと思い込んでいた御令嬢に一時期付け狙われていたが、竜討伐を経た王兄カップルに怖いものはなく、あっさり討伐してしまった。彼にとっては処理中に遭った蟹の方が印象強い。そのくらいに印象の薄い相手だったと言える。その証拠に、第六章「洞穴の主」編において戦闘中に見た幻覚で彼女の幻と会っているが、「いきなりストリップショーを始めて迫ってきた女」という印象が強烈過ぎたあまりにむしろ顔は覚えておらず、今回対面した際にも同一人物と認識できていなかった。

 それはそれとして、新居も買ったしシオリと心身ともに結ばれて幸せいっぱい。婚礼衣装について妄想を膨らませている最中。王国式もいいが、東方式も捨てがたいと思っている。そんなニヤニヤウフフしている様子を、使い魔のヴィオリッドはニヨニヨと生温かく見守っている。

 時が来たら王兄として表舞台に復帰し、社会福祉や教育事業などに尽力するつもりだが、それでも泥臭い冒険者稼業から完全に足を洗うことはないと思われる。



■シオリ・イズミ(Shiori Izumi / 和泉詩織)

 恋人アレクと友人ルリィが大好きな本作女性主人公。8月10日生まれ。もうすぐ32歳。日本からの転移者で本名は和泉詩織。A級冒険者。トリス支部所属。家政魔導士というジョブを確立した才女で、後方支援職の人気職の一つになりつつある。最近では竜の加護(甘えん坊)を得た「聖女」としても有名。冒険者向けシェアハウスのオーナー。

 六月の竜討伐時に竜本人から贈られた鱗を首飾りにして大切に持っているが、どうやらその鱗に「本人」が棲み付いているくさい。いろんなものに興味を示してはしゃいでいる様子を微笑ましく思っている。

 一部の魔獣からは「厄災の魔女が邪竜の加護を得てしまった……」と絶望されているとかどうとか。風評被害である。

 執筆していた家政魔法教本はひっそりと各所に配布、販売したが、魔法技術にプラスアルファしたい同僚たちには概ね好評の様子。なお、出遅れた同僚のヨエルには「出したんならちゃんと宣伝して!?」と突っ込まれたそうだ。近日中に発行予定の野営料理本も正座待機されているようである。

 自らが異世界人であることから生じる問題に対する気持ちの整理はすっかりついたようで、最近はわりとどっしり構えている。シェアハウスの同居人となった同僚ともすっかり打ち解け、家政魔導士の指導者兼シェアハウスの女主人として忙しく働く日々。

 アレクが失踪した第三王子であることに気付いた幼馴染み気取りのご婦人に敵視されてしまうが、異世界転移と竜討伐を経たシオリが今更動じることはなく、取り巻きの青年たちをいいように翻弄し、ご婦人の暴言にも毅然と反論した。

 全てが解決した後は彼女に特段思うところはないが、腐った床を踏み抜いて地下に落ちていく彼女のズロース(パンツ)が丸見えだったのはちょっと気の毒だなぁと思っている。しかしそれよりも、かつて自分を殺そうとした元仲間との再会と巨大蟹のインパクトが凄かったために、やっぱりご婦人の顔はうろ覚えなのである。なんなら思い出すたびに金髪の蟹頭女という怪異のような姿で思い出してしまう。残念過ぎる。

 ところで当初シオリと彼女が平手打ちバトルをする予定だったが、いくらなんでもさすがにどうかと思ったのと、今のシオリが引っ叩いたら反対の壁まで吹っ飛びかねないと思い直してやめた。後方支援とはいえ、重たい荷物を抱えて山野を歩き回る冒険者の腕力を舐めてはいけない。

 諸々片付いたし、アレクの異母弟とお話もして、とうとうアレクにプロポーズされた。あとはアレクとゴールインするだけで幸せいっぱいの日々。しかし贈られた婚約指輪のお値段には少しドキドキしている。

 色々と聞きつけた楊梅商会から「婚礼衣装作るなら当商会で紹介するでござるよ」と連絡があったので、少し心が動いている。



■ルリィ(Rli)

 最近ますます人間味あふれる本作魔獣主人公。瑠璃色のスライム。蒼の森出身。別個体から分裂しておよそ50年ほど。シオリの友人兼使い魔でトリス支部所属。

 友人のシオリが着々とランクを上げ、旅の同行者が必然的にベテラン揃いになったために学ぶことが多くて楽しい模様。最近ではスライムながらベテラン冒険者の域に達しつつある。植物採集やお手軽野営料理でパーティに貢献することもしばしば。あまりの器用さに新人冒険者たちには「こいつ実は中に人が入ってるんじゃなかろうか」と疑われる始末である。しかし中の人などいない。純然たるスライムである。

 先日新居に移った際にはとうとう憧れのマイルームをもらって超嬉しい。スライムなのでちょっとした隙間でもあれば基本的には十分なのだが、人間のような暮らしも面白いと思っているので、どう飾り付けるかウキウキしている。とりあえず宝物などお気に入りの品々を並べて楽しんでいる。

 魔法石店のショーウィンドーで見かけたガラスのコレクションケースに一目惚れ。いつかあのコレクションケースに宝物を並べることを夢見て、お小遣いを貯金中。しかしスライムにしてはなかなかの高給取りなので、堅実なルリィさんなら案外早いうちに買えるかもしれない。

 シオリとアレクの共同経営シェアハウスでは、以前から棲み付いていた妖精リラーヴェンや使い魔仲間と一緒に遊ぶのも日課の一つ。夕食後、過去の冒険の話やリラーヴェンの昔話を聞くのが最近の楽しみでもある。

 ところで、最近すっかり正体を隠さなくなってしまった「竜の鱗の中のひと」のはしゃぎっぷりについては、生温かく見守っている。楽しそうでなによりだなぁと思っている。

 友人のシオリとアレクも毎日(色んな意味で)仲良しこよしで良かったなぁと思っている。



■ヴィオリッド(Viorid)

 蒼の森出身の幻獣フェンリル。アレクの友人にして使い魔。だいたい5歳くらい。見た目の貫禄は凄いが、王兄パーティでは一番の若造(ピチピチギャル)

 両親はとある群れのリーダー夫妻で、弟が2匹いる。

 肉体的には雄だが精神的にはほぼ雌で、恋愛対象も強いて言えば雌。仕草やたたずまいは妙に色っぽく、その生い立ちゆえか達観しているので、最近は使い魔仲間や同居人の妖精リラーヴェンに尊敬を込めて「マダム」と呼ばれているようだ。

 正確には雪狼と絶滅した近縁種の交雑種の末裔で、先祖である近縁種の特徴が色濃く表れた個体である。希少かと思いきや意外に数が多かったので、雪狼と区別してフェンリルという呼称が定着しつつある。本人たちはどっちでもいいかなぁと思い始めているようだ。

 雪狼の中では異端として追放もしくは処刑という扱いを受けていたフェンリルだが、実際には相当数が追放と見せかけて密かに匿われていたようである。掟とはいえ雪狼たちも思うところがあったようだ。だからなのか、ヴィオリッドがアレクと契約して森を出て以降は、追放刑を廃止して人間の村に里子に出すことにしたようである。雪狼のハードでボイルドなイメージが崩壊し、意外にちゃっかり者という印象になりつつある今日この頃。

 最近では兄弟たちがトリスまで様子を見に来ているようで、二匹の若い雪狼がトリスの外壁まわりをうろちょろしている姿が時折見かけられている。警備の騎士や領都の人々には最初こそ警戒されていたものの、度重なる訪問に今ではすっかり慣れたようで「そんなに気になるなら会っていけばいいのに」と思われる始末である。兄弟仲が良いようでなによりである。

 それはさておき、ヴィオリッドも人間との暮らしを満喫しているようである。友人のアレクやその番のシオリの仕事を手伝うほか、市内を散歩したり、同居人の使い魔たちや近所の子供たちと遊んだり、外敵に襲われる心配もなくゆっくり昼寝したりと、充実した日々を送っている。

 戦闘時には鋭い牙と爪による攻撃が主体。シンプルではあるが、膂力と重量に任せた攻撃はなかなかにエグく、甲殻類魔獣の強靭な殻などはひと噛みで噛み砕くほど。また咆哮にはデバフと状態異常効果があり、間近で聞くと卒倒することもある。竜ほどではないにせよ、森の王者の咆哮はそれだけで強力な攻撃になり得るのである。



■竜麟の首飾りの中のひと

 シオリとアレクの胸元を飾る竜麟の首飾りの中にいる何かの魂。生前は200歳くらい。大変に好奇心が旺盛で、しょっちゅう竜麟から飛び出してはキラキラうろちょろしている。魔力持ちには蛍のような光に見えるが、魔力を持たなくてもなんとなく気配は感じるようである。時と場合によっては「巨大な竜」の姿が見えるとかどうとか。

 竜麟の首飾りの持ち主であるシオリとアレクが大好き。こんなママとパパがいたらいいなぁと思っている。

 どちらかと言えばシオリの方にくっついていることの方が多く、彼女の温かい胸元でぬくぬくしながら眠るのが大好き。アレクがぐぬぬと歯軋りし、雪男があの世で発狂しかねない状況だが、アレクはアレクで一緒になってぬくぬくしているのであまり問題ではないのかもしれない。幸せそうで何よりである。

 首飾りはもともと一つの鱗が二つに割れたものなので、どちらにも同じ「魂」が宿っている。双方の首飾りを自在に行き来できるため、どちらかの緊急時にはもう片方の持ち主にそれを知らせることもできる。もっとも緊急時でなくとも、しょっちゅう行ったり来たりしているので、もろに姿が見えるルリィや使い魔たちには「落ち着きがないなぁ」と思われている。

 中のひとの肉体は既に生命活動を停止しており、ディンマ氷湖のあたりで静かに眠っている。その死を悼んで墓参りに訪れる人もいるようだが、その魂は転生前の準備期間を絶賛エンジョイ中なのである。何に転生するかは本人が決めることは当然できないはずなのだが、中のひとは転生先を既に定めている模様。いつ頃転生するかは未確定だが、そう遠い未来の話ではないかもしれない。

 そして中のひとは今日も元気に飛び回っている。



■ザック・シエル(Zack Kjaell / Bleyzac Forsell)

 シオリとアレクの兄貴分。トリス支部のギルドマスター。辛うじて40歳。シオリの誕生日のちょっと後ぐらいに年齢加算されそう。S級冒険者で竜殺しの英雄。使い魔ブロゥの契約主でおともだち。

 冒険者組合(ギルド)には剣士で登録しているが、登録時がそうだっただけで、大剣を装備している現在では見ての通り重剣士である。冒険者組合(ギルド)ではジョブ設定が初期のままの冒険者はわりと珍しくはない。

 オリヴィエル王の側近フォーシェル公爵の異母兄。結婚の邪魔になるという理由で生まれて間もなく実母の手で孤児院に預けられ、そのまま六歳まで孤児として育ったという過去がある。劣悪な環境だったため発育が悪く、彼の存在を知った実父が迎えに来たときには四歳程度の体格で言葉遣いもかなり怪しかった。そこから標準以上に育ったのは実父と養母の愛情と本人の努力であるが、成人後に家を出て久しぶりに会った息子が大剣ぶん回す筋肉質なチョイワル系兄貴になっていたのを見たときには、さすがに驚いたようだ。

 なお、問題の孤児院はキレた実父により取り潰され、院長は投獄されている。子供たちは十分な治療を受けたのちにしかるべき機関に預けられ、それなりに幸せな人生を送っているらしい。

 その生い立ちから父方の祖父、つまり先々代当主との折り合いは最初は悪かったが、「丸々太った黒い悪魔」を共に打ち倒した戦友となってから和解した。祖父曰く「アレとの相性が悪いとは、まさしくフォーシェル家の男子の証拠」だそうである。フレードリクもエドヴァルドもそうなので血筋という意味では確かなのだろうが、そんなもの何かの呪いじゃないかとも思うが定かではない。

 ところで最近、異母弟エドヴァルドにあちこちで現地弟妹を作っていることを暴露された。今でも連絡を取り合っている者もいるが、ほとんどは別れたきりになっている。しかし自分は彼らの一時的な拠り所になっただけなので、元気でやっているのならそれでいいと思っているし、彼らも兄貴分の性質をよく分かっているので、敢えて連絡を取らないでいる。ただ、たまにイニシャルのみで絵葉書を送るなどしている者はちょくちょくいるようである。

 弟分と妹分のアレクとシオリがようやく婚約したので、報告を受けた晩はクレメンスとナディアを誘って祝杯をあげた。勿論べそべそ泣いた。ついでに翌日は二日酔いで、ブロゥに看病されるはめになった。



■ブロゥ(Blå)

 蒼の森出身の空色スライム。ルリィの同胞。別個体から分裂して10年くらい。ザックの使い魔でトリス支部所属。

 生き物好きで、昆虫観察や素材集めが趣味。自室には今までに集めたコレクションや、ザックに買ってもらった図鑑などが大切に飾られている。最近、コレクションにヴィオリッドの体毛で編んだお守りも加わって、ますます充実した。

 虫取り名人で、珍しい昆虫の居場所なども把握しているため、ブロゥのもとには助言を求めてやってくる者もいる。しかし乱獲は好まないタイプなので、相手はきちんと選ぶしっかり屋さんである。

 西の辺境伯領方面に向かう街道沿いにいる、物干し竿のふりをした雪原大ナナフシは顔見知り。ここ数週間で、若い雪狼の兄弟とも顔見知りになった。西の街道近辺の情報は彼らに聞くと色々面白いことが聞けるらしい。

 最近の楽しみは、シェアハウスの妖精リラーヴェンや竜麟の中のひととおしゃべりすること。大昔のことを知っているリラーヴェンの話には興味津々だし、竜麟の中のひとの感情表現は素直で一緒に話していて楽しいようだ。

 


■クレメンス・セーデン(Klemens Saedén / Klemens Holewa)

 シオリとアレクの友人。アレクとは新人時代からの付き合いで親友と言っていい間柄。7月末で37歳。A級冒険者。双剣使い。トリス支部所属。

 滴るような美中年でヒロイン気質な歩く残念不憫という、属性が渋滞している男。肩書大渋滞男のアレクとはいい勝負であるが、だからこそ釣り合うのかもしれない。

 王国屈指の大店ホレヴァ商会の現会長の弟で、本人も幹部コースを歩むはずだったが、女性関係のトラブルに巻き込まれてしまい、醜聞に耐えかねて家を出たという過去がある。そこで冒険者の道を選ぶというのもなかなかのチャレンジャーだが意外に水が合ったようで、今ではトリス支部で五指に入るほどの腕前である。

 6月の竜討伐で熊をも殺す猛毒が塗られた弓矢をくらって瀕死の重傷を負ったものの、周りにいい医者が揃っていたので一命を取り留めた。そうはいっても体力はごっそり持っていかれたはずなのだが、一ヶ月足らずで恋人ナディアと「大人の恋愛」を楽しむほどの回復を見せ、それらしき痕跡を発見してしまったシオリにドン引……驚愕された。

 ナディアとはそろそろゴールインしそうである。

 ところでクレメンスの「滴るような美形」設定は、作者の残念な想像力では「なんかシャツをはだけてる感じの色っぽさ」だったのだが、キャラクターデザインで「胸元までしっかり閉じて一部の隙もないのに色気が凄い、甘さも渋さも同居してて凄い」ものを出されて腰を抜かしたという経緯がある。プロって凄い。



■ナディア・フェリーチェ(Nadia Felice / Nadiana Félix Cernando)

 シオリとアレクの友人兼姉貴分。秋のはじめに39歳になる。A級冒険者。トリス支部所属の上級魔導士。「爆炎の魔女」という二つ名がある妖艶な長身ダイナマイツ美女。

 ユルムンガンドも裸足で逃げ、東方のヤマタノオロチも頭を垂れて平伏するほどの蟒蛇(うわばみ)

 実は「悲劇の姫君」と呼ばれている旧リトアーニャ王国の侯爵令嬢。オリヴィエル王とアレクの兄に嫁入り予定だったが事故で死別し、その直後に祖国の内乱で生家と故郷を失い行方不明になっていた。他国に嫁いだ姉のもとに身を寄せたのち、冒険者として各国を放浪。その後亡き婚約者が眠るストリィディアに流れ着き、彼の親友だったザックと再会した。そのときの第一声が「……ザック兄様?」だったので、周囲にはしばらくのあいだ生き別れの兄妹だと誤解されていた模様。

 なお、実姉は健在で、今は孫たちを可愛がるのに忙しいらしい。

 同僚のクレメンスとは恋仲で、近々式を挙げる予定。という手紙を姉に送ったら、腰を抜かすほど驚かれた。そんなこと今まで一言も言わなかったし、亡き婚約者に操を立ててこのまま生涯独身で過ごすものだとばかり思っていた妹からの婚約の知らせに、最終的には泣いて喜んだようである。

 ところで件の「亡き婚約者」だが、どうもクレメンスの背後霊、もとい守護霊化しているようである。親友ザックに負けず劣らず心配性なので、歩く残念不憫がうっかり死んでしまわないかと不安で仕方がないのだ。



■リヌス・カルフェルト(Linus Karlfeldt)

 シオリとアレクの同僚で、シェアハウスの同居人。唐揚げが大好きな弓使い。A級冒険者。トリス支部所属。

 無邪気で少年のような口調と仕草が目立つが、こう見えて29歳。仕事だってきっちりこなす立派な大人の男である。

 仕事が楽しくて恋人も作らずにこの歳まで過ごしてきたが、シェアハウスに入居してからは今まで気になっていたエレン先生との仲をせっせと深め、最近は新人の育成にも精を出している。

 シェアハウスでは貯蔵室の管理も担当。雪深い山奥の村出身で冬季の保存食作りの成否が生死を分ける環境にいたからか、食材の保存には人一倍気を遣うタイプ。獲物の解体もお手のもので、巨大ザリガニ「エーデル・クレフタ」の料理を率先して行った。

 どんなものでも美味しく食べるのがモットーなので、シオリと一緒に料理研究することもしばしば。最近では東方料理にも興味があり、楊梅商会から取り寄せてもらった東方の保存食の資料を読むのが日課になっている。

 先日、以前から気になっていたエレンにファーストキス(!)を奪われ、めでたく恋仲になった。先に告白されて「あーやられたー」となったが、これはこれで自分たちらしいかなとも思っている。

 


■エレン・オヴェリ(Ellen Åberg)

 シオリとアレクの同僚で、シェアハウスの同居人。A級冒険者。治療術師にして外科医師免許を持つ才媛。28歳。森の妖精のような神秘的な美人だが、大変肝が据わった女性で貫禄と迫力は一級品。怒らせると不死王(ノーライフキング)が成仏したくなるほどの恐ろしい形相になるが、脳啜りに言わせるとほとんど表情を変えないままゲスい攻撃を仕掛ける厄災の魔女の方が遥かに恐ろしいとのこと。

 7月の竜討伐戦では最前線で負傷者の治療に尽力。毒矢を受けて致命傷を負ったクレメンスの手術を担当し、彼の命を救った。

 シオリとアレクが運営する冒険者向きシェアハウスの一室を借り、念願の診療所を開業。腰を落ち着けて治療に専念できるのでエレン先生は大満足。現役の冒険者が診てくれるとあって、気負いせずに通えると同僚たちにも好評のようだ。

 時折美人の先生や竜の聖女目当てに診療所にやってくる不届き者もいるが、異様に賢いスライムや竜の英雄に幻獣フェンリル、百発百中の弓使いなどの強力な防衛システムがオートで作動して排除してくれるし、なんなら美人女医本人が死霊が成仏しかねないほどの形相で睨みつけて無力化するので、概ね平和である。

 これまでは仕事一筋だったが、シオリとアレクの仲睦まじい様子に「こういうのも悪くないわね」と考えを改めた様子。昨年夏に一緒に遠征して以来、ずっと気になっていたリヌスに遂に告白し、見事交際に漕ぎつけた。自らファーストキスを奪いにいくという男前ぶりで、リヌスも骨抜きらしい。



■ニルス・アウリン(Nils Aulin)

 シオリとアレクの同僚。A級冒険者。薬師兼医師。33歳。

 なんだかんだで二人とは仲が良く親友枠に入っている。冒険者サイドでアレクの正体を知る数少ない人物。

 ホルテンシア洞穴産の高級薬草のイールとは仕事の相棒兼友人。調剤に彼の葉や搾り汁を使わせてもらっているので、対価に結構いい魔力回復薬を与えている様子。お陰様でますますふっくらして色艶がいい。

 イールともども騎士隊に欲しいナァと思われているが、誘いは全て断っている。あまりしつこく勧誘するとイールに「アァ?」と柄悪く凄まれてしまうらしい。

 なお、シオリ発案で試作を重ねた脳啜り撃退スプレーの売れ行きは好調な様子。滅多に遭遇するものではないが、万が一エンカウントしたときのダメージがでか過ぎるので、御守りに買っていく冒険者は多いようだ。ちなみに「肌の表面が粘膜系魔獣」対策に買っていく新人もいるようで、用途外使用の危険性についての注意書きを入れるかどうか悩んでいるとかどうとか。

 また、野営地で振る舞う薬膳料理もなかなか評判がいいようで、フリーズドライ食品にしてもいいかもしれないと、なにやらシオリとこそこそしている模様。

 商売繁盛でなによりである。



■イール(Eir)

 ニルスの使い魔兼友人兼相棒のアルラウネ。ホルテンシア洞穴の主。だいたい60歳くらい。

 マンドレイクの変異種で、蒼白い肌に薄紫色の葉っぱの持ち主。顔色の悪さと虚ろな表情からアンデッドに間違われることもあるとかどうとか。しかし人生を諦めきった虚ろな表情とは裏腹に人生ならぬ魔獣生を存分に謳歌しており、今日も上級魔法回復薬を片手に植木鉢でわさわさ楽しそうに蠢いている。

 なお、高級薬草や論文目当てに忍び込む泥棒や手癖の悪い客には容赦がなく、まるでアンデッドのような虚無顔と虚ろな呻き声と搾り汁で撃退するという。アウリン薬局に盗みに入った者はもれなくアたると、その界隈では評判になっているとかどうとか。

 もっとも、ニルスも支援職とはいえ仮にもA級冒険者なので、そんじょそこらの泥棒ごときは屁でもない。伊達に脳啜りを鎌でめった刺死(※誤字ではない)にしていない。



■ヨエル・フリデール(Joel Fridell)

 シオリとアレクの同僚でシェアハウスの同居人。A級冒険者。上級魔導士。トリス支部所属の26歳。

 良くも悪くも感情表現が素直で以前は対人トラブルになることもあったようだが、どことなく憎めないので皆には可愛がられていた得な人。精神的余裕ができた最近ではだいぶ落ち着いたようで、無邪気で少年っぽさを残しながらも年齢なりの対応ができるようになった。

 シェアハウスに数十年前から棲み付いていたリラーヴェンにはこの無邪気さを気に入られているようで、彼の周りには入れ替わり立ち代わりリラーヴェンがやってくるらしい。

 シオリ達のシェアハウス用の物件探しに協力した功績で、好きな部屋を一番最初に選べる権利を与えられた。二階のリバービューの角部屋をゲットしてほくほくしている。

 仲間とわいわいやるのが好きなタイプで、シェアハウスでも同僚やリラーヴェン達と楽しくやっているようだ。なお、同い年のカイやイクセルとはシェアハウス入居を切っ掛けに意気投合したようで、シェアハウスでは三人つるんでいる様子がよく見かけられる。



■ヴィヴィ・ラレティ(Vivi Laretei)

 シオリとアレクの後輩でシェアハウスの同居人。20歳。そろそろC級に上がりそうなD級冒険者。トリス支部所属の中級魔導士。

 新人時代に嫉妬でシオリと刃傷沙汰のトラブルを起こして一度は組合(ギルド)を去ったが、反省して和解した現在ではそれなりに仲良くしている模様。実はお互いにまだ苦手意識があるのだが、それはそれとして大人の付き合いができるくらいにはヴィヴィも成長したのである。

 復帰当初は魔導士として前線でバリバリ働きたいと思っていたが、最近では勉強と研究が楽しくなってきたようだ。冒険者として堅実な仕事をして貯蓄しつつ、勉強と研究に励む日々である。

 同僚のヴァルとは幼馴染にして恋人の間柄。郷里から追いかけてきたと思ったら突然告白されて思考停止し、勢いに押されてうっかり「うん」とOKしてしまったようであるが、そんな経緯ながらもわりと熱く甘酸っぱい恋人生活を送っているようである。

 早くヴィヴィに追いつきたい新人の彼が最近は無茶ばかりしようとするので、それを宥めたり叱ったりしている姿がよく見かけられているようだ。もう親しい誰かを亡くしたくはないのである。



■ヴァル・エクホルム(Vall Ekholm)

 シオリとアレクの後輩でシェアハウスの同居人。21歳。新人冒険者で最近ようやく「見習い」の肩書がなくなったところ。トリス支部所属の魔法剣士。

 ヴィヴィとは同郷の幼馴染で、幼少期から可愛い彼女にずっと片思いをしていた。領都で何かやらかして郷里に戻っていたヴィヴィを一度は黙って送り出したが、思い余って結局追いかけてきてしまった。公開告白して勢いに呑まれたヴィヴィから「OK」をもぎ取り、そのまま冒険者登録して現在に至る。

 ヴィヴィが自分を単なる幼馴染としてしか見ていないことには気付いていたので、告白してあっさり「うん」と頷かれてしまったことは正直自分でも驚いている。が、嫌がられなかったばかりか結構甘々な恋人ぶりを発揮してくれるので、驚きつつも幸せいっぱいな日々を送っている。

 村では腕利きの猟師だったが、冒険者登録したら当たり前だが新人扱いになってしまったので、若いながらも冒険者としてしっかり働いているヴィヴィと早く肩を並べたくて必死になっている。無茶をしようとすることもしばしばで、ヴィヴィにはしょっちゅう叱られているようだが、先日ついにシオリ達にやんわりとお小言を頂いて考えを改めたようだ。

 是非長生きしてヴィヴィと添い遂げていただきたい。するけど。



■カイ・シャンヴァリ(Kai Tjernberg)

 アレクとシオリの同僚でシェアハウスの同居人。A級冒険者。トリス支部所属の魔闘士。26歳。

 シェアハウスへの引っ越し直前に同い年だと分かったヨエルやイクセルと意気投合。3人ともわいわいがやがやするのが好きなので、シェアハウスへの入居も当たり前のように決めてしまった。部屋こそ別々なものの、シェアハウスでは談話室や図書室などで魔法談義に花を咲かせている姿がよく見受けられる。

 使い魔のシグルドも同居人の使い魔達と楽しくやっており、飯は美味いし居心地はいいし、なにより気の良い仲間がたくさんいるので入居して本当に良かったなぁと思っている。



■シグルド(Sigurd)

 カイの使い魔でトリス支部所属。絶滅危惧種の吹雪猫。年齢不詳。

 羽が生えた猫のような姿をしているが、羽は退化していて飛行能力はない。はずだったのだが、カイの影響で東方の神秘「気」を覚え、飛翔術を使えるようになった。あまり長時間は飛べないが、気合さえあればどうとでもなるもんだなぁと本人は満足している。普通は気合で空は飛べないので、使い魔仲間には「そうはならんやろ」と思われている。

 絶滅危惧種ゆえに外敵から狙われることも多かったが、腕っぷしの強い肉体派の(元)魔導士カイと使い魔契約してからは、自分も強くなったし護ってくれる人もたくさんいるのでそれなりにのんびりやっているらしい。

 時折領都や王都の研究所などから生物学者などがシグルドを訪ねてくることもあるが、調査に協力すれば支援と保護を約束してくれるのでWin-Winなのである。

 シグルド曰く、「絶滅危惧種や希少種ならいっそ人間の世話になった方が安全に暮らせる」とのことである。人――魔獣それぞれだろうが、彼のような考え方も勿論ありだろう。これにはヴィオリッドも賛同しているようである。



■イクセル・ヘイグバリ(Yksel Högberg)

 シオリとアレクの同僚でシェアハウスの同居人。A級冒険者。トリス支部所属の上級魔導士。26歳。

 特定のパーティに所属せず以前のシオリ同様にソロタイプの冒険者だが、器用で要領がよく仕事をそつなくこなすうえに、明朗快活で一緒にいて楽しいので、パーティに誘われることが多い。

 最近は仲良しのカイやヨエルと一緒に仕事をすることも増えている。三人とも高火力なので彼らが通ったあとにはマンドレイクも生えないなんて揶揄されたりもするが、皆良識人なので当然そんなことにはならない。

 が、三人とも好き嫌いなくよく食べるので、彼らが通った食卓にはマンドレイクピーマン(マンドレイクの顔のようなものが付いたピーマンで、栄養価は高いが苦みが非常に強く好みは分かれる)も残らないと言われている。シオリが作った青椒肉絲風マンドレイクピーマン炒めは大変美味しいので。



■ルドガー・ラネリード(Ludgar Ranelid)

 シオリとアレクの同僚。A級冒険者。トリス支部所属の魔法剣士。30歳。ロヴネル領出身。

 槍使いマレナの夫で、身重の彼女の分まで頑張って働いている未来のパパである。とはいえ、出産前に夫の自分に何かあっては拙いということはきちんと理解しているので、そこはマレナも同僚も安心している模様。

 忙しくも幸せいっぱいの日々を過ごしているが、かつて問題を起こして組合(ギルド)を去ったトーレ・ブロムヴァリが下心満々で戻ってきたときには、率先して摘み出そうとしたくらいには血の気は多い。同じ魔法剣士として、そして大切な女性がいる身としてはトーレに色々と思うところがあったらしく、10年若かったらぶん殴っていたかもしれないと、後に彼はそう言っていたという。




【トリスヴァル領】

■クリストフェル・オスブリング(Christoffer Åsbring)

 王国四大辺境伯家の筆頭、トリスヴァル辺境伯。ザックの少年時代からの友人で、アレクの兄貴分的存在の一人。シオリの後援者の一人でもある。42歳。

 年齢ゆえか脂っこいものや肉々しいものが少々重く感じるようになってしまったどころか、酒も弱くなってしまった。若い頃と同じ感覚でアレク達と一晩飲み明かし、見事に二日酔いになってうんうん唸るはめになった。これにはだいぶ参ったようで、最近では酒の飲み方に慎重になっているらしい。

 それはそれとして、アレクとシオリが無事婚約したと聞いて大喜びした。弟のように見守ってきたアレクが幸せになってくれることを祈る日々。

 ところでつい最近辺境伯家に蒼の森のスライムとフェンリルを迎え入れている。クリストフェル自身は使い魔契約していないが、辺境伯家で働く人々の癒しになっているようで、ぷるぷるでもふもふの身体に顔を埋めるなどしている光景がよく見かけられるようになった。気になったのでクリストフェルも試してみたが、なかなか良かったようである。

 紫色のスライム、通称「兄貴」とは妙に気が合うので、もしかしたらそのうちに使い魔契約してしまうかもしれないが、モニカ夫人も「兄貴」を気に入っているのでどちらが契約主になるかは分からない。王兄妃と陛下に続いて筆頭辺境伯までスライムマスターになりそうなこの王国、なかなかに懐が広いのである。ぷるるん。


■ラーシュ・レクセル(Lars Lexell)

 シオリとアレクが住んでいたアパルトメント「オースルンド・ハウス」の管理人。既婚者。46歳。

 穏やかで面倒見がよく、入居者には慕われている。

 対外的には元冒険者を通しているが、実は傷病退役した元騎士で、王都騎士隊に所属していた。近衛騎士隊を目指してみようかなと思い始めた矢先に任務中負傷し、足に後遺症が出たために郷里のトリスに戻ることになったが、観察眼と情報収集能力、人当たりの良さなどを見込まれて情報部の外部協力員となる。

 といっても監視という名の見守りのような仕事が多く、謎の東方人や戦地帰りの王族を密かに監視していた。面倒見るふりをして情報収集するつもりが、結局なんやかんやと世話を焼いているただの親切な人になってしまった感は否めない。なにせ監視対象がどうにも痛々しくて見てはおれなかったので。

 最終的にはぽろっと漏らした過去話から「本来の職業」をアレクに見抜かれてしまった。多分潮時だったものと思われる。その後も管理人としてアパルトメントに残り、「同業者」の妻ともども穏やかに暮らしているようだ。



■エギル・スヴェノニウス(Egil Svenonius)

 シェアハウスの管理人で、その正体は辺境伯家の特務部隊員。43歳の人が好さそうなおじさん。

 クリストフェルの指示でシェアハウスの警護を任されている。穏やかそうな外見とは裏腹に、腕っぷしは強い。多分一般の騎士十人くらいなら秒殺できる。

 しかしシェアハウスにいると飯が美味過ぎて色々鈍りそうなので、毎日の鍛錬を欠かさない。シェアハウスの人々には「筋トレが趣味の人」と思われている。お陰様で魔闘士のカイにチラチラされている。そのうち筋トレ仲間になりそう。



■ベネディクト・セルベル(Benedikt Zellbell)

 シェアハウスの図書室の司書さん。その正体は辺境伯家の特務部隊員で、本好きが見込まれて派遣された。34歳の優しそうなおj……お兄さん。

 エギルと同様、優しげで線が細い印象に反して腕っぷしは強い細マッチョ。暗器も使いこなすので、シオリには「忍者みたいな人だなぁ」と思われている。

 シェアハウスの飯が美味過ぎて色々鈍りそうなので、毎日の鍛錬を欠かさない。シェアハウスの人々には「管理人さんの筋トレ仲間」だと思われている。やっぱりカイには目を付けられているようで、東方(ファ)帝国式の筋トレを教わったらしい。



■オスカル・ルンドグレン(Oscar Lundgren)

 トリス大聖堂の大司教。革新派の重鎮の懐刀。44歳。見た目はニコニコふんわりなゆるふわおじさん。しかし中身はそうでもない。口癖は「それは秘密です」。

 薬草栽培と薬草茶の調合が趣味。有名人で目立つはずなのだが、聖職者の服を脱いでしまうと本当に普通のゆるふわおじさんにしか見えないせいか、お忍びであちこちうろちょろしていることも多い。冒険者による孤児院の慰問活動もしょっちゅう覗き見しており、シオリの「活弁映画」は全てきっちり楽しんだ模様。しかも「薬局に棲み付いてる変な薬草」目当てにニルスの薬局を冷やかしていることもあり、多忙なりに人生をエンジョイしているようだ。

 大聖堂併設の孤児院の院長イェンスとは神学校時代からの友人で、時折夜のお茶会をしている。イェンス曰く、政治家としてはかなりアレで油断ならないところもあるが、一人の人間としてはかなりまとも、だそうである。

 人誑しなところがあって、有能な若い子をいつの間にか懐に引っ張り込んでいる。ので、確かに油断ならないかもしれない。

 コニー主催の内輪のお茶会にシレっと紛れ込んでほくほくしていたら、招待客の一人が突然の王族暴露を始めて肝を潰した。表面上は冷静にしていたが、内心「アバババババ」となっていたようで、飲みかけだったお茶を途中で置いてしまった。動揺のあまりひっくり返してしまいそうだったので。

 でもまぁ行方不明の王子が生きてて良かったなぁと思ったし、結婚も決まって良かったなぁと思っている。ついでにトリス大聖堂で式を挙げてくれるそうなので、それもまためでたいなぁと思っている。

 それはそれとしてアバババババ。



■コニー・エンヴァリ(Conny Enberg)

 トリス大聖堂の司祭で典礼部所属。28歳。一般の司祭よりはいくらか格が上で、革新派の大司教の右腕的存在。それゆえに妬まれることも多いが、なにぶん大司教がわりとアレなので「振り回されてて気の毒になぁ」なんて憐れまれてもいる。実際本当に振り回されているので、なんなら気の毒がられることの方が多いかもしれない。

 もっともコニーもオスカルの扱いにはだいぶ慣れたらしく、仕事の合間を縫って「ふっ」と消えてしまう彼を最近では敢えて追い掛けたりはせず、大司教の行方を誰かに訊ねられても「薬草摘みに行ってます」で流すことを覚えたようだ。

 息抜きに変装して市中に繰り出すのが趣味。大抵は旅人の姿で古本屋か飯屋の屋台にいるが、ここ数ヶ月はエナンデル商会で冒険者グッズを眺めていることも多いようだ。夏至祭のときに買った、エナンデル商会と老舗筆記具メーカー「ベルセリウス」の限定コラボ品「逆さにしても書けるし水に濡れても滲まない万年筆」がお気に入り。これを使うたびに冒険者の友人たちに思いを馳せている。

 ところでこの「冒険者の友人」だが、先日彼らから婚約を知らされたものの、その片方が突然の王族暴露をなさったために、さすがに驚き過ぎて脳味噌パーン!するかと思ったらしい。そんなことになっても脳啜りが喜ぶだけなので、どうにか冷静さを取り戻したようだが。

 未来の王兄夫妻の結婚式では司式者を務める予定。人生って何があるか分からないものだなぁとしみじみ思う今日この頃である。

 


【王都、ロヴネル領方面】

■オリヴィエル・フェルセン・ストリィディア(Olivier Fersen Striydia)

 ストリィディア王国の王様でアレクの異母弟。5月30日生まれの35歳。そこはかとなく独身臭がするが、こう見えて四人の子持ちだし、使い魔に「山二つ」を仕込んだ一番上の息子は来年成人する。

 アレクとは腹違いながらも熱く深い兄弟の絆で結ばれている。しかし自分自身の兄弟愛の根底にあるものが罪悪感であることをよく理解しており、アレクを最も不幸にしたのは自分ではないかと長年悩んでいた。王様なのでその悩みを誰にも見せたことはないが、その罪悪感は王たる彼を泣かせるほどの強烈なものだったようだ。

 が、今回の話し合いを経てお互いの本音を言い合ったことで、それらもようやく解消されたようである。兄弟の絆をより一層深めたし、アレクの結婚も決まったしで、なんだか幸せだなぁとしみじみ噛み締める日々。

 アレクの結婚式には夫婦で参列する予定。結婚祝いは何を贈ろうかとワクワクしながら考えているところである。

 なお、トリスヴァル訪問直前の「未来の王兄夫妻誘拐未遂事件」の主犯についてはまったくもって笑えないので、お嬢様育ちの貴族婦人にとっては大変厳しい刑罰を与えることにした模様。主犯格の生家からは「牢での生涯分の生活費込み」の多額の寄付(勿論税金ではなく家の財産から支出)があったので、大切な税金を使うことなく安心して終身刑に処し、寄付金の余剰分は事件の被害者支援と児童福祉などに全額突っ込んだようだ。

 ところで王都を発つ直前にリンドヴァリ夫妻からもらった野菜は王城で働く人々の数ヶ月分の食事を賄えるほどの量で、「これが噂に聞く農家の野菜テロか……」と恐れ戦いている。



■ペルゥ(Per)

 オリヴィエルの使い魔。蒼の森出身のスライム。別個体から分裂しておよそ40年ほど。桃色が可愛らしい。

 城では主にオリヴィエルの護衛と癒し役を担当している。

 やや天然なところがあるが、努力家で宮廷文化を積極的に学ぼうとする姿勢が評価されており、結構みんなには可愛がられている。可愛らしい宮廷式の挨拶は城内でも人気で、ペルゥに挨拶してもらうために敢えて遠回りをしていく者も多数。

 また、最近では城内の道案内のようなこともしている。複雑な城内で迷っていると、桃色のスライムがどこからともなく現れて、行きたい場所まで連れて行ってくれるとかどうとか。

 お城のアイドルなのである。

 オリヴィエルの用事でトリス市に訪れた際には、久しぶりに同胞と会えて大層楽しかったようだ。巨大ザリガニも巨大ガニもすっごく美味しかったし。

 アレクからオリヴィエルにプレゼントされたスライム袋、ピーコックブルーの背嚢がお気に入り。しょっちゅう出たり入ったりして遊んでいるし、これを寝袋代わりにして眠ることもあるようだ。

 トリス訪問時には真面目な話をしているときにもオリヴィエルの横で背嚢から出たり入ったりしており、ルリィには「なんだかおもしろいなぁ」と笑われてしまったようだ。



■エドヴァルド・フォーシェル(Edvard Forsell)

 公爵。フォーシェル家当主。オリヴィエル王専属護衛官で幼馴染み。元王立騎士団副長。ザックの異母弟。31歳。

 愛称はエディ。「子供っぽくない? エドの方がよくない?」と言われることもあるが、こちらの方が気に入っている。彼曰く、兄や妻に「エディ」と呼ばれるととても幸せな気持ちになるそうである。

 オリヴィエル同様独身臭がしなくもないが、きちんと妻子持ちである。家族仲も良好で、息子にはしっかり「黒い悪魔嫌い」が遺伝している。やはり何かの呪いではあるまいか。

 母方のさらに母方の姓を名乗って公爵家の嫡子という切り札を一切使わずに騎士隊に入隊、見習いから叩き上げで副団長職に就いた実力者。「兄上に追い付くんならこんくれぇはしねぇとな!」だそうである。

 妙に肝が据わった見習い騎士の正体を知るのは上層部のごく一部のみだったそうだが、先輩にシゴキという名のいじめを受けていると報告を受けたときには「勘弁してくれ……!」と思ったとかどうとか。

 しかし本人は「よっしゃよっしゃ、これも修行だバッチコーイ!」の勢いだったそうである。肝が据わり過ぎであるが、彼自身も「自分の精神力というよりは生家の強力な後ろ盾があってこその余裕」だと理解していたのはさすがである。様々な家柄の同期と共同生活を送る中でそのことに気付いたようだ。

 可愛がってくれた腹違いの兄に大層懐いており、兄が「修行」と称して家を出るときにはこの世の終わりのような顔をした。家を継ぐのは兄で、少なくとも自分が独立するまでは同じ家で暮らせるものだとずっと思っていたので、まさか置いていかれることになるとは微塵も思いもしなかったようだ。

 当時のエドヴァルドはまだ6歳で、兄の複雑な立場や事情を理解するのはなかなか難しかったようである。しかし彼も名門公爵家の男子なので、幼いなりにも色々と呑み込んで我慢した。粗雑な言葉遣いであるのは、兄を思い出すためにその口調を真似し始めたからである。

 しかしながら、自分を置いて出ていった面倒見のいい大好きな兄が、あちこちで「疑似弟妹」を作っていることを知ったときにはさすがに思うところがあったのか、「アァ?」と名門公爵家のお坊ちゃまにあるまじきドスのきいた声が出たそうである。気持ちは分かる。

 なので、兄が手元に残して可愛がっているシオリに対してもほんのり嫉妬と憧憬の念を抱いており、彼自身が彼女の「弟分」に収まることで多少なりとも兄に意趣返しをしたものと思われる。

 ところで王都を発つ直前にリンドヴァリ夫妻からもらった野菜は公爵家で働く人々の数ヶ月分の食事を賄えるほどの量で、「こいつが噂に聞く農家の野菜テロかよ……」と恐れ戦いた。



■フレードリク・フォーシェル(Fredrik Forsell)

 フォーシェル家前当主。ザックとエドヴァルドの父親。元宰相で現在は特別顧問。とうとう還暦を迎えてしまった。

 武の名門の出でありながら武人よりも政治家に向いていたために、フォーシェル家では珍しく文官となり、宰相職にまで上り詰めた。立派な武人になってほしかった実父には、文官になったことや不慮の出来事とはいえ婚外子を作ってしまったことをよく思われていなかったが、最終的には和解した。実父にしてみれば、婚外子とはいえフォーシェル家の血を色濃く継いだ孫息子が結局のところは可愛かったようだ。

 ヴェロニカの事件では現王をよく思わない一派による犯行の可能性も考えられたために急遽駆り出されたが、蓋を開けてみたら実にくだらない犯行動機でびっくりした模様。ヴェロニカの正体を知ったときの第一声は「いたなそんな奴が……」である。



■サンダーバード(Thunderbird / Ripa)

 西方の島国ブリタニア王国から飛来して定着した魔鳥。東方ではライチョウと呼ばれているが、姿かたちはあの雷鳥のようなずんぐり可愛いものとは異なり、もっとシュッとしていてスタイリッシュである。

 普段は普通の鳥より少し早い程度で飛ぶが、本気を出すと平均時速三百五十シロメテルという生物にあるまじき超高速で飛行する。また、優れた筋力である程度の小包までなら持って飛ぶことができるため、高速通信用の伝書鳥として大変重宝されている。

 が、筋肉を維持するために毎日良質なたんぱく質を摂取する必要があるため、一定以上の財力がなければ飼い馴らすことはできない。国内では王家と四大辺境伯家、およびフォーシェル家のみが所有している。

 未来の王兄夫妻誘拐未遂事件ではかなりの無茶ぶりを要求されたが、対価として最高級黒毛水穂牛(赤身肉)一週間分支給という約束で、かなり張り切って仕事をしたようだ。

 ところで、王国では一応「リィパ」という名が付けられているが、なんかシュッとしていてかっこいいブリタニア王国での呼び名「サンダーバード」の方が一般的になっている。この名前を聞くたびにシオリは、鳥よりもどこぞの秘密基地から緊急発進するメカを思い浮かべている。父親の携帯の着信音は例のテーマ曲で、書斎の棚には2号機のプラモが飾られていたので。



■アンネリエ・ロヴネル(Annelie Lovnér)

 芸術の名門ロヴネル家の当主。女性画家。26歳。デニスの婚約者でシオリの友人。

 王国の名門貴族ではあるが、実は先祖に帝国出身者(数代前の女伯の婿で、出自は当事者間しか知らない)がいるためにほんのり帝国の血も流れている。

 領主として、気鋭の女性画家として多忙な毎日を送っている。勿論婚約者のデニスともラブラブで、もう一人の側近バルトにはニヨニヨされている。

 年の初めにトリス大聖堂の大司教より大仕事を任されてますます張り切っていたが、先年の生誕祭で話題になった「神々の御座より見下ろす風景」を「200年くらい前の画風で描いてくれ」と依頼されてさすがに困惑した。

 なんでも噂の風景を披露した「再来の聖女」の正体を有耶無耶にしたいとかいうけったいな理由で、ますます困惑していたらその「再来の聖女」の正体が友人のシオリだと知ってますます困惑。

 どうにも謎が多く、まだまだ未知の知識や技術を隠し持っていそうなシオリの身を案じている。シオリの身元を本国で突き止めたらしい楊梅商会のヤエと協力して彼女の後援者になったが、アンネリエ自身もその「身元」が捏造されたものであることはまだ知らされていない。

 が、アンネリエもヤエもシオリの本当の出身地を知ったとしても、これまで通りの付き合いを続けるものと思われる。彼女たちにとってシオリは色々な良縁をもたらしてくれた幸運の女神で、なによりも友人だからだ。

 アレクから雑談ついでに本来の身分を明かされてしまって思わず思考停止したが、かなり冷静に受け止めたようである。なんなら腑に落ちてしまったので、むしろなんで今まで気付かなかったのかなぁと思うなどしている。



■デニス・ロヴネル(Dennis Lovnér)

 アンネリエの腹心で婚約者。27歳。シオリとアレクの友人。どちらかと言えばアレクと手紙をやり取りすることが多いかもしれない。

 書籍版では母親ではなく父親が帝国系移民のため、フリュデン(Frydén)姓。

 ロヴネル家の傍流の血筋でありながら、帝国の血も引いているという特殊な立場にある。そのためにアンネリエのそばにいることをよく思わない者も多いが、実はロヴネル家の初代は異国人なうえに先祖には帝国出身者もいたので、そこをイジること自体がナンセンスなのである。

 最近では本人もまったく気にしないので、いじめ甲斐がなくて周囲も大人しくなってしまった。趣味の手料理は現在でも続けており、それがなかなかの腕前であるので、試食目当てに友人枠に収まってしまった者も多い。冗談の一つも言わない堅物だと思っていた男が話してみると案外面白みのある人物であることが分かったのか、友人関係も良好なようである。

 アレクから雑談ついでに本来の身分を明かされてしまって最も動揺した人物。なにしろ初対面での印象は最悪だったという自覚がありまくるので、跪いて詫びるしかなかったようだ。もっともそれは過去のことで、和解どころか友人関係になっているので、アレクもシオリも気にしなかったようである。


 


【屋根裏の怪異編】

■ダーグ・ヴィカンデル(Dag Vikander)

 宗教地区の北端在住の紳士。元美術商。68歳。

 子供達が住むロヴネル領に移り住むために物件を売りたがっていたが、幽霊屋敷の噂があったためになかなか売れずに困っていた。幽霊といっても害はないしなぁ、なんて「同居」していたのがこんな形で仇になるとは思いもせず、苦笑いする日々だった。

 シオリとアレクが物件見学ついでに「幽霊」の正体も暴いてくれたうえ、買い取ってくれて一安心。幽霊の正体であった妖精リラーヴェンの一部を連れてロヴネル領に旅立っていった。

 なお、二人の調査の過程で著名な挿絵画家や女伯との繋がりができたので、「これも幸運の妖精のおかげかな?」としみじみ喜んでいる。

 ロヴネル領では子供や孫、妖精に囲まれて、賑やかで楽しい余生を送っているようだ。



■リラーヴェン(Lilla vän)

 シオリとアレクが内見で訪れた物件に棲み付いていた妖精。

 リラーヴェンは「小さな友」という意味で、身長10~20センチメテルほどの人型の外見を持つ。長命種で寿命は千年を越えるものもある。

 ストリィディア王国においては建国期に王都近郊の教会で確認された二千百歳の個体が最高齢とされているが、この教会は現存せず真偽は不明。当時の日記などでその存在が確認できるのみである。

 実体は持たず、その存在を認識していなければその姿を見ることはできない。実際、数十年以上棲んでいながら人間には気付かれていない場合も多いが、姿は見えないがなんとなく気配だけは感じられるために、死霊や精霊に誤認されることもあるようだ。

 しかしひとたび「いる」と認識すれば、彼らはたちまち姿を現す。幽霊どころか大変愛らしい容姿であるために、見た者は大抵骨抜きになる。勿論子供などは大喜びである。

 賑やかで楽しいことを好む性質で、人間などの「正」の感情を栄養に生きている。子供や若者がいる家庭や学校などに棲み付いている場合が多いが、隊商や旅芸人の馬車、輸送船に棲み付く個体もいるようだ。

 妖精のために本来衣服を着る必要はないが、人間と無理なく暮らすために幻影で衣服を着ているように見せかけている。しかし眠っているときには気が抜けるのが、時々「全裸」に戻ってしまっていることもあるとかどうとか。



■ラルフ・セーデルリンド(Ralph Söderlind)

 80年ほど前に廃校になった寄宿学院の元学生で最後の監督生。セーデルリンド男爵(当時)の次男。アンネリエ・ロヴネルの従兄弟大叔父。美術に強い興味があり、在学中もよく鉛筆画を描いていた。

 卒業を待たずに廃校となったため郷里に戻り、伯母(アンネリエの曾祖母)の紹介でロヴネル領の美術学校に入学している。卒業後は挿画画家として活動。壮年期以降は児童書の挿画を多く手掛けている。「イリス・ホルトグレンの素晴らしき旅」や「茶匙の貴婦人」の挿画が有名。

 寄宿学院の学生では最も長生きしており、寄宿学院時代の「友」と再会できた唯一の人物。晩年は二、三ヶ月に一度のこの「友」の訪問を楽しみにしていたようだ。



【追い縋る者、進みゆく者編】

■トーレ・ブロムヴァリ(Tore Blomberg)

 シオリの元同僚で魔法剣士。30歳。

 作者には姓を忘れられ、「確かブ〇ンコビリーみたいな名字だったはず」と記憶されていたが、最初の二文字しか合っていない。

 西の辺境伯領に隣接する男爵領の出身で、ブロムヴァリ男爵家の長男。本来なら家督を継ぐはずだったが、気弱なうえに何をやらせても中途半端な性格で、家族はそんな彼をなんとか矯正しようと試みたが、最終的に「身分や権力から離れて自分らしく生きられる場所に行きなさい」と家を出されてしまった。実家は長姉が継いでいる。

 シオリと同じパーティに所属していたメンバーの一人で、彼女に好意を抱いていたが、パーティの犯罪行為を隠滅するために被害者であるシオリの殺害に加担したという過去を持つ。しかし後のルリィであるスライムが大活躍してシオリが生還してしまったために、全ての罪が明るみになって領都を追われた。

 政治的判断で騎士隊案件にはならなかったもののパーティは崩壊、その後もまともな勤め口もなく日銭を稼いでは酒浸りの日々を送っていたが、とある貴族婦人に騙されてシオリと寄りを戻すために領都に舞い戻ることとなった。よく考えなくても上手くいくわけがないことは分かりそうなものだが、落ちるところまで落ちて正常な判断ができなかった模様。

 国境地帯の怪物ユルムンガンドも恐れる厄災の魔女と化したシオリとかつての同僚達にコテンパンに言い負かされて逃げ出した挙句、主犯の女に失敗の責任を問われて地下洞窟に落とされてしまう。脚を骨折して動くこともできず、魔獣蠢く真っ暗闇の洞窟の中たった一人きりで一晩明かし、それでも死なずにどうにか生還したあたり、悪運だけは強いのかもしれない。

 シオリに謝罪するも和解とまではならなかったが、自らの罪と向き合って反省できたのは幸いなことである。

 事件後は辺境伯家の更生施設で過ごし、出所後も同施設や刑務所などで特別指導員を務めた後に郷里近くの町に居を構え、子供たちのための学問施設を開設。非行少年の保護更生活動にも従事し、妻も迎えて賑やかな余生を過ごしたようだ。

 最終的に彼がシオリに許されたのかどうかは、彼の墓前に備えられた花束だけが知っている。

 

 

■ヴェロニカ・セーデシュテン(Veronika Södersten)

 セーデシュテン伯爵の長女。35歳。

 亡き王太后の筆頭侍女だったセーデシュテン夫人の娘であり、一時期王家の異母兄弟の遊び相手を務めていたほか、王家専属侍女に内定していたという経歴から、王家に対してに強い執着を持つ。

 本人なりに努力して得た王家専属侍女の資格だったが、功を焦るあまりに第三王子アレクセイに媚薬を盛って迫るという最悪の選択をしてしまった。それで成功していればまだしも、体調の悪かったアレクセイに一服盛ったために欲情されるどころか嘔吐されてしまい、驚いて絶叫したところを敢無く御用、キレにキレてキレ散らかした王太子オリヴィエルから苛烈な詮議を受けることになってしまった。それどころか「全裸で迫ったのに嘔吐された女」というレッテルを貼られ、服役して出所後も社交界に出られない身となる。

 その後、彼女を不憫に思った伯爵と次兄の企てで、移民の娘ヴェアトリス・セイデリアとしての人生をスタートすることに。数年は自分好みの容姿の使用人に囲まれて逆ハーレム生活をそれなりに楽しんでいたが、お気に入りの使用人がメイドと恋仲になってキレたことをきっかけに、アレクセイ似の少年を誘拐するなど徐々に奇行に走るようになり、最終的に自己憐憫を拗らせて過去の罪を「陰謀で嵌められた」と思い込むようになってしまった。

 とある婦人誌の竜殺しの英雄の特集記事に目を留め、アレク=失踪した第三王子と気付いてからは、第三王子の保護の見返りに社交界に返り咲き、なんなら彼の妃になれるんではと妄想大爆発で大暴走。

 しかしながら怖いもの知らずとなった竜の英雄&聖女(別名厄災の魔女)に敵うはずもなく、囮捜査にまんまと釣られた挙句に醜態を晒し、スピード逮捕されてしまった。

 精神鑑定を受けたものの、一連の犯行に計画性があること、記憶の歪みを自ら認めたことから十分に責任能力があると判断され、その悪質性から親兄弟ともども有罪となった。なお、本件は王族の機密情報が絡むために秘密裏に処理され、事件は闇に葬られることとなった。ヴェロニカはその生存が世間に公表されることがないまま終身禁固刑、伯爵は病気を理由に長男に家督を譲り、次男とともに永蟄居。

 この件で一番気の毒だったのは、何にも知らなかった長男かもしれない。取り調べの際に妹の生存と家族の罪を知らされた後、もろもろに口を噤むことを条件に伯爵家の存続と社交界への残留を許され、周囲からの「急な代替わりどうしたの?」を「人生最後の想い出に、弟と一緒に世界旅行に出かけた」などと適当にかわしながら粛々と責務を全うする日々。幸いだったのはセーデシュテン夫人が既に故人で家族の罪を知らずに逝ったこと、罪に問われた次男が独身で辛い思いをする妻子がいなかったことくらいである。

 その他の事件関係者は被害者であるアレクセイの温情で保護対象となり、彼が表舞台に復帰するまでの期間はカウンセリングと職業訓練を受けて過ごしたようだ。出所後は無事郷里に戻ったが、元執事のルードを含む一部は辺境伯家やフレンヴァリ公爵家に雇い入れられたようである。

 ところで余談であるが、ヴェロニカは当初地底湖でス〇キヨする案もあったが、さすがに後味が悪くなりそうなのでやめた。しかしパンツ丸見えとスケ〇ヨのどちらがマシかは作者にもイマイチ分からない。そしてあまりのぶっ飛び具合に、ランヴァルドともども造形に非常に苦労した人物でもある。

 なお、ルリィには「セルフチン列罪」と呼ばれている。誠に恐れ入ります。



■ルード・ソレンスタム(Lud Sörenstam)

 ヴェアトリスことヴェロニカの執事。孤児院出身で天涯孤独の身。30歳。

 16歳のときに「セイデリア家の旦那様」に扮するセーデシュテン伯爵に雇われ、「ヴェアトリス」と名乗る婦人の執事となった。容姿が「ヴェアトリス」好みの男=アレクセイに似ていたことと、天涯孤独で手紙をやり取りするほどの友人知人もなく、犯罪行為に加担させるには都合が良かったことから、採用が決まってしまった。

 「旦那様」のもとで貴族家の使用人としての教育を受けた後、「ヴェアトリス」とともに西の辺境伯領で生活を始めた。最初の数年は何事もなく穏やかに過ごしたものの、内面に闇を抱えた女主人が誘拐や脅迫などに手を染めるようになり、自身と部下、彼らの家族たち、そして将来を誓い合った恋人の命を守るために彼女に従うことを余儀なくされた。

 最終的な標的となったアレクとシオリの囮捜査に引っ掛かり、彼らに諭されて二人の側につくことを決意する。

 「ヴェアトリス」ことヴェロニカが逮捕された後は辺境伯家の保護施設で数年を過ごし、アレクの王籍復帰及び臣籍降下の公表と同時に出所。セーデシュテン家の別宅に囚われていた恋人と無事結婚し、新設されたフレンヴァリ公爵家に夫婦で働くこととなった。フレンヴァリ公爵の執事兼従者として生涯務めたようである。

 ところで、作者のミスでうっかり第八章の登場人物と同じ名前を付けてしまった。連隊長殿には申し訳ない。名前かぶりはカリーナ嬢に続いて二人目である。



■ヴェアトリス・セイデリア(Veatrice Sejdelia)

 ロムルス王国の商人の娘。病弱で生涯のほとんどをベッドで過ごしていたが、家族に愛され大好きな本に囲まれて、それなりには幸せな人生だったようである。死後は遺骨という形で家族とともに生まれ故郷に戻り、丁重に埋葬されている。

 不幸であったのはその死を隠滅されてなりすまし被害に遭ったばかりか、犯罪に利用されてしまったことだろう。本国のセイデリア家に実害はなかったものの、故人の名誉を汚したとして事件後にセーデシュテン家から謝罪と十分過ぎる賠償金が支払われた。

 セイデリア家は賠償金でヴェアトリスのために立派な墓所を作り、残りは病児支援事業に寄付したようだ。



■セーデシュテン伯爵

 ヴェロニカの実父。「旦那様」と呼ばれていた人物。

 本来は善良な人物だが、前科が付いて出所後も引きこもり生活を送る娘を不憫に思うあまり、次男フランシスの「ヴェロニカに故人の籍を与えて別人として再出発させよう」という提案に乗ってしまった。彼をよく知る人々によると、「よく言えば穏やかで優しいが、悪くいえば波風立てることを嫌って何事もなぁなぁで済ませてしまう性格」とのことである。前王妃の筆頭侍女を務めていた優しくも厳しかった妻とは正反対の性質。

 彼のこういった性質が、娘を増長させ再び犯罪行為に手を染める原因の一つとなったことは否めない。娘の執事ルードの訴えがあった時点で手を打っていれば、否、ヴェロニカに他人の籍を与えたりなどせず、出国させるなどして彼女を彼女のままに再出発させていれば、少なくとも再犯は防げたことだろう。

 王族詐称及び王族侮辱罪、未成年者略取、その他もろもろの罪状を鑑みれば娘ともども死罪が妥当であるところを、世が世であるので寛大な王家の兄弟によって永蟄居を申し付けられ、別宅で謹慎生活を送った。約二年後に病没。

 なお、この事件は事情が事情だけに公表はされず、表向き伯爵は病気療養、フランシスは海外へ移住したということになっている。



■フランシス・セーデシュテン(Francis Södersten)

 セーデシュテン伯爵の次男でヴェロニカの次兄。港町エーランドの役人。

 王族に一服盛って既成事実を作ろうとして罪に問われたどころか、「全裸で迫って嘔吐された女」という不名誉と恥の塊となってしまった妹のため――というよりは、その彼女の扱いに困って心労の極みに達している父のために、故人の死を隠蔽してその籍を妹に与えるという犯罪に手を染めてしまった人。根底にはこれ以上伯爵家の名に傷をつけたくないという感情があるが、こちらも心労で正常な判断ができなくなっていたものと思われる。

 伯爵も思うところがあるのか娘の移住先での奇行を隠していたこともあり、十数年間何事もなく「ばれなくてよかったなぁ」と安堵していたところに突然調査が入って大慌て。深夜、証拠隠滅のために勤務先の役所に押し入り、関連書類を盗み出そうとしたところを敢無く御用となった。

 事件後、王族を欺き故人の死を冒涜した罪で永蟄居を申し付けられたが、数年後の王太子ベルンハルドの婚儀の際に恩赦を受けて解放された。その後は「海外へ渡った」という表向きの理由の通りに、出国して諸国を巡った。

 西大陸のアメリーゴ連邦共和国にはフランツ・シーヴェルトという旅行記で有名な写真家がいるが、遺品や日記の筆跡などから彼がフランシスではないかとする説が有力となっている。



■レヴェッカ・リンドヴァリ(Rebecca Lindberg / Rebecca Hallonsten)

 アレクの王子時代の恋人。元王家専属侍女。ハロンスティン子爵の娘で、前リンドヴァリ伯爵の後妻。37歳。

 少女時代、アレクの恋人で一番の理解者でありながら彼を最も傷付けてしまった人物。この出来事はアレクの女嫌いの一因にもなったが、彼女自身はそのことを深く後悔しており、今回オリヴィエル王より機会を与えらてようやく謝罪することができたようだ。

 和解後アレクとは良き友人となった。

 普段は夫の研究所兼屋敷で助手を務めている。畑仕事を手伝うこともあり、現在では鋤や鍬を用いて畑を狙う害獣を撃退できるほどの腕前。「リンドヴァリの戦女神(ヴァルキュリア)」と称えられることもあるという。これを聞いたアレクは「侍女よりも騎士になっていれば案外近衛騎士として出世していたかもしれないな……」と思ったとかどうとか。

 領地の孤児院では「母ちゃん」と呼ばれて慕われていたが、先日第一子となる娘シフリーナを出産して名実ともに「母ちゃん」になった。

 なお、娘はリンドヴァリ家で数十年ぶりに生まれた女児で、夫をはじめとした一族の人々に大層可愛がられている。レヴェッカ自身はそれをありがたく思いながらも少女時代の大失敗が常に頭にあるため、我が儘に育たないように気を配っている。きっといい娘に育つし、魔獣から鍬一本で領民を護れるような女傑になるので大丈夫。

 そして多分あともう一人女児が生まれるし、将来は姉とともに「リンドヴァリの双璧」と呼ばれる女傑になると思う。 

 


■リンドヴァリ博士(William Lindberg)

 レヴェッカの夫。農学博士。「伯爵芋」や「都市と農村の共生」の論文で有名。58歳。

 オリヴィエルの父ロヴェルトと親交があり、農業政策などで協力していた。

 前妻とは死別しており、成人した息子が一人いる。息子には成人後まもなく家督を譲っており、領地の別宅で研究漬けの生活を送っていたが、オリヴィエル王の紹介で謹慎明けのレヴェッカと知り合った。お互い「悪くないな」と思ったので、顔合わせの席で婚約を交わしてそのままレヴェッカを屋敷に引き取ってしまった。

 オリヴィエルの「王家への侮辱罪で謹慎していた子だけど、根は真面目ないい子なので会ってみない?」という言葉通りに働き者で勉強家のいい娘だったので驚いたようだ。彼女の罪については裁かれて当然のことをしたと理解しているが、「あの異常な状況に置かれては純粋でいることが難しかったのだろうなぁ。ベト病が蔓延した畑にキャベツを植えるようなものだ」とも思っている。

 若い頃は世界各国を放浪して農業を学んでいた。ミズホ国への渡航歴もあり、農業や食文化にもある程度通じているらしい。ので、楊梅商会が王国で販路を拡大したときには、輸入食材が手に入るかなと結構喜んでいる。シオリとは意外なところで接点ができたようだ。

 東方の美容法を取り入れて健康には気を遣っているので、夫婦ともども若々しい。

 ところで農村名物野菜テロをよくするので、他領の友人知人には「田舎の父ちゃん」のように思われているとかいう噂。



【魔獣】

■エーデル・クレフタ(Adelkräfta)

 トリス川名物巨大ザリガニ。サファイヤのように美しく輝く甲殻を持つ。海老と蟹の中間のような食感と味わいで、量も多くて食いでがあるので夏の間の王国人の楽しみの一つになっている。

 普段は水源地近くの上流域に棲んでいる。夏の間に大雨が降ると、避難用の泡玉を作って引きこもり、泡玉ごと下流にどんぶらこされてくる。そこで大勢の人間が大鍋を用意して待ち構えているとも知らずに……。



■水晶蟹(Kristallkrabba)

 山間部の沢などに棲む巨大陸ガニ。体長一メテル前後。すりガラスのような半透明の甲殻に覆われている。普段はカニらしく横歩きをしているが、餌となる標的を視認すると縦歩き(・・・)で一目散に向かってくるため、なかなかに不気味である。

 が、甲殻が水晶のように美しく、肉も大変に美味で量もかなりのものであるため、贈答品としては一級品の部類。しかしながら大変に獰猛でハサミも木材を紙細工のように切断するほどの攻撃力を持つので、討伐難易度Aと高く、見た目の美しさを保ったまま討ち取るとなると相当の腕前が必要になる。そのため取引価格は高額で、一杯で金貨二十枚はくだらないとされている。

 もっとも、これを討ち取るクラスになると金銭的に困っていることは少ないので、大抵は売るよりも自らの腹に収めることを選択する者の方が多い。実際、つい先日トリスヴァル内某所で駆除された水晶蟹の群れは、全て美味しく頂かれたようである。



■雪狼の兄弟(Snövarg)

 ノルスケン山から蒼の森にかけての範囲を縄張りとする群れの若者。噂によると「フェンリル」の兄がいたようだが詳細は不明。十日に一回ほどの頻度でブロヴィート村やトリス市の近くに出没し、何かを覗き見たり警備員の真似事をしたりなどしていくようである。何の目的でこのようなことをしているかは不明とされているが、関係者にはバレバレである。

 人里近くに訪れる際には敵意がないことを十分に示しているので駆除されることはないが、ブロヴィート村のカスパル騎士隊長などには「雪狼のプライドはいったいどこへ……」などと思われている。



■ユルムンガンド(Jörmungandr)

 通称ユル蛇。別に本章では出ていなかったと思うが、最近異世界転生を果たしたのでなんとなく自慢したいらしい。どこかの世界で北方の蛇神として生を受け、新たな人生をエンジョイ中。お友達で酒飲み仲間に東方の蛇神ヤマタノオロチと西方の蛇神ケツァルコアトルがいる。こちらは多分左の頭と尻尾についていた頭の転生体である。

 元の世界の欄外では相変わらず残念魔獣ぶりを晒しているが。



■脳啜り(Huvudäta)

 別に本章では名前だけチラッと出た程度だが、コミカライズ最新話でも無事終了したのでお知らせしたいらしい。涙を流してのたうち回る脳氏の残念な最期を是非ご覧いただきたい。

脳啜り「無事……浴びてきたぜ……」


お疲れ様でした\(^o^)/



【おしらせ】

11月5日に書籍版「家政魔導士の異世界生活」第10巻発売予定です。

書影や特典情報が公開されましたら、またおしらせします。

表紙やピンナップ、かわいいんですよ\(´ω`)/

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― 新着の感想 ―
楽しく読ませていただきました! もしアニメ化された際にはオスカル氏はCV.石田彰で確定ですね(90年代のオタク)!!
縒(よ)りを戻(もど)・す 読み方:よりをもどす 1 縒り合わせたものをほどいてもとに戻す。 2 物事をもとの状態にする。特に、男女の仲を元通りにする。 (デジタル大辞泉) ……1の説明だとばらばら…
どこよりも詳しいキャラクター紹介。、本編のおさらい的な要素もあるし大好きです!個人的に管理人さん'sが年下だったのがショック…(笑)
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