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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第10章 追い縋る者、進みゆく者

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19 幕間一 使い魔ヴィオリッドの新しい日々

■六月×日

 人間の世界で暮らすようになってから少し経つけれど。

 小さな群れをたくさん寄り集めて、「町」っていうとんでもなく大きな群れを作るの、人間ってちょっと特殊よね。大きな群れってだけで外敵に襲われにくいのに、このうえさらに「家」っていうとても頑丈な巣を作って暮らしているのだもの。外敵の心配もなければお天気の影響だってそれほど気にしなくていいんですもの、そりゃあ生き延びる確率が段違いに高いわけだわ。

 私も朝まで何の心配もせずに寝ていられて、本当にびっくりしたわ。

 おまけに餌だって、狩りで調達するばかりでなく、自分たちで育てたりもするんですもの。食うに困ることもそうそうないわよね。

 人間って生き物の中では随分弱い方だけれど、生存率を高める知恵と技は随一だと思うわ。人間の町で暮らすって、まるで異世界にいるような気分。


■六月×日

 アレクに「狭くて悪いな。新しい家を見つけるまで辛抱してくれ」って言われたけど、私が今まで暮らしていた穴倉よりはずっと広くて快適なのよね。眠るための場所ならこれで十分だと思うけれど、人間の場合は眠る場所と餌の保管場所以外の目的でも巣を使うから、そういうふうに考えるものなのかも。

 人間のこういう感覚、やっぱりちょっと独特だと思うわ。


■六月×日

 見るもの聞くもの何もかもが新鮮で、毎日が楽しくってしょうがないわ。人間の縄張りで暮らすわけだから完全に自由とまではいかないけれど、森で引きこもり生活しているよりは遥かにマシよ。

 引きこもりって言えば、この街の地下の下水道というところにも何十年だか何百年だか引きこもり生活をしているスライムの爺さんがいるらしいのよね。そんなに長い間飽きないのかしら……って思ったけれど、上げ膳据え膳で好きなだけ考え事していられるのは最高って言ってるとかどうとか。

 噂では王都とかいう、ここよりもっと大きな街の地下にも同じようなスライムがたくさん棲んでいるみたい。じっと考え事をしているのが好きな種族なんですって。

 世の中いろんな魔獣がいるのねぇ。


■六月×日

 よく見ると人間の縄張りで暮らしてる魔獣って結構いるのね。

 門番のスライムとか孤児院のスライムとか、薬屋のアルラウネとか、アレクの仲間には吹雪猫までいてびっくりしたわ。あれって生存競争に負けて随分数が少なくなったって聞いてたけれど。

 その吹雪猫の彼が言うには、「俺らみたいな希少種は、かえって人間の世界にいた方が長生きできるんだぜ」ですって。

 まぁ……私も似たようなものだし、そうかもねぇって納得しちゃったわ。人間の世界が苦手でないのなら、それもありだわよ。


■六月×日

 アレクとシオリって番かと思っていたけれど、アレクが言うには「まだ」ですって。なんなの、その「まだ」って。夜はあんなに盛り上がってるのに?

 人間ってそういう微妙なところにもこだわりがあるみたいで面白いわねって思っていたら、ルリィが「アレクは人間の中でもわりと面倒な部類」って言い始めて思わず笑っちゃったわ。ああ見えて意外に細かいことをくよくよ悩むところがあるわって私も思っていたところ。


■六月×日

 は? まだ最後の一線を越えてない?

 毎回あんなに盛り上がってるのに?? ウソでしょ??

 は? 味見?? 九割がた頂いちゃってて味見も何もないでしょうよ!

「いや、その、なぁ……先に一線を越えてしまうと、やっておかなければならないことから逃げてしまいそうで、どうも、こう……なぁ……」

 ……。

 剣を振るってるときとはまるで別人レベルのヘタレ具合ね! 竜を斃した英雄様とは思えないくらい! 確かにわりと面倒な部類だわこれは!


■六月×日

 そういえば竜討伐以来二人の周りをうろちょろしている竜の光って、ちょっとはしゃぎ過ぎじゃないかしら!

「だって外の世界楽しいんだもん」

 分かるけど! 分かるけどあのしんみりとした最期の別れはいったいなんだったのよ! 眠りに就いたんじゃなかったのかしら!

「しばらく寝て過ごそうかと思ってたけど、やっぱり色々気になるものが多くて起きちゃった」

 ……この子の素の性格ってこんなんだったのね……。

「子じゃないもん。ヴィオより大人だもん。というか五人の中でヴィオが一番若いじゃん」

 そりゃまぁ一番ぴちぴちだけど!

 ルリィなんてああ見えて五十年は生きてるみたいだし、というか魔獣の年齢なんて当てにならなくない!?


■六月×日

 黙ってても三食出てくるのって、さすがにちょっとぐうたらし過ぎかしら……。

 そういえばシオリに「ヴィオは玉ねぎ大丈夫なの?」って訊かれたけど、私に限らず雪狼は皆平気よ? 犬とは違うもの。さすがに生ではちょっと苦手かもしれないけれど。


■六月×日

 蒼の森のスライムって、祖先となる個体が同じ――つまり同じ色の個体同士は遠隔感応能力が使えて、遠く離れていても情報共有ができるのですって。だからルリィは蒼の森やその周辺の最新情報を当たり前のように知っているのね。

 便利でいいわよねぇ。

 今日もその能力を使って蒼の森の同胞たちのことを教えてくれたわ。

 ……え? なぁに? ブロヴィート村にフェンリルの子が続々と預けられてる?

 なにそれどういうことなの。


■六月×日

 雪狼って、ときどき毛色の違う子が生まれることがあるの。普通雪狼は白銀の体毛に蒼い目をしているのだけれど、先祖返りとかなんとかで、薄紫色の体毛に金色の目の子が生まれることがあるのよね。そう、私みたいな。

 人間がフェンリルって呼ぶ私のような毛色が違う子は目立って標的になってしまうから、群れの掟で殺さなければならないことになってるのよね。

 ただ、殺すには忍びないって、群れから離れた場所でこっそり育てている場合も多くて……いや、それにしてもよ、こんな近い場所に同族がこれほどいるだなんて思わなかったわよ! これはしてやられたわね! もっと早くに知っていたら遊びに行ったのに!


■六月×日

 気のせいかもしれないけれど、何かたまに兄弟の気配を感じるときがあるのよね。気のせいかもしれないけれど。


■六月×日

 気のせいじゃなかったわ!

 あの子たちたまに街の外まで様子を見に来てるわ!

 あの感動の別れはなんだったのよ!! そんなちょくちょく様子見に来たら全然意味ないじゃない!!

 ルリィが「雪狼って意外と調子がいいよね」って言ってたけど、そうね、その通りだわ!


■七月×日

 今日は新しい棲み処を見繕いに行くのですって。アレクとシオリには夢があって、その夢を実現するための第一歩として広い棲み処が必要なんだとか。

 本当は時間を掛けてゆっくり探すつもりだったみたいだけど、今日見た大きな家がとても気に入ったらしくて、ここに住むことにしたみたい。

 ここにはリラーヴェンっていう不思議な生き物が棲み付いていて、私も妖精は初めて見たから思わずまじまじと眺めてしまったわ。人間の子どもをずっと小さくしたような姿で、でももう何百年も生きている長命種なんですって。

 なんだか陽気で賑やかな連中で、一緒にいるだけでこっちも楽しくなっちゃうわね。

 アレクとシオリの仲間も一緒に住むらしいから、きっともっと賑やかで楽しくなるわ。

 ほんのちょっと前までは同胞の目を避けて寂しく暮らしていたのに、なんだか夢みたい。

 本当に……森から出て良かったわ。


■七月×日

 今日から新しい棲み処での生活が始まるわ。

 二人ったら、気前よく私たちにも専用の部屋をくれたの。どこでも好きな部屋をって言うから、思い切って一番広いところをおねだりしてみたら「いいぞ」ですって。

 元々は馬とか馬車のための場所だったみたいだけど、なるほど、道理で快適なわけね!

 前の住人のダーグっていう人が置いていった絨毯を寝床に敷いてもらったら、いい感じに暖かくて寝心地がよくなったわ! これなら寒い冬でもきっと快適ね!

 一人寝が寂しいときはアレクたちもリラーヴェンも一緒に寝てくれるって言うし、なんだかもう一つの家族ができたみたいで嬉しいわ。ありがとう、アレク、シオリ。愛してるわ!


■七月×日

 世界って本当に広いわ。森の外にこんな世界が広がっているだなんて。どこまでも続く広大な平原も、遥か彼方まで流れていく川も、青々とした空の彼方に見える山々も、雄大っていう言葉一つでは言い表せないくらいに広いわ。

 アレクが言うには、この平原の先の、山と川をいくつか越えたずっと向こうには、海っていうとんでもなく広い水溜まりがあるのですって! 湖とは桁違いの広さで、水はしょっぱいだなんて、なんだか森の古老が教えてくれたお伽噺みたいだわ!

 でも、この空のずっとずっと上の気が遠くなるくらい高い場所には、宇宙っていう世界があるのですって。そこは月と星の世界で、それはもう一生かかっても果てに辿り着けないくらいに広い世界なんだとか。

 なんだか想像もできなくてぽかんとしていたら、シオリが魔法でその世界を見せてくれたんだけれど……なんていうか、この感動は言葉では表し切れないくらい。

 ずっとずっと高い空から見下ろす地上の景色も凄かったけれど、きらきらと吸い込まれるような瑠璃色に輝くこの世界も、この青い空を越えた先にある漆黒の空も、その先にある数多の星々も、何もかもがスケールが違って……。

 でも、こんな遠い空の世界を知ってるシオリっていったい何者なのかしら。なんとなく気配とか雰囲気もちょっと変わってるわよね、彼女。

 ――え、天女? 違う世界から来た!? それは……なんというか……アレクも只者ではないって思っていたけれど、その番も只者ではなかったわけね。

 まぁでも、二人が何者であっても、私にとっては掛け替えのない仲間、家族であることに変わりはないわ。勿論ルリィも、周りをうろうろ楽しそうに飛び回ってる光もね!

 私のもう一つの家族、愛しい人たち。どうかこれからも健やかでありますように。


脳啜り(めっちゃ喋る……)

ユル蛇(めっちゃ喋るな……)


雪狼は

・意外にお調子者

・意外によく喋る ←new!


コミックス9巻もよろしくね_(:3」∠)_


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― 新着の感想 ―
喋るっつうか書くっつうか・・・書くのか?w まあよく色々考えていたんだなあ  かなw ヘタレ ここに究めりw (つか9割でよく止まったもんだなw)
おねぇなフェンリル…。 色々と楽しそうだな。 気づいているのだろうか? 多分、自分が一番年長の雄になるってことを? で、多分、プロヴィード村には雌の子がいるぞ? 自分を養ってくれそうな年上のオスである…
こんなに姦しい感じだったのか。でも村に色んな子が捨てられるから若いお婿さん貰うとかもあるのかな?
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