18 御魂送りの祭
現場の後始末と魔獣の遺骸の保存を終え、被害者の遺体を包み終わる頃には空はすっかり夕焼けの色に支配されていた。夕日影の森はまるで影絵のようで、雪が残る山にくっきりとした黒い陰影を落としている。
眼下の村には灯りが灯り、家々からは炊事の煙が上っている。その長閑な光景は、遠目には災害などなかったかのようにも見えた。
夜を迎えつつある山は静寂に包まれ、惨事があったことが嘘だと思えるほどに穏やかだった。
「このままここで一泊したいところだよなぁ……」
「さすがに疲れたっすもんねぇ……何にも考えずに今すぐここで寝てしまいたい……」
疲れ切った顔を隠しもせずにカイとイクセルがぼそりと呟くが、誰も咎めたりはしなかった。
未知の魔獣との手探りの戦いも理由の一つだろうが、一般的な討伐依頼以上に人命救助は精神的な負担が大きいからだ。特に死者が出るような現場ではなおさらだった。
「まぁ、今日は多分村に一泊することになるだろうな」
「無理に帰るよりは、そうした方がいいだろうしねぇ。下で頑張ってる連中も相当疲れてるはずだよ」
「午前中からずっと魔法使いっぱなしっすからねぇ。ああ、もうここからそりで滑り降りたい……」
イクセルの呟きに小さな苦笑を漏らしたアレクだったが、ふと何かに気付いた彼は「おっ」と声を上げた。
「帰りは少し楽をさせてもらえそうだぞ」
彼が指差す方向から、魔法灯の灯かりが近付いてくる。小さな光点だったそれはやがて、魔法灯に照らされた魔犬ぞりの姿を成した。そりを引くのは半ば飛ぶようにして走る魔犬で、彼らを御しているレオ・ノルドマンが手を振るのが見えた。
「騎士隊の救助艇だ」
誰からともなく安堵の溜息を漏らす中、谷の縁に沿うようにしてそりを走らせてきたレオは、出発時と変わることのない顔ぶれを見て「良かった。無事だったか」と険しい表情を緩めて微笑んだ。ちゃっかり同乗していたルリィも、荷台からぽよんと飛び降りる。
「わざわざ来てくれたのか」
「ああ。多少無理を言って借りてきた。さすがに疲れているだろうと思ったからな」
トリスの救援部隊が瓦礫と被災者の運搬用に持ち込んだものらしいが、幸い夕方までには通行の邪魔にならない程度に片付いたようだ。救援部隊に掛け合い、空きが出たそりを討伐隊のために出してくれたらしい。
「ありがたい。さすがに疲れてどうしようかと思っていたところだ。それに……あの二人もできるだけ早く帰してやりたかったしな」
アレクが視線を向けた先を見たレオは、それで察したようだった。彼は布包みの傍らに膝を突き、中で眠る二人の老人に黙祷を捧げた。
「……やはり、件の魔獣にか」
「ああ。仲間を逃がすために自ら囮になったようでな。経緯はどうあれ、あれほどの化け物から身を呈して仲間を護ったその精神、称賛に値する」
「化け物?」
その言葉に何か含むところを感じ取ったレオは、アレクが無言で指し示した先の物体を目にして今度こそ息を呑んだ。
「――何だこれは」
魔法灯の光に照らされて薄暗がりの中に浮かび上がった竜頭の大蛇と三つ首の怪物は、骸となってなお異様な威圧感を放っている。
「ユルムンガンドとやらではなかったのか? 聞いていた話とは随分違うぞ」
「特徴はある……が、ただの変異種か、交雑した何かなのか、正直判断できないんだ。あまりにも様子が違い過ぎる」
「騎士隊でしっかり調べてもらった方がいいだろうと思ってね。勝手かとは思ったけど、一応凍結処理を施してあるよ」
低い唸り声を上げて黙り込んでいたレオはやがて、「近いうちにギルドにも通達が行くだろうから、今話しておく」と意を決したように切り出した。
「実はな。帝国との国境地帯で、奇妙な魔獣の目撃情報が相次いでいる。内乱末期に実験動物を解き放ったとか、証拠隠滅に失敗して脱走した生体実験の被験体という話もある。真偽はまだ不明だが、それらの魔獣はどれ一つして同じ姿をしていない……ということだ」
ごくりと誰かの喉が鳴った。
どれ一つとして同じ姿をしていない奇妙な魔獣。
――目の前で屍を晒している二体の魔獣は、どちらもユルムンガンドの特徴を有していながら、まったく異なる形状を成している。
シオリは無意識にアレクの腕を掴んだ。安心させるように、彼の手が優しく背を撫でる。
ルリィ達使い魔は興味深そうに死骸を眺めていたが、やがてぞっとしたようにきゅっと身を竦めると、慌てたようにこちらに戻ってきた。
「相次いでいるといっても、件数自体はさほど多くはない。片手の指に収まる程度だ。だが、年明け以降から特定地域で既に四件という数字は見逃せん。これほど領都に近い場所でとなってはなおさらな」
「そういうことなら、なるべく早いうちに山狩りをした方がいいんじゃないのかい」
ナディアの指摘には「上層部のそのつもりでいるはずだ」と彼は答えた。
「もっと国境に近い地域では、帝国軍の残党狩りを兼ねて巡回を強化している。この近隣もしばらくは山奥への侵入を禁じた方が良さそうだな。ユルムンガンドについても当面は他言無用だ。魔獣について何か訊かれたら、適当に濁しておいてくれ」
「それは構いませんが……でも、遭難した人達が見ているんでしょう。誤魔化せないんじゃないですか?」
「救出した連中からいくらか話を聞いたが、幸い彼らは首の一部しか見ていなかったようなんだ。どうも雪で本体が隠れていたようでな。二体見たというのも恐らくはこの双頭――いや、三つ首か――の魔獣の首から上だけが見えていたのではないかと思う」
ただのユルムンガンドだった。落ち着くまではそういう話にしておいた方が混乱がなくて良いということだ。
「遺骸は数日中には回収させよう。この大きさでは大型のそりが必要だろうが……作業時には人目を考えた方が良さそうだな」
運び出すときに村人には不審がられるかもしれないが、どうにかするしかないなと苦笑いしたレオは、「だが」と気を取り直すように言った。
「村を脅かした魔獣は倒され、死者も含めて行方不明者は全員見つかった。村への到着を以って貴殿らの依頼は完遂となるそうだ。あとのことは我々に任せてくれ」
「全員? ということは残りの一人が見つかったのか」
アレクの問いに、彼は頷く。
「自力で下山したところを保護した。どうやら一人だけ別方向に逃げたようでな。貴殿らが入山したルートとは別ルートで降りてきたよ。だいぶ衰弱してはいたが、怪我一つなかった。一晩ぐっすり眠れば大丈夫だろうとのことだ」
道中で救出した遭難者も容体は落ち着いているようだ。
全員発見の報にそれまで重苦しかった空気が和らぎ、仲間達の間にいくらかの笑顔さえ見えた。
「身を呈して仲間を護った二人の献身は無駄ではなかった。災害救助犬の到着を待っていたのでは、全滅の危険もあったが……思わぬ形で探索魔法の有効性が実証された訳だ。下で探索に参加した連中も手応えを感じているようだぞ」
レオはシオリを見て微笑んだ。
アレクの腕が肩に回され、足元のスライム達もぷるんぽよんと震える。
「……さあ、戻ろう。村人達も『友人』の帰還を待っている。貴殿らも疲れただろう」
犠牲者は出てしまったが、仲間を無事家族の元にという故人の願いは叶えられた。あとは彼ら自身をその仲間の元へ送り届けるだけだ。
魔獣の遺骸を雪で隠し、二人の老人を丁重にそりに載せ、シオリ達もまた空いた場所に次々と乗り込む。
やがて魔犬ぞりはゆっくりと坂を下り出した。
――惨劇の山は、今は静かに人々を見下ろしていた。
行きはあれほど時間が掛かったというのに、ものの数分で下界に下りたシオリ達は、神妙な面持ちの村人達に迎えられた。
啜り泣きが響く中、白い布に覆われた二人の老人がそりから丁重に降ろされる。
「おやじさん……」
手厚い看護でいくらか回復したのだろうか。数時間前に救助したばかりの遭難者の一人が、家族に身体を支えられながら眠る老人のそばに膝を突く。
「……最期まで仲間の無事を気に掛けていたぞ」
アレクが今際の際の言葉を伝えると、彼は唇を噛み締めたまま何度も頷いた。
「皆無事だと伝えたら、これでカミさんに蹴り返されずに済むとも言っていた」
それまで啜り泣きだったものが、今度は泣き笑いの声に変わった。
「おやじさんらしいや」
「尻に敷かれてたからなぁ」
「でもベタ惚れだったんだろ」
「愚痴なのか惚気話なのかよく分かんない話しょっちゅう聞かされたもんな」
涙交じりの笑顔で語られる想い出話からは、二人が慕われていたのだということが分かる。彼らの死は驕りが招いたものには違いないが、最期まで「親父」であろうとした二人の人柄が偲ばれた。
「――さぁ、今夜は御魂送りの祭だ。盛大にという訳にはいかないが、飲んで、食べて、想い出話をしながら二人を送り出そうじゃないか」
御魂送りとは通夜のようなものだ。とは言ってもしめやかに行われるものではない。
各家庭から持ち寄った酒や料理を摘まみながら棺を囲んで想い出話を語り、賑やかに歌い踊ることで、ここに不幸な死者はいない、新たな生へと旅立つ祝福された旅人しかいないのだと悪霊達に知らしめるのだ。
「あんた達も来てくれよ」
「酒を飲みながら騒ぐのが好きな人達だったからね。人が多ければ多いほど喜ぶよ」
村人達の熱心な誘いに押されるように、シオリ達もまた頷いた。
魔除けの篝火が焚かれた村の広場には小さな祭壇が組まれ、安置された棺には色鮮やかな刺繍を施した飾り布が掛けられる。それを取り囲むようにして設けられた宴席には村人達が持ち寄った酒や料理が運び込まれた。
災害現場で炊き出しを行っていたロヴネル家の料理人も、前途ある若者達を救った二人の英霊に捧げる一品を振る舞って場を沸かせた。
楽器を得意とする村人で結成された即席の楽団は鍵盤ヴァイオリンや横笛を奏で、村人がそれに合わせて伝統の踊りや歌を披露する。
彼らに交じってぽよんぽよんびよんと踊っているスライム達を見て小さな笑い声を立てたシオリは、賑やかな雰囲気に半ば圧倒されたように感嘆の息を吐いた。
「……凄いね」
「こういうのは初めてか?」
「うん。話には聞いてたけど、見たのは初めて」
「そうか。まぁ、俺も実際に見たのは数えるほどしかないけどな」
「そうなんだ?」
「だいぶ古い風習だからな。今ではこういう小さな村くらいでしかやらないんだ」
今ほど生活環境が整えられてなかった時代は、死臭を嗅ぎ付けた魔獣が寄ってくる危険があった。戸数が少ない、ごく小さな集落ではなおさらだった。だから火を焚き賑やかに騒いで、魔獣を追い払っていたという。単なる悪霊除けではない、もっと現実的な危険を避ける意味合いもあったのだ。
けれども時代が下って結界技術が発展し、墓地が整備されるようになってからは次第に廃れていったようだ。
一度言葉を切ったアレクは、温めた果実酒を啜った。その瞳は篝火の光を映して、不思議な色に煌めいている。
「今では葬儀屋に任せるのがほとんど主流だ。少なくとも、ある程度の規模の町なら専門の業者がいるからな。母のときも、看取ってくれた医者が手配してくれた。それで隣近所のごく親しい人だけで見送ったんだ」
若くして亡くなった彼の母は、一度はトリス郊外の共同墓地に埋葬された。しかしその後に異母弟の計らいで、王家に仕えた者のための墓地に移されたそうだ。
「いつか、一緒に墓参りしてくれるか?」
いずれは王都に出向くことになるだろう。それがいつになるかは分からないが、そのときには亡き両親にも紹介したいと彼は言った。
勿論シオリに否やはない。こくりと頷くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
――不意に村人達がどっと沸いた。故人に纏わる愉快な話が披露されたらしく、冒険者達はおろか騎士や私兵までもが腹を抱えて笑っている。そうして「おやじさんに!」と幾度目かになる献杯の音頭が取られ、新たな酒瓶が次々と開けられた。
宴の始まりから既に二時間。夕闇すらも消えてすっかり暗くなっていたけれど、未だ宴は終わる気配を見せない。
冒険者の一部はここで切り上げて就寝することにしたようだ。それなりには宴を楽しんでいた彼らも疲労困憊と言った様子で、騎士隊の厚意で用意された天幕に引き上げていく。仲間内では最年長者になるダニエルも、「さすがに老骨には堪えるな」と苦笑しながら輪を抜けていった。
その一方で気分が高揚して眠るタイミングを逃してしまった者達もいて、彼らは見張りをしがてら雑談に興じることにしたようだ。
シオリとアレクもその一人だ。ルリィとブロゥが眠る横で静かに杯を傾けながら雑談を交わしていると、背後に立つ者があった。
「お二人とも、お疲れさん」
肴を盛った木皿を手にしたバルトは、横に立つ辺境伯夫人モニカ・オスブリングに目配せをしながら言った。
「夫人が二人に挨拶したいって」
災害救助部隊の臨時指揮官として現場に立っていたモニカは、それまでの女騎士然とした表情を緩めて二人に向き合った。
「我々は一旦引き上げることにしたの。辺境伯閣下に報告をして、明日改めてこちらに来ることにするわ」
すれ違いになるかもしれないからと直々に挨拶に訪れた辺境伯夫人に、シオリは恐縮した。けれども腰を上げようとした二人を「そのままでいいわ。お疲れでしょう」と押し止めて、モニカは優雅に微笑む。
「貴女方のお陰で救助活動を円滑に進めることができたわ。残念ながら魔獣の犠牲者が出てしまったけれど、雪崩による被害者を全員無事救助できたこと、感謝するわ。災害救助犬がいない現場で、これは本当に凄いことよ。あの探索魔法は見よう見真似の付け焼き刃であっても十分に機能したの。我が辺境伯家の私兵団でも取り入れるよう、閣下に進言するつもりよ」
今後も是非技術指導をお願いしたいと熱心に語るモニカの眼差しは真剣なものだ。彼女の言葉が決して社交辞令でないことが分かる。
「今後もお役に立てるのでしたら、是非」
「ええ。あまり大きな声では言えないけれど……国境地帯の魔獣の話は聞いたでしょう。今日の件もあるから、いずれ――それほど遠くはない日にまた協力をお願いすることになるかもしれないけれど、そのときはよろしくね」
「はい」
シオリと挨拶を交わした後、バルトと、それから恐らくは本来の身分を知っているのだろうアレクに微笑み掛けたモニカは、美しい敬礼を披露してから去っていった。
それを見送ったバルトは、空いた席に腰を下ろして小さく溜息を吐いた。普段から朗らかな表情を崩さない彼も、さすがに疲れたようだった。
「バルトもお疲れ様。大変だったでしょ」
香辛料入りの温かい果実酒を木製カップに注ぎ入れると、それを受け取ったバルトは「まぁね」と眉尻を下げてへらりと笑った。
「被災地での指揮は何度かやったけど、出先でいきなりってのは初めてだったからね。でもまぁ、何事も経験だから」
「そっかぁ……さすがだなぁ」
二十六という彼の年齢は、為政者という立場を考えれば相当若い。けれども名門伯爵家当主の側仕えとして召し上げられてから十五年以上経つ彼は、既にベテランの域にあった。実際かなりのやり手で、若き女伯の腹心として辣腕を振るっているということだった。
ただでさえ今の彼は祖父――元男爵の一件で幾分風当りが強いと聞く。その逆風さえふんわりと包み込んで呑み込んでしまう彼の柔軟さは尊敬に値する。
自分が二十六のときはどうだっただろうか。職場では勿論それなりにしていたという自負はあるが、彼とは前提が違うとはいえ、もっとふわふわと生きていたような気がする。
もっともその一年後には突然異世界に放り出されて、随分と――むしろ過分に鍛えられることになるとは思いもしなかったのだけれども。
「――でもさ、シオリってしばらく会わないうちに随分雰囲気変わったよね。前からしっかりした印象だったけど、この数ヶ月でさらに地に足が付いたっていうか……なんというか、儚い感じがなくなったかも。アレクもなんだか明るくなったしさ」
言葉にしあぐねているようではあったが、バルトの指摘は的を射ている。
「あの後も色々あったから。色んな人達とかかわって、沢山話し合って……ようやく自分の立ち位置を見極められたような気がするの」
「そうだな。過去に向き合って、これからのことを前向きに考えられるようになったってことさ」
人前で堂々と恋人の肩を抱き寄せたアレクの、その言外の意味を察したバルトは「おお?」と目を見開いた。
「――そっかぁ。それは何より」
バルトは笑った。
「こりゃあうちの二人とどっちが早いかって感じだなぁ」
まるで保護者か何かのような言い草には笑うしかないが、「おめでとう。そのときが来たら、改めてお祝いさせてくれよ」という言葉は素直に受け取った。
「こういう席で言うもんじゃないだろうけど」
「ううん。ありがと、バルト」
この世界で得た恋人と友人と共に、果実酒を傾けながら祭壇を囲む人々を眺めた。
故人の旅立ちが安寧と喜びに満ちたものであるようにと願う人々の笑い声が弾け、それに呼応するように祭壇の篝火がぱちりと爆ぜた。火の粉が舞い、まだ冷える春の夜空に吸い込まれるようにして散っていく。その先で輝く星々は、次の生への旅立ちを待つ魂なのだと誰かが教えてくれた。
――おやじさん達、良い旅立ちになりそうだな。
誰かがそう言い、そうだな、と誰かが返事した。
そうして想い出を語り合いながら、祈りと願いを込めた杯を酌み交わす音に混じって、ふと懐かしい人の声を聞いたような気がしたシオリは顔を上げた。
温かく穏やかな、落ち着いたアルトの声が耳を打つ。
――幸せでいるのなら、それでいいのよ。
それは、愛する妻のもとへと旅立った故人を偲ぶ誰かの声だったかもしれない。
けれども、一瞬聞こえたその言葉が懐かしい日本語だったように思えて――自分を育み慈しんでくれた人の声のようにも思えて、堪らなくなったシオリは隣りに座る恋人の胸元に顔を埋めた。
「……シオリ。どうした。シオリ?」
驚いたアレクの声が頭上から降ってくる。けれども、シオリは顔を見せまいと必死に彼の胸元に縋りついた。
こんなにも人が沢山集まる場所で涙を見せたくはなかったのだ。
ただ一言、「母さんの声が聞こえたような気がしたの」とだけ言うと、彼は「……そうか」と頷いてくれた。
「御魂送りの祭では、ときどきそういうことがあるらしいよ。故人を迎えに来た精霊が、送り出す手助けをしてくれた人達へのお礼に懐かしい人の声を届けてくれるんだってさ」
それが故人であれ、生者であれ――もう二度と会うことができない大切な誰かの言葉を届けてくれるのだとバルトは教えてくれた。
「その声を聞けた人は、必ず幸せになるって言われてるんだ。そして、声を聞いた人が出たその祭で送られた人の次の人生も、祝福されたものになるってね」
精霊の祝福なんだよと、そう言ってバルトは微笑んだ。
「……そっか。そうなんだ。嬉しい……かな」
どうにかそれだけ言ったきり肩を震わせ続けるシオリを、アレクは強く抱き締める。
そんな二人を眺めて柔らかな笑みを浮かべたバルトは、静かに杯を掲げた。
――優しい祈りと願いの夜は、穏やかに更けていく。
ユルムンガンド「自分も送ってもらいたい……」
ギリィ「……その前にあなた多分私と同じ施設送りですよ」
解剖\(^o^)/




