25 祝杯
前回投稿分の「24 うつりゆく無垢の風景(3)」、自分的に絶対入れたいと思っていた部分を入れ忘れておりましたので、文章を追加しました。一番最後の部分です。本編を読み進める上であまり差し障りはないのですが、興味のある方は戻って追加分を読んで頂ければと……。
「お前ら……本当に良かったあぁぁぁ」
今この瞬間は主従という立場を忘れることにしたらしい。バルトは感極まって涙ぐみ、アンネリエとデニスを両腕で抱き締めた。大柄な彼の腕の中で、二人は顔を見合わせて微笑み合う。
幼馴染だという三人が幸せそうに笑うその光景に、温かいもので胸が満たされていく。アレクもまた口元に柔らかい笑みを浮かべていた。
「とりあえず、おめでとうって言わせてもらうよ」
「ええ、ありがとう」
祝いの言葉を述べるナディアにそう返してから、アンネリエは、ほう、と感慨深く息を吐く。
「本当に……来て良かったわ。トラブルもあったけれど、目的を果たせたし、貴重な体験も沢山できた。貴方がたのおかげよ。本当にありがとう」
「俺からも礼を言う。色々あったがようやく……前を向くことができそうだ」
溌剌として明るく振舞いながらもどこか物憂げだったアンネリエのまとう気配は今や生き生きとした生命力で満ち溢れ、気難しい表情が目立ったデニスの顔もまた、憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしていた。
過去の彼らに何があったのかはよく分からない。けれども彼らの様子から、ここに至る道が決して平坦なものではなかったことだけは分かる。だから、彼らが一歩踏み出すための手伝いを少しでもできたのだということが嬉しかった。
「お役に立てたようで何よりです。本当におめでとうございます」
どうやら一緒になることを決めたらしい二人。これから先の人生が彼らにとって幸多いものであるように、心からの言葉を贈った。
「ありがとう。帰ったらしばらくは周辺がごたつくでしょうけど、それでも今はこの気持ちを噛み締めていたい気分だわ」
「それなら」
シオリは笑った。
「今夜はお祝いメニューにしますね。こういう場所ですから細やかではありますけど」
そう言えば、アンネリエとバルトが歓声を上げた。それを窘めるデニスも照れ臭そうに表情を緩めた。
華やいだ空気が満ちる。
――結界の外の空気は身を切るように冷たいけれど、若い二人を祝福するこの場だけは温かく、穏やかだった。
石造りの塔の屋上に魔法で手を加えて居心地よくした一角。
伯爵家の三人が汗を流すために浴室に入るのを見届けてから、シオリは背嚢から食材を取り出した。
「さて、どうしようかな」
一角兎の肉が手に入ったから、食材には余裕がある。少しくらいは奮発しても問題はないだろう。
「よし、じゃぁ、これとこれとこれ……と、これかなぁ」
食材を詰めた保存容器を作業台の上に並べていく。半調理品の野菜類にマッシュポテトとホワイトソース、レバーペーストにバゲット、二枚貝のオイル漬。それから捌いたばかりの一角兎の切り落としと骨。
「献立は何にするんだ?」
一角兎の肉が入れられたボウルを手渡しながら、アレクが手元を覗いてくる。
「鍋焼きグラタンにレバーペーストのオープンサンド、あとは一角兎の肉団子スープだよ」
大鍋で焼き上げる鍋焼きグラタンは、美味しい上に豪快な見た目だ。野外でお祝いメニューとして作るならぴったりの一品だろう。
「なるほど、なかなか豪勢だな。楽しみだ」
「うん。期待してて」
「ああ」
アレクは献立を聞いて顔を綻ばせたが、すぐに表情を引き締めた。
「……ところで、例の連中なんだが」
「……ああ……うん。まだいるよね。もう暗いから仕方ないけれど」
すぐ街に戻ることを条件に食料を分けてやった帝国の冒険者達。何度か気配を探ってみたけれど、三階から動く様子は見受けられなかった。
「一晩明かして、明日我々に合流するつもりなのではあるまいな」
「大人しくしてるなら連れていってやらないでもないけどねぇ」
クレメンスとナディアは渋い顔だ。あまり関わり合いになりたくないのが本音なのだ。
「……それもアンネリエ殿次第だな」
未遂には終わったものの、食料と装備を奪うために躊躇いもなく人を殺めようとするような連中だ。街に戻ったら、単なる要救助対象ではなく無法者として遠慮なく騎士隊に突き出すことになるだろう。
「お祝いムードにあんまり水を差したくないけど、一応知らせておく?」
「気は進まんが、それがいいだろうな」
入浴を済ませて出てきたアンネリエに訊くと、仕方ないというように苦笑した。
「正直こうなるんじゃないかとは思っていたわ。あの装備であれだけの食料しかないのだもの……まともな神経の持ち主なら、あのまま街へ戻ろうなんて思わないわよね。放っといても寝覚めが悪いから連れていってもいいわよ」
「でも隙をついてまた襲ってくるのでは?」
バルトは不安げだったけれど、その心配はないのではないかと思う。それはアレク達も同意見のようだ。
「問題があるのはあの魔導士の男だけのようだし、実力差があるのはさっきので理解しただろうからな。だが、もし本当に連れていくようなら、最大限の警戒はしておこう。自棄を起こさないとも限らん」
「ええ。お願いね」
帝国の冒険者に対する方針が決まった後は、それぞれが思い思いの場所に散った。アレク達は周辺への警戒を、ルリィは塔の内部へ降りる階段の入り口に広がって、見張りをしがてら休憩することに決めたようだった。
アンネリエ達は結界中央の食卓に陣取り、想い出話やこれからのことを語らって過ごすようだ。
話しながらもスケッチの手は休めないアンネリエの姿にくすりと笑ってから、シオリは夕食の支度に取り掛かった。
「うーん……まずはスープからかな」
一角兎の骨にこびり付いた肉をこそげ取ってボウルに入れ、鍋に水と骨を投入して火に掛けて出汁を取り、ことこと煮込んでいる間に挽き肉を作る。こそげ取った肉と切り落としを別の鍋に入れて蓋をしてしっかり抑えてから、鍋の内部に意識を集中させて風魔法を発動させた。
「フードプロセッサー」
発動の呪文とともに、鍋の中で鋭い切断力を伴う鎌イタチのような風が渦巻いた。頃合いを見計らって蓋を開けると、肉の塊が程良い粗挽き肉になっていた。
「魔法って本当に便利だなぁ」
魔法を応用すれば便利な調理家電の代わりになると気付いてからしばらくは、調理中に無駄に魔法を使ってみたりもしたものだ。もっとも、低魔力のせいか調理後に妙な疲労感に襲われてしまい、すぐに必要最低限しか使わなくなったのだけれども。
「俺も魔法が使えれば良かったんだが」
「うわぁっ!?」
突然横合いから声を掛けられて思わず飛び上がる。いつの間にかデニスが手帳を片手に手元を覗き込んでいた。見れば、スケッチブックを抱えたアンネリエとバルトまでが興味深そうに眺めながら背後に立っている。料理に集中していて気付かなかった。
「その魔法って、やっぱりシオリさん独自のものなの?」
「え……あ、はい、そうです」
会話の途中でも手を休めず、挽肉に塩胡椒と刻み玉葱、臭み消しの香草と繋ぎの小麦粉を混ぜてよく捏ね合わせて肉団子を作っていく。
「精密な魔法はシオリ殿の得意とするところだとナディア殿は言っていたが……他の魔導士でも同じことが出来るだろうか?」
「……練習すれば出来るかもしれませんが……」
やはり同じように調理魔法や洗濯魔法――生活魔法とでも言えばいいだろうか――を使おうと試みた同僚達の惨状を思い出して口ごもっていると、見張りをしながら話を聞いていたクレメンスが横槍を入れた。
「……出来るかもしれんが、習得するまでに周辺が被る被害が大きかろうな」
「えっ、どういうこと?」
きょとんとした三人に、クレメンスと顔を見合わせて苦笑した。
どうやら普通の魔導士にとっては本当に微調整というものが難しいらしい。手伝ってくれようとしたのは良いが、洗濯機代わりの水柱の制御に失敗し、スプリンクラー状態にして野営地を水浸しにしたり、風呂を作ろうとして辺り一面泥沼にしたりと、散々な結果に終わったのだった。
しかも――あれは初めてナディアやクレメンスと組んで仕事をした時のことだ。調理中に使ったフードプロセッサーの魔法に興味を示したナディアが、自分もやってみたいと言い出したのだ。その時は上級魔導士たる彼女のことだから上手くやるのではないかと安易に考えたのがまずかった。
結果は惨憺たるものであった。
彼女自身が細かい魔法が苦手だと言っていたとおり、失敗も失敗、大失敗という結果に終わったのである。
「……魔力が強過ぎて具材が鍋ごと爆散した」
「ば、爆散!?」
あの時はカレー風味のスープだったのが被害をより大きくした。失敗に気付いた瞬間ナディアが咄嗟に障壁を張り、ルリィが身を挺して庇ってくれたから鍋の破片で大怪我することは免れたものの、天幕や荷物がカレー塗れの大惨事になったのである。
小さくなって平謝りのナディアと、青筋を立てて激怒するクレメンスという珍しいものを見たのもこの時だ。一歩間違えば命にかかわる大怪我をしかねない遠征中のまさかの大失敗に、ナディアは仲間達からはおろかザックからもこってりと絞られていた。
依頼そのものは無事終了して報酬をもらえたけれど、ナディアは自らの取り分は辞退してどうしても受け取ろうとはしなかった。
ちなみに、その時にお詫びだと言って破損した鍋の代わりに買ってもらった最新型の遠征用軽量鍋セットは、現在愛用中だ。
「シオリがいなければ洗濯もままならなかったのかと思うと……いや、あのときほどシオリの存在を心底ありがたいと思ったことはなかったな」
当時の状況を思い出したのか、クレメンスが遠い目になった。
「うっ」
「うわあああああああ」
アンネリエは、まぁ、という形に口を開いて絶句し、デニスとバルトは悲鳴を上げた。
「そ、そうか……なら安易にそれ目的で魔導士を募るのはやめておいた方がよさそうだ」
デニスが呻くように言った。調理魔法を覚えさせて、アンネリエの野外活動に連れていこうという腹積もりでいたのだろう。もっとも、攻撃専門ならともかく家政婦業専門、もしくは兼任で来てくれる魔導士がどれほどいるのかも疑問なのだが。
「そうだ。なら、シオリ殿がロヴネル家の専属――」
「引き抜きはやめて頂こうか」
何か言いかけたデニスの肩を、いつの間にか来ていたアレクがぽんと叩いた。笑顔を作ってはいるが、やはりその目だけは笑っていない。
お決まりの流れになりつつあるこの二人のやり取りに、シオリは困ったように眉尻を下げたが、他の皆は揶揄するように笑っている。
「さ、これ以上はお仕事の邪魔になるわ。大人しく向こうで待っていましょう」
まだこちらの作業に未練がある様子ではあったけれども、気を利かせたアンネリエがデニスを引っ張って行ってくれた。
「……まったく油断も隙もない奴だな……」
「アレク……」
妙に警戒しているアレクに苦笑いしつつ、作業の続きをする。
鍋の灰汁と骨を丁寧に取り除き、肉団子と野菜類を投入した。塩胡椒で味を調えたら、後はこのまま煮込んでおく。
「次はグラタン」
外で作るには普通は手間がかかるけれども、これも持ち込んだ半調理品や保存食を使えば簡単だ。
香り付けのバターを溶かした鍋に二枚貝のオイル漬と刻み玉葱を入れてよく炒め、全体にオイル漬の油が馴染んだところでマッシュポテトと塩胡椒、香草を入れて軽く炒め合わせる。あとは上からホワイトソースをかけてチーズをまぶし、そのまま蓋をして火力を弱めた竈でじっくりと焼き上げれば、二枚貝の旨味と玉葱の甘みが効いた鍋焼きグラタンの完成だ。美味しいだけでなく見た目にも豪快で豪華に見えるせいか、野営地でも人気の料理だった。
後はバゲットを炙ってレバーペーストを塗るだけ。
良い香りが漂い、食卓で談笑していたバルトがそわそわし始める目の前で、出来上がった料理を並べていく。
一角兎の肉団子スープをカップに注ぎ、鍋焼きグラタンはそのまま食卓の中央にどんと置いた。蓋を開けると表面のチーズが良い感じにふつふつと音を立てている。
「もうひと手間」
指先から軽い火魔法を放ってグラタンの表面に焼き色を付けると、アンネリエが歓声を上げた。
「豪快ね! これぞ野外料理って感じだわ。美味しそう!」
「ええ。野営地の人気料理です」
「これは……冒険小説の挿絵にも使えそうね。いいかしら?」
「わぁ。ええ、どうぞ」
意外なお願いに気恥ずかしさもあったけれど、嬉しさの方が勝って破顔した。挿絵を手掛ける本が出版されたら、一冊送ると彼女は約束してくれた。
少し愉快な気分になりながら、皿にレバーペーストのオープンサンドと瓶詰ピクルス、それから出来立て熱々のグラタンを盛り付ける。
「ルリィは何か食べる?」
訊くと、ちょいちょいと触手の先で屋上の端を指し示した。一角兎を捌いて残った部位が欲しいらしい。洗面器に水魔法で水を満たしてやると、ルリィはそれを抱えて自らの「取り分」に向かってぽよぽよと歩いていった。
配膳し終わったのを見計らって、仲間達も集まってくる。
「本日の献立は、レバーペーストのオープンサンドに二枚貝の鍋焼きグラタン、一角兎の肉団子スープです。どうぞ召し上がってください。おかわりもありますよ」
「うわぁ……」
もっと豪華な食事など見慣れているだろうけど、野外での質素な食事にも慣れているという三人は、思いがけないご馳走に顔を綻ばせた。
「いただきます!」
「あつっ……はふ、美味しい」
「身体の芯から温まる……」
「ぷりぷりの貝とチーズの香りが堪らないねぇ」
料理を口にしては美味しそうに目を細める皆を見て、つい口元が緩んでしまう。
「うーん、この濃厚な味わい……こういう場所でもなければ酒が欲しいところですね」
「ん……そうだな」
レバーペーストをたっぷり塗って香草をまぶしたオープンサンドを頬張っていたバルトが言うと、デニスも同意する。確かに、赤ワインでもあればもっと美味しく食べられそうだ。
「ああ、それなら持ち合わせがある。小瓶だから食前酒程度の量になるが、それでも良ければ御馳走しよう」
「まぁ、じゃあせっかくだから御馳走になろうかしら」
クレメンスが提案すると、細やかな祝いの場の空気がいっそう華やいだものになる。いそいそと背嚢から酒の小瓶を取り出して来た彼に、アレクは何故だかぎょっとして腰を浮かせた。
「おいっ、お前まさかあの不吉な酒を依頼人に――」
「――これは『薄紅色の恋人達』で、その名に相応しく爽やかで甘みの強いワインだ。こちらの瓶が『深紅の月』。多少味に癖はあるが、深紅の色が美しいワインで芳醇な香りが特徴的だ。どちらも恋愛にまつわる逸話があるらしい。アンネリエ殿達に丁度よい銘柄だと思う」
「………………………………………………おい」
滔々と手持ちのワインについて語るクレメンスの肩を、何故だか今度は顔を引き攣らせたアレクがぎりりと掴んだ。
「――こんな良い酒があるのに、何故俺にはあんな不吉な酒を勧めたんだ」
「ん? それはお前、私がひっそりと愛でていたものを横から攫っていったんだ。あの程度の意趣返しくらいしても罰は当たらんだろう」
「お、ま、え、」
ぼそぼそと何かよくわからない言い争いをしながら小突き合っている二人を見て、皆不思議そうに首を傾げた。
「え、何? どうしたの?」
「いや、気にするな。こちらの話だ」
一応訊いてみたけれども、ぎりぎりと歯噛みするアレクを尻目に、クレメンスは目も眩むような美貌で爽やかに笑って見せただけだった。
曖昧にはぐらかされたまま、小瓶の酒が振る舞われる。それぞれが携帯していた手持ちの水筒の蓋に注がれた、細やかな祝杯。
「――では、ロヴネル家の繁栄と二人の門出を祝して」
クレメンスの音頭で杯が掲げられる。
「乾杯」
アンネリエとデニスが幸せそうに微笑み、それを囲むバルトや仲間達もまた、陽気に笑い合う。
――野営地の小さな食卓を囲んで新しい恋人達を祝う細やかな宴席。
その片隅でさりげなくシオリに寄り添っているアレクを見つめ、クレメンスは唇の端を緩やかに持ち上げる。
心に何か大きな傷を負っているらしい彼。それでも近頃よく見せるようになった柔らかい微笑みは、その傷が癒されつつあるからこそのものなのだろう。
――実家の商売の関係で出入りしていた公爵家。その跡継ぎだった頃のザックとは少年時代からの友人でもあった。
その彼が連れていた、訳有りらしい栗毛の少年――アレク。
その出自を聞いたことは一度もなかった。だが、ザックとの関係と洗練された立ち居振る舞い、そしてその容姿と――初めて会った時の病み上がりらしい様子から、彼の正体の予想はついていた。
アレクと出会うより数ヶ月前に――突如城から消えて行方不明となった第三王子。
王太子との絆の深さは有名だったが、意に沿わない王位継承権争いの旗頭として祭り上げられ、酷く傷付いた末の出奔らしいという噂も聞いていた。出奔ではなく自害したのだという噂や暗殺されたという噂も聞いていた。
けれども、目の前に連れてこられた少年を見てごく自然に、ああ生きていたのか、良かったじゃないか――と思ったことは覚えている。
ザックは何も言わなかった。だが、こちらが察したことには気付いたはずだった。
それでも特に言及することはなく、何食わぬ顔してアレクと引き合わせたのは、自分を信用してくれているからだろうと思っている。
実家の商売柄、そして自分の性格上、知り得た秘密は絶対に口外しない。
だから何も言わなかったし、これから先も言うつもりはない。
そうしてアレクと自分は冒険者として初めての相棒となり、共に切磋琢磨して死線を潜り抜けて来た親友、戦友となった。
そして十数年が過ぎ、シオリと出会って見守るうちに芽生えた感情。
だが、自らの秘めた想いに気付いた時には、愛した女は既に親友の腕の中だった。
気持ちの整理をつけるにはまだもう少し時間が必要だ。想いを告げることなく終わりを迎えた、この苦い恋。
愛していた女を横から攫っていったのは、長く共にいた親友だったという事実。
祝うべきなのだろうが、心の奥底が疼くように痛む。複雑な思いはまだ捨て切れてはいない。
だが、それでも。
それでも想いを消化して、想い出として心の内に返せたなら、そのときには必ず。
(――心から祝福しよう。アレク)
そうして秘蔵の祝い酒を振舞って、夜通し語らおう。
我が、友よ。
小さな間に合わせの杯の底に残った酒を飲み干す。
その酒は――甘さと渋さが絡み合う複雑な味がした。
ルリィ「つ ハンカチ」
 




