59 トリス支部通信 生誕祭特別号
■連絡事項
・12月8日の生誕祭に向けて観光案内や近隣の村への護衛依頼が増えているが、依頼と偽って女性冒険者に声を掛け、花街に連れ込もうとするなどのトラブルが相次いでいるとの報告あり。怪しげな依頼、特に男性グループからの依頼は十分注意のこと。不審な依頼を受けた、もしくは目撃した場合は速やかに組合もしくは騎士隊に連絡を。
■魔獣図鑑
トリス支部担当区域において目撃及び遭遇情報の寄せられた魔獣の一部を掲載。組合員は必ず閲覧のこと。
(参考文献:ストリィディア魔獣図鑑)
□雪海月
・目撃場所:シルヴェリア林道他、王国北部の森林地帯
・危険度:小~大
・討伐難易度:A~D
王国北部の森林地帯等に棲息する飛行系魔獣。冬期の零度を下回る温度下でのみ出現。
薄っすらと向こう側が透けて見える半透明の身体でふわふわと漂う雪海月は真冬の低温下でしか生きられず、春先の雪解けの頃の気温で簡単に干乾びてしまうほど。雪の精にも例えられる儚さだが、その性質は極めて攻撃的だ。縄張りに近付く者には敵意のあるなしにかかわらず容赦なく攻撃する。鮮やかな蛍光色に明滅したら攻撃開始の合図。
体長三十センチメテルほどのこの魔獣は単体または少数の場合は初心者でも簡単に倒せるが、ほとんどの場合は直径二十数メテルに及ぶ球体の巨大な群れを形成するため、棲息域に入る場合は要注意。初級~中級パーティでは全滅の可能性も。
魔法や打撃のどちらも有効だが、非常に数が多いため範囲攻撃の手段は必須である。
□雪熊
・目撃場所:シルヴェリア林道他、王国北部の森林地帯
・危険度:大
・討伐難易度:A
王国北部の森林地帯に棲息する大型魔獣で、全身を真っ白な体毛に覆われている。冬期のみ出現。体長四~五メテル。基本は四足歩行だが、攻撃時には後足で立ち上がり、岩をも砕く剛腕で対象を殴りつける。掠っただけで大怪我は必至。魔法による攻撃も有効だが、非常に頑強で体力があるため長期戦に持ち込まれれば不利。できれば直接攻撃で急所を狙い、短時間で仕留めるやり方が最善である。もし十分な戦力がない場合は顔や足を攻撃して一時的に動きを封じ、逃げるのも手。
毛皮は保温性、撥水性に富み、天幕や敷布などに利用される。
□氷蛙
・目撃場所:シルヴェリアの塔他、遺跡や岩場など
・危険度:小~中
・討伐難易度:B~C
遺跡や廃墟、岩場などに棲息する中型魔獣。白と青のまだら模様の肌が特徴。保温性の高い粘液に覆われており、年間を通して活動できる。
打撃、魔法のどちらも有効で、口内から飛ばす毒や鞭のようにしなって対象を切り裂く長い舌に当たりさえしなければそれほど苦戦する魔獣ではない。しかしながら動きは素早く、大きさによっては十分に脅威になりうるので油断は禁物。
喉の奥にある毒腺は解毒薬の材料にもなるので余裕があれば採集すべし。
□一角兎
・目撃場所:王国北部全域
・危険度:小~大
・討伐難易度:B~C(変異種はA~B)
王国北部全域で見かけるポピュラーな小型魔獣。雑食性。小麦色の毛皮と額から生える鋭い純白の角が特徴的。
筋肉が発達した後足の跳躍力は成人男性の頭を軽く飛び越えるほどで、動きも非常に素早く攻撃を当てるのは困難。また、鋭い角や牙による攻撃は容易に肉を抉り取るほどに強力だが、基本的には単体行動の魔獣なので落ち着いて行動すれば初級パーティや中級冒険者でも対処は可能。
ただし稀に出現する変異種はやや討伐難易度が高めなので注意が必要。通常種より素早さや攻撃力は高く、極めて獰猛で視界に入った動くものには全て攻撃を仕掛けてくる。真っ白な体毛とルビーのような赤い目が特徴。
なお、肉は柔らかく美味で数時間~一日弱と短時間で熟成するため、旅先で見掛けたら食料として確保すると良い。
□吸血野茨
・目撃場所:シルヴェリアの塔他、大陸全域の森林地帯中央部~奥地
・危険度:小~中
・討伐難易度:B~C
大陸の森林地帯中央部から奥地に棲息する。養分さえあれば土がない場所でも生育する植物系魔獣。銀青色の絡み合う蔓と薄紅色の薔薇のような可憐な花が特徴的で、繊細で清楚な見た目ながらもどこか妖艶な印象の外見。ただの植物と油断して近付く獲物を触手のように伸縮自在な蔦で捕らえ、無数の棘から体液を吸い取って養分とする悍ましい魔獣である。苗床にされた獲物はゆっくりと時間を掛けて養分を吸われ、生きながらにして生命力を吸い取られていく恐怖は想像を絶する。
打撃、魔法のどちらも有効。しかしながら植物らしく火には弱いので、魔法の使い手がいる場合は躊躇わずに焼き尽くした方が無難。
美しいからといって持ち帰るような愚は冒さないこと。他国では観賞用に生け捕りにして栽培し、あっという間に繁殖して屋敷が丸ごと一つ養分にされた――という大惨事に発展し、騎士隊が出動したケースもあるようだ。
□偽鬼火
・目撃場所:シルヴェリアの塔他、森林奥地の沼地や湿地帯
・危険度:小~中
・討伐難易度:B~C
深い森の沼地や湿地帯などに群れを作って棲息する小型魔獣。小さな火の玉のような外見でふわふわと漂う実体を持たない魔獣。知能も極めて低く、アンデッドや精霊の成り損ないのようなものと考えられている。
水や氷属性の攻撃が極めて有効。魔素を強く帯び、火の属性を持つ体内には火の魔法石を含むことが多く、大きい群れを倒せばひと財産にはなるほど。しかしながら、棲息域が薄暗い森の奥の沼地や湿地帯で視界と足場が悪く危険なため、よほどのことがない限りは近付かない方が無難。
■素材図鑑
トリス支部担当区域内で採集出来る素材の一部を紹介。採集依頼や個人用途での収集の参考に。
□雪熊の毛皮
保温性、撥水性に富み、天幕や敷布などに利用される。愛用者は多く需要が高いため、遭遇して運よく倒せたら綺麗に剥ぎ取って持ち帰りたい。
□一角兎の角
光の加減で青みがかった光沢を放つ、美しい純白の角。印章の素材として使われるが、少量の魔素を帯び、魔除けの装飾品や薬の材料として利用されることも多い。これを削り出して作った装飾品は、ちょっとした贈り物にも人気。
□一角兎の毛皮
保温性が高く軽量で、帽子や襟巻に利用されることが多い。また、変異種の純白の毛皮は光沢が素晴らしく、これを縫い合わせて作った防寒具は上流階級のご婦人方垂涎の一品。もし運良く遭遇したら、是非とも倒して持ち帰りたい一品。
□一角兎の肉
王国北部の兎肉料理と言えばトリス兎だが、これは臭みが強く癖があり、王国人でも好みは分かれるところ。しかし一角兎の肉は柔らかくてコクがあり、兎肉が苦手な者でも美味しく食べられる。熟成期間も数時間から一日弱と短く、入手してから時間を置かずに食べられるので、遭遇したら食料として確保しておきたい。
独特の旨味を楽しみたいならシンプルな串焼きに、シチューなどの煮込み料理にすれば肉が苦手な者でも食べやすいのでおすすめ。
□氷蛙の毒腺
冒険の必需品として冒険者なら必ず持ち歩いている麻痺毒の解毒剤。材料となる氷蛙の毒は一匹から採集できる量が多いので魔獣素材としては人気である。毒腺は喉の奥にあり、柔らかい皮膚を割けばすぐに見つかるので採集もしやすい。解毒剤の需要は高く買取価格もそこそこなので、なるべく採集しておきたい。
■何でも掲示板(匿名掲載可。掲載希望者は受付にて申し込みのこと)
□俺のっ! 心のっ! 母ちゃんがっ! 男のっ! 毒牙にっ!!(召喚士・男・21歳)
□あたしの心のお母さん泣かせたらちょん切るからね。(剣士・女・24歳)
□塩唐揚げと鍋焼きグラタンのレシピ配布中です。欲しい方は私のところまで。(家政魔導士・女・31歳)
□あたいの携帯食勝手に食いやがったのてめぇかこのすっとこどっこいもう援護してやらねぇぞ!(魔導士・女・17歳)
□東方の酒譲ります。興味のある方は私に直接連絡か受付脇のノートに記入を。(双剣使い・男・36歳)
□生誕祭見物一緒に行ってくれる人募集中! OKな人は受付まで!(職員・女・28歳)
□今夏出版のアンネリエ・ロヴネル挿画の小説本、間違えて2冊買ってしまいました。1冊安くお譲りします。(槍使い・男・43歳)
□害虫駆除本差し入れてくれた奴、ありがとな……挿絵リアルだな……(剣士・男・40歳)
□不用品譲ってくれた人達ありがとう! どうにか乗り切れそうです。(治療術師・男・19歳)
雪男「……私が……載ってない……」
ルリィ「B級以上に情報開示だから載らないって」
ペルゥ「そういえば人物紹介にも」
雪熊「シーッ」
色んなイベントが重なって一年かかってしまいましたが、なんとか三章終わらせることができました。読んでくださってありがとうございます。
次回から第四章です。「家政魔導士の冬」で、冬の冒険者達の生活や冒険の様子を書いていければと。




