第二話
「なんか腹減らへったな」
と、池田と太陽のふたりが笑い終えると、本田がお腹のあたりをさすりながら言った。
本田の科白に呼応するように、太陽の腹が大きな音で鳴った。
「自分、あからさまやな」
と、池田が笑って非難すると、太陽は笑っただけで何も答えなかった。
「飯、食いにいく?」
と、池田が試しに提案してみると、太陽と本田のふたりは口々に同意を示した。
話し合いの結果、二十四時間営業しているマクドナルドに行こうということになった。太陽は最後まで吉野家に行きたいと言い張っていたのだが、池田は昨日酒を飲んだあとのせいもあって、あまり重たいものが食べたい気分ではなかった。それは本田も同じようだったようで、結局多数決でマクドナルドに行くことに決定した。
三人はぞろぞろと池田の部屋を出ると、駅前にあるマクドナルドに向かって歩き出した。
町は初夏のさわやかな朝日に照らされて美しく輝いていた。朝日に照らされて静かに輝く町は何もかもがまだ生まれたてのように見える。空もミルクを溶かしこんだような優しい青色をしている。暑くもなく、寒くもない。街路樹の葉が風にそよぐ音や、小鳥たちの鳴き声が耳に心地良かった。
「めっちゃ気持ちいいな」
と、太陽は歩きながら楽しそうな口調で言った。
「ほんまやな」
と、池田は微笑して太陽の科白に同意した。まだ微かに頭は痛むが、朝の清々しい空気を吸っていると、身体のなかが澄み渡っていくような、そんな気が池田はした。
「俺、こうして歩いてると、高校んときを思い出すわ」
と、太陽は笑って言った。
「高校のとき?」
と、池田が訊くと、
「俺、高校のとき、よく寝坊してや、朝、こうやって学校にいかんと、朝マックしとってん」
太陽は説明して言った。
「それなら俺もやってたで」
と、池田は太陽の過去に共感して笑った。
「もう、明らかに遅刻ってわかると、開き直ってしまうんよな」
と、池田は笑いながら言った。
「本田くんもやってたやろ?」
と、池田が本田に同意を求めると、本田はとんでもないというように首を振った。
「だって俺、高校のとき、無遅刻無欠席やで」
「あかんで本田くん」
と、太陽がたしなめるように言った。
「遅刻して朝マックくらいしとかんと」
「そうやで」
と、池田も太陽の言葉を後押しした。
「そ、そうかな?」
と、本田はそうやってふたりに責められると、自分の行動に自信が持てなくなってきたようで、おどおどとした声で言った。
「じゃあ、今度は会社サボッて朝マックしいや」
と、太陽が提案した。
「そうそう」
池田も調子に乗って言った。
「いや、でも、遅刻したら、上司に怒られるしな」
と、本田が困惑したように小さな声で答えると、
「絶対大丈夫」
と、太陽は笑って宣言した。
「そうやって。ちょっと遅刻して行くくらいの方がはくがつくって」
と、池田がふざけて続けると、本田はだんだんふたりの言葉を信じはじめたようで、
「そうかな?」
と、真面目な顔つきで検討しはじめた。
「そうやで。それでもし上司が文句言ってきたら、朝マックして何が悪いんですか?って逆に文句言ったたらええねん」
と、太陽はそう言ってから愉快そうに笑った。