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「ああそうだ、これを」
和やかに食後の談笑を楽しむ中、ふと思い出したようにアレクが懐から小袋を取り出した。シルヴェリアの塔で拾った魔法石を詰めたそれ。盆の上に中身を開けると、小さな歓声が上がった。
「わぁ……綺麗だなぁ」
「真っ赤な石……これ、もしかしてあの開かずの間の?」
「ああ。火の魔法石だ」
懐炉がわりにいくつか作っていた小袋を全て盆に開けると、赤い小山になるほどの量だった。
「こんなにあったのか。これは結構な額になるのではないか」
一粒つまみ上げてクレメンスが呟く。アンネリエ達もそれぞれに一つ二つを手のひらに載せて興味深そうに眺めた。ルリィはアレクにもらって大事にしまい込んでいた魔法石を取り出し、触手でつるつると撫でまわして遊び始めた。
「拾ったはいいが、あの後の騒ぎで出しそびれてな。クレメンスの言うとおりそれなりの金額になりそうだから、依頼人殿に相談した方がいいかと思ってたんだが」
ギルドの規定では、依頼での冒険中に入手した物については基本的には冒険者側が引き取ることになっている。しかし貴重なものや高額になりそうなものについては、依頼人と相談の上で扱いを決める方針だ。
「考えたんだが、今回は均等に分配してはどうかと思っている」
「あら、いいの? ほとんど半分よ? 多過ぎやしないかしら」
「……大丈夫。だって」
シオリは笑った。
「三人とも大活躍だったもの。アンネリエ様……アニーは新種かもしれない貴重な魔獣のスケッチを残してくれたし、デニスとバルトは帝国人を街まで運んでくれた。それにデニスは塔であのまま死のうとしたフロルさんを説得してくれて、私の……証明できなかった過去を肯定してもくれた」
「そうさ。それにねえ」
シオリの言葉を引き継いでナディアが言う。
「おめでたい祝い事だってできたんだものさ。記念に持っていっておくれよ」
三人は視線を交わし合い、そして笑顔で頷いた。
「そういうことなら遠慮なく頂くわ。ありがとう、皆さん」
アレクの手で魔法石が分けられていく。
「……意外に丸いのね。原石はもっと石っぽいのかと思っていたわ」
分配された魔法石を手のひらで転がしながら、アンネリエが言う。
「生成環境が良かったんじゃないかな。普通は小石のような形なんだけど」
魔獣の体内で生成される魔法石は、大抵は石のような歪な形だ。ただ稀にこうして加工品のように球体に近いものを落とす魔獣もいる。
「そうなのね。それにしてもなんて綺麗な深紅……」
指先でつまみ上げた魔法石を光にかざしてうっとりと見つめたアンネリエは、ほう、と息を吐いた。
「――私、赤色って好きよ。激しく燃え上がるように苛烈で、でもどこか優しくて温かい……」
「おやまぁ。そいつは惚気かい?」
言いながらナディアはちらりとデニスに視線を走らせ、その意味するところを察してアンネリエは頬を染めた。
「あ……そういう意味ではなかったのだけれど、でも、ええそうね、そうかもしれないわ」
何のことだというように怪訝な顔をしていたデニスも、一拍遅れて赤くなる。こちらも理解したようだ。
初々しい二人を揶揄い、そして祝福する笑い声が室内に満ちる。
「さて……じゃあ、名残惜しいが」
ひとしきり笑い合ったところで、アレクは言った。
「俺達はそろそろ戻ろうかと思う」
――短いながらも色々あった、そして新たな友人を得たこの旅は、終わる。
「……まぁ、そうなの? もう疲れはとれたのかしら。あと一晩くらいは泊まっていくものだと思っていたわ」
アンネリエは寂しげに眉尻を下げた。
「疲れてるといえば疲れてるけど、でも、慣れてるから」
「そうさね。それに、仕事は尽きないしねぇ」
「はー……凄いなぁ。さすがプロ」
「……そうだな」
しみじみと言いながらバルトが苦笑し、そしてデニスと顔を見合わせる。デニスは足を摩りながら続けた。
「実を言うと、今朝から筋肉痛が酷くてな」
だから朝食会の給仕は宿の者に任せたのだと彼は言って眉尻を下げた。
「とてもじゃないが今日は馬車に乗れる気がしないんだ。せめてあと一日は休まないと厳しい」
「野外活動は慣れてるつもりだったけど、さすがに重労働だったもんなぁ。ああ、それにあの筋力増強の魔法のせいもあるのかな」
かもな、と言ってアレクも苦笑いする。
「あの魔法は体力を前借りするようなものだからな。無理をせず、ゆっくり身体を休めてくれ」
「ええ、そうするわ。二人とも私の我儘に付き合せたようなものだもの。帰るのはゆっくり休んでもらってからにするわ。帰ったら忙しくなるでしょうしね」
婚約の発表、婚礼の準備、それに伴う使用人の配置換えや周囲への根回しなどやることは沢山あるのだ。祝い事とはいえ、様々な柵や習わしが多い貴族だから楽しいことばかりではないだろう。この二人の場合は特に。
でも、きっと二人は乗り越えていけるはずだ。あの厳しい旅を超えた先でわだかまりを解き、そして生涯を共に生きると決めた二人なら、きっと。
依頼票にアンネリエのサインをもらい、それを確かめてから大切に手帳に挟む。
「……あ。見送りはここでいいよ。無理しないで」
――辞去するシオリ達を見送るために、一緒に階下へ下りようとする三人を押し留めた。特にデニスとバルトの筋肉痛が辛いだろうから。
「じゃあ申し訳ないが、そうさせてもらう。一度下りたらまた上ってこれそうもない」
二人は苦笑しながらも頷いてくれた。
「……ああ、寂しいわ。でも、きっと会いに行くから」
アンネリエがシオリを抱き締める。ふわりと淡い薄荷の香りが鼻を掠めた。彼女らしい爽やかで清涼感のある香りだ。
「……うん。私も、会いに行くよ。それに手紙も書くから」
「ええ、待ってるわ。約束よ。皆さんも、本当にありがとう」
「世話になった。また、いずれ」
「気を付けて帰ってくれよ」
仲間達も三人とそれぞれに握手を交わし、そして別れを惜しむ彼女達に見送られて――宿を後にした。
馬車は街道を滑るように走り出し、シオリは窓から遠ざかる街を、塔を抱く森を――その姿が雪景色に紛れて見えなくなるまでずっと見つめていた。
シルヴェリア。
ストリィディアの古語で白銀を表す言葉を名に戴くその土地は、これから迎える新しい季節が鮮やかに描かれていくのを待つかのように、キャンバスのような白一色に輝いていた。
――時刻は十六時をいくらか回った頃。
夜の帳が降りて世界が宵闇に沈みきった中、馬車はトリスの街に到着した。組合前で停車した馬車は四人と一匹を降ろすと、静かに走り去っていく。
「ただいまぁ」
冬で日没時間は早いが、組合の営業時間は年間を通して変わることはない。すっかり夜になっていたけれども、同僚はまだ何人か残っていた。
「おう、お疲れさん」
職員とともに一日の業務を閉める作業に入っていたザックが顔を上げて笑顔を見せる。
「その様子だと無事終わらせたみてぇだな」
「うん、おかげさまで」
荷を降ろして依頼票を差し出すと、ザックはそれを受け取って目を走らせながら満足そうに頷いた。
「満足度は最高評価か。よくやったな。あいつ――デニスっつったか。大丈夫だったのか?」
「ああ……」
一度打ち合わせに訪れたときにもかなり面倒を言ったらしいから、何か面倒事が起きはしないかと気にしていたようだ。
確かに最初は多少面倒なことにもなったけれど。
「大丈夫。悪い人じゃなかったよ。友達になったし……それに素直で可愛い人だった」
「ああ? 友達ぃ? 可愛いだぁ?」
ザックは目を見開いてそう言ったきり絶句する。その様子にアレク達と視線を交わして笑い合う。
それはそうだろう。大分面倒を言った上に準備面でも不安が残る打ち合わせだったと言っていたから、それがどうして友達になって、それも可愛いなどという評価が出てくるのか疑問に思うのも無理はない。
「……色々あってな。まぁ……あいつなりに事情があったということだ。シオリに無礼を働いたときにはどうしてくれようかと思ったが、なかなか気骨のある男だったぞ」
言いながらアレクがシオリの頭を撫でていく。
どういうことだと視線で促すザックに、この旅での出来事をかいつまんで説明した。
初対面でのデニスとのやりとりや、道中の様子、帝国人との遭遇に、シルヴェリアの塔の内部状況、そしてアンネリエの目的、水難事故、病人の保護。
帝国の冒険者との接触や水難事故のくだりでは険しい顔をして聞いていた彼も、デニスの事情には多少なりとも――ほんの僅かではあったけれども同情を示し、そして幻獣と呼ばれている雪男との遭遇には驚きを見せた。
「なるほどな。もしこれが本物だと実証されたら、こいつぁちょっとした騒ぎになるな」
未確認魔獣の話題とあって、ザックが低めた声で呟く。
「うん。だから詳しいことが分かるまでは外部に口外しないようにって」
計測器で経験値を測定しながらシオリは苦笑した。
安全維持と危険回避のために騎士隊や冒険者組合ではある程度の情報共有がされることにはなるけれど、未知の魔獣の存在が外部に漏れれば騒ぎになるのは目に見えている。住民にも余計な不安を与えることになるだろう。あの魔獣の正体が確定し、攻略法が周知されるまでは口外しないほうがいい。
「だろうな。もっとも公表されたらされたで、結局は新聞社やら興味本位の連中やらが押しかけることになるんじゃねぇか。経験値目当ての馬鹿も出るだろうしよ」
そちら方面の処理の依頼が増えそうだと、ザックは赤毛の頭をがしがしと掻きながら苦笑した。それから何気なくシオリの測定結果を覗き込み、そして、お、と小さく声を上げた。
「随分入ってんじゃねぇか、経験値」
「ほう? 見せてみろ」
「どれどれ……おや」
「わっ……ちょっと皆」
後ろからアレク達に押されながらも測定結果を見せる。針は目盛の最大値よりもやや下回る位置を指し示していた。
「これは……あれだな。雪男の分か」
「……多分。凄い、こんなに。故障とかじゃないよね?」
経験値を数値化して計測する測定器は故障でとんでもない数値を出すこともあるのだ。
「いや。あれに止めを刺したのは君だ。このくらい入っていてもおかしくはない。どれ、私も計ってみよう」
言いながらクレメンスが同じ計測器で測定を始めた。針は目盛の四分の一辺りまで上がって止まる。彼のレベルはシオリよりは遥かに高いから、同じ魔獣と戦っても得られる経験値は少なめだ。
「ああ、やはりな。一角兎の変異種と雪男との戦闘分を含めればこんなものだろう。大丈夫だ。故障ではない」
クレメンスは切れ長の碧眼を細めて微笑んだ。
「そう……ですか。良かった。嬉しい」
「……よし、経験値加算しといたぜ。おめでとさん。レベルアップだ」
「わぁ。ありがとう、兄さん」
「やったな。おめでとう」
「うん、ありがとう、アレク。やっぱり大物を倒すと違うね」
かなり微妙な倒し方ではあったけれど、それでも最終的に止めを刺したのは自分なのだ。戦闘で得た経験値というものは大きい。後方支援でも勿論入るが、魔獣と直接戦って得たものとは比べるまでもなく小さいものだ。
これは経験値測定器が前衛職を基準に設計されているからにほかならない。最近では後方支援職専用の測定器の開発も進められているようではあるけれど、前衛職以上に職業が多岐に渡っていて評価基準が定めにくいらしく、まだまだ実用化には程遠いようだ。
それが――魔獣と戦うことは少ない後方支援職のレベルが上がりにくい理由であり、問題点でもある。それゆえに前衛職と同じパーティで同じように活動していたとしても、彼らよりはどうしてもレベルは低い。にもかかわらず、冒険者としての貢献度はパーティ内での評価を除けばほとんどが依頼者側の満足度や好感度によって決められるため、前衛職とほぼ同等の評価を得ることができる。
この結果起こるのが、後方支援職はレベルは低いが冒険者ランクは高いという現象だ。
実際シオリもレベルだけを見ればBランクとは思えないくらいに低い。シオリと同じランクの治療術師エレンも似たようなものだし、Aランクを保持している薬師のニルスなどは完全に戦闘不参加とあって、シオリ達よりもさらに低い。
低レベルにもかかわらず冒険者ランクは高いというアンバランスな状況――後方支援職に不快感を抱く前衛職が多い一因にもなっている。彼らの偏見の根底にあるのは「ずるい」というどうしようもない考えだ。
経験値測定器の開発を進めるよりはいっそレベル制を廃止し、ランク制のみに絞るべきではないかという意見もある。
ただ、蓄積していく累積数値データで自分の働きを確認することができるレベル制はやる気にも繋げやすい。そして仲間や依頼者の主観的な意見に頼るランク制は、公平性に欠けるといった問題点もある。
どちらを取っても一長一短。レベル制とランク制の利点を取り入れた新しい評価システムを考えるべきではないかという意見もあるが、時間は掛かってもこちらの方が遥かに現実的かもしれない。冒険者組合発足当時に導入されたこのシステムは、今ほど職業が多岐に渡っていなかったからこそ成り立つものだ。古い時代の仕組みは今後少しずつでも変えていくべきだろう。
「後衛職でも支援系は本当にレベルが上がりにくいからねぇ」
ナディアが美しい眉を下げ気味にして呟いた。ザックとクレメンスも何かを思い出したのだろう、どこか険しさを帯びた表情になった。
――【暁】の事件。レベルが上がりにくいがゆえのその問題点を悪用して、当時の組合マスターはシオリの経験値や査定結果を改竄した――。
もともとが少なかった経験値をさらに少なく見せても疑う者は多くはない。
シオリのときだけ壊れた計測器を使い、経験値を実際よりも少なく計測しても疑う者はほとんどいなかった。
【暁】が受ける依頼も外部から依頼されたものではなく、組合が依頼者になっている討伐系のものばかりだった。その結果を評価するのはマスターの仕事だ。だから――シオリの評価や査定結果を低くすることは容易だっただろう。
異変に気付いたザックはSランク保持者の権限を使って本部に直接掛け合い、マスター絡みの不正の可能性があるとして調査員の資格を得て、本来はマスターや事務職員しか見ることができない個人情報を入手した。
『経験値の推移と査定結果の数字が不自然だ』
【暁】メンバーとシオリの書類を調べ、改竄の可能性に気付いたのはクレメンスだったらしい。生家が商家とあって少年時代から数字の多く並ぶ書類に慣れ親しんでいた彼は、ほんの僅かな違和感から改竄を見抜いたようだ。
そこから分かったのは、シオリが【暁】に加入する前から既に、少しずつ査定に手が加えられていたということ――。
(……ランヴァルドさんには大分前から目を付けられてたってことなんだよね、きっと)
先代のマスター。時々読み書きを見てくれたり、幻影魔法を教えてくれたりした。先生のようにも思っていた。物腰が柔らかで上品な紳士だった。自分のような余所者にも親切な人だった。そうだと思っていた。
多分、信頼していたのだと思う。少なくとも、ザック達の次くらいには信頼していた。
だから――ランヴァルドの言うことが正しいのだと思い、誤った情報を少しずつ少しずつ刷り込まれて、結果としてああいうことになってしまった。
――恐らくほとんど最初の頃から、獲物として目を付けられていたのだろう。
「しかしまぁ……本当によくやってくれた」
過去に沈みかけていた思考を引き戻すかのようなザックの声に、シオリは我に返った。
「名門ロヴネル家の依頼を最高評価で終わらせてくれたってのは、俺としても鼻が高い。支部の評価にも繋がるだろう。皆、御苦労だったな」
マスターの心からの賛辞に場の空気が華やいだ。足元のルリィも嬉しそうにぷるんと震える。アレク達と互いに労いの言葉を掛け合い、そして今夜は居酒屋で祝杯でも上げようと楽しい相談をしていたそのとき、横合いから声が掛かった。
「……ロヴネル家かぁ。懐かしいな。久しぶりに聞いたぜ」
「そうねぇ。何年振りかしら」
魔法剣士のルドガーと槍使いのマレナ。ラネリード夫妻だ。
「知ってるんですか? そんなに有名なんだ……」
目を丸くするシオリに、二人は違うよと手を振って見せる。
「いやあ、俺達はロヴネル領の出身でな。元々はあっちの支部に所属してたんだ」
「そうそう、こっちの方が稼ぎもいいし、雰囲気も性に合ってるからって移籍してきたのよね。もう七、八年くらいにはなるかしら」
「……そうだったんですね」
懐かしそうに二人は目を細める。
「……それにしてもロヴネル家かぁ。十年くらい前までは支部のお得意さんだったんだけどな」
「そうねぇ……イェルハルドさんとマリオさんが亡くなってからぱったりと途絶えたわよね」
二人の言葉にアレクとクレメンスが顔を見合わせた。アレクは考え込むように顎に指を押し当てて視線を横に流し、クレメンスは形の良い眉を顰めてやはり何か考えるようだった。
「……どうしたの?」
「いや……おい、そのイェルハルドっていうのは――姓はロヴネルか? デニスという息子がいる……」
アレクの問いにラネリード夫妻は目を丸くした。
「ああ、そうだけど……なんだ、知り合いだったのかい、アレクの旦那」
「いや、少し話を聞いたことがある程度だ。それで、そのマリオというのは……南国系の移民か?」
「ええ、そうよ。詳しいのねぇ。あのときの事故ってそんなに有名だったかしら」
「……事故? 事故だと?」
「待て、マリオというのも……おい、マリオというのは男名のようだが」
「ああ、そうだな。そりゃあ見た目は男か女か分からねぇような顔だったけどよ、あのオヤジは間違いなく男だった。黙ってりゃ美形なのに口を開けばただの助平なオヤジでな」
いよいよ本格的に不可解だという顔をし始めた二人に、シオリは皆と顔を見合わせて首を傾げた。
「え……ねぇ、本当にどうしたの? アレク」
「そうだよ、二人とも一体どうしたってのさ。分かるように話しなよ」
アレクとクレメンスは目配せし合って躊躇う素振りを見せた。けれども、すぐに頷いて話し始める。
「――アンネリエ殿に聞いたんだが、デニス殿の父親は……」
「……南国系の女と駆け落ちした末に、心中したと」
「えっ!?」
「はああああ!?」
二人の言葉に素っ頓狂な声を上げたのはルドガーだ。マレナも目を見開いて絶句している。
「いやぁ……何をどうしたらそういう話になるのか分からねぇけどよ」
「ええ……そうね。どこかで話が歪んで伝わったのかしら」
マレナが言った。
「あの人達が亡くなったのは事実よ。でもマリオさんは間違いなく男だったし、それに心中なんて……間違っても、その、男色家でもなかったわ。イェルハルドさんとマリオさんは花の採集に行って転落死したのよ。危ない場所に生えているのを無理に取ろうとしたんでしょうね。奥さんに結婚記念日に贈るんだって、ロマンチックなことを言って、それで――」
アレクの纏う気配が冷たく剣呑なものになった。
「――誰かが意図的に情報を歪めた……ということか?」
デニスを、ロヴネル家から――アンネリエから、遠ざけるために。
ルリィ「配管工か」
ペルゥ「人違いです」
雪男「姫と配管工の身分違いの恋。そしてそれを邪魔する身分の高い男……萌えますねぇ……」
雪熊「……そんな話だったっけ?」




