03 採集のルール
魔法灯の灯りを頼りに真っ黒な岩盤が剥き出しになった通路を歩く。最初の分岐点までは徒歩十分ほど。入口に近い場所とあってその間に目ぼしい採集物はなく、周囲を警戒しながら奥を目指して歩いていく。
トリスヴァル領南部に位置するホルテンシア洞穴は、全長約千五百メテルというそこそこの規模を誇る洞窟だ。洞口から続く通路はほぼ一定して幅、高さ共に十メテル前後と十分な広さがあって歩きやすいが、内部は複雑に分岐した迷路状の構造。案内人か地図でもなければ迷うところだろうけれど、薬の原料調達の場の一つになっているらしいこの洞穴は、近隣の薬師にとっては歩き慣れた場所だという。
「もっとも、護衛がいなければ入るのがちょっと難しいところなのが難点ではあるけれどね。やっぱりそれなりの薬草となると、危険な場所も多いから」
冬でもマンドレイクが採集できる最も近い場所がこのホルテンシア洞穴だ。通路は広くて歩きやすく、内部のあちらこちらにある開口部から外への脱出も容易とあって、薬草採集に訪れる薬師は多いらしい。
ただ、マンドレイクは危険な魔獣の棲み処周辺に棲息していることがほとんどだ。だから本人に戦う力があるのでない限り護衛役は欠かせない。
「採集地点は決めてあるのか? 何ヶ所かあっただろう」
「うん、入り口から近い場所をいくつか当たってみるつもりだよ」
アレクとニルスの会話にシオリは首を傾げた。薬の原料としては最高級の部類だというから、もっと限定されるものかと思っていた。
「そんなに何ヶ所にも生えてるものなの?」
「マンドレイクは森の深くや洞窟の、日が僅かに当たる場所に生えるんだ。森だと木漏れ日が当たる場所、洞窟の場合は天井に穴が開いて日が差し込んでいる場所、だな」
「ホルテンシア洞穴は天井に開口部がある場所が結構沢山あってね。だからそのどこか――大体はほとんどの場所に何体かずつ棲息してるんだ」
アレクとニルスがそれぞれ解説してくれた。
「へぇ……なるほど」
マンドレイクは単体でいることはほとんどなく、数体で群れて地中に潜む性質がある。群れの個体数は二体から十体前後とまちまちなため、採集地点をはしごすることがほとんどらしい。
「俺も食材の採集したいからちょくちょく立ち止まるかもしれないけど、いいかなー?」
「私も。マンドレイクはせっかくだから二つくらい採っておこうかしら」
同じく採集で同行しているリヌスとエレンも口を挟む。
「了解」
入り口付近に魔獣が出ることは滅多にないらしく、幸い最初の分岐点までは何事もなく進んだ。よほど好戦的か知能が低いのでもなければ魔獣は戦力が上回る相手を襲うことはない。それに虫除けもありがたいことに一定の効果があるらしく、気配を感じる割にはこちらに近寄る様子もなかった。
洞穴内の音の反響に配慮して多少声を潜めて会話しながら歩くうちに、三つに枝分かれした場所に辿り付いた。
「さて、選択肢は三つだが……どの道を行く?」
「一番右かな」
悩むかと思ったが、その問いにニルスは即答した。
「左は行き止まりまで一本道で少し長いわりに採集地点は一箇所だけだから、もし外したら面倒なんだ。真ん中は途中で右端と合流するし、そこまでは右端の方が採集地点が多いからね」
ある程度数が欲しいから、今回は右端。そう説明してくれた彼は採集用具が入っているらしい背嚢を背負い直した。
ニルスの指示通りに右端の道を歩き出す。
「……そういえば、マンドレイクの採集ってどうやるんですか? 抜くときに凄い絶叫を上げるっていう話ですけど」
「ああ、それはね」
ふと浮かんだ疑問を口にすると、ニルスが教えてくれた。
「抜かなければいいんだよ」
「え?」
「マンドレイクが絶叫を上げるのは土に埋まった状態で葉を引っ張られたときだけなんだ。だから、周りの土を掻き分けて掘り起こすといいんだ」
「えっ……それだけでいいんですか?」
面倒な習性を持つ最高級の薬草にしてはあまりの呆気なさにぽかんとしてしまった。その顔を見てニルスが笑った。
「そう、それだけ。呆気ないだろ」
「ええまぁ……そうですね。もっと特殊な技術が要るものだと思っていました」
手持ちの携帯用魔獣図鑑には載っていなかったような気がする。後で追記しておかなければと思うシオリの後ろで、ニルスがぽつぽつと追加で解説してくれた。
「安全な採集法が確立されたのはそんなに前の話じゃないんだ。僕が新人の頃はまだ絶叫を上げる条件は分かっていなくてね。だから専門の採集家が、耳が退化している魔獣を使い魔にして抜かせてたりしたんだ。もっと古い時代には……耳栓をした奴隷に抜かせてたみたいだけれど」
「う……わ」
マンドレイクの絶叫は耳に栓をした程度ではほとんど防げないと聞く。非人道的な手段についシオリは呻いてしまったが、それは奴隷制度が生きていた帝国領時代の話で今ではもう行われていない手法だとアレクが教えてくれた。
――ということは、未だに奴隷制度が残るという帝国では今でも。
そんな疑問が浮かんで顔を曇らせると、それに気付いたアレクがそっと肩を叩いた。
「大丈夫だ。内乱は反乱軍が圧勝したんだ。反乱軍の指導者は相当な人格者らしいと聞くから、奴隷制度はじきに廃止されるだろうさ」
「……そっか。良かった」
【暁】の「仲間達」と一緒に受けたあの仕事の依頼人のことが、ふと頭の片隅を過ぎった。
帝国の上級貴族だといっていたあの男の顔は、もうほとんど覚えていない。体調が思わしくなくて眠っていたはずだったのに、ふと気付いたら馬車に乗せられていたあの依頼の、最初から最後まであまりよくは覚えていないのだから仕方のないことだった。けれども、連れの従者にも仲間達にもひどく傲慢な態度だったということはよく覚えている。特に身形もみすぼらしく雑務が主な仕事のシオリの扱いは、ほとんど下女も同然だった。
『――飯炊き女なぞ放っておけ。どうせ長くはないのだろう』
そうやって幾人もの奴隷を使い潰してきたのだろう依頼人がそう言って、仲間達もそれに同意した――あの瞬間も、多分生涯忘れることはないだろう。
あの依頼人はどうなっただろうか。多分反乱軍に制圧された側だろうが、いずれにせよ奴隷制度が廃止されるということなら、もう二度と非人道的な扱いをすることはできないだろう。そしてもう不幸な人間は生まれない。そうであるといい。
――後続のニルス達の手前か、アレクはいつものような親密な接触は避けた。けれどもシオリを気遣ってくれているのはその目で分かる。少しだけ切なさを含んだ、柔らかな視線が「大丈夫か」と問うていた。
(大丈夫)
唇の動きだけで答えると、アレクは小さく頷いて微笑んだ。
「……そういう訳で採集に手間が掛かるから、マンドレイクを原料にした薬はとても高価だったのよ。今は専門家じゃなくても採集できるようになったから、高いと言えば高いけれど庶民でも少し奮発すれば買える値段になったわね」
ありがたいことだわとエレンが言った。
「まぁその代わり、乱獲する奴が増えたのが難点だけどね」
「乱獲?」
「そう。土魔法でごそっと掘り起こして根こそぎ――って、あー……。あれ、やられてるかも」
話途中で突然ニルスが低く呻いた。
歩いている通路の先、ぽっかり開けた薄明るい場所。初めて来るシオリですら異変があることが一目で分かった。
早足気味に駆け付けたその場の光景に息を呑んだ。
「人里に近いし一番採りやすい場所だからね。たまにあるんだよなぁ」
「……こいつはまた大規模にやったな」
頭上に穴が開き、微かに日の光が差し込んでいるその広場一面が大きく掘り起こされていた。岩や土に紛れて、すっかり萎れて干乾びた植物や茸らしきものがあちらこちらに散乱している。その合間には男物らしい複数の靴跡が残されていた。
「土と植物の乾き具合からすると……そこそこ時間は経ってる?」
シオリの問いにアレクは頷く。
「ああ。少なくとも二、三週間は経ってるだろうな」
「ひどいなー。これ、食えば美味いのに」
足元に転がる、根元から千切れて干乾びた茸を拾い上げたリヌスが顔を顰めた。
「あれもこれも、ああ、これだって薬草なのに……もう、どこのならず者かしら!」
普段は穏やかなエレンの顔も鬼の形相――もとい、恐怖の女医モードだ。
ルリィも枯れ葉になった薬草をつついてはぷるぷると身体を震わせている。
「完全にマンドレイク狙いだね。昔よりも安くなったとはいっても売ればそれなりの稼ぎにはなるんだ。地面に生えた状態では他の薬草と見分け辛いから、普通は薬草の知識がある人間が一本ずつ丁寧に掘り起こすんだけど」
「素人の犯行ということですか?」
「その場合もあるんだけどね。自分の利益しか考えない薬師も中にはいるから」
これだけ強引に魔法で掘り起こしたのなら、肝心のマンドレイクも傷物になっているはずだ。この散らばった植物のようにばらばらにもなっているかもしれない。
「勿論傷物は買取価格も落ちる。でも薬効が多少落ちる程度だから、粉末にして加工済みの原料として相場より安く売り捌いたり、訳有り品として懐の寂しい薬師に売りつけたりとか、まぁ色々とやりようはあるんだよ。でも根こそぎ採ってしまうと次のマンドレイクが生えなくなるし、一応知性らしきものがある魔獣だから、ここは危険と判断して別の場所に移動してしまったりもするんだ。多分しばらくはこの採集地点は使えなくなるね」
薬草にしろ茸にしろ、同じ場所で長く採集できるように採集時の暗黙の決まりがあるという。採り過ぎない、小さ過ぎるものは採らない、根を残せるものは残す、などなど。
元の世界にもあった、山菜や茸狩りのマナーと同じだ。
「う……えげつない人はどこにでもいるんですね」
呻くシオリにアレクは苦笑した。
「なんだ。お前の故郷でも同じような輩がいるのか?」
「うん。やっぱり自分のことしか考えてなくて、株ごとごっそりとか、穴場で根こそぎとか……そういう話はあったよ」
「――お前の故郷の話はいつも何か理想郷のような気がしていたが、そんなところでも品の悪い連中はいるんだな」
意味深長な単語交じりの台詞を他の仲間達に聞かれないように気遣ってか、彼は声を潜めてそんなことを呟く。彼の中で故郷はいったいどのようなイメージなのだろうかとつい苦笑してしまった。
「普通の国で住んでるのも普通の人間だよ。王国人と同じように、いい人もいれば悪い人もいるよ」
言いながら探索魔法を展開して進路の先を探ってみたが、魔獣のもの以外に掛かる気配はなかった。今は同業者や侵入者はいないようだ。
アレクにそれを伝えると、小さく頷いて溜息を吐く。
「乱獲者がいたらとっ捕まえてやりたいところだが……明確な罰則がある訳ではないしな。いつぞやの塔のときのようにやり合うことにならないだけマシか」
「そうだね……」
シルヴェリアの塔のときのように、質の悪い同業者と鉢合わせて揉め事になるのは御免こうむりたい。
「仕方ない。先に行こうか」
しばらく辺りを調べていたニルスとエレンが立ち上がった。
乱獲者がこの先の採集地点でも高級薬草を刈り尽くしている可能性は高い。その場合は洞穴の奥深くまで入らなければならず、シオリはこの採集の旅が予定よりも長引くかもしれないことを覚悟した。
果たして予想通り、第二、第三の採集地点も荒らされていた。
ニルスは声もなく溜息を吐き、エレンは完全に鬼の形相だ。惨状を見回して渋面になっていたリヌスは、ふと見た彼女の表情に仰け反っている。
「……ブロヴィートの事件で薬草が大量に必要だったからなぁ。今なら多少品質は悪くても買い手が付くと思った奴がいたのかもしれない」
百七十余名という負傷者を出したブロヴィート村の雪狼襲撃事件では、治療術師の治癒魔法では間に合わず、大量の薬草が消費されたという。裂傷や咬創による負傷者のおよそ半数が重傷者だったために、派遣された薬師の多くは秘蔵の薬草や傷薬を持ち込んでいたようだ。よく効く傷薬の原料としてだけではなく、少量を煎じて飲めば滋養強壮剤にもなるというマンドレイクも例外なく使われたらしい。
高価な薬草類は採集に経費と手間暇が掛かるものばかりだ。量によっては、自分で出向くよりは市場に出回ったものを買い求めた方が安上がりな場合もある。
恐らくはそういった客層を見込んでの乱獲ではないかとニルスは言った。
「なるほどな……」
「……他人の不幸に便乗して儲けようっていう人の気持ちが理解できない」
「まったくだわ! 見つけたら千切ってやろうかしら!」
「何を!?」
怒りの余りに何やら物騒な台詞を吐いたエレンに突っ込んだリヌスが、短く溜息を吐いてから気を取り直して陽気に笑ってみせた。
「……でも、仕方ないねー。代わりに奥にはもっといいのが沢山あると思って進もうよ。目ぼしいのは皆警戒して奥に逃げてるのかもしれないし」
「そうだね」
彼の笑顔に元気付けられたのか、ニルスも小さく笑って頷いた。
「奥に行けば行くほど危険な魔獣が出る可能性が高くなるけど……悪いけどよろしく頼むよ」
「気にしないでください。想定通りにいかないのが冒険者の仕事ですから」
「だな。さあ、気を取り直して行こう」
下がりかけていた士気を気合で上向かせた一行は、奥に向かって歩き出した。
「――とは言ったものの」
時折立ち止まっては闇を漂う奇妙な海月や珍しい茸を採集していたリヌスが、へにゃりと眉尻を下げる。
「これ、ほんとに奥に逃げちゃってるのかも」
その場に根付く植物などはこの限りではないが、マンドレイクのような自力歩行ができる植物系魔獣やその他の魔獣類はここに至るまでにほとんど見当たらなかった。乱暴な乱獲者を警戒してか、魔獣にとってはより安全な洞穴の深部に逃げ込んでいるのかもしれない。
「――ああ、駄目だな。本当に奥に逃げたみたいだ。見てくれよ」
次の採集地点。幸いにして荒らされてはいなかったが、ニルスが指差した先の地面にいくつかの穴があった。直径三、四センチメテルほどの穴がぽこぽことあちこちに空いている。ぱらぱらと落ちた土塊が、奥に向かって点在していた。
「あ……これ、マンドレイクの?」
「うん、そうだよ。危険を感じると歩いて安全なところまで逃げるんだ。マンドレイクは臆病だからね」
「へ、へぇ~……」
臆病な植物が自力歩行で安全地帯まで逃げる。
その概念がない、魔獣がいない世界出身のシオリにとっては完全に未知の領域だったが、この世界で生まれ育ったアレク達にはそれが常識なのだ。
「でもちょっと気になるんだよねー」
リヌスが頭上を指差して言った。
「どっちかっていうと好戦的な穴倉鳥が、全然下りてこないんだ。巣にはいるみたいなんだけど」
十数メテルほど上に見える岩天井を見上げると、その天井近くの岸壁に枯れ枝や枯草を組み合わせて作ったらしい鳥の巣が見えた。この距離から見てこの大きさなら、その中に棲む鳥系魔獣のサイズはそこそこあるように思えた。
穴倉鳥は洞穴や地下遺跡などの暗闇に棲む中型の鳥型魔獣だ。体長は約五十センチメテルで、独特の臭みがある肉や卵は珍味として扱われている。好き嫌いは別れる味らしいが、濃厚で蕩けるような味わいのワイン煮込みは一部の美食家には珍重されているようだ。
「一匹くらいは仕留めたいところだけど、巣から出てこないならやりようがないなー」
リヌスの腕前なら巣を弓で脅かしてつつき出すこともできそうなものだと思ったけれど、巣の素材には外敵除けに強烈な臭気を放つ植物を使っているらしい。迂闊につついてばら撒きでもしたら、なかなかに悲惨な状況になるそうだ。
「マンドレイクとか他のちっさな魔獣ならともかく、乱獲者が来てから何週間も経つのにあれが警戒して出てこないっていうのはちょっと疑問だねー」
「何か別の要因があるということか」
暗闇で見えない奥の方に視線を向けて呟いたリヌスに、アレクが渋面を作った。
「雪熊か何かが入り込んでるのかな」
「かもしれんな……」
「ちょっと遠くまで探ってみる」
提案すると、アレクは頷いた。
「あまり無理はするなよ。全方向でなくていい。進む方向だけ確かめてくれ」
「……分かってる。さっと探ってすぐに解除するから」
魔力切れを心配して「シオリ専用魔力回復薬ポーチ」に手を掛けた彼に苦笑して見せてから、シオリは探索魔法を奥に広げ――はっと息を呑む。
「何かいる。思ったより近い場所。二体」
「何?」
仲間達の間に緊張が走った。
「距離は……百メテル前後だと思う。多分中型……だと思うんだけど、魔力反応が大きい気がする」
――濃密な、魔素の塊。火や水、氷のような、属性を帯びた魔素独特の感触はない。無属性の魔素だ。
「魔法攻撃が主体の奴か」
アレクは舌打ちした。
「ということは雪熊ではないわね」
「それに無属性となると、氷蛙とか雪狼でもないですね」
「そうだねー。強い魔獣には違いないけど、その程度だったら穴倉鳥は警戒しないもん。やだな、なんだろ」
皆で顔を見合わせた。
「一旦撤退してもいいよ」
言いながらもニルスはそれが実現しないことを悟ったような顔だ。補助職とはいえ彼はA級。大気に徐々に混じり始めた異様な気配を察しているのだ。
「……こっちに向かってるんでなければいいけど……うーん、来るね」
「だな」
迫る圧迫感。
シオリはアレクに手渡された魔力回復薬を、素早く半量飲み下した。
アレクとリヌスがそれぞれに得物を構え、ニルスやエレンと共に彼らの背後に下がる。ルリィが真っ赤に染まった。
「来るぞ」
視線の先に広がる漆黒の中から、二体の淡い水色の何かがゆらりと姿を現した。どこかから盗んだものかそれとも他の冒険者の忘れ物か、ほとんどぼろ布になった衣服を着込んだ禿頭の怪物だ。
どこを見ているのか分からない紫色に濁った瞳孔のない吊り気味の目。粘液が滲み出ているのか、剥き出しになった肌が気味悪くぬらりと光る。口元に何か蠢いているのは餌となった魔獣かと思われたが、よく見るとどうやらそれは身体の一部であるらしい。何本もの触手のようなものがぼろ布の隙間からはみ出している。
「か、火星人?」
SF映画に出てきた蛸のような姿の魔獣に、シオリは震える吐息を漏らした。
「うぇえ……」
アレクと共に前を護るリヌスが気味悪そうに呻く。
二人のその声を聞きつけてか、嘲笑うようにどろりと濁った目が細められた。
「――脳啜りか」
アレクが舌打ちする。
獲物の脳を餌とする悍ましき魔獣、脳啜り。
――希少種の魔獣だ。
※11/25 7時追記
ラストに登場の魔獣について、名称が某作品のオリジナルらしいという指摘を受けましたので修正しました。容姿も一部変えております。同モンスターの名称を使って問題になった国内作品が他にもあるらしく……寡聞にて存じ上げませんでした。ご指摘くださった方ありがとうございます!
ルリィ「……あれはさすがにちょっとぺろりしたくないというか」
雪男「Gと大差ないでしょ!!!!!!」
魔獣の描写は毎度気合が入ります!




