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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第1章 家政魔導士の日常

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23 幕間・受付嬢の冒険者組合紹介ツアー

受付嬢が冒険者組合(ギルド)加入希望者をご案内いたします。

 ようこそ冒険者組合(ギルド)トリス支部へ! 初めての方でいらっしゃいますね。御依頼ですか? それとも冒険者志望の方ですか? ……まぁ、そうでしたか。登録可能年齢に達したら志願なさりたいのですね。それでは今日はその手続き方法の御確認ということでよろしいでしょうか。ええ、勿論お聞きしたい事があるのでしたら可能な範囲で御説明いたしますよ。



一、冒険者組合(ギルド)について


 アルファンディス大陸全土に支部を持つ冒険者専門の民間団体です。組合(ギルド)の創始者の出身国であるストリィディア王国に総本部があり、多くの冒険者が登録しています。

 主な業務は、魔獣討伐、民間人の保護、災害救助、地域の治安維持などです。ただし、これらの業務は騎士団の仕事と被る為、基本的には自発的に行われることはありません。依頼者からの依頼という形で請け負っています。

 これ以外には周辺地域の遺跡、迷宮などの調査も行っています。勿論組合(ギルド)の依頼を受けず、遺物や魔獣素材の収集などで個人的に探索なさる方も沢山いらっしゃいますよ。



二、組合(ギルド)加入条件について


 冒険者に志願するためにはまず十六歳――ストリィディアですと成年として認められる年齢ですね――に達している必要があります。登録年齢の上限はございませんが、大体三十歳くらいまでに登録される方が多いですね。

 ちなみに、十六歳になると同時に登録される方も全体から見ればそれほど多いわけではございません。私見ではありますが、少なくともトリス支部では他の御職業を経て冒険者になられる方が多いように思います。……そうですね、命の危険を伴う職業の上、騎士団と比べると補償や手当も遥かに少ないですからね。やむにやまれずといった形でこの道を選ばれる方も多いのが現状です。

 身分や人種国籍、性別は不問です。正式に加入する為には筆記試験や面接で基準点を満たす必要があります。

 身元の証明……ですか? ……あまり大きな声では言えないのですが、身元証明はあって無いようなものですからね。王侯貴族とは違って市井出身の方は出生記録がきちんと取られていないケースが多いので、調査仕切れないのが現状です。家の都合などで身分や名前を偽って登録されている方も多いのですよ。ええ、そう……噂では貴族の方も結構多くいらっしゃるそうです。中には御自分で公言されている方もいらっしゃいますよ。



三、冒険者登録試験について


 先ほども申し上げました通り、筆記試験と面接で基準点を満たす必要があります。

 とはいえ、それほど難しい内容ではございません。筆記試験では成人として常識的な知識があるかどうか、必要最低限の読み書き計算が出来るかどうかを判断します。また面接試験では対人スキル――人付き合いがきちんと出来るかどうかです――を見ます。依頼人と直接やりとりする事もあるわけですから、対人スキルに極端に問題のある方はこの試験で落とされるようになっています。

 再試験は何度でも可能ですので、もし基準点に満たなかった場合でも心配しないでくださいね。読み書きや計算は不得手な方も沢山居らっしゃいますし、組合(ギルド)でも簡単ではありますが勉強のお手伝いをさせて頂いております。

 そうそう、三年ほど前には全くこの国の言葉が分からない状態から猛勉強して合格された方もいらっしゃるんですよ。

 ええ、そうです。ご自身の努力次第と言えますね。



四、登録後の職業について


 登録後にどのような職業を選択するかはほぼ個人に任されておりますが、登録前に既に職を手にお持ちの方も多くいらっしゃいます。特に後衛職の特殊技能職――薬師や考古学者、治療術師の方などはこのケースが多いですね。

 中には酵母ハンターという変わった方もいらっしゃるんですよ。この方は本業がパン屋さんなのですが、パンの発酵に必要な酵母菌を採収されるために冒険者登録なさったそうです。フィブリア原生林の水蜜花群生地で採集された酵母で作ったパン、ほっぺたが落ちそうになるくらいに美味しかったですね……ああ、組合(ギルド)の近所のパン屋さんなんですよ。

 まぁ、既にその御職業での活動実績がある場合は問題ありませんが、実績の無い方の場合は、極端に適性の無い職業を選ばれても困りますから、魔力探査等で身体能力を視てどのような職業に適性があるかを確認した上で、ご本人の御希望を聞くような形になりますね。

 ちなみに貴方は――ああ、トビーさんと仰るのですね。トビーさんはどのような御職業を御希望ですか?

 剣士。剣士ですと、上級ランクの冒険者のどなたかに適正を見て頂くことになりますね。現マスターに代わってからは、剣士はマスターが見てくださいますよ。ええそう、そうなんです! 元S級のザック・シエルさんですよ。ふふ、楽しみですか? そうですね、楽しみにしていてください。とても気さくで良い方なんですよ。



五、冒険者レベルとランクについて


 冒険者はレベル及びランクで階級分けされます。

 レベルは単純に言ってしまえば、冒険者としてどの程度の経験があるかを分かりやすく数値化したものです。依頼終了時に魔力探査によって各能力値の上昇を計測し、その数値によって経験値が加算されていく方式が取られています。経験値が一定値を超えれば一レベル上がります。どんな些細な依頼でも、必ず何らかの経験にはなりますから、多少なりとも数値は上がるんですよ。

 しかしながら、活動されていく中で実際に重要になるのはランクの方です。依頼はランクによって受託可能範囲が設定されておりますから。

 ランクの階級は高い順に、S、A、B、C、D、E。これは定期的な査定で、人格・実績・貢献度などを考慮の上で決定されます。ですので、レベルが高いからと言って高いランクになれるとは限らないわけですね。

 高ランク程高難易度や指名依頼が入る為、冒険者によってはそれぞれの都合で敢えて一定以上のランクを辞退するケースもありますよ。既婚者ですとか小さいお子様のいらっしゃる方にこのケースは多いですね。命を大事にして、生活していける分だけの収入があればいいという方も多いですから。その辺りは各個人の判断に任されております。

 中には御得意様の依頼を最優先させる為にS級への昇級を断っている方なんかもいらっしゃいますね。まぁこれはかなり特殊なケースかもしれませんが。



六、依頼について


 依頼は様々な方から寄せられます。貴族や平民の方、稀ですが騎士団からの依頼もあります。勿論冒険者からの依頼もありますね。王都の総本部まで行くと、王宮勤めのお役人様の依頼なんてものもあるみたいですね。

 え、王族の依頼ですか? うーん……あんまり聞いた事はありませんが、恐らくその場合は組合(ギルド)を通さない個人依頼か、S級冒険者への極秘指名依頼になるんじゃないでしょうか……。

 ああ、そうですね、基本的には組合(ギルド)を通して依頼を受ける形になりますが、個人的に依頼を受ける事も可能です。組合(ギルド)から手数料を引かれる事もありませんし、難易度も関係ありませんから、好んで個人依頼を受ける方もいらっしゃいます。ですが、全て自己責任になりますので、慣れないうちはあまりお勧めはいたしません。

 依頼内容は、これも様々です。遺失物や迷子の捜索、薬草摘みから始まって、魔獣討伐や魔獣素材の採集、旅行者の護衛、個人的な探索の同行者を求めるケースもあります。珍しい物になりますと、孤児院の慰問なんてものもありますよ。え? 知ってる? ああ、トビーさん、孤児院の……それではよく御存知ですよね。

 まぁ、クレメンスさんとアレクさんの演武!? それは私も見たかったわ!

 ……はっ!? 大変失礼いたしました。つい興奮してしまいまして……。ええ、あのお二人は女性人気が高いんですよ。あの格好良さですもの。もっとお若い頃は随分言い寄る女性も多かったらしいですよ。ただ、特定の女性と付き合うとか、そういう浮付いたお噂は一回も聞いた事がない位に女性関係にはかなり淡泊な方々みたいで、今では遠巻きに熱い視線を送られているような感じですね……。

 クレメンスさんは紳士的にお断りされますけど、アレクさんなんて言い寄る女性には露骨に嫌そうな顔されてましたもの。嫌な想い出があるとかで、あんまりああいう風にされるのはお好きではないらしいです。

 ザックさんですか? ザックさんは……確かに素敵な方ではありますが、なんといいますか、ブラコンシスコン気味で……面倒見が良過ぎて恋愛対象としてよりもお兄さんっていう印象が強くなっちゃう方なんですよね……。ご本人は、年の離れた弟さんがいらっしゃるからとか言ってましたけど、あれは多分元々の性格なんだと思いますよ。



七、依頼の難易度について


 はっ!? すみません、また話が脱線してしまいましたね。

 ええと、依頼の難易度ですね。難易度はS、A、B、C、D、Eに分類されており、受託可能範囲は基本的には御自分の冒険者ランクと同じかそれ以下となります。ええ、そうですね、例えばC級冒険者ですと、依頼の受託可能範囲はC、D、Eです。

 ただし、依頼によっては個人で受けられるものと、パーティを組んで複数人で臨まないと難しいものがありますので、その辺りは組合(ギルド)と相談の上で受託ということになります。

 それから例外的に受託可能範囲を超えて依頼を受けることが出来る場合もあります。パーティの総合能力値がランクを上回ると判断された場合は、ひとつ上のランクの依頼を受ける事が可能です。ただまぁ……報酬や経験値が多く入りますので例外扱いで受託したがる方もいらっしゃるのですが、あまり認められるケースは無いようですね。例え身体的な能力値は足りていても、解決力があるかどうかは別問題になりますから。どうしても該当ランクの冒険者が足りない場合などに適用されるケースがほとんどのようです。



八、報酬について


 報酬は依頼ごとに決定され、依頼終了時に受付カウンターで直接支払われる仕組みです。依頼の難易度に対して報酬が極端に少なくなることのないように、報酬設定等は組合(ギルド)が直接依頼人と交渉して行いますのでこの点はご安心くださいね。

 実際に受け取る事が出来る報酬額は、パーティの人数で割った金額になりますので、当然人数が少ないほど取り分は多いことになります。ですが、無理に少人数で受託しても、依頼の達成率――依頼人の求める結果を何処まで達成できたか――が悪ければ、当然報酬金額は下がりますので、この点はよく考えて受託した方が良いかと思います。

 初めのうちは報酬金額を見るよりも、達成率をクリア出来るかどうかで依頼を選んだ方が良いでしょうね。その辺りは組合(ギルド)もお手伝いいたしますので心配しなくても大丈夫ですよ。



九、パーティについて


 パーティですか? ご存知の通り、一緒に行動する仲間の事ですね。依頼毎に組むような短期間のパーティもあれば、長期間行動を共にするような固定パーティもあります。

 人数が多くなればそれだけ依頼の達成率も上がりますが、勿論ソロで行動されている方も多くいらっしゃいます。組合(ギルド)では特に推奨も反対もしておりませんので、パーティを組むかどうかは個人の裁量に任されておりますね。

 もし御仲間を募りたい場合は組合(ギルド)の掲示板を利用して頂ければ、条件に合うパーティを探すこともできますよ。初心者の内は固定パーティを組まれる方がほとんどです。勿論長く固定パーティで活動される方も多いですが、そうですねぇ……三十歳を超えた辺りから、一旦解散される方が多くなります。

 え? 理由ですか?

 まぁ、単純にご結婚されて長期間の留守が難しくなるだとか、上級ランクになって個人依頼が増えて、長期間一緒に行動する事が難しくなる方が増えるというのが理由です。身体的な理由で引退される方が増えるのもこの年代からですかね。この場合は、基本的にはソロで活動し、必要に応じて元のメンバーと一時的にパーティを組み直すといった形を取られる方が多いです。

 もっとも、B級やA級あたりになりますと、誰とでも問題無くパーティが組めるような人間的にも優れた方が多くなりますからね。そもそも固定パーティに拘らないのかもしれません。

 ……え? ええそうです、いいご質問ですね。

 B級以上は……難易度の極めて高い依頼や、高位貴族の方からの依頼も多く出されるんです。失敗イコール死亡なんて依頼もかなり多いですし、下手な対応で身分の高い依頼者との信頼関係にも影響が出ても困りますからね。トラブルが多いとか相手によって態度を変えるとか、そういう仕事に悪影響が出る人間関係を築くような人材はB級以上には上がれないんですよ。能力値だけでなく、人間性もかなり重要視されています。仮に気に入らない相手が居たとしても、絶対に表面には出さず大人の対応が出来る方ばかりですよ。

 その辺りを勘違いして、レベル上げやランク上げばかりに熱心になっていらっしゃる方は残念ながら多いです。



十、冒険者緊急避難法


 まぁ、よく勉強されておいでですね。それだけ真剣に組合(ギルド)加入を考えていらっしゃるということでしょうか。

 冒険者緊急避難法を御存知とは……。組合(ギルド)員でも御存知ない方が多い制度で、普段はほぼ意識する事はありません。これを適用する必要がある場面になったとしても……実際に実行出来る方はそう多くないというのもあります。

 ええ、そうですね。冒険中、自らの生命に危険が迫った場合、負傷者を放置して立ち去っても違法性を問わない。そういう制度です。負傷者にはパーティの仲間だけではなく、要救助対象や護衛対象なども含まれます。他人の救助の為に自分の命まで落とすようでは元も子もありません――理屈は分かりますね?

 ですが、先程も申し上げた通り、実際にその場面に遭遇した時、本当に仲間を見捨てて逃げられるような方はそれほど多くありません。

 実際、この緊急避難法に基いて負傷者を放置し脱出したケースは、私が知る限りでは国内では三件しかありません。うち、厳正な調査の上で法的に適用が認められたケースは二件。

 ――え? 残りの一件……ですか?

 これはその……処分は保留になっている案件ですね……はっきり言ってしまえば、限りなく黒に近いグレー扱いの案件です。

 どういうことかって? それはつまり……救助は十分に可能だったにも関わらず、故意に見捨てたのではないかと疑われたんですよ。

 奇跡的に救助された負傷者の状況や関係者の証言から緊急避難法の適用は難しいのではないかという意見も多かったのですが、目撃情報は無く現場検証も不可能とあって、放置して避難せざるを得ない状況だったというのは本当だという当事者の証言を覆す事は出来なかったんです。

 え? ええ……そうです、お察しの通り……お恥ずかしい話ですが、これはごく最近トリス支部で起きた事件ですね。当時それなりの騒ぎになりましたから市民の方でも御存知の方は多いと思います。

 そのパーティは組合(ギルド)職員と結託して、報酬の受取や依頼受託の不正を行っていました。負傷した冒険者の方はその不正の被害者でもあったんです。その末の事件でしたから、口封じだったのではないかという意見も未だに根強く残っているんで


「――面白そうな話をしているようだが……口が軽過ぎるのは感心せんな」


 …………………………………………お、お帰りなさいアレクさん。お疲れ様です。はい。すみません。申し訳ございません。以後気を付けます、はい、はい……。

 ああ、怖かった……吃驚した……すみません、トビーさん。お見苦しいところをお見せいたしました。ええ、また是非遊びに来てくださいね。見学がてら、冒険者の方々のお話を聞いてみるのも参考になると思いますよ。

 ――ではまたのお越しをお待ちしております!

明日もまた0時更新です。

「喧嘩の御相手は承れません・後日談」で削ったお話です。

わりかし陰惨です。

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[一言] トビーくんがんばれー(o^-^)尸 念のため...ツイートなのでレス不要です(^-^ゞ
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