トリス支部通信 新年号
登場人物紹介にするつもりがうっかりトリス支部通信書いてました_(:3」∠)_
■年頭の挨拶
新年あけましておめでとう。トリス支部の冒険者諸君と共に新たな年を迎えられたことを嬉しく思う。
昨年は帝国内乱における難民対処及び国境警備のために騎士隊の人員が不足し、その影響で諸君には通常依頼に加えて魔獣の定期駆除や治安維持などの様々な依頼に対応して頂いた。諸君の努力と尽力に感謝したい。
今年も引き続き関連の依頼が増加すると予想される。健康管理を充実させ精到な鍛錬を行い、各種事態への対応に万全を期するよう努めていこう。
新たな年がより良きものになるよう願っている。
トリス支部マスター ザック・シエル
■連絡事項
・騎士隊より野盗化した帝国難民グループが近隣の村に出没したとの情報あり。各自注意のこと。
■魔獣図鑑
トリス支部担当区域において目撃及び遭遇情報の寄せられた魔獣の一部を掲載。組合員は必ず閲覧のこと。
(参考文献:ストリィディア魔獣図鑑)
□穴倉鳥
・目撃場所:洞穴や地下遺跡などの日の射さない場所。ホルテンシア洞穴など。
・危険度:小~中
・討伐難易度:C~B
日の射さない洞穴や地下遺跡などの暗闇に棲息する中型の鳥型魔獣。天井などの高い場所に営巣する。体長は約五十センチメテルほど。暗灰色の羽毛と漆黒の嘴が特徴。
独特の臭みがある肉や卵は珍味。好き嫌いは別れる味だが、ワイン煮込みにすると濃厚で美味。一部の美食家の間では珍重されており、高額で取引される。
通常の猛禽類のように鋭い爪や嘴を使った攻撃をするが、腕のいい弓使いがいればそれほど討伐難易度は高くない。しかし巣材には外敵除けに強烈な臭気を放つ植物を使っており、下手に手出しするとこれをばら撒かれて悲惨な状況となるため注意が必要。石鹸を使って念入りに洗わない限りは臭いは取れず、注意力を欠く原因となるため要注意だ。
□脳啜り
・目撃場所:地下遺跡や古代墳墓などの深部。稀に森の奥地や洞穴などにも出現。
・危険度:大。極めて危険。
・討伐難易度:S~A
黴臭く湿った地下遺跡や古代墳墓の奥深くで稀に水色の蛸のような頭部を持つ魔獣と遭遇することがある。生物の脳や内臓を啜って生きる悍ましき魔獣、脳啜りだ。
体色は前述の通り淡い水色。皮膚に体毛は一切なく滑りのある粘膜で覆われており、濁った紫色の瞳は吊り目がちで、口元からはのたうつ蛇のような大量の触手が生えている。頭部の下もまた蛸状の脚が何本も生えており、一見すると水色の蛸のようである。
その多くは何故かぼろ布や毛皮を纏っており、必ず二体で行動するという習性を持つ。倒すと即座に溶解、蒸発するために生態のほとんどは謎に包まれているが、一応精霊の成れの果て――死霊に近いものに分類されている。
攻撃時には二体で連携するなど知能は極めて高く、魔力、体力共に無尽蔵とも言えるほどで、魔法耐性も非常に高いために倒すには相当の戦力と労力が必要。強力な魔法攻撃と毒による幻覚攻撃を得意とし、接近時には高確率で毒攻撃を行う。この毒は少量でも強い恐怖と絶望を伴う鮮明な幻覚症状を引き起こし、脳啜りは対象の恐怖心が最高潮に達したところで管状の舌を獲物の体内に差し込んで脳や内臓を食らう。このことから「恐怖喰らい」とも呼ばれている。
運良く倒せても経験値以外に得られるものは少なく、初級~中級パーティでは全滅必至である。可能な限り逃げることをお勧めする。万が一逃げられなかった場合は相手に攻撃する間を与えず全力で総攻撃すること。
※追加情報:体表面の粘膜は刺激物に弱く、唐辛子オイルを噴射して行動不能状態にできたという報告あり。ただし実践時には風向きや噴射量など細心の注意が必要である。
□マンドレイク
・目撃場所:森の深部や洞穴などの日が僅かに当たる地面。ホルテンシア洞穴、フィブリア原生林奥地など。
・危険度:小~中
・討伐難易度:D~C
鬱蒼と茂る森の奥地や奥深い洞穴などの日が薄っすらと差し込む場所に棲息する植物型魔獣で、季節を問わず生えている。森林地帯では木漏れ日が当たる場所、洞穴や地下遺跡の場合は栄養豊富な土があり、なおかつ天井の開口部から薄く日が差し込む場所で多く目撃される。マンドレイクは単体でいることはほとんどなく、数体で群れて地中に潜む性質がある。群れの個体数は二体から十体前後とまちまち。
薬効成分が豊富で解毒剤や解熱剤、痛み止めの他、傷薬など様々な薬品の原料として利用される。殺菌効果もあり、抽出液を希釈して使用する。
体長は数センチメテル~三十センチメテル。葉は濃緑色で根元から艶のある肉厚の葉が何層にも重なり、茎はない。本体は鮮やかな橙色で人参によく似た形状だが、乳児の手足のような根と目を閉じた人面様の筋があるのが特徴。花は小ぶりの釣鐘草のような濃い紫色で、花を落とした後には真っ赤な実を付ける。開花期間は短く実もすぐ落ちて地中に潜り込むため、実が付いた個体の採集時にはなるべく早く土から取り出す必要がある。
非常に臆病で穏やかな性質のため積極的に攻撃することは滅多にはないが、葉を掴んで引き抜くと地獄の底から響く断末魔の悲鳴とも形容できる恐るべき絶叫を上げる。これを聞いた者は昏倒するかパニック状態に陥るため、棲息域では無闇に雑草類を抜かない方が賢明。採集時は周囲の土を取り除いて本体を露出させてから取り出すと無害である。
□アルラウネ
・目撃場所:森の深部や洞穴などの日が僅かに当たる地面。マンドレイクの棲息地に時折出現。
・危険度:小~中
・討伐難易度:D~C
マンドレイクの変異種で希少種に分類されてはいるが、マンドレイクの棲息地に一定確率で出現するため遭遇率は意外にも高い。
形状はマンドレイクとほぼ同じだが、葉は薄紫色で本体は白もしくは薄い黄色と色が異なるため識別は容易。薬効成分はマンドレイクより高く、高値で取引される。
採集方法はマンドレイクと同様。ただしマンドレイクとは異なり無作為に絶叫攻撃をするため、細心の注意が必要である。
しかし基本的には穏やかでのんびりした個体が多いとの報告もあり。
■素材図鑑
トリス支部担当区域内で採集出来る素材の一部を紹介。採集依頼や個人用途での収集の参考に。
□夜紫陽花の蜜
夜紫陽花は大陸北西部原産で岩場に生育し、微量の聖魔素を含む花である。この花の蜜には緊張を解して穏やかな入眠を助ける薬効成分が含まれ、精神医療分野の治療薬として用いられている。効果は非常に穏やかで副作用はなく、一部地域では古くから甘味や睡眠薬の代わりに用いられていた。
ごく少量を水や茶などに滴下して使用する。ただし原液は濃度が高くひと舐めしただけでも咽るほどで、ティーカップ一杯に二、三滴ほどで十分。採集時には間違ってもそのまま舐めてはいけない。
スポイトで花の根元に溜まった蜜を吸い上げて採集する。非常に根気のいる作業だがその分小瓶一瓶でもそこそこの値段は付くため、初級~中級冒険者の小遣い稼ぎに適している。
余談だが、かつては月夜に採集した蜜は薬効が倍加すると信じられていた。しかし調査の結果そのような事実はないことが判明している。
□マンドレイク
引き抜く際に途轍もない絶叫を上げて聞いた者を行動不能にするマンドレイクはかつては大変高価だったが、安全な採集方法が確立された現在では庶民でも奮発すれば買える薬草である。それでも薬効成分が豊富で解毒剤や解熱剤、痛み止めの他、傷薬など様々な薬品の原料として利用され、最高級の薬草としての地位は不動。
棲息地は素人ではやや危険な場所で手間が掛かるため、良質なものは一本でも金貨三~四枚の値段が付く。見付けたら是非採集しておきたい。
採集時には周りの土を丁寧に取り除いて掘り起こすこと。決して葉を掴んで引き抜いてはいけない。引き抜きさえしなければ絶叫を上げることはなく、安全に採集できるはずだ。
なお、マンドレイクの変異種アルラウネはさらに高価だが、絶叫を上げる条件は不明。それゆえ採集時にはその点をよく考えること。
□穴倉鳥の肉
独特の臭みがある肉や卵は珍味で、肉はワイン煮込み、卵は燻製にすると濃厚で美味。一部の美食家の間では珍重されており、高額で取引される。
洞穴などの高さ五メテル以上の場所に営巣。巣材には大変な臭気を放つ材料を使用しているため、狩猟時には巣材をばら撒かないよう細心の注意を払う必要がある。このため狩猟時には腕のいい弓使いが必要。魔法攻撃は肉質を悪くするため、あまりしない方が良い。
卵を採集するためには親鳥の留守中に巣に接近しなければならないが、岩壁登攀の技術や巣材の臭気対策などの特殊な技能が必要なため、不慣れな場合はあまり手を出さない方が良い。
□トリス・パーチ
トリスヴァル地方の地下水脈や地底湖に棲息する淡水魚で雪のような純白の鱗が特徴。棲息域は限られるため、高値で取引されている。捕獲にはそれなりの戦力と技能が必要。
光の加減で淡い薄紅色に見える白身の肉は美しく、高級料理店などではマリネやムニエルなどにして提供されている。しかしシンプルに塩焼きにしても絶品。運良く捕獲できたら勿論売るのもいいが、一度は食べてみることをお勧めする。
※追加情報1:燻製にしても美味しいよー(A級弓使い談)
※追加情報2:背骨はかりかりに揚げると美味しいおつまみになります(B級家政魔導士談)
□霜降り茸
通称王様茸。大陸北西部に広く分布し、年間を通して生育する。直径十センチメテルほどの大ぶりの白い茸で、表面にふさふさの産毛が生えている。傘や軸を切った内側は霜降り肉のような白いサシの入った鮮やかな赤色で、食感や味も上質な牛肉のものに近いため霜降り茸と名付けられた。
森林内の岩陰や木々に囲まれた沼地のほとり、洞穴の開口部付近などの薄暗く栄養豊富な土がある場所を好む性質がある。四、五本で散生。半ば土に埋没した状態で生育するため慣れた者でなければ発見することは難しく、取引価格は大きさにもよるが通常の茸の数倍~数十倍と高額。
稀に土中から顔を出した状態のものもあるが、味や風味は落ちる。無論取引価格はかなり落ちるが、美食家でもない限りは十分に美味しく食べることができる。バター炒めやソテーにすると絶品。
見つけたら是非採っておきたい一品。
□白雪茸
大陸北西部の豪雪地帯に分布。秋~冬に掛けて生育。直径一センチメテルほどの小ぶりの真っ白な茸で、鬱蒼と茂る森林や洞穴内の岩場に束生する。人工栽培に成功した茸で一般にも流通しているが、天然物は風味が強く高値で取引される。
コリコリとした帆立のような食感と味わいで、塩胡椒で炒めても美味いが煮込むと魚介系に似た出汁が取れる。スープやシチューがお勧め。
□星屑茸
星屑のように小さな星型の傘を付ける薄黄色の茸。王国北部の洞穴や岩場の水場付近に生育。微発光性で近寄るとぼんやりと淡く光っているので見つけやすい。
旨味が強くしゃきしゃきとした歯ごたえで、加熱すると発光性は失われるが、塩胡椒で炒めると非常に美味。酒のつまみに最適である。
売ってもそこそこの値段は付くが、あくまで小遣い程度。よほど経済的に困っているのでない限りは新鮮なうちに食べてしまった方が得。
□アイロラ茸
王国固有種でアイロラ湿原を中心とした地域に分布。岩陰や洞穴などの薄暗く湿った場所に生育。束生。湿原に棲むウンディーネのように半透明の淡い水色で、柄が長く傘は五ミリメテルほどと小さいのが特徴。一見すると食用には見えない色合いだが、旨味が強く歯応えが良い。
アイロラ村近隣では非常にポピュラーな茸で名物料理には必ず使われているほど。それゆえ売っても大した金額にはならないが、美味いことに変わりはないので野営食に追加の一品として採集すると良い。塩胡椒やバターで炒めると美味。
■何でも掲示板(匿名掲載可。掲載希望者は受付にて申し込みのこと)
□俺の心の母ちゃんが男と同棲ぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁ!!!!(召喚士・男・21歳)
□ロース・トヴォール社の高級石鹸を害虫駆除に使うとか騎士隊って何考えてるの!?(槍使い・女・32歳)
□20日から27日まで、厳冬期に向けて特別セールを開催します。長期保存の利く柔らかいパンや栄養満点の雑穀パンなど、お馴染みの品々を特価で販売しますのでどうぞお越しくださいね。(酵母ハンター・男・35歳)
□ごめんよー、もう盗み食いしないから許してよー。補助掛けてよー。(重剣士・男・18歳)
□心の母ちゃんを返せってなんのことだ? 時々睨んでくる者がいるんだが。(魔法剣士・男・34歳)
□カフェ「踊るティーポット」の福袋入り生誕祭記念カップ、だぶりで同じ物が3個あります。欲しい方は私まで連絡を。(弓使い・女・26歳)
□俺の姿絵裏で勝手に売買してた奴、怒らねぇから出てこい。怒らねぇから。(剣士・男・40歳)
□希望が多かったんで刺繍講座始めるよ。希望者はあたしのところまで。(魔導士・女・38歳)
□マンドレイクの種蒔き手伝ってくれる人募集中。詳しくは僕のところまで。(薬師・男・32歳)
ルリィ「今月号の月刊コミックゼロサムには自分が主人公の話が載ってるよ!!」
雪男「ギリィ……」
今回の更新で連載200回になりました。皆様のお陰でここまで続けることができました。ありがとうございます!
それからもう一つ。嬉しいことに家政魔導士コミック1巻、重版決定いたしました。
お手に取ってくださった方々、ありがとうございます(´∀`*)




