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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第4章 聖夜の歌姫

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23 幕間一 お裾分け(シオリ、アレク、コニー、ザック)

 今にも雪が降り始めそうな灰色の雲が垂れ込める朝。北の領都トリスは生誕祭を終えてから二日目を迎え、観光客も引いてようやくいつもの落ち着きを取り戻し始めていた。

 街路の飾りは取り外され、数多く出店していた露店は路上から姿を消した。旅装姿の観光客はまばらで、通りを歩いているのはほとんどが普段着の市民だ。

 次に市内が混み合うのは、大聖堂の年越し行事がある年末年始の頃だ。

「だいぶ落ち着いてきたね。道案内とか護衛依頼はしばらくは少ないかな?」

「ついでに討伐依頼あたりも減るといいが……まぁ、これは難しいか」

 市内を巡回する騎士にちらりと視線を向けてアレクが言う。

 きびきびとした動きの彼らには一見隙がないように見えるけれど、その顔には隠し切れない疲れが見えた。期間中は特別警邏のほか、観光客目当ての盗難や酔客の乱闘などの対応で大忙しだったようだ。

 顔見知りの女騎士が敬礼しながら苦笑気味に通り過ぎた。ルリィと一緒に手を振り返したシオリは小さく溜息を吐く。

「騎士さん達も忙しそうだものね。難民の対応とかも増えてるんでしょ?」

 あまり大きな声では言えないが、王国全土の騎士の一部を国境地帯へ派遣したことで、現在国内の治安維持が手薄になっている。新聞の帝国内乱関係の記事では、それに関連した国への問題提起や読者への注意喚起などもちらほらと見かけるようになった。

 ――国境付近の難民の一部が領内に入り込んできている。その多くは仕事を求めてのことのようだが、物乞いや野盗に身を落とす者も少なくはない。中には彼ら目当てに人買いらしき輩も各地から集まっているらしく、治安の悪化を不安視する声が多い。騎士隊は対応に苦慮しているという。

 難民を見かけたら速やかに騎士隊へ通報するようにという指示は冒険者組合(ギルド)からも出されている。勿論不審者についても同様だ。

「国内に定着した帝国人を頼ってくる者も当然いるだろうから全てを取り締まるのは難しいだろうが……そのあたりは国や騎士隊に任せるしかないだろうな」

 俺達は冒険者としてできることをするまでだとアレクは言ったが、その横顔は憂いに満ちていた。王国民として、そして多分元貴族として思うところがあるのだろうとシオリは思った。

「シオリも気を付けろよ。移民も目を付けられやすい。それに音楽会でのこともある」

「うん。分かった。気を付ける。当分は一人歩きしないようにするから」

 買い出しなどで少々不便なこともあるだろうが、ここは日本とは違うのだ。トリスは夜でも出歩けるほど治安が良い街ではあるが、善人に紛れて存在するならず者の質の悪さは日本と比べて桁違いだ。

 人気のない裏通りには人攫いや強盗が出ることもある。表通りでも女衒らしき男に声を掛けられたことも一度や二度ではないし、道に迷った観光客を装った男達に怪しげな店に引きずり込まれそうになったこともある。もっと言うなら――仲間だと思っていた者達に死ぬような目に遭わされたことも。

「……まぁ、よほどのことがない限りは俺がそばにいるし、ルリィもいる。極端に不安がらなくてもいいからな」

「うん、ありがと」

 両脇を固めている恋人と友人が頼もしい。しゅるりと伸ばされた触手を握り返しながら、アレクを見上げて微笑んだ。

 ――すっかり馴染んだ組合(ギルド)の扉を開ける。

 カウンターの向こう側では兄貴分のザックや職員達が忙しそうに書類仕事に没頭している。談話室では待機中の同僚が、依頼票を眺めたり報告書を纏めたりとそれぞれのやり方で過ごしていた。

 何人かが挨拶を寄越し、それに軽く会釈して返す。

 纏めた書類の縁を机の上でとんとんと叩いて整えたザックが、右肩をぐるりと回して凝りを解す。それからふとこちらに気付いて苦笑した。しゅるりと素早く移動したルリィが棚の隙間に潜り込んだのを、何故か彼は努めて視界に入れないようにしながら手招きする。

「おはよう、兄さん」

「朝から精が出るな」

「おう、おはよう。細々とした依頼が多かったからな。報告書類やら請求書やらがまだ大量に残ってんだよ。ほとんどは大した内容じゃねぇが、いかんせん数が多くてな」

 ほとんど確かめもせずに判を押すだけのいい加減なマスターもいるらしいが、ザックは全てきっちりと目を通しているようだ。

 そのあたりは先代マスターのランヴァルドもかなり几帳面だったようだが、彼自身が重大な不正をしていたことで、マスターの選定方法や王都の組合(ギルド)本部への定期報告内容に一部変更があったようだ。

(……きっと本部でもそれだけ重く受け止めたんだろうな)

 自身が被害者となったあの事件によって法的に処罰された者は誰一人としていない。主犯格だったランヴァルドは解雇処分、彼に唆されたかつての仲間達は居心地が悪くなって自主的にほかの支部に移籍していっただけだ。

 けれども一時的に騎士隊案件として扱われ、本部からも調査員が出向いてきたほどの事件だ。大陸北西部の主要国家のほとんどに支部を置くほどの規模の組織としては、無視できなかったのだろう。

「……例の楽団の事件、トップ記事だったぜ」

「もうか? 早かったな……と言いたいところだが、鳴り物入りでやってきた歌姫一座の顔ぶれが不自然だったのは素人の俺でも分かったくらいだからな」

「何かあったと勘付いてほじくり返した奴がいたんだろうよ」

 ぼんやりと暁の事件を思い出していたシオリは、彼らの言葉ではっと我に返った。

 カウンター上に置かれたトリス・タイムズをアレクと二人で覗き込む。

 生誕祭の催事の一つ、音楽会で出会うことになった歌姫フェリシア・アムレアンとエルヴェスタム交響楽団が巻き込まれた傷害事件を伝えるトップ記事には、フェリシアとヒルデガルドの姿絵が添えられていた。幸いなことに、囮となったシオリに関する記述は見当たらない。コニーや騎士隊が隠してくれたのだろうか。

「……カリーナ・スヴァンホルムとランナル・オルステットは近日中に王都へ護送……大聖堂とホールは近々話し合いの場を設ける……か」

 王都一との呼び声も高いエルヴェスタム・ホールの歌姫達を狙った陰謀劇は、彼女達がそれぞれに信頼を寄せていたマネージャーの逮捕によって終焉を迎えた。

 多くの有力貴族による援助によって成り立つ音楽会を危うく台無しにされるところだった大聖堂側は、この陰謀劇の首謀者が所属していたホールに厳重に抗議するつもりのようだ。しかし最終的には大成功のうちに終えたことや、大司教と最大の支援者である辺境伯の意向もあって、賠償請求は行わずに事件解決のために支払った経費分の請求のみになるだろうということだった。

「……実に寛大な処置だな」

 些か皮肉混じりに言いながらも、アレクはそのすぐ次の記事に目を走らせていた。

「――幻影魔法による見事な演出、神々の視点から見る世界、正体不明の術者は神の御使いか……か。完全な色物記事だな、こっちは」

 苦笑気味にぼそりと言った彼。気まずくなったシオリはゆるゆると視線を逸らす。

「その御使いとやらがどうも冒険者らしいってことはどっかから掴んでるらしくてな。記者らしい連中が昨日あたりから何人かうろちょろしてやがるんだ」

「あれだけ多くの人間がかかわったんだ。大方参加者の誰かが漏らしたんだろうさ」

「う……ごめんなさい」

 つい謝罪の言葉を口にしてしまったシオリの肩をアレクが叩いた。

「まぁ、適当に誤魔化しとくが、いざとなったら辺境伯の名をチラつかせてやりゃあいい」

「……うん」

 ほんの些細なことからどうやら高位貴族の「庇護下」に入ってしまったらしいシオリは、曖昧に笑うしかない。

 ――と。外で馬車が停車する音が聞こえた。視線を向けた窓の外に見えるのは、組合(ギルド)前に横付けする荷馬車だ。

「お? 小包か? ……にしちゃあいつもと時間が違うようだが」

 速達かもしれないとザックが腰を上げたが、荷馬車から降りた人物の顔を見たシオリとアレクは、あ、と小さく声を上げた。

 着込んだ外套こそ配送業者風のそれだったが、帽子の下から覗く銀髪や眼鏡に見覚えがあった。

「コニーじゃないか」

 帽子のつばをぐいっと押し下げて被り直した彼と、窓越しに視線が合った。ふと笑ったコニーは、一抱えほどもある木箱を手に組合(ギルド)の扉を開けた。

「ちーっす。急送便っす!」

 姿形も声も間違いなく先日別れたばかりのコニーだったが、口調がまるきり配送業の若者風だ。呆気に取られている二人に歩み寄った彼は、にやりと笑った。

「ザック・シエルさん宛の荷物っす。ちょっと重いんで、良ければ部屋まで運ぶっすよ」

 どうやら内密に話したいということらしい。ザックは頷き、「シオリ、アレク。悪ぃが仕分け手伝ってくれ」と何気ない言葉を掛けながら、マスター室を指し示した。そのままコニーを引き連れて、言われるままに室内に入る。

 指示された卓の上に木箱を置いたコニーは帽子を取り、ふ、と溜息を吐く。それからへにゃりと眉尻を下げて苦笑した。

「こんななりですみません。新聞記者さん達がうろついてるものですから……出入りの業者に協力してもらいましてね。大丈夫、信頼できる人ですから彼から漏れることは決してありませんよ。荷物も本当はザックさんではなく、シオリさんとアレクさん宛なのですが、あの場では念のためお二人の名前を出すのは差し控えておきました」

「いえ、ちょっと驚きましたけど……お気遣いありがとうございます」

「なかなかの演技派だな。役者としてもやっていけるんじゃないか」

 揶揄うアレクの言葉に、やめてくださいよ、と彼は照れ臭そうに鼻の頭を掻いて笑う。

 エルヴェスタム交響楽団の事件や幻影魔法の使い手目当ての記者が多く、容易に外出できない状況らしい。やむを得ず顔馴染みの宅配業者に扮して出てきたということだった。

「そういう訳ですのであまり長居はできません。後金のお支払いと、あの後のお話を少し」

 依頼料の後金の支払いを済ませて書類にサインをしたコニーは、ザック手ずから淹れた紅茶を一口啜って口内を湿らせた。

「お話……と言ってもあまり多くお話できることはないんですけれどもね。事件に関しては報道された内容程度のことしか僕らも聞かされていませんから」

 フェリシア達は昨日の朝早いうちに騎士隊に移送されたようだ。聴取を終えた後は王都に戻ることになるが、恐らく混乱を避けるために変装などのなんらかの偽装工作をして出発させることになるだろうということだった。

「僕のように出入りの業者か――騎士に化けて出てくるかもしれませんね」

 そう言ってコニーは笑った。

「……それで、シオリさんのことなんですけどね」

 どうやらこちらが本題らしい。シオリは身を固くした。アレクが肩を抱き、いつの間にか室内に入り込んでいたルリィが足元を撫でる。

「やはりあの後も問い合わせが来ましてね。取材は問答無用でお断りしていますが、一部の方々には辺境伯閣下のお名前を使わせて頂きました。それで大抵の方は引き下がってくださいましたが、もしかしたら諦めていない方もいらっしゃるかもしれません。別の方法で接触しようとするかもしれませんから、当面は充分に警戒された方がよろしいかと」

「そう……ですか。なんだか大事になってるみたいで……すみません」

「いいえ、どうかお気になさらず。これだけ反響があったのも、シオリさんの尽力あってこそですからね。しかし、多くの方々が気にしているのは最後のあの幻影ですから……」

 へにゃりと眉尻を下げて笑う優しげなその瞳が、どことなく探るようなものに見えたのは気のせいかもしれないけれど。

 音楽会直後はそれほど気にも留めていなかった。でも新聞記事やコニーの言葉に、自分で思う以上の厄介事になっていることに気付かされてしまった。

 ――何気なく見せたあの幻影。高山に登るよりも遥かに高い、成層圏から見下ろす光景を映し出してしまった。大陸の形が分かるほどのあの景色は、この世界の技術では決して見られないものだ。もしかしたら、自分の「正体」に探りを入れてくる者がいるのではないか――。

 無言でこちらを見ている三人と一匹の視線に耐え切れなくなったシオリは、膝の上でぎゅっと手を握り締める。

「――失礼ながら、東方はほとんど未開の地域です。近年ようやく開かれた地域ですから、僕達が知らない技術を持っていたとしても不思議ではありません。東方人の貴女が再現したあの風景はきっと、そういった類のものなのでしょう。少なくとも僕は――僕や大司教様はそう解釈しています」

 というよりそう解釈するよりほかに説明は付かないと、シオリをまっすぐに見たコニーはそう言った。

「もしあの幻影について何らかの『意味』を追求する方々が現れたとしても困ることがないように、大司教様は協力を惜しまないとのことです。大聖堂所有の書物には神々の世界を描いたものも多くありますからね」

「……あ。つまり……?」

「あれは秘蔵の書物に描かれた風景だということにします。多少こじつけ臭くはなりますが押し通しましょう。このあたりは辺境伯閣下のご意向も伺わなければなりませんがね。それで物は相談なのですが」

 コニーは眼鏡を押し上げてにこりと笑った。

「音楽会は毎年開催することに決まりました。そしてトリは参加者と聴衆による『ストリィディア』の合唱です。その演出として、シオリさんにはあの神々の視点の幻影をお願いしたいのです」

「ははぁ……」

「なるほどな」

 アレクとザックは唸った。

 あれを恒例行事に盛り込むことで、あくまであの風景は大聖堂の依頼で再現したものであり、シオリに何らかの特別性がある訳ではないという方向に持っていくつもりなのだ。

 それでもしばらくは周辺がうるさいかもしれないが、時が経てば、そしてその理由付けが浸透すれば、それはいずれ「真実」となるだろう。

 シオリはほっと胸を撫で下ろした。

「すみません。何から何までありがとうございます」

「いえ、どうか本当にお気になさらず。僕らの都合でお呼びしたのに色んな騒ぎに巻き込んでしまって、むしろ申し訳なく思っているところなのですよ。ですから」

 シオリさんはどうか安心して普段どおりに過ごしてください。そう言って彼は微笑んだ。

「……はい。ありがとうございます」

 どことなく不穏な空気が漂っていた室内も、ようやく穏やかになった。

「辺境伯閣下は俺達も馴染みなんでな。近々会う予定があるから、こちらからも話を通しとくぜ」

「それはありがたい。僕からもお願いします」

 言いながら彼は立ち上がった。

「では、僕はそろそろ戻ります。忙しなくて申し訳ありませんが……どうかこれからもよろしくお願いいたしますよ」

 互いに固い握手をして短い別れを済ます。

「……っと、しまった。これを忘れていました」

 立ち去りかけた彼は、卓の上に置いた木箱を指し示した。

「出資者の一人であるエンクヴィスト伯からの贈り物です。いたく感動したと大絶賛でしてね。参加者の皆さんにも召し上がって頂ければ良かったのですが、今朝届いたので間に合いませんでした。しかし結構な量を頂きまして……せっかくですからご尽力くださったお二方にお裾分けです。昨日獲ったばかりだそうですから新鮮ですよ。でも」

 そこで言葉を切ったコニーは、意味深長な苦笑いを浮かべた。

「……いや、まぁ、すぐ開けてみてください。国内第二の水揚げ量を誇るモーネ湖産の最高級のものだそうです。今ならまだ生で食べられますから。では」

 帽子を被り直して目立つ綺麗な銀髪を覆い隠す。

「そんじゃー、あざーっした!」

 部屋から出たコニーは、来たときと同じように配送業者の青年を装って出ていった。

(本当に役者の素質がありそうだなぁ……)

 半ばぽかんとしてそれを見送ったシオリは、彼が置いていった木箱に視線を移す。

「なんだろう? 食材みたいだけれど……って、どうしたの、アレク」

 言いながら何気なく見た彼の顔は、不味いものでも食べたような妙な表情になっていた。

「いや……モーネ湖産と聞いて中身の見当が付いたんでな」

 その表情を崩さないままの彼に、開けてみろと促された。

 輸送用の保冷箱らしい木箱の蓋を開ける。ふわりと漂うのは磯のような水辺の香りだ。内容物を保護している氷と雪を手で払い、中から出てきた黒々とした硬く大きなその物体を引きずり出して――ぬらりと伸びた乳白色の触手がぺとりと手に張り付いて、ひ、と短く息を呑んだ。

「わ、わああっ、何これっ!」

「うおっ!? っと、危ねぇっ」

 恥も外聞もなくつい大声を出してしまったシオリは勢いでそれを取り落とし、咄嗟にアレクにしがみついた。

 ごとん、と硬質で重い音を立てて卓の上に落ちたそれを、ザックが床に落ちないように慌てて押さえる。

「こ……え、貝なの? 何これ、貝?」

 動転のあまりに台詞が可笑しなことになってしまったシオリを見下ろして、アレクが苦笑いした。

「ああ……そうか、見たことがないんだったな。シェーナ貝だ。噂の」

「これが……うわぁ……」

 ――それは巨大な貝だった。一抱えほどもある真っ黒な二枚貝。体長三、四十センチメテルはあるだろうか。向こうの世界にもシャコ貝のような巨大貝はあったけれど、実際に目にするのは初めてだ。

 貝殻の隙間からでろりと乳白色の軟体動物のような中身が見えて、シオリはぞっと身体を竦ませた。

 興味深そうに触手を伸ばしたルリィがちょいちょいとつつくと、ひゅるんと中身が縮こまる。

「成貝にもなると四、五メテルほどにもなる。こうなると身が固くなってとても食用には向かないし、とんでもなく獰猛でな。産卵の季節は漁船を襲うこともあるから、棲息域近辺の組合(ギルド)にはよくこいつの討伐依頼が入るんだ。しかし稚貝はとろりとして美味いぞ」

「ち……稚貝? 稚貝なの、これ?」

 しかも魔獣扱い。

 うぞぞと怪しげに身体をくねらせて、シェーナ貝が身動ぎした。何故だかその貝に見つめられているような気がして、ふるりと震えたシオリはアレクにしがみつく手の力を強くした。

「き、気持ち悪……(こわ)……」

「見た目はアレかもしれねぇが、美味いんだぜ。モーネ湖産の最高級品となりゃあ、高級料理店にでも行かねぇ限り食えねえ代物だ。炙ったチーズみてぇにとろっとして濃厚でな」

 青くなって尻込みするシオリを尻目に、ザックは瞳を輝かせてその貝を眺めている。

 シオリはアレクと顔を見合わせ、互いに引き攣った笑みを浮かべた。コニーが去り際に見せた表情の意味がここに来て知れたからだ。

「……あの、兄さん。私達はちょっと……遠慮するから、皆で食べて」

「おっ、いいのか? 最高級品だぜ……って、そうか、もしかしてお前ら」

 ザックは察したようだ。

 ――二人が巻き込まれたあの事件は、この貝が原因となって発症するシェーナ風邪が発端だった。結果としてあれはシェーナ風邪ではなく毒物によるものだったのだが、その症状を詳細に聞かされたばかりの二人にとっては、些か精神的に厳しいものがあった。色々思い出して、美味しく食べられない気がする。

「なんか……あたるんじゃないかって思っちゃう」

「そうだな……」

 シオリとしては、これだけ巨大でグロテスクというだけでも遠慮したい代物だ。

「そうかい。そんじゃあ、遠慮なく頂くぜ。今いる連中には生で食わせてやれるだろ。ほかの連中はまぁ、加熱したもんで我慢してもらうにしても……こりゃ昼飯が楽しみだな」

 いそいそと回収したシェーナ貝を木箱に収め直したザックは、職員に指示して食堂に運ばせた。

 そんな彼を眺めていた二人は無言で顔を見合わせ、なんとも言えない表情のまま苦笑いを浮かべるしかなかった。


ルリィ「貝殻はベッドに欲しいなぁ」

雪男「ヴィーナス?」

ペルゥ「雪男がやるとヴィーナスじゃなくてポージングしてるマッスルメンだからね」



多分コニーさんは、蓋を開けてそっ閉じしたんだと思います。

大きい貝って怖いですよね。丸のまま売ってるミル貝は正直こえーです。

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タコもまぁまぁグロいけどね……
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