29 幕間七 使い魔ルリィの日記
■十二月×日
今日は色々あって凄く疲れた日。でもやりがいのある仕事ばかりだった。
コニーという人に連れられて、大聖堂っていう凄く大きなところからの指名依頼に付いて行ったらイェンスに会った。孤児院の一番偉い人で時々依頼で会う人だ。この人はシオリを気遣ってくれる良い人だから好きだなぁ。
今回の仕事は自分の出番はあんまりなさそうだったし、アレクも付いてて安心だから、大聖堂の害虫駆除をすることにした。あちこちにわさわさ沢山潜んでて気になるし。
イェンスにお願いして連れていってもらったのは、大聖堂にいくつかあるうちの一番大きい厨房だ。なんだか床下に巣食ってるみたいで、流し台の下に隙間ができててそこから沢山入ってきてたから、巣ごと殲滅してやった。
皆に喜んでもらえたよ! 一仕事の後の水浴び気持ち良かった。ご褒美の特別なケーキも美味しかったなぁ。聖女のケーキというらしい。生誕祭のときにしか作らないから、年に一度しか食べられないようだ。また来年も食べられるといいな。
■十二月×日
シオリ達のところに戻る途中で、ちょっと寄り道。孤児院のトビーが迷子を連れてきたらしい。イェンスは先に戻っててと言ったけど、なんとなく気になったから一緒に付いていくことにした。
その迷子の人はヒルデガルドと言って、とても不安そうにしていたから自分の身体を触らせてあげた。沢山触って最後にはぎゅっと抱き締められて少しびっくりしたけど、喜んでもらえたみたいで良かった。
ヒルデガルドはシオリの依頼人の友達のようだ。友達のフェリシアが心配で会いに来たんだって。
イェンスや騎士の人は困ってたみたいだけど、とりあえずはコニーに相談することになった。でも、自分が害虫駆除している間に凄く面倒なことになってたみたいで、ヒルデガルドはフェリシアに会えなかった。そのまま大聖堂の騎士の人達のところで護ってもらうことになったようだ。
なんだか時々街で見掛ける迷子の子供みたいに心細そうだったから、シオリにお願いしてヒルデガルドの護衛をすることにした。
でも、本当に護衛に付いてて良かった。夜中に嫌な予感がして警戒色になっていたら、変な奴が訪ねてきてヒルデガルドを襲おうとしたからぺろりと飲み込んでやった。このまま食べてやろうと思ったけど、後で色々調べないといけないから駄目らしい。
襲って来た奴はヒルデガルドの仕事の相棒だそうだ。ずっと一緒に仕事をしてきたから、急にこんなことになって凄く驚いて泣き出してしまった。そうだよね! 同胞に裏切られると悲しいよね! シオリもそれで辛い思いをしたらしいから、自分も凄く悲しくなった。
その夜は一緒に寝てあげたら、少し落ち着いたみたいだ。
それにしてもヒルデガルドは凄く寝相が悪かった。気が付いたら自分がお布団みたいに下敷きになってて、身体の上に涎の水溜りができていた。
ヒルデガルド……。
■十二月×日
今日はシオリの仕事の本番の日だ。
ヒルデガルドは朝から騎士隊の人に話を訊かれてちょっと疲れたみたいだ。昨日のことも思い出したみたいで元気もない。だからコニーが心配して、友達のフェリシアと会えるようにしてくれた。
大聖堂の人が言っていたけど、コニーは行動力とか決断力があって皆に凄く信頼されているらしい。ムードメーカーで気遣い上手でもあるから、大聖堂にお参りにくる人達にも人気なんだそうだ。なんとなくリヌスみたいな感じの人だなぁと思った。
ヒルデガルドはフェリシアに会えて凄く嬉しそうだった。あのカリーナという人とヒルデガルドのマネージャーだったという人のせいで少し疎遠になっていたらしい。仲直りできて良かったね!
二人とも、お礼とお詫びを兼ねて音楽会で皆で合唱したいらしい。皆びっくりしてたけど、乗り気のようだ。コニーもいいって言ってたし、シオリも頑張るみたいだ。
音楽会、楽しみだなぁ。楽しいことが大好きなスライムにとってはいい御馳走だ。
■十二月×日
音楽会、凄く綺麗で楽しくて嬉しい気持ちになった!
森に住んでた頃に近くの村で人間が歌ってたりしたの聞いて、楽しいな、面白いなって思ってたけど、人間が沢山集まって色んな楽器を鳴らしたり歌ったりするのも凄かった。自分は歌えないから子供達みたいに踊ってみた。皆で一緒に踊るのはとっても楽しかった!
スライムは楽しくて嬉しいことが大好きだ。森で虫の声や鳥の歌声を聞くのも好きだったけど、人間の音楽も凄く綺麗で迫力があって大好きになった。皆が泣いて喜ぶくらいに凄かったなぁ。いつか森の同胞達と一緒に聞きたいなぁ。歌えないけど跳ねたり踊ったりはできるから、いつか参加させてくれると嬉しいな。
それにしても、最後の「ストリィディア」という曲ではなんだかアレクの様子が変だった。途中で凄くびっくりした気配になって、それから急に歌いだした。最後の方は少しだけ泣いてたみたいだ。皆みたいに楽し過ぎて泣いたっていうのとは違うみたいだ。どうしたんだろう。心配になって足を撫でたら、大丈夫だって言ってたけど。
それにしても、シオリの幻影は神様が見てる世界みたいで凄かった。なんで空の上から見る景色を知ってるんだろう。やっぱりシオリは不思議な人だなぁ。本当に天使様か女神様かな?
アレクはしょっちゅう俺の女神とか俺の唯一って言ってるけど、さっきは俺の歌姫って言ってたなぁ。
■十二月×日
今日はザックに頼まれて、ザックの部屋の害虫駆除をした。同じ建物の他の部屋で虫が大量発生したようだ。もう夜も眠れなくて大変らしいので、早速行ってみた。
うーん、凄いなぁ、沢山いるよ! 大聖堂ほどじゃないけど狩りのし甲斐がありそうだから頑張った。
部屋の中の虫を全部綺麗に狩り尽くしたら、ザックが褒めてくれた。嬉しいな!
でも訪ねてきたクレメンスがドアを開けたら、一匹が凄い勢いで入ってきた。慌ててクレメンスが箒で叩いたら、そいつは飛んで逃げてザックに向かっていった。
あっ。ザックは黒い虫が大嫌いだから駄目だよーって思ったけど間に合わなかった。服の中に入って大騒ぎだ。ザックはとっても強くて凄い人なのに、黒い虫が相手だと凄く残念な感じになるなぁ。
でもちょっと可哀相だから服の中に入って獲ってあげようとしたら、余計大暴れして大変だった。大人しくしてよー獲りにくいよーって服の中でペタペタつんつんしてやったら、変な声だして悶えてた。大丈夫かな? 黒い虫がよっぽど嫌いなんだなぁ。
やっと獲ったときにはザックはぐったりして動かなくなってた。もう獲れたから大丈夫だよー。元気だしてー。
うーん、あんまり大丈夫じゃなさそうだ。ちょっと心配。
いつの間にかシオリとアレクも来てたけど、なんか変な雰囲気だ。ザックとクレメンスが番かもしれないって思ったらしい。勘違いだったみたいだけど。
ザックはますますぐったりしていた。元気だしてー。魔獣の女の子なら紹介できるよ! でも人間の方がいいよね。だよね。
■十二月×日
アレクは時々シオリの部屋にお泊りする。
逆にアレクの部屋は古くて狭いからお泊りはあんまりできないみたいだ。何回か遊びに行ったことあるけど、キッチンは小さくて狭いし、お風呂は共有だから、確かにシオリはお泊りしにくいかも。
「いっそ……二人で住む部屋を探してみるか……いやしかしまだ……」って時々ぶつぶつ言ってる。もう番も同然なんだから一緒に住めばいいのにと思う。
「しかしまだ片付けなければならない問題が……いやしかし同居も捨てがたい……」
一緒に住めばいいじゃない。
「いや、しかし同じ部屋で暮らしたら、手を出さない自信が……」
シオリは嫌とは言わないと思うなぁ。でも、凄く大事にしてるのは分かるよ! 友達が大事にされているのは嬉しい。
「しかし同居……同居か……据え膳……いやしかし……」
アレクって結構面倒な人だなぁと時々思う。
■十二月×日
シオリとアレクは最近ますます仲がいい。凄く幸せそうにしていて自分も嬉しい。
でも、二人とも少しだけ心配事があるみたいだ。
シオリは「アレクと身分が違い過ぎるし私は異世界人だから、本当にこれから先もずっと一緒にいられるか少し心配なの。でも、アレクが心配するな、約束するって言ってくれたから……私はアレクを信じるよ」って言ってた。アレクは王様と兄弟らしい。王様ってペルゥの友達のことだよね。やっぱり秋に会った金髪の人だ。この国の一番偉い人と兄弟なら、シオリが心配になるのも分かるかも。でも、アレクが約束してくれたんならきっと大丈夫だよ!
……ところで、異世界人って?
え、シオリってこの世界の人じゃないの!?!?!?
本当に天使様か女神様かなんかなの!?!?!?
うーん、自分の友達はなんだか凄い人だったみたいだ。でもシオリはシオリだから大丈夫だよ! ずっと友達だよ! 仲良くするよ!
アレクもシオリのことが気になってるみたいだ。シオリは空から降ってきた人で、だから空の上から見る景色を知ってるのかもしれないらしい。でもシオリがどこの誰でもシオリであることに変わりはないから、ずっと一緒にいるつもりだって言ってた。むしろ自分が王様と兄弟だっていうことがシオリの負担になるんじゃないかって心配してるみたいだ。
大丈夫だよ! シオリはアレクのことが大好きだから、きっと大丈夫! シオリもアレクのこと信じるって言ってたし。
それに二人がどこの誰でも、自分にとっては大事な友達だよ! だからこれからも仲良くしてね!
雪男「雪男の日記ってありませんかね」
ルリィ「ないよ」
ペルゥ「ないね」
雪狼「ないな」
雪熊「ないよね」
雪海月「ないない」
一角兎「ないわー」
雪男「酷い!!!!!」
あっても業務日報みたいな感じなんでは……。
今章はペルゥの日記はお休みです。次回は多分女二人の飲み会的な。




