23 トリス支部通信 七月号
■連絡事項
・サフィール湖別荘地内の廃屋にて崩落事故あり。周辺の廃屋群は老朽化が進んでいるため、仕事で現地に赴く際は注意されたし。
・先月に引き続きディンマ氷湖周辺は立ち入り規制中。立ち入る際は許可証を必ず携帯のこと。
・難民キャンプ代表ラフマニン氏からの支援物資提供に対する礼状を掲示板にて掲示中。諸君の寄付の協力感謝する。
・国境地帯難民キャンプ地および開拓村との伝書鳥通信開始(騎士隊認可済)。利用の際は受付まで。
■魔獣図鑑
トリス支部担当区域において目撃及び遭遇情報の寄せられた魔獣の一部を掲載。組合員は必ず閲覧のこと。
(参考文献:ストリィディア魔獣図鑑、他)
□死霊
・目撃場所:ありとあらゆる場所
・危険度:小~大。稀に友好的で意思疎通ができる個体も。
・討伐難易度:小~大
・素材:貴重品を落とすこともあるが、遺品の可能性大
死してなおこの世に留まり彷徨い続けるもの――それを人は死霊と呼ぶ。墓地や廃墟、戦場など、人気がない場所や死の匂いが色濃い場所に出現する印象が強いが、彼らはどこにでも現れる。普通の民家や、街の大通り、賑やかな学校、街道沿い、森や洞窟、川や湖、平原など、古今東西の死霊の記録を調べるとありとあらゆる場所に姿を見せている。
危険度もただ漂うだけの無害なものから、生者と見るや見境なく襲ってくるものまで千差万別。きわめて稀ではあるが、中には友好的で会話が成立するものもいる。
しかしその多くは現世になんらかの未練を残している者が多く、あの世へ渡ることもできずに彷徨う哀れな存在である。浄化して新たな旅路へと送り出してやるのが、彼らへの最大の供養となる。
だが浄化は容易ではない。なにせ彼らは既にこの世の理から外れた存在。躯に死者の魂が宿ったゾンビのような実体のあるタイプならこの限りではないが、それ以外は実体を持たないために一般的な物理攻撃は一切通らない。聖魔法を含む魔法攻撃(魔法剣や魔法弓なども含む)のみとなるため、魔法の使い手がいないパーティではまず太刀打ちできない。
しかも生前の姿を留めたものならまだしも、醜く歪んだ恐ろしい姿に変わり果てている場合がほとんどだ。見るだけで恐怖で身体が竦み判断力を狂わす存在との闘いは、かなりの精神力、忍耐力を要求される。
そのため、最低でも魔導士を含む中級以上のパーティで挑むのが望ましい。事前に死霊の存在が分かっている場合は、大聖堂や神殿などの宗教施設で販売されている聖水や聖魔法を付与した武具(非常に高価ではあるが)を用意するか、可能であれば聖魔法の使い手を雇うのもいいだろう。
いずれにせよ、一筋縄ではいかない存在だ。下手に戦って命を落とせば、自分自身が死霊になりかねない。その姿を確認した時点で撤退も視野にいれるべきだろう。
(余談ではあるが、ゾンビは臭気が酷いために一体でも近くにいればすぐに分かる。その凄まじい臭気は死霊術師ですら敬遠するほどで、接近戦は困難を極める。臭いを察知した時点で撤退し、聖堂騎士団などのしかるべき機関に通報するのが賢明だ)
※追記事項1:宗教地区内の「幽霊屋敷」は解決済み。死霊ではなかったとの報告あり。
※追記事項2:アイロラ村の「幽霊屋敷」は解決、浄化済み。(書籍版6巻書下ろし参照)
□リラーヴェン
・目撃場所:有人の建造物。特に子供や若者が多い賑やかな場所。
・危険度:きわめて友好的
・討伐難易度:-
・素材:-
体長十から二十センチメテルほどの人型の妖精で、その多くは可愛らしい子供や若者の姿をしている。稀に老齢の個体もいるが、見た目と実年齢が一致しているかは不明。きわめて長命で、短いものでも平均数百年は生きる。王国内においては建国期に王都近郊の教会で確認された二千百歳の個体が最高齢とされているが、この教会は現存せず真偽は不明である。
性質は極めて温厚で友好的。賑やかな場所を好むらしく、子どもや若者が集まる場所、子沢山の家庭や学校などの教育施設に棲み付くことが多いようだ。珍しいケースでは隊商や旅芸人の荷馬車、輸送船などで目撃されることも。
しかし、妖精の性質上「いる」と認識しなければ人の目で捉えることは難しく、気配だけ感じる、声だけが聞こえるなどの理由から死霊に誤認されることもあるようだ。
住人に特別加護を与えるというようなことはないが、ささやかな害から護ってくれる守り神のような存在である。彼らの気配に気づいたら、積極的に話しかけてみるといい。大喜びで色々な話を聞かせてくれるはずだ。その多くは楽しく愉快な気分にさせてくれる物語だ。
しかも長命種の彼らの知識量は絶大だ。もしかしたら、歴史的価値のある貴重な情報が得られるかもしれない。といっても、特別な謝礼を用意する必要はない。実体を持たず食事も財産も一切が不要な彼らにとって、最も大切なものは人々と過ごした楽しい想い出なのだ。
だから彼らの話を聞いたあとは、是非君の楽しい想い出話を聞かせてやってほしい。そして余裕があったなら、彼らが望む「賑やかで楽しい場所」に連れて行ってやってほしい。そうすればきっと、君と彼らの人生に素晴らしい想い出の一頁が刻まれることだろう。
□水晶蟹
・目撃場所:山間部を流れる清流
・危険度:大
・討伐難易度:A
・素材:肉(大変に美味)
広葉樹林の合間を流れる清流に、ごく稀に美しい半透明の甲羅を持つ巨大蟹と出会うことがある。体長は成体で平均一メテル前後。半透明で淡い青色のすりガラス状の甲羅が特徴。美しく澄んだ川辺に佇む姿は荘厳で、川の主のような趣がある。
しかしその性質は肉食獣らしく獰猛。普段は蟹らしく横歩きをしているが、餌となり得る生物を認めるや、まっすぐに突っ込んでくる。巨大な半透明の蟹がカサカサと直進してくる様は、なかなかに不気味だ。
一抱えほどもある一対の巨大なハサミによる攻撃も凶悪で、ひとたびこれに捕らえられると切断は必至。硬い甲羅も物理攻撃が通りにくく、体重を掛けて脚を叩き切るか、関節を突き刺すなどして切り抜けなければならないが、どちらも一定以上の技量が必要。
水棲魔獣らしく火や雷の魔法がよく効くが、基本的に彼らは水辺にいるため、下手に魔法を使用すると感電などの危険がある。魔法攻撃の際には十分な注意が必要だ。
しかし、無事倒すことができた暁には素晴らしい御馳走が待っている。殻の中にはふっくらとした上品な味わいの身と、濃厚なカニミソがぎっしり詰まっているのだ。どちらも大変に美味で、美食家の間では非常に人気の食材だ。
また、水晶を思わせる半透明の甲羅は美しく、過熱するとロゼワインのような上品な色合いに変化して、これもまた大変に美しい。ゆえに高級食材や上流階級向けの贈答品として高価格で取引されている。傷や欠損がなければ一枚で金貨二十枚はくだらない代物だ。仮に脚の一本や二本折れていたとしても、必ず高額の買い手がつく。
売ってよし、食べてよしの高級蟹。どちらを選択しても必ず君を満足させてくれるだろう。
※追記事項1:これまで主な棲息地は清流と思われていたが、餌が豊富な湖沼の水底やそこに通じる地下水脈、地底湖で繁殖する可能性あり。水晶蟹の棲息地周辺の湖沼や川で魚が激減した場合は、水晶蟹が繁殖している可能性も視野に入れて行動すること。
※追記事項2:複数体との戦闘では、狭い場所に誘き寄せて正面から突き倒すと、ドミノ倒しになって一網打尽にできるとの情報提供あり。土魔法などで試してみる価値はある。
※追記事項3:とある使い魔によると、頭頂部、特に目と目の間はほかの部位よりやや薄く硬度が劣るため、強靭な顎の持ち主なら噛み千切ることもできるとかどうとか……。
※追記事項4:バター醤油焼きにすると大変に美味らしい。
■何でも掲示板・増量版(匿名掲載可。掲載希望者は受付にて申し込みのこと)
□誕生日に入籍しました! 新婚生活超幸せ! 心の母ちゃんも婚約おめでとう!(召喚士・男・22歳)
□↑最近婚約した人ってすごく限られない? 心の母ちゃん特定できない?(槍使い・男・29歳)
□↑というか召喚士君もう結婚したの!?(薬師・女・27歳)
□妊婦とお腹の子にいい食事を教えてくれてありがとう。料理は苦手だけど、子が生まれるまでにもっと腕を上げとかないとな。(魔法剣士・男・30歳)
□推しが今日も尊い! ところでときどき推しの周りに何かキラキラ飛んでるの、気になる……(吟遊詩人・女・29歳)
□先日遺跡で脳啜りに遭ってしまったのだが、撃退スプレーの威力は絶大だった。まさかあれを秒で封じられるとは……むしろ何か気の毒になった……(重剣士・男・47歳)
□気のせいかもしれないけど、なにか最近一部の魔獣に妙に避けられてる気がする。こっちに気付くと、なぜか飛び上がって物凄い勢いで逃げていくんだけど……(家政魔導士・女・31歳)
□シェアハウス超楽しい。貴重な本が読み放題だし、支部トップクラスの住人が多くて勉強になり過ぎる。(魔導士・女・23歳)
□シェアハウスにまだ空き室あり。希望者は俺か彼女のところまで。(魔法剣士・男・35歳)
□王都の親戚に会うついでに博物館行ってきた。雪男の剥製は大迫力だった。しかも何か妙な薄笑いを浮かべていてゾッとした。こんなのと戦ったパーティーを尊敬する。(魔法弓士・男・33歳)
□雪男と戦ったパーティがトリス支部所属だってマ?(治療術師・男・17)
□アルファンチッチゼミの羽を何枚か拾ったよ! ほしい人は自分のところまで!(スライム・?・??)
□遥か南国には一メテル越えの黒い悪魔がいるらしい。討伐難易度、緊急度SSSじゃねぇか……(剣士・男・40歳)
大蜘蛛(気付いた……)
脳啜り(気付いたな……)
ギリィ「♪」※博物館で雪男グッズ作ってもらえてご機嫌
酷暑が続きますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
作者は夏休み前半戦どうにか乗り越えました(‘、3_ヽ)_
あとはちょっぴり小ネタと登場人物紹介を挟んで新章入りますん。




