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家政魔導士の異世界生活~冒険中の家政婦業承ります!~  作者: 文庫 妖
第4章 聖夜の歌姫

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18 辺境伯夫妻

オヒサシブリデス_:(´ཀ`」 ∠):

 名立たる音楽家の奏でる調べが荘厳な設えの講堂に響き渡る。

 夜の清廉な空気を感じさせる室内楽団の爽やかな小夜曲。異国情緒溢れる独特な旋律に乗せた情熱的な南国の歌姫の恋歌。王国伝統の鍵盤ハープとチターで奏でる伴奏に合わせて中世の農民に扮した人々が躍る、素朴で陽気な民族舞踊。恰幅の良い堂々とした佇まいの紳士が朗々と歌い上げる凱旋の歌。穢れのない透明感溢れる声で可愛らしく楽しげに歌われる少年少女合唱団の童謡。王国北部最大の都市トリスが誇る交響楽団による壮大な交響詩。

「凄い……」

 国内最大級の祭の音楽会に招待されるだけあって、そのどれもが見事で圧巻だ。ただ技巧に凝るだけではない、奏でる人の想いが込められた調べに、シオリは出番のことも忘れて聞き入った。

「……凄ぇ。あんな深ぇ声はまだオレにも出せねーよ。まだまだべんきょーしなきゃいけねーことがいっぱいだな、カリーナ――」

 素直な感嘆の言葉を零したフェリシアが無意識に友人の名を呼び、そしていつも隣にいるはずの彼女はもういないのだということを思い出して口を噤む。その背をヘルゲがそっと撫でるのを見て、シオリは眉尻を下げた。アレクはそんな自分の肩を静かに抱き寄せる。

 ――多分、いずれ近い将来に、彼女の隣はヘルゲの居場所になるのだろう。その空いたもう片方の隣にカリーナが戻ることは二度とないかもしれない。でもいつかカリーナが罪を償ったそのときには、きっと彼女は笑顔で友人を迎えるに違いないのだ。

 裏切った者と裏切られた者。そんな間柄になってしまった二人だけれど、それでも、いつかきっと――。

 どこか切なさを残したまま美しい音楽に身を委ねていたシオリは、フェリシアの出番を残して全ての曲目が演奏を終えた後も、ぼうっとして余韻に浸っていた。

「次だぞ」

「あ……」

 我に返ったシオリを見下ろし、彼は少し愉快そうに微笑んだ。

「随分と熱心に聞いてたな」

「うん。あんまり凄かったから」

 本当に良いものに対しては感想すら出てこないというのは本当だった。ただ、心で感じるだけでいいのだ。

「――では参りましょう、皆さん」

 一瞬で蓮っ葉な娘からたおやかな歌姫へと切り替わったフェリシアが嫣然と微笑んだ。

 王都一の歌姫とその楽団に、演奏を終えた参加者達の期待と好奇、そして幾ばくかの嫉妬を孕んだ視線が集まる。

 しかし楽団の誰もが物怖じした様子は見せない。今朝がたまで見せていた不安げな表情は一切なく、堂々として笑みさえ浮かべているのだ。綺麗に気持ちを切り替えて、既に本番に臨むような意識でいる。前を見据えるその表情は、つい昨夜まで事件の渦中にいたとは思えないほどだ。

(本当に一流なんだなぁ)

 よろしくお願いしますわね、そう言ってすれ違いざまに声を掛けていったフェリシアに頷いてみせると、シオリは深呼吸してアレクを見上げた。その彼の力強い微笑みに勇気づけられて、シオリもまた微笑み頷いた。

 客席に腰掛けた参加者が王都一と称えられる楽団の演奏が始まるのを待ちわびる中、楽団が音合わせをする音が響く。

 舞台の袖で出番を待つシオリは、ちらりと客席に視線を向けた。リハーサル中の今、聴衆代わりに客席に着いている参加者達が、訝しげな表情でひそひそと何かを囁き合っているのが見えた。何を言い合っているのかは見当が付く。

 ――楽器が少ないのではないか。

 ――金管の編成がおかしい。

 およそそんなところだろうと察してシオリは眉尻を下げた。自分達の直前に演奏していた交響楽団と比べれば、明らかに見劣りしているのが分かる。プロの彼らなら編成の不自然さは一目で見抜いたはずだ。

 でもその不足分を補うために呼ばれたのが自分なのだ。それにフェリシアやヘルゲ達の演奏だって、その不足を感じさせないほどのものだった。大丈夫。

「力を抜け。お前なら大丈夫だ」

「うん。ありがとう、アレク」

 緊張を見抜いていたアレクに励まされ、強張った表情筋を緩めるように頬を撫でて深呼吸した。

 ――指揮者が無言で合図を送り、音合わせの音が止む。

 静まり返る講堂内。

 指揮棒を掲げたその右腕が静かに振り下ろされ、柔らかな弦楽器の調べに合わせてフェリシアが歌い始める。

 一曲目は古くから子守唄代わりに歌われている王国の童謡。

 恐らくこの曲の主な聴衆となる子供達に合わせているのだろう、深く朗々と歌い上げるのではない、まるで母親が幼子に語りかけるかのように柔らかで優しく、そして甘さを含んだ歌声が響く。

 それに合わせて空中にふわりと幻影魔法を展開した。

 ――柔らかな色調で子供時代の想い出の風景を描いた幻影。

 草木が芽吹いて若葉色に色付いた野原を、ひらひらと舞い飛ぶ蝶や精霊を追って駆け回る春。雲の峰が広がる抜けるような青空の下、陽光に輝く湖水で水遊びに興じる夏。茜色に染まった夕映えの街路を、野山で採った綺麗な木の葉や木の実で一杯になった籠を抱えて走る秋。見渡す限りの白銀に染まった雪原で、そり遊びや雪合戦に興じる冬――。

 客席に驚きと感嘆混じりのどよめきが広がった。潮騒のようなそのさざめきはやがて、響き渡る調べに呑まれるようにして消えていく。

 固唾を飲んで、瞬きすら忘れて聞き入る聴衆。

 木管と弦楽器に偏った編成は見た目には不自然に見えるかもしれない。けれども王都一の楽団の技術力は、それらの不足を補って余りあるほどのものだ。欠員が多く十分とは言えない数の金管楽器は、昨日のうちに互いの楽譜を組み替えて足りない音をカバーし合っていた。不足を不足と感じさせないその技量。

 見事な歌声と調べの邪魔にならないように調整しながら、懸命に幻影を繰る。

 身分違いの恋を歌う恋歌に合わせて秘密の花園で逢瀬を重ねる男女を映し、若者向け小説を上演した舞台の主題歌に合わせて魔女に恋した騎士の姿を描く。曲に合わせていくつもの幻影を繰り、合間にはアレクが手渡してくれる魔力回復薬を口に含む。

 そして最後の曲、女神と母なる大地を讃える荘厳な調べが最後の音を紡ぎ、講堂内の凛とした空気に溶けるようにして緩やかに美しい王国の景色の幻が消えていく。

 ――静寂。

 数拍の間の後、割れんばかりの拍手が講堂内に響き渡った。

「……凄いわ」

「さすが王都一と言われるだけのことはあるな」

「まるで物語の中に入り込んだようだった」

「あれは一体どういう技術か」

 興奮冷めやらぬ聴衆は口々に感想を述べながらも、王都の歌姫と楽団に惜しみない拍手を送る。

 同業者として話をしたいと思ったのだろうか、音楽家の何人かが舞台に近付こうと試みたそのとき、客席の後方で拍手が止み微かなざわめきが広がった。

「あれは――」

 背後に控えていたアレクが呟く。彼が向ける視線の先、コニーが誰かを伴ってこちらに歩み寄るのが見えた。がっしりした立派な体躯に灰色の髪の男と、品の良い優しげな顔立ちの女。その堂々たる物腰と素人目にも分かる上等な身形、そして二人に対するコニーの態度から高位の貴族と分かる。

「トリスヴァル辺境伯だ」

「えっ?」

 このトリスヴァル領を治める領主クリストフェル・オスブリング。公爵家にも匹敵する影響力を持つという高位貴族だ。とすれば、隣のご婦人は奥方だろう。音楽会への最大の寄付者だという大物の登場に、講堂内が緊張と高揚感に包まれた。

「トリスヴァル辺境伯ご夫妻です。皆さんにご挨拶なさりたいと」

 コニーの言葉に畏まる人々を片手で制して楽にするようにと言い添えたクリストフェルは、鷹揚に笑った。

「本番に先立って、後ろでこっそり聞かせてもらったよ。見事なものだ。さすがは音に聞こえし音楽家達だ。正直に言えばあまり芸術方面には明るくないのだが――そんな私でも万感胸に迫るものがあった」

 高名な辺境伯からの決して世辞などではない賛辞に、場の空気が華やぐ。

「わたくしからも」

 鮮やかな翡翠色の瞳が印象的な辺境伯夫人も言葉を継いだ。

「情景が思い浮かぶような素晴らしい演奏でした。きっと皆さまにも楽しんで頂けますわ」

 夫人は柔らかに顔を綻ばせた。慈善事業に熱心だという彼女は、トリス孤児院への最大の寄付者でもある。音楽会に領都内の孤児院の子供達を自費で招待したのだというが、辺境伯家とは別に個人的な資産から寄付するほどに期待を寄せているのだ。この音楽会はただ観光客を楽しませるためだけのものではない。富裕層による、ある種の慈善コンサートの側面もあるのだということを察して、シオリは緊張に身を強張らせた。

 今更ながらに大変な依頼を引き受けてしまったのではないかと気付いたからだ。

(ほかにも沢山の高位貴族が寄付してるって言ってたし……)

 リハーサルではトラブルもなく、聴衆の評価も上々だった。しかし本番ではどうだろうか。音楽会には大司教を含む高位聖職者や寄付者である高位貴族が臨席するはずだ。参加者は皆一流の音楽家ばかりで上流階級相手の舞台には慣れているだろうが、自分は庶民で素人だ。

 多くの有力者が臨席する音楽会の大トリの演出を務める自分の責任は。

(……予想以上に重いかも)

 緊張で無意識に両の二の腕を掴んで自身を抱き締めるようにしたシオリの肩を、アレクがそっと抱き寄せた。彼は力強く微笑み、大丈夫だと何度も背をさすってくれた。

 ゆっくりと肩の力が抜けていく。

「……ありがと。アレクがいてくれて心強いよ」

 そう言うと彼は嬉しそうに笑った。

「それは何よりだ」

 その笑顔に自分も少し嬉しくなって微笑み返す。

 ――と。

 ふと視線を感じて振り返ったシオリは、クリストフェルと視線が合ったような気がしてはっと息を呑んだ。気のせいだろうか。たまたまこちらに視線が向いているだけで、自分を見ている訳ではないかもしれないが、もし本当に見ているのならこちらから視線を逸らすのは無礼に当たるのではないかと思い、目を伏せそうになるのをぐっとこらえて前を見る。

 やがてクリストフェルはふっと目を細めた。彼はコニーと一言二言何か言葉を交わし、それから夫人を伴ってフェリシアに歩み寄る。

「――君達が王都一と名高い歌姫とエルヴェスタム交響楽団か。トラブルがあったと聞いていたが、それを感じさせぬほどの堂に入った見事な演奏だった」

「お褒め頂き光栄に存じます。仰る通り、トラブルに見舞われて楽団員の何人かが欠場を余儀なくされましたの。ですがわたくし達もプロ。参加する以上は必ず皆様にご満足頂けるよう努力する義務がございますわ」

 元は旅芸人だったというフェリシアの、大物貴族相手でも物怖じしない堂々とした態度。貴族家の令嬢として生まれ育ったと言われても遜色ない物腰だ。

「……さすがだな。伊達に王都一を名乗っていない」

 あれは大物になるぞ――そのアレクの台詞にシオリも頷く。

 B級に昇進し、そしてS級打診中だというアレクと仕事をする以上、今まで以上に上流階級相手の仕事が増えるかもしれない。フェリシアのように、そういう人々とそれなりに渡り合えるだけの技量も身に付ける必要があるかもしれないなと、ほんの少し気が遠くなりかけた意識の片隅でそう思った。

「それにしても驚きましたわ。演奏も素晴らしいものでしたけれど、あの幻影魔法を使った演出――まるで歌の世界に入り込んだかのような心持ちになりましたもの。王都ではああいった演出も流行っているの?」

 辺境伯夫妻と談笑するフェリシアを眺めながら考えごとに耽っていたシオリは、夫人から演出に言及されて我に返る。問いながらも彼女の視線は明らかにこちらを向いていた。シオリが幻影魔法を繰っていたのだということに気付いているのだ。

「……夫人は元は騎士隊の魔法兵だったんだ。魔法の出所がお前だと言うことには当然気付いただろう」

「あ……そうなんだ。それで。びっくりした」

 アレクに耳打ちされて納得したシオリは苦笑いしながら彼を見上げた。しかし彼がどことなく緊張しているのを見て取って、目を瞬かせる。名門ロヴネル家の主従を前にしても堂々としていた彼でも、さすがに公爵家に匹敵する影響力を持つと言われているトリスヴァル辺境伯相手では緊張するのだろうか。確かにこの目の前の男には、アンネリエやデニス達にはなかった壮年の気迫と威厳、そして気の良い笑みの下に隠された底の知れない何かを感じさせた。

「さすがに王都でもあのような珍しい演出をしている歌劇場はございませんわ。当初はもっと欠員が多くて……それで司祭様が補助要員として幻影魔法の使い手を紹介してくださったんですの」

 言いながらフェリシアがコニーに目配せをすると、静かに歩み寄った彼はシオリとアレクを指し示した。

「こちらのお二人です。幻影魔法の名手、冒険者のシオリ・イズミさん。それから護衛を務めてくださるアレク・ディアさん。お二人とも、とても優秀な方です」

(うわぁあああ)

 名手などと言われるのも面映ゆいが、まさか辺境伯夫妻に直接紹介されることになるとは思わず、シオリは内心悲鳴を上げながらもどうにか会釈した。アレクも胸元に手を当てて軽く頭を下げる。略式ではあるが、上位者に対するそれだ。

「そう畏まらずとも良い。正式な場ではないのだ。どうか楽にしてくれ」

 クリストフェルは気さくに笑いながら言い、夫人も余所向けの表情を崩して親しみの籠った笑みを浮かべる。多分こちらの水準に合わせてくれているのだと察して、シオリはますます恐縮してしまった。しかしそれでは二人の気遣いを無駄にすることになると気付き、なるべく自然体でいるように心掛けた。

 ――が、夫人に手を取られて、危うく飛び上がりそうになってしまった。

「シオリさんというのは貴女ね。孤児院のイェンス司祭からお話は伺っているわ。『活弁映画』だったかしら。絵本の代わりに幻影魔法でお伽噺を見せてくださるのだそうね?」

「あ……はい、そうです」

 初見のはずの夫人に名を知られていたことに驚いたけれど、よくよく考えてみればそれも不思議なことではなかった。

 トリス支部の冒険者は定期的にトリス孤児院を慰問しているが、正確にはこれは奉仕活動ではなく、辺境伯夫人からの依頼だった。直接の依頼は孤児院から寄せられるが、実の依頼者は彼女なのだ。依頼料の請求も夫人宛てに送られている。だとすれば当然その報告も彼女に寄せられているだろう。

「冒険者の皆さんにはとても感謝しているの。子供達も慰問をいつも心待ちにしているそうよ。何かを楽しみに待つというのも、日々の暮らしに張り合いが出て良いことだと思うのよ。イェンス司祭には貴女の『活弁映画』が一番人気だと聞いているわ。わたくしも機会があったら是非拝見したいと思っていたから、思いがけずに見ることができて嬉しいわ」

 特に舞台化した若者向け恋愛小説のワンシーンが素敵だったわと、そう言って彼女は少女のように顔を綻ばせた。

「……ありがとうございます。恐縮です」

 貴族相手の作法はほとんど分からない。けれども素直に称賛を受け取れば、夫人もまた嬉しそうに微笑んだ。

「……わたくし、移民との混血なの。それで色々苦労もしたから――貴女のように異国からいらした方が活躍なさっているのを見ると、とても嬉しいのよ」

 そう言いながらシオリの手を握る両手に少しだけ力を籠めると、夫人はもう一度微笑んでからそっと離れていった。

 そんな二人を目を細めて眺めていたクリストフェルは、今度はアレクに視線を向けた。

「――久しいな、アレク殿。四年ぶりか」

「ご無沙汰しております、辺境伯閣下。本来ならばこちらからご挨拶に伺うところ、不義理をして申し訳ありません」

「いや、構わんよ。壮健であるならそれで良い」

 アレクの堅苦しい言葉遣いを初めて聞いて驚きもしたが、それ以上に二人が顔見知りであることを知ってシオリは目を丸くした。夫妻を案内したコニーも、そしてフェリシア達も驚いたようだ。

 言葉を交わす二人。

 アレクは微かに緊張したような、気まずそうな照れ笑いにも見える微苦笑を浮かべているのに対して、クリストフェルはどこか気遣うような痛みを含んだ、それでいて嬉しそうにも見える優しい笑みを湛えている。

 その二人の様子に覚えた既視感。

(これ……時々兄さんがアレクを見ているときにしてるのと同じ目だ)

 もしかしたら彼もまた、ザックのようにアレクを見守ってきた人間の一人なのかもしれない。思えばザックだけではない、クレメンスやナディアも似たような目で彼を見ていることがあった。

 多分彼らはアレクの素性を知っているのだということに思い至り、シオリはそっと目を伏せた。

 ――本当はもっと彼のことを知りたい。親しい仲間内で、自分だけが知らないことに多少の疎外感を覚えなくもない。

 何か複雑な事情を抱えているらしいアレクの、その過去はまだごく一部しか聞かされていないけれど、でも自分だってまだ隠していることがある。ずっと見守ってくれたザック達にさえ話していない素性。自分がそうであるように、アレクもまたその素性と過去を明かすためにはきっと相当の覚悟と決意が必要なのだ。

 ――そこに至るために、互いに寄り添い支え合うことができたらいい。

 大きな手がそっと肩に触れ、シオリは顔を上げた。

 二人の束の間の会談は終わったようだった。

「――では本番を楽しみにしているよ」

 そう言って鷹揚に微笑んだクリストフェルは夫人を伴い、コニーに先導されて出ていった。

 講堂内にざわめきが戻る。

「……びっくりした。知り合いだったんだね」

「……まぁな」

 彼は微苦笑を浮かべたまま頷く。

「数としては多くないが、時々指名依頼をくれるんだ。それに――若い頃、一時期世話になっていたことがある」

 ほかには聞こえないようにだろう、低く落とした声で彼は言った。

「そう……なんだ」

 王から多くの権限を与えられ、そして多大な影響力を持つというクリストフェルの世話になっていた――それが何を意味するのかは分からないが、それでも彼とそれほど若い頃から懇意にしていたというのなら、やはりアレクの元の身分は高位の貴族なのだろうか。

「……お前、今、俺と身分が釣り合うかどうか気にしていただろう」

「う」

 図星を指されてシオリは呻いた。

「だってそれは……うん、まぁ、少しは。でも」

 それでも私と一緒にいてくれるって言ってくれたから。だから大丈夫。

 そう伝えると彼は、ありがとなと呟いてそっと背を撫でてくれた。

 ――彼と、そしてかかわった人々のそれまでの人生が垣間見えたこの二日間。二人にとってその締め括りとなる音楽会が、いよいよ始まろうとしていた。

ルリィ「……あれ……自分……出てなくない?」

休暇中雪男「そういうこともありますよー(゜∀゜)」


スミマセンスミマセン

ようやくひと段落つきました

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