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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第6章 東方の商人

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20 幕間七 使い魔ルリィの日記


■二月×日

 ちょっと時間ができたのでイールのところに遊びに行った。相変わらずぐうたらしていた。でも最近はニルス以外の人間の友達が増えてますます楽しいんだって。女の子達に「可愛い」って言われてご満悦だった。お年寄りにも人気みたいだ。ちょっと不気味だけど仕草が人間っぽいのが可愛くていいんだって。

 イールのおやつの時間に自分もおやつをもらった。大聖堂の近くのお土産やさんで売ってる聖女印のクッキーだ。ありがとうニルス! バターと蜂蜜たっぷりで凄く美味しかった。シオリが作ってくれたのみたいに甘くて優しい味だった。幸せ。

 イールも食べるのかなと思ったら、自分は植物だから食べられないと言われた。飲めるのに食べられないっていうのがちょっとよく分からない。その触手みたいなので吸い上げたりできないのかと訊いたら「スライムとは違うので無茶を言うな」と言われた。そのあーあー言ってる口みたいなのは……「これは単なる発声器官である」……うーん……そっかー。


■二月×日

 今日はアレクからの指名依頼で一緒にエナンデル商会に行った。アレクの弟へのプレゼントで、自分と同じサイズのスライムが一匹入る背嚢を作りたいんだって。スライム専用の背嚢かぁ。せっかくだからスライム模様にでもしたらどうかと思ったけど、しっかりした魔獣の皮で作るようだ。

 アレクは報酬代わりに何か美味しいものを買ってやると言った。何でも好きなもの選んでいいんだって。わーいどうしよう、何にしようかな。エナンデル商会のお菓子もいいなぁ。他の使い魔専用の食べ物も試してみたいし、屋台料理も捨てがたいなぁ。

 アレクがお店の人に「スライムが一匹入る背嚢を作りたい」って言ったら凄く驚いていた。聞き間違いかなって何度も訊き返していてちょっとおかしかった。小型の使い魔を入れる鞄を作る人はたまにいるみたいだけど、スライムを入れたいと言った人は初めてだそうだ。

 お店の人に「染み出してこぼれたりしませんか?」って心配そうに訊かれた。大丈夫だよ! 頑張ったら縫い目から出てこれたりするけど、水じゃないから普通にしてたらこぼれたりしないよ!

 身体の大きさを測った後はお菓子をもらった。エナンデル商会の焼き菓子だ。うーん、何回食べても美味しいなぁ。ペルゥも美味しいって言ってたな。今度蒼の森に里帰りするとき皆のお土産にできないかなぁ。駄目かな。シオリにお願いしてみようかな。


■二月×日

 アレクとシオリに手紙が届いた。アレクは弟から、シオリはアンネリエからだって。

 アレクは昔のこととちゃんと向き合うために、弟や昔仲良かった女の人とちゃんと話し合いたいと言ってた。手紙はその返事のようだ。アレクは不安そうだったけど、いいお返事だったみたいで良かった。弟も女の人も、ちゃんと会ってお話したいって。お話、ちゃんとできるといいね!

 アンネリエからの手紙はまた会いに来るっていう内容だったようだ。仕事で知り合った人がシオリに会いたがってるんだって。シオリと同じ東方人らしいけど、なぜだかシオリは不安そうだ。大丈夫かな……?

 

■二月×日

 そういえば、ペルゥの友達はなんでペルゥを背嚢に入れて運ぶのか気になったから、蒼の森の同胞経由でペルゥに訊いてみた。

 かくれんぼでもするのかと思ったけど違ったみたいだ。ペルゥの友達はこの国の王様だから、こっそりお出掛けするときにペルゥを連れていると目立つらしい。桃色のスライムを連れた金髪の人は王様しかいないからばれちゃうんだって。だから背嚢に隠れて付いていくんだそうだ。

 そうなのか。友達が偉い人だと大変なんだなぁ。


■二月×日

 アンネリエとデニスが来た。二人とも元気そうで良かった。

 東方人の人達も一緒だった。なんだか変わった格好でちょっとびっくりしたけど、一番びっくりしたのは雰囲気が凄くシオリに似てるところかなぁ。髪とか肌の色とかも同じだった。

 東方人のヤエという人は、シオリはミズホという国の人なんじゃないかと言った。見た目とか名前がミズホの人に凄く近いかららしい。でもシオリが言うには全然違うんだそうだ。

 そうだった。シオリって確かこの世界の人じゃないって言ってたんだった。自分はシオリがどこの人でも気にしないけど、皆はどうだろう。凄くびっくりするかもしれない。そっか、シオリはそれを気にしてるのか。

 ヤエはもしこの国で苦労してるならミズホに来ないかって言っていた。ヤエはヤエでシオリのことを凄く心配してるみたいだ。うーんいい人だなぁ。でもやっぱりシオリはすっかり困ってしまって、ずーっと様子が変だった。あんまり変過ぎて、皆気を使ってお話をすぐに終わらせてくれた。

 シオリ、大丈夫かなぁ……と思ったら全然大丈夫じゃなかった。

 シオリは自分が本当にこの世界の人間じゃないんだって思い知ったみたいで物凄くショックだったようだ。皆帰ってアレクとザックだけになったら大泣きしてしまった。

 シオリはずーっと自分がこの世界の人間じゃないことを気にしていたらしい。それを正直に言ったら皆に変に思われるんじゃないかって、アレクやザックにも嫌われるんじゃないかって気にしてたみたいだ。

 うーん、シオリが悲しいと自分も悲しい。でも大丈夫だよ。アレクもザックも物凄くびっくりしてたけど、シオリを嫌いになったりしなかったし。自分もシオリはシオリだと思ってるから、別にどこの人でも全然気にしないよ! だから大丈夫! 泣かないでー。

 でもアレクは「今まで我慢した分、吐き出してしまえ」って言った。泣きたければ今ここで思いっきり泣いちゃえって。

 そうか。人間は悲しいときでも我慢する生き物だけど、本当に辛いときは沢山泣いた方が身体にいいんだって下水道の爺さんも言っていた。シオリは今までいっぱいいっぱい我慢してきたから、いっぱい泣いて少しでも元気になって欲しいなぁ。

 それにしてもアレクは頼りになるなぁ。シオリが言って欲しい言葉、全部分かってるみたい。それだけシオリのことをよく見てるんだろうなぁって思う。


■二月×日

 夜、ザックが部屋を訪ねてきた。もっと詳しくシオリの話を聞きたいんだって。うーん、いっぱい泣いて元気になったみたいだけど、まだ色々お話するのはちょっと心配なんだよなぁ。それはアレクも同じだったみたいだ。でもザックのことだから、あんまりシオリの負担になるようなことはしないと思う。なんだかんだでザックもシオリのことを信じているみたいだから。

 ザックが買ってきてくれた美味しい肉とシオリの保存食で夕ご飯を食べながらいっぱいお話した。シオリの話だけじゃなくて、アレクやザックの昔の話も聞かせてくれた。うーん、皆苦労したんだなぁ。スライムの自分はずーっとのんびり楽しく暮らしてきたからあんまりそういうのはないけど、人間って本当に大変な生き物なんだなぁって改めて思った。

 そういえば群れで暮らすと生き延びる確率は上がるけど、その代わりに面倒なことも多いって雪狼も言ってたなぁ。

 今までいっぱい苦労した三人だから、これからはいっぱいいいことがあるといいなと思った。


■二月×日

 またまた東方人のヤエが来た。護衛のショウノスケという人も一緒だ。今日はシオリに料理を教えてもらうんだって。東方の調味料を使って王国人でも美味しく食べられる料理が知りたいんだそうだ。

 この間シオリを困らせたお詫びだとか言って、お土産も沢山くれた。見たことのないものが沢山あった。これ全部美味しい料理になるんだって。うーん楽しみだなぁ。シオリもアレクも楽しそう。

 シオリやヤエ達が作った料理はどれもとっても美味しかった。珍しい調味料で味を付けてるからちょっと口に合わない人もいたみたいだけど、そういう意見を参考にしたいからいいんだって。そうか。もっともっと美味しい料理を作るために色んな意見が必要なのか。自分も喋れたら良かったのにと思ったけど、全部美味しかったからなぁ……あんまり参考にならないかもしれない。

 それにしても、シオリにすっごい高い値段で醤油を売っていた店の人、ちょっと許せないなぁ。そんなに悪そうな人には見えなかったからショック。今度こっそり黒い虫をプレゼントしに行こうかなぁ。人間はあれが大嫌いみたいだから、きっとびっくりするよ。下水道にいる立派なやつにしよう。

 と思ってたら下水道の爺さんにやめなさいと言われた。食べ物売ってるところにあの虫はいけないんだって。そうだった。ペルゥには「悪いことした人は服を溶かしてあげるといいよ!」って言われたけど、うーんそれも今の季節は人間には寒過ぎるんじゃないかなぁ。


■二月×日

 シオリ達はヤエやショウノスケとすっかり仲良くなったようだ。アレクやクレメンスはショウノスケと手合わせする約束をしたらしい。東方の剣士と手合わせなんて滅多にない機会だと言ってザックも来たがったけど、仕事があるから駄目だった。残念。また今度だね。

 皆でお弁当を持ってピクニックがてら手合わせの見学に行った。ちょっと雪が降ってるけど天幕とシオリの空調魔法があるから大丈夫! ヤエ達は驚いていた。魔法をこんなふうに便利に使っているのを見たのは初めてだって。

 手合わせが始まったらショウノスケはびっくりするくらい強かった。あんまり強くて、凄く強いクレメンスが負けちゃったくらい。ご飯食べてるときはずっとにこにこしてたのに、武器を構えるとおっかない気配だった。キレッキレの動きなのに、ふわふわとなんだか幽霊みたいな感じで、クレメンスは捉えどころがないって言っていた。アレクもぎりぎりだったって言ってたけど、なんとか勝った。うーん皆強いなぁ。

 でもお弁当の時間になったらやっぱりショウノスケもアレク達もにっこにこになった。シオリのご飯美味しいもんね!

 それにしてもショウノスケって、なんかずっと美味しそうな匂いしてるんだよなぁ。シオリが作ってた大蒜味噌バターとおんなじ匂い。


■二月×日

 今日はトリス孤児院の害虫駆除に行った。冬は夏よりも少ないけど、それでも気になるくらいには出るんだよね。子供達も凄く苦手みたいで、見つけると悲鳴上げて逃げちゃうんだ。トビーは「こんなんただの虫だろ!」って言ってた。さすが孤児院の兄貴分は違うなぁ。頼りになるね!

 厨房やお風呂場、寝室を念入りに駆除したら皆に凄く喜ばれた。イェンスが報酬代わりに子供達のお茶会に招待してくれた。一緒に遊んだり修道女の人達が作った美味しいお菓子を食べたりとても楽しかった。

 帰りにイェンスに「ルリィ君のようなスライムが孤児院にもいてくれるといいんですけどね。君が来ると普段は塞ぎがちな子や引っ込み思案な子も笑顔を見せてくれるんです」と言われた。

 余所の国ではアニマルセラピーとかいう治療法があって、最近王国でも注目されているらしい。可愛い動物や魔獣と触れ合うと、身体とか心を落ち着かせたり癒したりする効果があるんだって。

 そっか。孤児院には複雑な事情がある子供が沢山いるからなぁ。お役に立てるんなら、同胞を紹介してもいいかなぁと思った。自分やペルゥの話を聞いて、人間との暮らしに興味がある同胞もいるみたいだし。楽しくて嬉しいことが大好きなスライムばっかりだよ。

「もしお友達を紹介してくださるのなら助かります。今度お願いしますよ」

 いいよ! 後で同胞に訊いてみるね!


■二月×日

 シオリが辺境伯に呼ばれた。生誕祭のときに会った偉い人だ。この辺りを収めている領主さんで、とっても偉い人なんだそうだ。ザックの友達で、ペルゥの友達とも仲が良いんだって。でもアレクはちょっぴり苦手そうにしていた。昔凄くお世話になって、頭が上がらないんだって。アレクでもそういうのがあるんだって凄くびっくりした。

「……お前、今何か少し失礼なこと考えてなかったか?」

 気のせいだと思う。

 辺境伯のクリストフェルは、異世界から来たっていうシオリの話を聞きたがった。悪い人ではなさそうだけど、なんだかちょっと油断ができなそうな感じだった。シオリがアレクのそばにいていい人かどうか確かめたいんだそうだ。

 話をしながらシオリは色んな幻影を見せてくれた。シオリの故郷の景色や食べ物、生き物なんかを沢山見られて凄く楽しかった。見たことない建物や食べ物がいっぱい! この世界よりは色んなことができる世界で、人間は月に行ったこともあるんだって! 人間は行けないけど、船だけならずーっと遠くの星にも行けるらしい。なにそれ凄い! シオリの幻影で見た月や星の世界は物凄く静かで綺麗だった。いいなぁ。いつか自分も行ってみたいなぁ!

 クリストフェルは話しながらシオリを観察してるみたいだったけど、最後には認めてくれたみたいだ。信じるか信じないかっていうより、「シオリは嘘は言ってない」っていう感じなんだそうだ。うーん、そういうのは自分にはちょっとよく分からない。でも、認めてくれたんなら良かった。

 最後にクリストフェルはもう一つだけ確かめたいことがあるからって、シオリだけと話をしたがった。アレクとザックには聞かれたくない話みたいで、二人ともちょっと嫌そうな顔をしていた。何かあったら自分が護るから大丈夫! クリストフェルもアレクやザックみたいに凄く強そうだから勝てるかどうか分かんないけど、いざとなったらペルゥに聞いた服を溶かすやり方を試してみればいいし。

 クリストフェルはシオリに結構残酷なことを訊いていた。でも、どうしても確かめておかなきゃいけないことらしい。アレクの本当の身分は凄く高いから、もしかしたらシオリと別れて別の女の人と番にならなきゃいけないこともあるかもしれないらしい。そうなったらシオリはどうするのか訊いていた。

 多分シオリの覚悟を試してるんだなって思った。シオリもそれを分かってたから、正直に自分の気持ちを答えていた。アレクの事情は理解しているけど一緒にいられなくなるのは凄く悲しいし、今までいっぱい頑張ってきてこれ以上一人で頑張るのは辛いから、もしアレクと番になれなかったら楽な方法で殺して欲しいって言って凄くびっくりした。アレクへの気持ちをずっと大事に持ったまま苦しくない方法で殺してもらって、魂だけ故郷に帰るつもりなんだって。

 それは……悲しいなぁ……。でももしそうなったら自分も一緒に付いていこうと思った。人間には色々と複雑な事情があって、どうにもならないことはいっぱいあるって最近は分かってきたから。これ以上頑張ってって言うのも残酷なことだって知ってるし。だからそれでシオリが楽になるなら、友達の自分が一緒に付いていけばいいと思った。

 クリストフェルはやっぱり凄くびっくりしていた。

 正直な気持ちを言って泣いてしまったシオリを見て、アレクとザックもびっくりしてすっ飛んできた。でも、クリストフェルはアレクのことが凄く大事だから、アレクと番になる人のことをちゃんと見極めたかったんだそうだ。それにアレクは王様の兄弟だから、あんまり変な人や信用できない人をそばにいさせたくないんだって。クリストフェルもアレクにはこれ以上辛い思いをして欲しくないらしい。

 そっか。大事な人には辛い思いして欲しくないもんね。

 シオリは合格だったようだ。クリストフェルはシオリを護ってくれるって約束してくれた。こっそり護衛の人を付けてくれてたみたいだ。シオリの味方がだんだん増えていくのが凄く嬉しい。良かった。

 こんなに沢山良い人に囲まれているシオリとアレクは、きっと無事に番になっていっぱい幸せになるよ!






雪男「雪男の使い魔は……いりませんかね……」

脳啜り「お前害虫駆除できねぇだろ」

ルリィ「問題はそこじゃない」




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― 新着の感想 ―
[一言] ルリィ…ほんとにいい子ですね。何度読んでもほっこりじんわりきます… ただこれ、アニメ化するんならルリィの日記はこういう台詞になるかも。以下予想というより妄想です ルリィ「シオリ、死んじゃ…
[良い点] ありきたりの剣と魔法じゃない、ユニークなジョブがあるところ [一言] 初めまして、コミカライズから辿りついてSSまで読み終え、今はスティグマ症候群っぽい呪いの話を読んでます。ここまで来て……
[良い点] 楽しく読ませていただきました!今後も楽しみにしています!スライムが孤児院に増えたら楽しそうですね!
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