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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第4章 聖夜の歌姫

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26 幕間四 誤解(ザック、ルリィ、クレメンス、他)

書く余裕があるうちに更新します_(:3」∠)_

盛大に服に入っちゃう系G注意報です。G注意報です。大事なので二度言いました。

「悪ぃなルリィ。個人的な用向きで呼び出しちまってよ」

 招き入れた瑠璃色のスライムにそう声を掛けると、気にするなとでもいうようにぷるんと震えた。

 冒険者組合(ギルド)トリス支部マスター、ザック・シエルが入居するテラスハウス。この二階建ての長屋は家賃が高く、彼も含めた入居者は皆経済的に恵まれている者ばかりだ。裕福な家の出か、それなりの職業や地位に就いているか。ともかく人品卑しからぬ者ばかりのはずだったのだが――。

「一人だけちっとばかり質のよろしくねぇのが住んでてな。ろくに掃除もしねぇで虫が湧いちまってるんだ」

 その人物はどうやら成金の子息らしく、良い物件に入居したはいいが女中の雇い方すらもろくに知らず、汚れるままにしたらしい。不潔になる一方の部屋にいよいよ居辛くなったその男は、汚れた部屋を放置したまま女の家に転がり込んだようだった。

 ザックを含めた入居者一同は管理人に苦情を入れた。その男は強制退去になり、雇った掃除人の必死の頑張りでどうにか元の綺麗な部屋を取り戻したのがつい二日前のことだった。

 しかし、ここで問題が一つ。

 その部屋に湧いた虫がテラスハウス内に散ったらしく、室内のそこかしこで黒光りする虫と遭遇するという恐ろしい事態に陥ったのである。

 あれと相対するくらいなら伝説の幻獣雪男(スネ・トロル)と接吻でもした方がまだましというほど大の黒い虫嫌いのザックは夜も眠れず、親しい友人達を家飲みに誘っていたこともあって、急遽ルリィを掃除人として指名することになったのだったが。

「大聖堂の害虫駆除も請け負ったんだろ? 大丈夫か――って、うぉおおっ!?」

 話途中で目の前を横切る黒い影に飛び退った瞬間、ルリィが素早く動いてそれをぺろりと飲み込んだ。消化する瞬間を見せなかったのは依頼人(ザック)への気遣いだろうか。

 青い顔でありがとよ、と呟いたザックは引き攣った笑みを浮かべた。

 シオリが言うには、「丁寧な仕事ときめ細やかな気配り」で害虫駆除業の顧客を着々と増やしているということだった。

 つい先日もシオリへの指名依頼に同行して大口の顧客を開拓したらしいルリィは、年末の大清掃に借り出されて大忙しのようだ。しかしルリィは何の問題もないといった調子で触手を左右に揺らす。何とも頼もしいことだ。

 笑いながら瑠璃色の身体を撫でると、じゃあ始めるね! とでもいうようにぷるるんと震えてからしゅるりと棚の隙間に姿を消した。

 奇襲攻撃が得意なスライムだけに、音らしい音も立てずに標的を仕留めていく。居間や台所、浴室の駆除を終えたルリィは階上の部屋にも着手した。

「おお……すげぇな」

 不吉ならぬ不潔な気配が消えていくような気がして、ザックは安堵と感嘆の声を漏らす。心なしか床も輝いて見えるようだ。

「……こいつぁ、他の部屋もやってもらった方がいいかもしれねぇな」

 この部屋だけ綺麗にしても、他の部屋に巣食っていればいずれはまた湧いて出るだろう。近くに棲み処となる場所があれば、いくら部屋を清潔にしていても出るときには出るものだ。

 声掛けしてみるかと思案していると、仕事を完了したらしいルリィがしゅるりと階段を下りてくる。終わったよとでもいうようにぷるんと震えた。

 と。玄関の扉を叩く音と共に馴染みのある声が聞こえた。入るように促すと、紙袋を抱えたクレメンスが顔を覗かせた。他の参加者に先立って、様子を見がてら酒と肴の一部を持ってきたらしい。シオリ手製のメインディッシュは後で持ち込まれるようだ。

「む。その顔はどうやら無事に終わったようだな」

 ザックの晴れやかな表情に「大掃除」が終わったことを察した彼は、にやりと笑う。二十数年来の友人はザックが虫嫌いだということを知っていた。

「お陰様でな。ルリィ様様だぜ。これで安心して眠れ――うおっ!?」

 半開きの扉からさっと黒い影が入り込み、ザックは短く叫んで飛び上がった。ひらりと身をかわしたクレメンスが咄嗟に手にした箒でそれを薙ぎ払うが、その黒光りする虫はばさりと翅を広げると、こともあろうにザックの顔面目掛けて飛翔した。

 ひ、と息を呑み両腕で顔面を庇う――が、それが悲劇の元であった。ぺしんと腕に当たった虫が、落下して襟元から中に入り込んだのである。

「うっ……うわああああああっ」

 かさかさと素肌の上を這い回る悍ましい感触に、彼は恥も外聞もなく悲鳴を上げた。慌てて服を脱ごうにも防具に阻まれてそれも容易ではなく、紙のように白くなった顔色でザックは友人に助けを乞うた。

「た、助けてくれっ」

「た、助けろと言われてもどうすれば」

 あわあわと慌てふためく男二人を前に、ルリィが颯爽と立ちはだかった。任せろと言わんばかりにぷるるんと震えたルリィは、しゅるりとザックの服の中に潜り込んだ。

「ううっ!?」

 この気のいいスライムにしてみれば善意のつもりであっただろうが、かさかさと皮膚に引っかかる昆虫の足の感触と生温かい粘液質の物体が這い回る感触に同時に襲われたザックは混乱の極みに達した。

「う、あ、おいっ、ちょ、ルリィっ」

 悲鳴を上げながら身を捩って逃れようにもどうにもならない。狭い服の中で繰り広げられる死闘によって肌の表面に責め苦のような刺激を与え続けられ、何か妙な辱めを受けているような気分と混乱で精神の限界に達したザックは、とうとうその場に崩れ落ちた。

 虫とスライムにいいようにされるがままでのたうつその姿は、S級冒険者も形無しの様相である。

「く、クレメンスっ、た、助け……」

 なす術もなく立ち尽くしていたクレメンスははっと我に返ると、慌てて友人の服に手を掛けた。

「待っていろ、今脱がせてやるからっ」

 そうは言ったものの身悶えてじっとしていない身体相手では手元が狂って防具の留め具もシャツのボタンも上手く外せず、そうこうしているうちにザックは息も絶え絶えである。

「おいっ、じっとしてろ! これでは脱がせるものも脱がせられんぞ!」

「そ、そうは言ってもだなぁっ……ひぁっ!」

 じたばたと取っ組み合ううちに、背後の扉が軋んで開く。

「おい、開けっ放しで何してる――」

 シオリと共に顔を覗かせたアレクが不自然に言葉を途切らせて固まった。

 ――床に仰向けに倒れ、涙目で息も絶え絶えになっているザック。それを組み伏せてシャツを脱がそうとしているクレメンス。

 端から見れば、どう見ても今まさに事に及ぼうとしている――。

 口を半開きにして絶句していたアレクは、真っ赤になったシオリの両目を塞いで後退りした。

「お、お前ら……その、なんだ」

 相当に無理をして笑顔を作った彼は、ぎこちなく言葉を落とす。

「取り込み中なら……鍵、掛けてしろ、よ」

「……な、ちょ、おい待て勘違いだっ!」

 ぎい、と音を立てて扉が閉じられ、慌てたクレメンスが腰を浮かせた。

 獲ったぞー! と言いたげに黒い虫を掲げて服の合間から這い出たルリィが、その場の状況に、あれ? とでも言うように身体を傾けた。

 ――ようやく悪夢から解放されたザックは、ぐったりと床に身を沈めた。


「……いやあ、焦ったぞ」

 はははと乾いた笑い声を立てながら、アレクが持ち込んだ葡萄酒をグラスに注ぐ。

「女日照りも限界に達して、とうとう男色に走ったのかと」

「んな訳あるかっ」

 遠慮も何もない弟分の言葉に、げっそりとしたままザックは勢いよくグラスを呷る。男色どころか混乱のあまりに正常心が弾け飛び、スライムに肌を舐め回される感覚にうっかり新しい世界の扉を開きそうになっていたなどとは口が裂けても言えずにそのまま押し黙った。

 クレメンスは憔悴気味な顔でもそもそと肴を咀嚼している。こちらもやはり妙な誤解をされて不満らしい。

 話を聞いてけらけらと笑っているナディアの横で、シオリは未だに真っ赤なままだ。

 その様子に気付いたアレクが気遣って声を掛ける。

「どうした? もう酔いが回ったか?」

「……ううん、大丈夫」

 ぽそ、と彼女は顔を俯けたまま言った。

「……二人とも凄く素敵なのになんでお付き合いしてる人がいないのかなって思ってたから……その、そういう関係だったんならって……つい納得しちゃって」

 その言葉にザックはぶっと口に含んでいた葡萄酒を噴き出し、クレメンスは口元を引き攣らせた。

「さすがにねぇよ。それはねぇ」

「これでも女性からの誘いは多いんだ。ただ今まで気が乗らなかっただけだ」

「そ、そうだよね。ああびっくりした」

 何度か惚れた女と付き合っておきながら、最終的にはどの女にも「なんかお兄さんかお父さんみたいで……ちょっと恋人とは違うなって思うの」と振られたザック。

 そして少年時代に媚薬を盛られて迫られるという大変な目に遭って以来、なんとなく恋愛からは遠ざかっていたクレメンス。

 その後ほぼ同時期に同じ女(シオリ)に惚れ、そして想いを告げぬまま共通の友人(アレク)に彼女を奪われた二人は顔を見合わせると、どちらからともなく引き攣った笑みを浮かべた。

 ――ある意味今日の騒ぎの元凶とも言えるルリィは、どこ吹く風でシオリの手料理を取り込みながら、のんきにぷるんと震えた。


雪男「耽美ですねぇ……」

ペルゥ「……寝込んだときに風呂代わりと称して危うく身体を舐め回されそうになってた人いなかったっけ」


アレク「……何か今ゾクっとしたぞ」

ルリィ「気のせい気のせい」



フルオープンなヘヴンスドアの向こうに旅立たずにすんで、大変ようございました。

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