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57 幕間十三 使い魔ルリィの日記

本編ではあまり日付の描写はないので分かりにくいですが、シルヴェリア編本編は十一月末~十二月初旬にかけての出来事です。ルリィの日記の日付は間違いではないですので一応……。

■十一月×日

 今日からシオリとアレクが二人で一緒に仕事をするらしい。シオリは嬉しそうだけど、アレクはもっと嬉しそうだ。ずーーーーっとにこにこにこにこにこにこにこ……ちょっと心配になるくらいに上機嫌だ。でも二人とも嬉しそうで良かった。一緒にシオリを護ろうね、アレク。

 クレメンスはまだ少し元気がない。クレメンスも頑張ってね! 色々!

 魔獣の雌ならいっぱい紹介できるけど人間の方がいいよね! だよね。


■十一月×日

 今日からシルヴェリアというところでお仕事。馬車で半日くらいのところだった。

 馬車、何度か乗ったことあるけど楽ちんだよね、これ。同胞達とこっそり乗って遊んだなぁ。一度だけ簡単には帰れないくらい遠い所まで乗っちゃって、大変な思いをしたこともあったのはいい想い出。あのとき一緒だった同胞達は皆元気かな。ペルゥは凄く元気みたい。

 シルヴェリアで待っていた依頼人は一人だけ凄く感じの悪い人がいた。シオリを呼んでおいて、さっさと帰れだって! ひどいなぁ。黒い虫みたいに頭からぺろんと……と思ったけど我慢我慢。シオリもそこまで気にしてないみたいだし、話はちゃんと聞いてくれたし、思ったほど悪い人でもないみたいだ。

 デニスという名前のあの人は、少し難しい事情のある人なんだと後でアレクがこっそり教えてくれた。でも何かあったらちゃんとシオリを護るから心配するな、だって。自分もシオリを護るよ! 

 依頼人のアンネリエという人は、シルヴェリアの塔まで行きたいらしい。冬は凄く危険な場所になるから、アレク達みたいな強い人が一緒じゃないと危ない場所だ。シオリを呼んだのは、寒い場所で何日か寝泊まりしても身体を壊さないようにしたいからなんだそうだ。デニスはアンネリエが凄く大事らしい。なんだかアレクがシオリを見るときとおんなじような顔してた。この人もアンネリエと番になりたいのかな?


■十一月×日

 シルヴェリアの塔に出発! 街からは近くて冬でも一日歩けば着く場所で、明るいうちに塔の近くまで行けた。

 それにしても、雪海月(スネ・マニエテル)は面倒だった。蒼の森の方にはいなかったから知らなかったけど、雪狼や大蜘蛛もびっくりするくらいに大きな群れだった。クレメンスが言うには、ドラゴンが二匹くらいすっぽり入るほどの大きさだって。ドラゴン見たことないけど……え、あの群れ一つとドラゴン二匹が同じくらいの大きさなの? 大き過ぎない? そんなに大きいの? 何それ怖い。

 雪海月は皆でさくっと片付けた。凄く強い雪熊もアレクとクレメンスにかかれば大したことはなかった。凄いなぁ。さすがだなぁ。

 シオリ達は休憩するらしいので、その間に腹ごしらえすることにした。倒したばかりの雪熊を食べてみたかったし。

 シオリに許可をもらってから雪熊の死体に近付いてみたら、先客がいた。渋い緑色のスライムで、なんだか下水道の爺さんに似ているなぁと思ったら、爺さんの同胞らしい。出無精の爺さんの代わりに各地を旅して色んな情報を集めてるんだって。

 雪熊の肉を一緒に食べた。人間には硬くて無理らしいけど、スライムにはご馳走だった。うーん、身が詰まってて食べ応えあったなぁ。内臓も味が濃くて美味しかった。

 雪海月は食べないのかと聞いたら、味がないし、ピリッとして変な感じで気持ちが悪いから好きじゃないと言われた。だよね! 戦闘中に何匹か食べたら、全然味がなくてぴりぴりっとしてびっくりした。ぴりぴりするのは毒のせいなのだそうだ。

 全部食べたらさすらいのスライムは行ってしまった。今度は王都の方に行くらしいので、桃色のスライムに会ったらよろしくとお願いしておいた。またね! 次に会ったら色々お話聞かせてね! 蒼の森のスライムとは種類が違うから通信できないのが残念だ。

 美味しくなくて残した雪熊の毛皮は、シオリ達のお土産にした。人間には価値があるものだって言ってたし。目のあたりが少し傷付いて汚れてたけど、持っていったら凄く喜んでもらえた。良かった。


■十一月△日

 食事の支度中にデニスがシオリを泣かせてしまった。いじめたのとは違うけど、アレク達は誤解したみたいだ。でも仕方ないよね。今まで態度悪かったし。

 シオリが泣いたのは嬉しかったからみたいだ。

 シオリはどこからどうやってこの国に来たのか誰も知らなくて、シオリもそれを上手に説明できなくて悲しがってるのは知ってた。地図に載ってないくらい遠い場所から来て、その場所のことを皆に信じてもらえるように上手に説明することができないらしい。本当にこの世に存在する場所だったのかどうかも自分でもよく分からなくなってきたって、凄く悲しそうに言われたことがあった。

 だから、その場所で作った想い出が本物だって認めてくれたデニスの言葉が嬉しくて、それで泣いてしまったようだ。嫌な奴だと思ってたけど、アレクやザックでもできなかったことをしたデニスは凄いと思った。今までしたこともちゃんと謝ってくれたし、やっぱり悪い人じゃなかったなぁ。良かった。

 それにしても、前から思ってたけどシオリって不思議な人だ。皆も不思議だと思ってるみたい。物知りで凄く豊かな場所で暮らしていたらしいシオリは、深い森の中に突然現れたってザックも言ってた。空から降ってきたみたいに何もないところから急に現れたらしい。なんだか人間が言う天使様みたいだと思った。

 シオリはシオリなんだから、今までどこで何をしていた人かは知らなくてもいいと思ってたけど、それはちょっと気になるかも……。いつか教えてくれるかな。


■十二月×日

 シルヴェリアの塔に着いた! 中は結構ぼろぼろだったけど、真っ白でピカピカして綺麗な塔だ。魔獣もそれなりに強いのはいたけど、アレク達ならなんてことはなかった。皆やっぱり強いなぁ。自分も時々戦闘参加したけど、ちょこっとお手伝いするだけで済んだ。

 でも、先に来ていた人間達は嫌な感じだった。デニスの嫌な感じとは違って、皆を殺そうとする感じの嫌な雰囲気で自分も警戒色に変化したくらいだ。アレク達の敵じゃなかったけどね!

 でも、悪い奴は一人だけで、あとの二人はそうでもなかった。地面にスライムみたいに平たくなって物凄くお願いされたから、ご飯を少しだけ分けてあげたら大人しくどこかに行った。うーん、お腹が空いてたのか。お金をあんまり持っていなくて、ご飯をあんまり用意できなかったらしい。でもシオリ達を傷付けたら許さないからね!

 シオリが嫌なことを思い出したみたいで真っ青になったから、やっぱり許せないかな! 食べてやろうかな! 食べないけど! お腹一杯だし。


■十二月×日

 シルヴェリアの塔の頂上に着いた。アンネリエが来たかった場所なんだって。デニスを連れて何か大事な話をしにいった。なんだろうと思っていたら、二人が番になるためのお話をするんだそうだ。色々事情があって簡単には番になれないんだって。人間にはそういうことが沢山あるんだそうだ。難しいなぁと思ったけれど、「魔獣でも群れの最上位と最下位が番になったりってあんまりないでしょ? そういうことだよ」ってバルトが教えてくれた。

 なるほど。確かにそうかも。そういうのは人間も魔獣も同じだ。でも好き合ってるなら頑張って一緒になれるといいなと思っていたら、二人は沢山沢山お話して、それで番になるって決めたようだ。良かったね! いっぱい幸せになってね!

 夜はシオリ特製のお祝いのご飯だった。自分は運ぶのを手伝った一角兎の残ったところを全部もらった。うん、雪熊も良かったけど一角兎も内臓と血が美味しいんだよね。味が濃くてぷりっぷりで最高だった。また食べたいな。今度また「使い魔の宿り木亭」に連れていってもらおう。街でならあの店で一角兎が食べられるし。


■十二月×日

 今日は大変な一日だった。最初はのんびり素材を回収しながら塔を降りていくだけだったのに、あの変な人達のせいでシオリ達がずぶ濡れになってしまった。水が沢山溜まってた部屋を無理に開けて、噴き出してきた水で皆びしょびしょ。溺れないように慌てて皆を飲み込んで上まで運んだけど、やっぱり濡れちゃったなぁ。でも皆褒めてくれた。すごーく疲れたけど、お役に立てて良かった!

 身体を冷やしたら病気になるから、シオリが急いでお風呂を作ってくれた。うーん、自分は寒いのは平気だけど、やっぱり温かいお風呂も気持ち良くて好きだなぁ。皆温まったら元気になったみたいだ。

 大変な目に遭ってアンネリエは疲れたみたいだから、休んでもらっている間にシオリとアレクと一緒に水浸しになった場所の偵察に行った。水溜りになってた三階の水を抜いたら沢山魔法石が出てきたから、ご褒美に一つもらった。赤くてつやつやしてて綺麗な石だ。ほかほか温かくてシオリに抱き締められているときみたいに幸せな気分になれるから嬉しい。ありがとうアレク! 大事にするよ!

 先に進んだら、あの変な三人組の一番嫌な奴が途中で死んでいた。自分達を殺そうとするくらい嫌な奴だったのに、なぜかシオリとアレクは少しだけ悲しそうだった。こういうところも人間の不思議なところだ。人間が同族を悼む気持ちというものはとても複雑なんだと前に下水道の爺さんが教えてくれたことがある。自分にはよく分からない。そのうち分かるようになるのかな?

 途中で拾った二人はまだ生きていたから連れていくことにしたみたいだ。そんなに悪い感じはしなかったから、いいんじゃないかな。死にそうだったけど、沢山温めてあげたら少し良くなったみたいだ。良かったね! 一晩しっかり休んで、明日出発。

 でも、シオリの「落ちてきたのがこの国で良かった」ってどういう意味かな。本当に空から降ってきたのかな? 本当に天使様かな。アレクはよく俺の女神とか独り言言ってるけど。


■十二月×日

 昨日拾った二人が熱を出した。このままだと本当に死んじゃうかもしれないから、急いで出発することになった。最初はアレク一人で街まで行って、騎士隊を連れてくるって言ってたけど、皆で協力して二人を運ぶことになったから大丈夫。自分も運ぶよ! シオリを運んだことあるから平気だよ!

 それにしてもユーリャって人、シオリより背は大きいのにシオリよりずーっと軽かった。あんまりご飯食べれてなかったっていうからこんなに軽いのかな。元気になったらご飯沢山食べられるといいね。頑張って運ぶから死なないでね。

 途中までは結構順調だった。でも、街に近くなってきたかな? というときに変な魔獣に会った。見たことがない真っ白で大きな猿みたいな魔獣だ。雪男(スネ・トロル)といって、幻獣と呼ばれているとても珍しい魔獣らしい。凄く強そうだ。人間の中でも特に強いアレク達を見ても、にこにこ笑ってなんだか楽しそうだった。余裕だなぁ。

 戦いは皆に任せて、自分はフロルとユーリャを護ることになった。「スライムに護られるなんて、本当に人生分からんもんだな……」とかなんとか、フロルがぜえぜえ息切れしながらぼそぼそ言ってた。そうだね! シオリ以外で運んであげたのは二人だけだから、レア体験だよ! 

 それにしても雪男はびっくりするほど強かった。凄く強いアレク達が少し焦るくらい強い魔獣だ。力持ちのアレクとクレメンスがぶっすりと剣を刺してたのに平気そうだし、ナディアの魔法でもびくともしなかった。剣でも魔法でも平気だなんてずるいなぁ。おまけに口から氷魔法吐くし。

 そうこうしているうちに、雪海月まで出てきた。やだなぁ。あれって数が多くて大変なのに食べても不味いからあんまり好きじゃないんだけどなぁと思ってたら、ナディアとシオリがやっつけてくれた。シオリって、いつも自分のこと弱いっていうけど、いざとなると強いと思う。アレク達に手伝ってもらって雪男に止めを刺したくらいだし。もっと自信持って欲しいなぁ。

 でも、雪男もお風呂に入って死ぬなんて変わってるなぁと思った。どうやら熱さに弱いらしい。あんなに気持ちいいのに入っただけで死んじゃうなんて大変だなぁ。リヌスがよくお風呂に入りながら「極楽極楽~♪」とか言ってるけど、本当に極楽行っちゃうなんてさすが幻獣だと思った。

 ところで雪男って美味しいのかな。バルトも気になるみたいだ。デニスには呆れられていたけど、やっぱり気になるよね雪男のお味。バルトともいい友達になれそうな気がする。

 ……雪男は後で騎士隊が調べるかもしれないから食べられなかったけど。


■十二月×日

 街に帰ってきてご飯食べてから先の記憶がない。気がついたら朝だった。あれ? 朝というよりお昼だった。お昼ご飯はアンネリエ達と特別なご飯を食べた。美味しかった! フロルとユーリャも元気になったらきっと美味しいご飯が食べられるよ! 二人とも元気になって、いつか故郷に帰れるといいな。あんまりご飯がないところらしいから、沢山美味しいものが作れるくらい頑張って働くんだって。頑張ってね! 応援してるよ!

 シオリはアンネリエと友達になった。デニスとバルトも友達になった。アンネリエ達はシオリ達と一緒に冒険して、大事なものを手に入れたらしい。シオリも大事なものを沢山持ってたことに気が付いたらしい。シオリはなんだか嬉しそうで幸せそうだ。嬉しいって思えることが増えたみたいで自分も嬉しい。良かった。この調子でいっぱいいっぱい幸せなこと見つけて欲しいな。大事な友達だから、もっともっと幸せになって欲しいな。


■十二月×日

 何日かお仕事したから、何日かお休みだって。ゆっくり休んで次の仕事に備えるのも冒険者の仕事らしい。

 シオリはまだ少し疲れてるみたいで、アレクがマッサージをしてあげていた。シオリは凄く気持ちよさそうだ。アレクも真っ赤になってなんだか息切れしてたけど、こっちも気持ちよさそうだ。いや、気持ちいいのかな? ちょっと息切れし過ぎじゃないかな? 森で交わってた人間みたいな感じになってるけど、ここは森じゃないしなぁ。

 マッサージが終わったらシオリは寝てしまった。アレクは慌ててお風呂にすっ飛んでいった。一生懸命マッサージして汗でもかいたのかな?

 途中でシオリにお手紙を持ってきたザックもなぜか真っ赤になっていた。大丈夫かな? 熱でもあるのかな? 若くないんだから身体は大事にしてね! 帰ったら早く寝てね!


■十二月×日

 ペルゥから連絡がきた。

 え!? 人間って森で交わるもんじゃないの!? 違うの!? それは特殊なんだ!? 本当はお部屋に隠れてこっそりするんだ!?


■十二月×日

 シオリに届いたお手紙はアンネリエからだった。なんだか難しい問題が解決したとかでお礼をしたいそうだ。今度一緒に食事をするらしい。凄くいいお店で凄く美味しいご飯らしい。それは楽しみだなぁ!


■十二月×日

 今日はアンネリエとお食事会だった。

 とってもいいお店に行くから、シオリとアレクはいっぱいお洒落して行った。なんだか二人ともいつもと雰囲気が違う感じ。シオリは「格好良過ぎて直視できない……」って真っ赤になってしまった。アレクは「可愛い過ぎていくらでも眺めていたい」ってにこにこにこにこにこにこにこにこ……大丈夫?

 とってもいいお店では美味しいお菓子をもらった。これエナンデルとかいうお店のお菓子だ! 美味しくて大好き! ありがとう!

 お菓子を食べている間にシオリとアレクが森で交わってた人間みたいな雰囲気になった。え、今交わるの? 見てていいのかな? いいなら見てるけど。と思ったら違った。アレクが悪戯して遊んでただけみたいだ。そっか。そうだよね。ここだとあんまり隠れてないものね。

 アンネリエ達と食べるご飯は本当に美味しかった。シルヴェリアで食べた肉料理も美味しかったけど、ここのお店のも凄く美味しい。また今度来たいなぁ。

 帰りの馬車の中で、シオリとアレクは正式な番になる儀式をする約束をしたみたいだ。人間にとって大切な儀式らしい。二人とも大事な問題を解決したら、正式な番になるんだって。そっか。二人とも何か隠し事してるのは知ってるから、きっとそれを解決するんだと思う。早く解決できるといいな。解決して二人ともいっぱいいっぱい幸せになってね!

ルリィ「森で交わってた人間みたいな空気になることが増えてきた」

ペルゥ「城では結構あるよ。居住区をお散歩してたら声が聞こえたことが」

雪男「……スライムのピュアさはときに残酷な気が」


うん、まぁ、居住区ならいいんじゃないかな。仕事中とか行政区画とかなら問題だけど。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 133話(第3章 51 幕間7)で 雪男との遭遇日時が王国歴977年12月1日となっていますが、ルリィの日記では塔に着いた日には12月になっているので塔を出て、雪男と遭遇した日は12月…
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