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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第7章 家政魔法の講習承ります

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27 トリス支部通信 四月号

■連絡事項

・残雪のある山に入山の際は天候や気温などを必ず確認し、雪崩に十分注意して慎重に行動すること。

・国境地帯の山域において、山菜狩りで入山した帝国難民の遭難が増加傾向とのこと。発見時には速やかに保護もしくは騎士隊へ通報すること。



■魔獣図鑑

 トリス支部担当区域において目撃及び遭遇情報の寄せられた魔獣の一部を掲載。組合(ギルド)員は必ず閲覧のこと。

(参考文献:ストリィディア魔獣図鑑、大陸の幻獣・珍獣図鑑)


雪毛蛇(スノールム)

・目撃場所:雪国の山間部

・危険度:小~中

・討伐難易度:E~C

 体長百センチメテルほどの蛇のような魔獣。しかし鱗はなく、全身が淡い青色の体毛に覆われており、耐寒性に優れている。肉食で凶暴だが動きは鈍く、一般の猟師でも太刀打ちできる程度の戦闘力である。

 夜行性。雪が降る低温下でのみ活動し、万年雪や自作の氷室の中で越夏する。

 雪の上に淡青色の毛交じりの這い回った跡が残されていた場合は要注意。雪毛蛇(スノールム)の移動痕で、近隣に潜んでいる可能性が高い。

 物理、魔法攻撃どちらも有効。火属性の攻撃に弱い。注意さえ怠らなければ必ず勝てる相手である。


小蛇竜(オルドレイク)

・目撃場所:旧ドルガスト帝国全域(稀に王国北部及び東部の国境地帯にも出没)

・危険度:小~中

・討伐難易度:C~B

 雪毛蛇(スノールム)の近縁種。雪毛蛇(スノールム)の身体にワイバーンに似た頭部を持つ。(ドレイク)の名が示す通り、ドラゴンを小型化したような姿の魔獣だが、その容貌は大陸系よりは東方系の竜種に近い。細長い蛇のような身体の腹部には鱗、背面には体毛があり、胴体からは細い手足が生えている。

 肉食で獰猛な性質は基本的に雪毛蛇(スノールム)とほとんど変わりはないが、顎の力が非常に強く、氷塊も噛み砕くほどだ。敏捷性が高く、移動時は雪の中を潜行するという特徴もある。

 それゆえに初心者では手こずる相手だ。自信がなければ無理に戦わず、撤退も視野にいれて行動しよう。もし戦うならば、火属性の攻撃が有効。的が小さく当て難いが、頭部も弱点だ。命中力に自信があるなら集中的に頭部を狙おう。


□オルトロス

・目撃場所:アルファンディス大陸北部の草原地帯など

・危険度:小~中

・討伐難易度:D~B

 闇に見紛う漆黒の体毛、そして鋭い牙と赤い瞳を持つ双頭の大型犬、オルトロス。その獰猛で異様な姿は見る者を萎縮させるが、その見た目とは裏腹に極めて温厚で人懐っこく、非常に賢い魔獣である。それゆえに古来から家畜として重用され、現在では野生種よりも家畜化したオルトロスの方が数が多い。

 体長百~百五十センチメテル前後と大型で、標準的な体形の成人男性一人程度なら乗せたまま走ることもできる。ただし月魔犬(モーネガルム)ほどの持久力はなく、人を乗せたまま走れるのは長くても数分ほど。あくまで緊急時のみにとどめておいた方がいいだろう。

 温厚で賢く、敏捷性に優れたその性質から、農村、特に酪農が盛んな地域では番犬や猟犬として人気。嗅覚と聴力が優れているため、騎士隊では主に災害救助犬として重用されている。

 なお、頭が二つあるため餌も二頭分必要だと思われがちだが、内臓は一つなので一頭分で十分である。一頭分の食事を「半分こ」して与えよう。


月魔犬(モーネガルム)

・目撃場所:見晴らしの良い岩山や高原地帯

・危険度:中

・討伐難易度:C~B

 仄かに蒼白く発光する筋肉質の立派な体躯、大きな口から剥き出している白い牙に切れ長の鋭い目、宙を飛ぶように走るその姿はまさに魔犬と呼ぶに相応しい。

 しかしオルトロスと同様非常に賢く温厚で社会性に富み、古来より人類の友として親しまれてきた魔獣である。

 体長百五十~二百センチメテル前後と大型。全体的に細身。ビロードのように滑らかな体毛と、発達した筋肉質の身体が美しい。その引き締まった凛々しくも優美な姿は、愛玩用や使い魔としても人気。

 容姿から抱くイメージに違わず屈強で持久力や敏捷性にも優れ、犬ぞりによる人荷の運搬にも重用されてきた歴史がある。

 オルトロス同様極めて有用な魔犬類ではあるが、唯一の欠点は偏食と旺盛な食欲である。筋肉質の身体と体力を維持するためか、良質な赤身肉や鳥肉、栄養価の高い穀類を好み、標準的な成人男性の約二~三倍の食事量を要する。それゆえに食費が嵩んで泣く泣く手放す飼い主も多く、一定以上の経済力がなければ飼育できないのが難点。


□ユルムンガンド

・目撃場所:ストリィディア王国北部(ドルガスト帝国南部)国境地帯付近の山間部

・危険度:中~大

・討伐難易度:A~

・特記事項:合成魔獣(キメラ)。巨体の変異種はSランク相当と推定。

 旧時代の亡霊とも呼ばれるドルガスト帝国の忌まわしき遺産の一つに、合成魔獣(キメラ)がある。強靭な変異種の交配と選抜を繰り返して作り出した優れた個体に、別種の魔獣を掛け合わせて生み出した怪物。それが合成魔獣(キメラ)だ。

 ユルムンガンドは雪毛蛇(スノールム)と近縁種の小蛇竜(オルドレイク)を掛け合わせて作り出された合成魔獣(キメラ)で、雪毛蛇(スノールム)の凶暴さと耐寒性、小蛇竜(オルドレイク)の咬合力と機動力を備え持った軍用魔獣である。

 雪の中を高速で掘り進んで標的に接近するユルムンガンドは、雪国では大変な脅威だ。奇襲攻撃と丸太を噛み砕く強靭な顎もさることながら、大雪崩を誘発する移動手法でとある村を一夜にして滅ぼしたこともあり、その危険性はAランクながら発見次第討伐命令が出るほどである。

 この合成魔獣キメラ部隊を投入すれば、敵陣を一夜で制圧することも夢ではない――そう期待されていたユルムンガンドではあるが、残念ながら――我々にとっては幸いなことに、無理に命に手を加えた代償か、極めて限定的な環境でしか生存することができないという欠点がある。

 高温には極めて弱く、日が当たらない十度を下回る環境(記録では最大二十度の環境下でも生存した個体もあったようだが、衰弱が激しく飼育ケージから出られなかったようだ)でしか生きられないため、次の夏を迎える前にほとんどが絶命したとされている。

 無論実戦投入されることなくその存在は闇に葬られ、ユルムンガンドの存在を知る者はあまり多くはなく、帝国民ですら単なる噂話として片付ける者もいるほどだ。

 だが生き延びた一部の個体が帝国南部地域に細々ながらも定着し、稀にではあるが山間部の農村を襲うなどの被害を出している。ストリィディア王国東部の国境付近でも幾度か出没したことがあり、討伐記録も残されている。その存在は決して「噂話」の範疇に収まるものではないことは確かだ。

 魔法、特に火属性の攻撃が有効。素早さと命中力、腕力に自信があるなら、物理攻撃も選択肢の一つだ。だが一筋縄ではいかない。中堅パーティでは全滅の可能性もある。万が一にもユルムンガンドと遭遇、もしくは関与が疑われる雪崩が発生した場合は、慎重な対応が求められる。


※追記事項1:ハスロの森にて変異種二体確認。いずれも討伐済。

※追記事項2:巨体の変異種は火属性の単発攻撃はほぼ無意味。高火力の連続魔法攻撃、もしくは高温の泥沼で「煮る」など、高温の連続攻撃が有効との情報あり。



■素材図鑑

 トリス支部担当区域内で採集出来る素材の一部を紹介。採集依頼や個人用途での収集の参考に。


□妖精トンボの羽

 アルファンディス大陸北部の夏でも二十度前後程度の雪深い寒冷地帯に生息する妖精トンボの羽は、昆虫蒐集家に人気のアイテムの一つだ。

 成人女性の手のひらほどの大きさがあり、半透明の表面には朝日に煌めくダイヤモンドダストのような独特の輝きがある。一般的なトンボの羽程度の強度しかなく加工用には向かないが、観賞用として十分に楽しめる美しさだ。

 警戒心が非常に強く、その妖精のように舞い飛ぶ姿を滅多に見ることはできないが、数ヶ月という短い生涯を終えて雪に落ちた個体なら多少は遭遇率は高い。とは言え我々が見つける前に魔獣や小動物の餌食になることも多く、もし拾うことができたなら非常に幸運といえる。

 観賞用や幸運の護符として手元に残すも良し。売り払っていつもより少し贅沢な冬を過ごすのも良いだろう。


※追記情報:とある使い魔によると、常緑低木の葉と葉の間に挟まっていることが多い、らしい……。


□アルファンチッチゼミの抜け殻

 「チッチッチッチッ」と小鳥の囀りのような特徴的な鳴き声のアルファンチッチゼミは、昆虫学者によると世界最小のセミだという。微弱な冷気を放つれっきとした魔獣ではあるが、その性質は非常に臆病である。人里で産卵することは滅多になく、唯一存在感を示す鳴き声すらも控えめ、そのうえ活動期間は八月上旬から九月上旬と短いことから、生きた姿をお目にかかることはなかなか難しい。

 しかしながら個体数はそれなりに多く、活動期間中は森林や平原地帯の木の幹や植物の根元付近で抜け殻を見つけることができる。毎年一定数が流通するためそれほど高い値は付かないが、精巧な虹水晶(レギボーラ)細工のような美しい抜け殻は手軽に楽しめる「美術品」としての価値があり、初心者蒐集家の入門編として一定の需要がある。

 小遣い稼ぎにはちょうどいい素材。夏の終わり頃に懐が寂しくなったら、森に出向いて「宝探し」をしてみてもいいかもしれない。


※追記情報:とある使い魔によると、霧が出た薄曇りの朝、十メテル以上の落葉樹の枝先で鳴いていることが多い、らしい。



■何でも掲示板(匿名掲載可。掲載希望者は受付にて申し込みのこと)


□俺だけの心の母ちゃんになってくれる人いないかな?(召喚士・男・21歳)

□↑さすがにマザコンが過ぎるんじゃねーの……(魔法剣士見習い・男・16歳)

□最近組合(ギルド)が甘酸っぱい匂いで充満しているせいか、昨日とうとう家内に「貴方また水葡萄つまみ食いしたの?」と言われてしまった(事務職員・男・37歳)

□ブロヴィート村がスライム天国になってる! 癒されるぅ……(薬師・21歳・女)

□魔法研究倶楽部発足します! 会員募集中!(魔導士・男・26歳)

□予定が合わなくてなかなか直接お会いできる機会がない方もいらっしゃるので、この場を借りて謝罪とお礼をさせてください。皆さん本当にすみませんでした&ありがとうございました。心を入れ替えて頑張ります!(魔導士・女・19歳)

□誰か読み終わった本の交換会しない? 図書室で開催予定(魔法剣士・女・24歳)

□水葡萄シロップ作り過ぎたのでお裾分けします。欲しい人は食堂まで(食堂スタッフ・女・41歳)

□野生種の水葡萄はピクルスにすると瓜臭さがなくなって美味しいよー(弓使い・男・28歳)

□特製傷薬は今なら上級魔法回復薬1本と交換するのである(アルラウネ・?・?)

□使い魔がいる生活快適過ぎる……黒い悪魔との遭遇率激減だぜ……(剣士・男・40歳)

ルリィ「煮ちゃったんで剥製にもできないって」

ユル蛇「」



【お知らせ】

3月31日に「家政魔導士の異世界生活」コミック6巻が発売予定です。

今回はシルヴェリア編中盤を収録。おの秋人先生が丁寧に描き込んでくださった家政魔導士の世界をお楽しみいただけたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします(*´艸`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 煮汁が染み込んだ泥を活用出来ないものかと考えてました泥パック的に
[良い点] オルトロスの食事の半分こ、というのが、とても微笑ましいです。
[一言] とある使い魔と掲示板がツボにはまって笑ってしまったwww
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