仕事
宜しくお願いいたします
お腹を満たした絵里は、さあ行こうかとラキスに促され、あっ食事代!と今更ながら焦る。
(何で食べる前に気付かへんだんや。私は今無一文やんか。どないしよ、ここはアラスロンにお金を貸してもらおうか? ちょっと図々しいかな?)
歩みを止め、だんだんと青ざめていく絵里に気付きラキスがどうしたの?と問いかける。
「なあ、ラキス、今食べた食事代ってどうしたらええ? 私お金もってへん。ちょっと付けといてもらう事できる? ほんで即日即金の仕事させてくれへん?」
真剣な顔でラキスに詰め寄る。詰め寄られたラキスは思わず絵里を抱き上げ珍しく柔らかい笑顔を見せる。
それはラキス自信無自覚な笑顔だった。奢られる事を当たり前としない姿勢と自分に詰め寄り焦る絵里が可愛く思えて仕方ない。そんな思いから自然とわいた笑顔だった。
そんな出会ってから初めて見たラキスの笑顔に、
「ラキス、良いね、その顔。」
絵里も慈愛に満ちた笑顔でラキスを見返す。
その光景を見た女性は、ラキスの笑顔に頬を染め、男性はラキスの何時もとは違う笑顔や雰囲気に驚きつつも、絵里の笑顔に心を癒された。
つかの間の静粛はアラスロンの静かな声に遮られた。
「絵里、ここでの食事は城に勤める者は皆無料です。」
「そうなん、ええなあ。でも私は勤めてないで… 即日即金の仕事紹介して!」今度はアラスロンに詰め寄る。
「絵里はいいんですよ。そうですよね、殿下」
「アラスロンの言う通りさ。絵里はこの国の客人だからね」
「そんな訳いかへんて。昨日もアメリアさんに沢山服を買ってもらったし。宰相さんちにもタダで泊めてもろとるし…私はなんもしとらんのに皆に良くしてもろてばかりや。一宿一食の恩義は忘れたらあかん。働かざる者食うべからず。ただ飯食らいのニートにはなりとうない!!そうや、仕事をしたいんや!!そしたら皆に恩返しが出来る」
拳を握りしめ熱く語る絵里にラキスはあやすように背を優しく叩く。
他の面々も絵里を囲んで頭を撫でたり、大丈夫だと声をかけてはウンウンと頷いたり、またしても子供扱いだが、絵里も段々と落ち着いてきた。
「絵里なんなら私の手伝いをしてみますか?」
「えっ、アラスロンのお手伝いって私なんかに出来るやろか、字もろくに書けやんし読めやんよ。解るのは数字だけや」
そう、この世界の数字は地球と同じ字で10進法。計算には自信がある絵里である。
「数字が解れば大丈夫です。簡単な計算ですから」
「駄目だ、絵里がアラスロンを手伝えば騎士団に来る時間がなくなるじゃねーか。」
「そうだよ兄さん、絵里を独り占めは駄目だよ」
「アラスロンの手伝いより私の専属侍女はどうだい?」
「「「「「それは駄目、(駄目です)」」」」」
ヒース、シャベール、アラスロンの声に混じり、普段は皇太子に意見などしないその他の騎士達や、何故か食堂の中にいる一同からも声がした。
絵里が絡むと何故か皆、身分の垣根が低くなってしまうようだ。今までは皆遠慮して一歩も二歩も引いた立場で接してきていた。自分もそれが当たり前で、その様に振る舞ってきたが、その振る舞い方は時と場合によるものでいいんじゃないだろうかろ考えてしまっている。この様に言いたい事が言える、それを何だか楽しく感じてしまっている自分に少し驚いているラキスだった。
何だかんだと、結局食堂で話し合い。食堂にいたアラスロンの部下数人も、是非とも我らと共に働きましょうと近付いてくるわ。厨房から料理人達が出てきては食堂で働かないかと誘われ、または、知らない男性達から是非、我が部署に、字は此方で教えましょうとか。挙げ句、絵里が22歳だとわかると此処でも皆一様に絶句後、驚きの声を上げる。
絵里の年齢がわかった途端、食堂に居合わせた女性たちは、何故か殺気立ち、是非私達の仕事をご一緒にと言われる始末。
流石の騎士達も食堂にいた人々に囲まれて身動きができない。だが絵里は渡さないぞとばかりにヒースを筆頭に順に絵里を抱き上げる始末。それをみて、男性達は一層色めき立ち、女性達は更なる殺気が。
大柄な人達に囲いこまれ色々誘われ、絵里はどうすればいいのか判らずパニック状態。いち早くそれに気付いたラキスが打開策を。
午後1時から3時迄は城でのお手伝い。3時からは騎士団に行く事に決まった。
「先ずは、顔見知りのアラスロンの所に行くかい?そうだね一ヶ月は続けて、その後又今度は何処に手伝いに行くかはその時また決めよう」
「ありがとうラキス。そやな、その方が私も落ち着くわ。アラスロンいいですか」
「勿論です。楽しみにしてます。早速明日からで宜しいですか」
「はい。宜しくお願いします」
そうして絵里の仕事が決まった。
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