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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第1章 家政魔導士の日常

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24 幕間・傲慢の代償(シーラ、ミア)

「喧嘩の御相手は承れません・後日談」で没にした、三馬鹿娘の話です。

せっかくなので掲載しますが、割と陰惨でグロテスクです。

ご注意ください。

 昔から、腕には少し自信があった。

 片田舎の小領主だった父に習った剣技は元より素質があったのか、上達も早くすぐにのめり込んだ。村の老魔導士に魔法も教わり、剣技と組み合わせる事も覚えた。腕を上げるのが楽しかった。夢中になって鍛錬を積むうちに、村の同年代の少年達を打ち負かすほどになっていた。

 兄のように領地運営で父を助けることは出来ないけれど、自分には剣技と魔法がある。将来はこの能力で身を立てたい、そう思って冒険者の道を志したのもこの頃だ。

 だから、冒険者になれた時には本当に嬉しかった。歳の近い仲間も出来た。自分と同じように腕の立つ仲間達だ。一緒に出れば難しい仕事なんて無かった。ランクも直ぐに上がった。



(――なんだ、こんなもんか。楽勝だったなぁ)

 シーラは貼り出された依頼票を気の無い様子で眺めながら独り言ちた。

 先輩達が口煩く注意してきた事も、自分たちの手に掛れば何てことは無かった。大したことは無い。先輩達が力不足なだけではないか。指定される依頼もC級の自分がやるような事ではないものばかり。もっと上の仕事が出来るはずなのに、馬鹿にしている。

 そんな風に不満を抱えたまま、なんとなく退屈に過ごしてたある時、見慣れない剣士風の男が組合(ギルド)にやって来た。何年か別の場所で仕事をしてきた人らしい。自分と同じ魔法剣士。S級昇格を打診されながらも、依頼に縛られるのを嫌って昇格を断り続けてるらしい。それが少し格好いいと思った。自分というものに揺ぎ無い自信を持った大人の男。

 ぱっと見は地味だった。けれどもよく見ると顔立ちの綺麗な人だった。さらさらの少し伸びかけた栗毛と、強い意志が感じられる紫紺色の目。立ち振る舞いにも隙が無い。仕事にも熱心な真面目な人。

 好きになるのに時間は掛からなかった。駆け出しの頃に手解きしてくれたルドガーも悪くは無かったけれど、比べ物にならないくらい素敵に見えた。同じ魔法剣士なんて運命だとさえ思った。もう少し頑張ればB級に上がれるはずだから、そうすれば一緒に仕事も出来るかもしれない。

「アレクさんに気があっても、自分から言い寄るのはやめときなよ。あの人、そういうの好きがらないから」

 御節介な先輩がそう教えてくれた。そうだろうか。大体先輩達の言うことは当てにならない。きっと、その人達のやり方が不味かったからだ。それとも魅力が無かったのかも。言い寄るから失敗したのかもしれない。手解きをお願いするつもりで言えばいい。

 ――そう思ってたのに。

「悪いが他を当たってくれ。稽古を付けるだけなら俺でなくとも構わんだろう」

 呆気なく断られてしまった。しかも、かなりの嫌悪感を滲ませて。取り付く島も無かった。その後も何度か顔を合わせる機会もあったけれど、何の反応も示さなかった。言い寄られた事も顔さえも覚えていないような、そんな態度。本当にこちらには興味が無いのだろう。

「――あいつは自分から言い寄る女は例えどんな相手だろうと嫌いなのさ。たいして付き合いの無い相手なら猶更だよ」

 ナディアとかいう派手な年増女に言われた。物凄い美人だけど、もう四十近いらしい。余計なお世話だ。そんな年まで売れ残ってるような人に言われたくはなかった。

 なのに、アレクはナディアとは親しくしているようだった。

 それどころか。

 黒髪のその女が来るのが見えて、思わず顔を顰めてしまった。舌打ちまで出そうになる。

「ねー、あの女、またアレクさんと一緒にいるね」

「シオリさんだっけ? 地味ぃーな感じの人だよね」

 ミアとヴィヴィがくすくすと笑う。

「若く見えるけど、あの人三十過ぎてるんだって!」

「うっそ! 何それ若作りじゃん」

 ――シオリとかいう女と話していたアレクが笑った。あまり他の人には向けない、少しだけ優しい笑い方だ。

 何故か胸がむかむかした。

「なんだかぱっとしない人だけど、あれでもB級なんだって」

 気に入らない。

「えー、うそ。何やってる人?」

「家政婦だって。本当は魔導士らしいけど、弱過ぎて使い物にならないらしいよ」

 気に入らない。気に入らない。

「マスターとかクレメンスさんとも仲良いでしょ、あの人。もしかして色仕掛けー?」

「じゃあ家政婦って、何かの隠語なのかな、もしかして」

「やだぁ」

 美人でもなんでもない、弱くて使い物にならない魔導士もどきの家政婦なんかが、あの人の隣に居るのが気に入らない。

「ね、ちょっとさ、試してやらない?」

「何を?」

「B級ならあたしたちより強いはずでしょ? だからあたしたちが確かめてやるのよ」

 ヴィヴィが面白い事を言った。

「……それ、いいね」

 いい考えだ。

 どうせ大した依頼も無い。三人とも乗り気になって計画を練った。不正を働いて中堅ランクに居座る年増女を、期待の新人(自分達)が糾弾して排除する。そんなシナリオに夢中になった。

 C級に手も足も出ないとなれば、あの女は恥をかく。そうすればきっとアレクもあの女に笑いかけるなんてことはしなくなるはずだ。もしかしたら、これを切欠に自分を見て貰えるようになるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きすらしていたのだけれども。



「――納得がいきません! ちょっと喧嘩しただけなのに!」

 組合(ギルド)マスターの部屋に呼ばれて言い渡されたのが、厳重注意と一ヶ月の謹慎処分。同業者に対して武器を持ち出しての挑発行為に及んだのが、規約違反に当たるからだと、そう言われた。

 でも、納得いかない。あの女にお咎め無しで、自分達だけが処分なんて。あの時攻撃されたのはこっちだというのに。

「そうです! ヴィヴィなんて全身ずぶ濡れにされたんですよ!」

 部屋に入ってからずっと啜り泣きしているヴィヴィを庇いつつ、ミアが言い募ったけれども、A級の弓使いだという男が呆れたとでも言いたげな顔をした。

「その子がずぶ濡れなのは自分でやったんだろー。粗相したのを隠すためにさぁ」

 途端にヴィヴィが激しく泣き出した。

「酷い! 何を証拠に!」

「馬鹿だね。さっき言ったこと忘れたのかい。目撃者が複数出てるって言ったろ」

 食って掛かった言葉は、ばっさりとナディアに斬り捨てられた。

「あんたらはね、一部始終を見られてたんだよ。街中でシオリを尾行してるところから、街を出て人気の無いところであの子に喧嘩売って抜刀したところも、反撃食らって青くなって逃げかえったところもね。勿論その子があんたらに置いてきぼりくらったのも、粗相しちまったところも全部だよ。まさかそれを隠蔽する為に自分で被った水のことまでシオリの所為にするとは、まったく呆れるより他は無いね」

「――そんな。だって、でも」

 やはり、納得がいかない。

「でも、彼女が攻撃してきたのは本当です。だったら彼女も罰せられるべきでは」

「それは正当防衛にあたるから問題ねぇよ。非戦闘員相手に戦闘員が三人がかりで武器を向けたんだ。目撃証言から判断するに、お前らの方が先に殺意を向けたことは明らかだ。そりゃ反撃して当たり前だろ」

 何を言っても切り返される。敵わなかった。同期や新人相手にいくらでも丸め込んでこっちが優位に立ててたけれど、上位ランクの人達相手に敵うわけがなかった。

 でも、なら、せめて。

「じゃあ、その目撃者を呼んで直接話をさせてください。何か誤解があるかもしれません。もしかしたらその人達はシオリさんに言い包められ――」


 バン!!!!!!


 言い終える前に激しい衝撃音が室内に響き渡り、思わず飛び上がった。アレクが拳を激しく壁に叩き付けた音だ。

「――つまりお前達は、俺達が(・・・)あいつに言い包められて嘘の証言をしたと、そう言いたいんだな?」

「……え」

 言われた内容を理解するのに時間が掛かった。

 俺達が? それは一体、どういう――訊こうとして彼と視線を合わせた瞬間、身が竦んだ。

 怖い。まるで親の仇でも見るような底冷えする目。きっと魔獣相手だってこんな目では見ない。身体が勝手に震え出した。嫌だ、あの時と同じ。シオリ(あの女)とやり合った時と同じ感じだ。怖い。怖い。

「その目撃者というのは俺達のことだ」

 ――嘘。嘘、見られてた? いつ? いつから?

 血の気が引いた。よりによって、この人に。

「仮に不正があれば、たとえ仲間だろうと俺達は容赦せん。舐められたものだな。女に篭絡されて手心を加えるような安い男だと思われていたとは心外だ」

 あの女にも言われた言葉だ。あの女を貶めようと躍起になっているうちに、知らないうちにこの人達まで貶していた。

 こちらを見下ろす先輩達の目が冷たい。

 唇を噛んで俯いたシーラ達を一瞥すると、ザックは大きな溜息を吐いた。

「……こいつら以外にもこの件について証言している者が居る。市内でのつけ回し行為に組合(ギルド)内での事実無根の中傷発言。これに加えてお前らの業務態度についても何件か苦情が寄せられている。お前ら仕事舐めてんのか。そんな態度で仕事されちゃ困るんだよ。信用問題にも関わるんだ」

 ばさりと音を立てて手元の資料を応接机の上に投げ出した。きっと、自分達の素行を纏めた資料なのだろう。

「双方に怪我が無かったからなるべく穏便に済ますつもりだったが、虚偽の証言に加えて反省の色が全く無しときた。残念だが、一ヶ月の謹慎に加えて一階級降格処分とする。異論は認めねぇ。これでもまだ生温いほうだ。本来ならな、お前達のしたことは傷害未遂や脅迫罪で騎士隊に突き出されても文句は言えねえんだぞ。これが冒険者でも騎士でもねぇ、市民同士のトラブルだったらどうなるか、そう考えりゃあよくわかるはずだ」

 ザックが言い終わると同時にアレクが踵を返した。ナディアも、リヌスもエレンもそれに続く。

「話が終わったんなら俺は行くぞ。これ以上こんな人間と同じ空気を吸うのは胸が悪くなる」

 その視線はもうこちらに向けられることは無かった。存在すら認めたくないとでも言うかのように。



 気に入らない。何もかも気に入らない。

 謹慎が解けて復帰しても、同期達にはまるで関わりたくないとでもいうように遠巻きにされた。ザックには『気持ちを入れ替えて頑張れよ』と言われたけれど、アレクには見向きもされなかった。あの女にはいつもと変わらない表情でまるで何事も無かったかのように、目を合わせても無言で目礼されただけだった。

 本当に気に入らない。

 ヴィヴィはあの後すぐに辞めてしまった。挨拶もそこそこに郷里へ戻ってしまった。魔導士が抜けた穴は大きかった。後方支援一人抜けたくらいなら何とかなると思っていた。でも違った。

 ヴィヴィが範囲魔法で先制攻撃し、ミアが弓で足止めする間に魔法を剣に纏わせて、大技で片付ける。その連携で戦う事にすっかり慣れ切っていたから、他の戦い方など知らなかった。ミアの足止めだけでは間に合わない。ならシーラの魔法で先手を打てばいい、そう言われたけれども魔導士ほどの威力も無く、しかも詠唱速度もヴィヴィには及ばない。どうしても遅れが出た。取りこぼしも多くなり、詠唱の間に攻撃される。中断して剣を振うが魔法との合わせ技に頼り切った剣技では到底力が足りなかった。

 前なら大したことなかった現場も容易く攻略出来なくなった。怪我も増えた。買い込んだ薬品も間に合わない。薬品切れで探索途中で帰還することも増えた。依頼も失敗同然の結果しか出せない事が増えて来た。

「ねぇ、やっぱりもう一人誰かに入って貰おうよ」

 ミアに言われて仲間も募ってみた。けれども誰も相手にしてくれない。一緒に居ても不愉快になるだけだと敬遠された。後衛職の者達の態度はより顕著だった。

「傲慢な振る舞いのツケは、一番助けて欲しい時に返って来るんだ」

 誰かに言われたけど、そんな事今更言わないで欲しかった。




「――ねえ、シオリさんの魔法見たけど凄かったよ」

「魔力は低いけど、独自性(オリジナリティ)と精度は上級魔導士以上だって」

「複数魔法の同時展開してるの見た事あるけど、とても低級魔導士とは思えなかったわよ」

 気に入らない。

「シオリの携帯食買ったー?」

「買った買った。新作出てたけど美味しかった!」

「なんかすげーよな。各国料理作れるんだろ。出先でメニューの希望取る時、王国風がいいか帝国風がいいか東方風がいいか共和国風がいいかとか訊かれて逆に困ったわ」

 気に入らない。

「あいつ女らしいのにオンナオンナしてねぇのがいいよな」

「あー、わかるわかる。中立的っていうの? 変に女アピールしないから安心して付き合えるよな」

 気に入らない。気に入らない。

 皆があの女に肩入れするのが気に入らない。何より、あの時あの女が心底怖ろしいと思ってしまったことが一番気に入らない。本当はわたしの方がずっと強いのに!



「――だから言ったじゃない! 二人だけじゃ無理だって!」

 あの女が一人で倒せたのなら自分達に出来ないわけがない。こんな大蜘蛛の討伐なんて、簡単なはずだ。なのに、どうして。

組合(ギルド)通さない依頼なんて、まだあたしたちには無理だったのよ!」

「あんただって最後は同意したじゃない! 今更わたしだけのせいにしないでよ!」

 出先の村で頼まれた依頼。森の休憩小屋の近くに住み付いた大蜘蛛の退治。簡単だと思っていた。低級の魔獣だから、ちょっとした群れぐらいなんとかなると思ってた。

「うそぉ……嘘でしょぉ……」

 ミアの弓矢は尽きてしまった。いくら命中率は高くても、一本当てた程度で倒せるほど魔獣は軟弱ではない。たったの数匹仕留めただけで、呆気なく攻撃の手段を無くしてしまった。

『一匹だけ見れば低級でも、虫系魔獣は数で勝負してくるんだ。十や二十程度ならともかく、大群に取り囲まれたら厄介だぞ。連携を考えないと中級以上の冒険者でもあっという間に餌食になる』

 今更のようにルドガーに言われた言葉を思い出す。

『特に冬直前は、大蜘蛛や大蟻のような越冬する種類には気を付けろ。越冬に必要な栄養補給の為に極めて獰猛になる』

 今更――何故今更こんな大事な事を思い出すのだろう。

「――きゃああっ!?」

 何かに足を取られて無様に尻餅を付く。

「え……やだ、嘘……」

 白い糸。粘着質の蜘蛛の糸。足首に絡まって離れない。咄嗟に火魔法を放ったけれども、中途半端に焼き切れた糸はまた大蜘蛛に上書きされた。剣は――剣は転んだ拍子に落してしまった。

 引き摺られる。群れの中に引き摺り込まれる。噛まれた足から痺れて行く。

「あ……ああ……」

 ミア、助けてミア。助けを求めようにも、喉が絡んだように上手く声が出せない。

 背後で引き攣ったような声が聞こえた。それから慌てて茂みを掻き分けて行くような音が遠ざかっていく。

「や……やだ……」

 目前に迫る大蜘蛛の顎。

「――!」

 ――精一杯に振り絞って上げた悲鳴が、短く響いて消えた。







「――こいつは駄目だな」

 娘の遺体を一目見るなりルドガー・ラネリードは断言した。最早息が無い事は誰の目にも明らかな様相だった。打ち捨てられた人形のように力無く投げ出された身体は柔らかい部分が齧り取られ、その顔は激しく引き摺られでもしたのか泥と血液に塗れて擦り切れ、整った輪郭だけが辛うじて美しかった名残を留めていた。

 蒼褪めて震えながら立ち尽くしていたミア・テルンが、蹈鞴たたらを踏むように二、三歩後退ると、糸が切れたように崩れ落ちた。

「う、えっ……うえぇっ……」

 仲間の無残な死に様が余程堪こたえたらしい。胃の中の物を全て吐き出してなお、その場に蹲って嘔吐えずくミアを冷めた目でルドガーは眺める。何も無ければ同情のひとつもしたのだろうが、自業自得なのだ。同情の余地は無い。

「シーラ・アンデルで間違い無いか?」

 どんなに辛かろうが確認して貰わなければ困る。その為に連れて来たのだ。ミアは蒼白を通り越して土気色になった顔を上げると、こくこくと頷いた。遺体が身に着けていた装備から判断するより他無い有様だったが、状況から見て行方不明になったシーラ・アンデルで間違いはないだろう。

「そうか。分かった。残念だが遺体はここに埋めて行く。遺品と遺髪を回収したら戻るぞ」

 どうせなら仲間の手で遺髪を取らせるべきなのだろうが、この状態ではまず無理だろう。遺族の為に遺品の剣と、付着した血糊とともに凝固した頭髪を、なるべく綺麗な箇所を選んでどうにか一房切り取った。このために持参した真っ白な手布に遺髪を包み、もう一つの布には剣を入れてこれも丁寧に包む。

 それからシーラの遺体を中心にして魔法で地面に穴を開け、未だ蹲ったままのミアを振り返った。

「おい。一回でいい、土を掛けてやれ。これは仲間だったお前さんの務めだ」

 だが、彼女はその場で首を振るばかり。もう仲間だった何か(・・・・・・・)など見たくもないのだろう。怯えの混じった目がその心の内を物語っていた。

 ここから再起出来れば良いが、恐らくこの娘はもう駄目だろう。思い上がって伸びきった鼻柱を叩き折られ、その傲慢さ故に同僚から敬遠されて、未熟なまま少人数で無謀な依頼に手を出した末のこの惨事だ。

 ルドガーは溜息を吐き、穴の底に視線を戻す。

 ――この世ではない世界を覗き込んでいる虚ろな目が、鈍色の空を写し込んでいる。

 馬鹿な娘だ。魔法剣の先達として手解きしてやったのは僅か一年前。筋の良い娘だった。素質もあったのだろう、若いながらも腕の立つ仲間達と共に、見る間にC級へと駆け上がった。あのまま行けばいずれは腕利きの冒険者になれただろうに、早くの昇級で思い上がったか、すっかり鼻持ちならない考えの持ち主に成り下がってしまっていた。基本を疎かにして仕事を舐めてかかり、それに苦言を呈した先輩の意見にすら耳を貸さない。挙句の果てに上位ランクの女相手に私怨で刃傷沙汰と来た。

 降格と謹慎処分で済んだのは、まだ先輩達の優しさなのだ。だが、学び直して再起するどころか、一切を無視して無謀な現場に向かってしまった。己の腕の確かさを示す為に。

 しかし。

 愚かさの代償は高く付いてしまったようだ。

 ああ、本当に馬鹿な娘だ。



「――傲慢の代償は、てめぇの命で支払っちまったな」



 冬の訪れを感じさせる凍えた風が、吹き抜けて行った。

・ルドガー・ラネリード:29歳。B級冒険者。魔法剣士。携帯食買ってた人。



明日はルリィの小話を投稿します。

その後は第二章に入る予定です。


寒冷地では冬期間、冒険者の皆さんは何してるんでしょうね?

それなりに条件は厳しいでしょうが、寒冷地仕様の皆さんなだけに、しっかり冒険に出てそうです。

まず、塔と廃墟と遺跡は行っておきたいな……

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― 新着の感想 ―
本来なら才能があり高みにも到達出たかも知れなかった娘でさえ一歩間違えれば惨たらしく死んでしまうこんな世界に何もない平和な世界から来てしまったシオリの辛さや苦しみがより際立つサイドストーリーだと思います…
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