48 幕間四 使い魔ペルゥの日記
桃色だけにピンクっぽい話多めかもしれない。
■十一月△日
王都に着いた。大きくて綺麗な建物がいっぱい! 美味しそうな匂いのするお店もいっぱい! 凄いなぁ広いなぁ大きいなぁ。
新しくできた友達のオリヴィエルの家も大きいのかなぁとわくわくしてたら、物凄く大きな家だった。蒼の森の近くにあった村がすっぽり入りそうなくらいに大きい。前に何回か行ったことがあるトリスで見た一番大きな家よりも、もっともっと大きかった。この国で一番大きな家でお城というらしい。
凄いなぁ。住んでる人も沢山いて凄いなぁ。
黒い虫も沢山いるなぁ。狩りのし甲斐がありそうで楽しみだ。
■十一月△日
オリヴィエルと使い魔契約をした。
「本音を言えばシオリ女史とルリィ君のように普通の友人でいたいのだけれどね。こんなに可愛らしい君を他の誰かに奪われたら困るから、使い魔契約させてほしいんだ。いいかな」
いいよ! エドヴァルドは「いやぁ、そんな奴はいねぇんじゃねぇかな」って何かぶつぶつ言ってるけど。
■十一月△日
お城の生活に少し慣れてきた。初めて自分を見た人は皆びっくりしてたけど、少しずつ仲良くしてくれる人も増えてきた。まだ怖がって近付かない人も沢山いるけれど。
オリヴィエルは王様なんだそうだ。この国で一番偉い人で、国のために働いている人なんだって。毎日凄く忙しそうだ。自分の前では楽しくて面白い友達だけど、仕事中のオリヴィエルは凄くきりっとしてて格好いい。お城の人達にも好かれているみたいだ。オリヴィエルの番の王妃様もオリヴィエルのことが大好きなんだって。オリヴィエルも彼女のことが大好きみたい。仲良しなのはいいことだ。
そういえば、桃色の同胞経由でルリィから連絡があった。ルリィの友達のシオリとアレクも番になったみたいだ。毎日凄く仲良くしているらしい。良かったね! 子供もすぐ沢山できそうだね! オリヴィエルには四人子供がいるから同じくらいできたらいいね。って思ったけどナニもないみたいだ。そうなんだ?
■十一月△日
お城で暮らすには礼儀正しくした方がいいらしい。だからルリィに教わった挨拶をしてみることにした。しゅるっと触手を出してする挨拶。
やってみたら、「可愛い!」って言ってもらえた。今まで怖がっていた人も少しだけ近付いて来るようになった。うーん、なるべくならもっといろんな人と仲良くしておきたいなぁ。挨拶の練習しておこう。
■十一月△日
オリヴィエルの友達のエドヴァルトが訪ねてきた。エドヴァルドは偉い騎士らしい。でももう少ししたら騎士はやめて、お城でオリヴィエルと一緒に働くんだって。
ルリィに教わった挨拶をしてみたら、凄く驚かれた。
「お前、すげぇな。挨拶できんのか」
今までは胡散臭そうに見られてたけど、挨拶したら少しだけ仲良くなれた気がする。うーん、挨拶って凄いな。人間同士では挨拶ってとても大事なんだって。
「あーでも、親しい奴とならそれでもいいけどよ、オリヴィエと一緒にいるつもりなら宮廷式も覚えた方がいいぜ」
場所や相手によって挨拶の仕方を使い分けた方がいいらしい。そうなのか。挨拶にも色々あるんだなぁ。
その宮廷式の挨拶を教えてもらった。胸に手を当てて、ぺこんって頭を下げるようだ。うーん、スライムの自分にもできるかな。少し難しそうだから練習しておこう。
■十二月○日
宮廷式の挨拶凄いな!
練習しておいた宮廷式の挨拶をしてみたら、女の人達にきゃあきゃあ言われた。凄く可愛いって! 嬉しいな! 男の人達にも可愛いって言われた。仲良くなった人が増えた。頑張った甲斐があったなぁ。
オリヴィエルにも凄く褒められた。ご褒美に使い魔用のお菓子をもらった。なんだこれ! 凄く美味しい!
■十二月○日
オリヴィエルのところにエドヴァルドのお父さんが訪ねてきた。フレードリクという名前の人だ。オリヴィエルのお父さんの友達だった人だって。時々お仕事の助言をしに来ているらしい。
休憩中に自分の身体を二人で撫でながら、何か凄く難しそうな顔をして話し込んでる。
「ううむ……この感触はやはり女子の尻ではないかと。この丸い絶妙な曲線がなんとも……」
「そうだろうか。僕はやはり御婦人の豊満な乳房のようだと思う。このしっとり吸い付く感じが……」
二人とも凄く真剣だ。尻とか乳房とか言ってるから、きっとお城の農場で飼ってる牛のことを話し合ってるんだと思う。蒼の森の近くの村でも、村の人が牛のお尻や胸を撫でながら「肉質が……」とか「乳量が……」とか言ってたし。
「尻が……」
「乳房が……」
うーん、二人とも熱心だなぁ。こんなに熱心に考えて育てた牛ならきっと美味しくなるよ。楽しみだなぁ。
■十二月○日
オリヴィエルが「今日は遊びに行ってきてもいいよ」と言ってくれた。自分はオリヴィエルと一緒にいるのが一番楽しいんだけど、せっかくだから下水道のマダムの慰問に行くことにした。お城の地下を流れてる下水道の浄化用に改良されたスライムで、紫色の妖艶なマダムだ。
大分長いことここで仕事してるらしいので飽きないかと聞いたら、上げ膳据え膳で生命の美と神秘について考えていられる生活は最高よ、と言われた。考え方はスライムそれぞれだなあと思った。
■十二月○日
今日はベルンハルドと遊んだ。ベルンハルドはオリヴィエルの一番目の子供で、あと何年かしたら成人するらしい。将来は王様になるんだって。
なんだか凄く真剣な顔で「ペルゥ、頼みがあるんだが。聞いてもらえるだろうか」って言いながら、ベルンハルドの部屋に連れていかれた。触らせてほしいらしい。そんなことならいつでもどうぞ!
「ありがとう! ……こ、これが……御婦人の……」
うーん、ベルンハルドも牛の育ち具合が気になってるのか。でも自分の身体を触りながら考える意味、あるかな?
「す、すまないが……その、こう、山を二つくっつけたような形に……なってもらえるだろうか」
いいよ! なってあげたら、なんだか顔を真っ赤にしながらぷよぷよと身体をつついていた。牛の乳が好きなのかな。あれって美味しいよね! お城に来てから食べた新鮮な牛の乳で作ったシチュー、大好物になった。
しばらく触ったら満足したみたいだ。「ありがとう、癒されたよ」って言われた。役に立てて良かった。でも顔が赤いままだけど大丈夫かな。
■十二月○日
夕方お仕事が終わってから、オリヴィエルに「今日はどうだった?」って訊かれた。お散歩楽しかったよ! マダムに色々教えてもらったし、お城の人達にお菓子もらったし、厨房で黒い虫退治したら凄く喜ばれたし。
オリヴィエルは楽しそうに話を聞いてくれたけど、なんだか少し疲れてるみたいだった。お仕事が大変だったみたい。なので、自分の身体を触らせてあげることにした。ベルンハルドも癒されたって言ってたし、少しでも癒しになれるといいなと思った。せっかくだから、ベルンハルドのときみたいに山を二つくっつけたような形になってあげたら、大笑いされた。
「へぇ、面白いね! まるで御婦人の胸みたいじゃないか」
笑いながらオリヴィエルがぷよぷよと身体をつついてる。なんだか気に入ってもらえたみたいで良かった。これで癒されるといいな!
途中で王妃様のセシリアが部屋に入ってきた。「まあ陛下、こちらにいらしたの……」って何か言いかけたセシリアが急に怖い顔になった。なんだか凄い殺気だ。
「……何をしているオリヴィエ。ペルゥ相手に卑猥な遊びとは、随分と崇高なご趣味をお持ちのようだな?」
言葉遣いも少し変わった。噂に聞く騎士様モードだ。騎士様モードのセシリアは格好良くて、お城の女の人達にも大人気らしい。昔は騎士様だったそうだ。
でもせっかく格好良い騎士様モードになったのに、オリヴィエルは真っ青になった。
「最近書類仕事が多くて身体が鈍っているだろう。たまには打ち合いでもしようじゃないか」
「え、あ、いやこれはその」
「遠慮するな。ペルゥ、少しこいつを借りるぞ。お前はゆっくりしているといい」
オリヴィエルはセシリアに引きずられて行った。
行ってらっしゃい! 剣の稽古、頑張ってね! 気分転換してきてね!
■十二月○日
仕事の打ち合わせでエドヴァルドが訪ねてきた。オリヴィエルと真剣に話し合ってる最中に黒くて艶々した虫が出て来たので、しゅっと取って飲み込んだら、エドヴァルドが真っ青になってぶっ倒れた。大丈夫!? 疲れてるの!?
■十二月○日
昨日のエドヴァルドのことを桃色の同胞経由でルリィに訊いてみたら、あの黒い虫は悲鳴を上げるほど嫌いな人間が多いから、やるなら誰も見ていないところでやった方がいいと言われた。
そうなのか。次からは気を付けよう。
■十二月○日
今日はベルンハルドと一緒に寝る日。
いつもはオリヴィエルとセシリアと一緒の寝台で寝ているんだけど、今夜は二人でいいことをするんだそうだ。見られると恥ずかしいって言ってたけど、ずっと前に森で交わってた人間は恥ずかしそうじゃなかったなぁ。色んな魔獣に見られてたのに。
というか、人間は森でするものだと思ってたから、二人が寝台ですると聞いて驚いた。森じゃなくていいのか。
■十二月○日
下水道のマダムが、森で交わる人間というのはかなり特殊だと教えてくれた。普通は部屋の中でこっそりするものらしい。そうなのか。マダムは物知りだなぁ。後で皆に連絡しておこう。
■十二月○日
今日は何か凄く悪いことをした人を調べる日らしい。嫌な感じがして真っ赤な警戒色になっていたら、オリヴィエルに凄く驚かれた。
「へぇ……これが話に聞く警戒色か。なるほど、つまりイスフェルト伯爵は僕に害意があるということなんだね」
悪いことをした人はイスフェルト伯爵というらしい。蒼の森で雪狼に酷いことをした人の仲間なんだそうだ。それは確かに凄く悪い人だね! オリヴィエルには指一本触れさせないから安心してね!
調べてる最中にその人がオリヴィエルに襲い掛かろうとしたから、ぺろりと飲み込んでやった。このまま食べてやってもいいんだけど、オリヴィエル達に殺してはいけないと言われたから我慢した。
凄く暴れて逃げようとするから、我慢する代わりにその人の服だけ溶かしてやった。人間は服を着ていないと動けなくなるって聞いていたけど、本当だった。裸になったその人は、なんだか前を押さえて蹲ってしまった。うーん、凄いな。今度からオリヴィエルに悪いことをしようとした奴はこうやって捕まえれば良さそうだ。
それにしても「禁制品密輸入罪と暗殺未遂罪に加えて、わいせつ物チン列罪か……」って近衛騎士が呟いてたけど、どういう意味だろう。人間の言葉は難しくてよく分からないものが多いなぁ。
イスフェルト伯爵は泣きながら連れていかれた。泣くくらいなら悪いことしなければいいのにと思った。
■十二月○日
毎日がとても楽しい。オリヴィエルと友達になれて良かった。
今度自分の肖像画を描いてくれるらしい。楽しみだなぁ。後で同胞に自慢しよう。
ルリィ「わいせつ物……」
ペルゥ「わいせつ物……」
雪男「わいせつ物ですか……」
「っぶしっ」
「あれ、アレク、風邪? 大丈夫?」
「うぐ……誰かが噂している気がする」
下品な話で面目次第もございません。




