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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第6.5章 ホレヴァ家の兄弟

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08 幕間四 使い魔フィルクローバーの日記

■二月×日

 うむうむ。今年の冬もあちらこちらで赤ん坊が沢山生まれたようだ。

 可愛い可愛い。立派な雪の魔獣になるんだぞ。


■二月×日

 森の奥地を散歩していたら雪狼の子供らに会った。

 白くてもふもふしてちょこちょこ歩き回るところが可愛らしい。雪菫の花びらに塗れて水玉模様になっていた。うむうむ、可愛い可愛い。

 ……とほっこりしていたら、危うく食われそうになった。身体にちょっと穴が開いた。まぁすぐ治るからいいが……っと、あっ、こらっ、待て待て待て待て食べられない食べられない千切れるから千切れるから!


■二月×日

 いやはや、元気いっぱいなのは良いが、些かやんちゃが過ぎる。

 大変な目に遭った。まぁ可愛いから許すが。


■二月×日

 天気が良いので日向で昼寝をしていたら、通り掛かった人間に「腐った水溜まりがある」と言われた。失礼な。


■二月×日

 久しぶりに沼地を散歩していたら、氷蛙(イス・グロダ)の子供達に会った。おたまじゃくしから足が生えたばかりでぎこちない動きがまた可愛らしい。

 あっ、こらっ、待ちなさい待ちなさい、自分は沼じゃないから沼じゃないから泳げないから泳げないから。


■二月×日

 人間と暮らしているルリィから連絡があったようだ。

 子供好きで遊び好きか、虫取りが好きなスライムを所望すると。なるほどなるほど、これは自分が行かねばなるまい。人間の子供にも非常に興味がある。

 希望する者が些か多いのでかくれんぼで勝負だ。うむうむ、歴戦の勇者の戦いぶりを見せてやろう!


■二月×日

 わーいわーい勝った勝ったやったやったぁ! わーいわー……はっ!?

 嬉し過ぎてつい取り乱した。


■二月×日

 今日はトリスに向けて旅立つ日。同胞達に見送られて意気揚々と出発。嬉し過ぎて予定より随分早くに着いてしまった。

 仕方がないので、約束の日まで門の周辺を散策散策。

 うむうむ、人間が沢山出入りしているぞ。楽しみだ。

 ……と呑気に見物していたら、いつの間にやら夕焼け色の同胞が門番と懇ろになってしまった。それは予定外ではないかとも思ったが、「びびっ」と来たらしいので仕方あるまい。「びびっ」ときた相手は得難き友となるという噂があるので、それは大事。

 夕焼け色の同胞は「ソルネ」という名をもらっていた。夕日という意味らしいが、いやはやなんとも風雅な名前をもらったものだ。羨ましい。

 ソルネの新しい友人には子供も沢山いるそうだ。まだ赤ん坊がいるから家の中も清潔にしておかねばならないらしいが、ソルネは虫取り名人なのできっと害虫駆除も見事にやってのけるはずだ。

 うむうむ。


■二月×日

 しかしソルネが予定外に離脱してしまったので、もう一匹同胞を呼び出すことにした。やってきたのは空色の同胞だった。うむうむ、この同胞も年若いながらに虫取りのプロなので必ず役に立つだろう。

 ……ところで今持っているその雪原カマキリの子供は遠くに捨ててきた方が良いのではないだろうか。


■二月×日

 ルリィとその友人の出迎えでトリスの街に入った。

 うわぁあああああああああああ人もいっぱい建物もいっぱい凄いなぁ凄いなぁ!

 子供もいっぱいいて楽しそうだなぁ美味しそうな匂いもするなぁうわあああああああ……はっ!?

 ……うむうむ。

 空色の同胞は冒険者組合(ギルド)(おさ)の使い魔になるという。人間の中ではかなり強いということらしいが、いかんせんこの男、大の虫嫌いであるようだ。なるほどなるほど、それで虫から護って欲しいと……うむうむ、誰しも苦手なものはある。

 自分の行き先はトリス孤児院というところだそうだ。主殿と一緒に子供達の相手をすれば良いらしい。早速連れて行ってもらったが、主となるイェンスは善人を絵に描いたような人物だった。しかし芯は通っていてなかなかに強そうではある。魔獣でも動物でもそうだが、こういう見た目がふわっとしているわりに存在感の強いものは油断できないものだ。

 なるほどなるほど。

 イェンスは十五年近くもここで、親元から離れた子供達の父親役をしているそうだ。ほかにも面倒を見る人間は何人かいるようだが、これだけの「大家族」の家長を務めるのはなかなか骨が折れるだろう。

「よろしくお願いしますね、補佐殿」

 うむうむ、家長の補佐役、任された!

 自分の名前は子供達が決めてくれた。若草色の身体の色から、四葉のクローバー(フィルクローバー)と名付けてくれた。

 うわあああああーいわあああああああい素敵な名前もらったー♪

 わーいわーい嬉しいなぁ嬉しいなぁー……はっ!?

 ……なにやら自分を見るイェンスの目が胡乱げなような気もするが、気にしないことにする。とりあえず気になるのはイェンスの顔色の悪さだが、子供達を寝かしつけたらとっととこの新しい友人氏も寝かしつけることにしよう。


■二月×日

 どうやらこの孤児院というところは訳ありの子供達が集められるようだ。魔獣の子供のようにただ無邪気なばかりではない、陰鬱な様子の子供が散見されるところが気になるところではある。

 自分は発声器官がないので気の利いた言葉を掛けてやることもできないが、それはイェンスの仕事だ。自分の仕事はそばに寄り添うことである。それだけで良いのだろうかとも思うが、イェンスは「貴方の色は癒しの色ですから」と言う。言葉がなくとも寄り添うだけで良い場合もあるそうだ。

 なるほどなるほど。

 確かに、人間の大人達にはなかなか心を開かない子供が自分の身体の上に乗っかってくるところを見ると、何がしかの意味はあるのだろう。ゆっくり時間を掛けて向き合うのだそうだ。

「氷と同じですよ。無理に割ろうとするよりは、ゆっくり温めて溶かした方が負担が少なくて済みますから」

 さすがイェンス、長年子供達と向き合ってきただけのことはある。ならば自分もゆっくり付き合うことにしよう。

 ところでイェンス、今日も早く寝るように。


■二月×日

 今日新たに七人ほど子供が預けられた。蒼の森の近くの村の子供達だそうだ。どうやらいつかの雪狼の騒ぎの影響で食うに困っているらしく、親が働きに出る間、預かって欲しいのだそうだ。

 なるほどなるほど……あの事件では多くの雪狼が犠牲になったが、それは人間も同じであったようだ。一部の愚か者の煽りを食ってえらい目に遭うのは魔獣も人間も同じ。生き物の宿命であろうか。

 ともあれ、イェンスの補佐役として頑張る所存である。

 さぁイェンス、今日も寝る時間だ。


■二月×日

 なんだかよく分からないが、子供を迎えに来たと称して大暴れした挙句にイェンスに殴り掛かった阿呆がいたのでぺろりとしてやった。本当はこのまま消化してやりたかったが、人の中で暮らす以上は人の仕来たりに従わなければならない。ので、拘束するだけに止めてやった。

 後からルリィやペルゥに聞いたところによると、服を溶かせば簡単に無力化するらしいので、次からはそうすることにする。

 連中は騎士達に連行されていったが、聞けばあの人間、懐に刃物を隠し持っていたそうだ。「貴方のお陰で命拾いしましたよ」とイェンスはいつも通りにのほほんと笑っていたが、いやはやなかなかどうしてこの男もやるものだ。あのときのイェンスは言葉こそ穏やかだったが、空気がびりびりと震えるような凍えるような、底冷えするほどの恐るべき気迫だった。

 子供を護らんとする親は強いが、イェンスもまた子供達の父親役としての務めを果たしたということだろう。

 それはいいが、さしものイェンスも相当堪えた様子。大分疲れているようだ。いいからさっさと寝なさい。


■二月×日

 書類は逃げないから明日にして今日はもう寝なさい!!


■二月×日

 なるほどなるほど!!

 どうやらこの孤児院で一番の困った子はイェンスであるようだ!!

 最近忙しいのは分かってはいるが寝なければ効率も下がろうというもの!!

 かくなる上は、数多の魔獣達を虜にしたこのノミ取りの手業で寝かし付けてやろう!!

「わ、ちょっとなんですか、お止めなさいフィル、ちょ……っ」

 ――五分もしないうちに呆気なく陥落した。思ったより不甲斐なかったがぐっすりと眠っているようなので、まぁ良しとしよう。


■二月×日

 いい加減疲れがたまっているようで、自室に戻るイェンスの足元が覚束ない。これはもう同胞によく眠れるという常夜草の花でも積んできてもらって、口にぶち込むべきだろうか。

 ……などと思案していたら、部屋の前でオスカルという男が待っていた。この大聖堂で一番偉い人間で、イェンスの腐れ縁であるらしい。

 なるほどなるほど、一見すると胡散臭くて油断ならない男のようにも思えるが、内面はそう悪い人間でもないようだ。多忙なイェンスを気遣って差し入れを持ってきたらしい。

 いくらかお喋りをしているうちに、イェンスの緊張が解けてきたようだ。孤児院の人員を増やしてもくれるらしい。

 ふむ。なるほど、オスカルはイェンスの心の友であるのだな。良かった良かった。やはり人間には言葉による慰めが有効なようだ。

 言葉を発せない自分にはできない芸当だが、それでもイェンスは「貴方も大切な友人ですよ」と言ってくれた。自分を気遣い叱ってくれる相手が常にそばにいるというのはありがたいらしい。この若草色の身体を眺めているだけでも癒されるのだそうだ。

 そう言ってもらえるのならば、自分が来た甲斐があったというものだ。

 今日はイェンスは大人しく床に入ってくれた。オスカルが差し入れた薬草茶も効いてきたのだろう。すぐに寝入ってしまった。

 ――まぁ、なかなかに手は掛かるが皆可愛らしい良い子達だ。子供達の遊び相手と友人の寝かしつけで充実した日々は楽しい。これからもよろしく、主殿。


ルリィ「一昨日コミック3巻が発売したよ! 昨日は書籍5巻が発売したよ! どっちもよろしくね!」

カリーナ「あたしの歌を聞けーーーーーーーっ!」

ギリィ「どなた!?」

フィル「冬のドナタ」


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして、全ての門にスライムが常駐しそうな予感(((*≧艸≦)ププッ
[一言] 面白いです。 良い物語をありがとうございます。
[良い点] 渋いおじさんになろうとしてなりきれてないフィルが可愛いですな。 [気になる点] 雪原カマキリは危険だから食べて欲しい。食べられなかったら、群れまで帰れたのかな? [一言] ああ、元々子供好…
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