神の顕現
シエラの体を乗っ取った『』は準備を整える。
「まずは新鮮な感情を周囲に侍らせる」
そう言って黒い異形の身体に剣を刺した。
たった一本の剣、大きな巨体にはあまり意味のないものだろう。それだというのに異形は鳥の首を絞めるような声を発する。
【キェェェェェェェェ(痛い)(イタイイタイ!)(ごめんなさい!)(殺してヤルゥ)(神よ助けテェ…)(痛い…)(死にたくない!!)(コロスゥウゥゥゥ!!!】
その甲高く、押さえつけられたベオの頭の中も揺らす慟哭の中に何人もの人間の声が混じってるのを聞く。
これが人間の成れの果て。
怒りに震えるベオも、いくつもの痛みに叫び震える人間の声をあの化け物から発せられ、耳にした事で怒りから恐怖にすり替わる。
「よしよし、良い感情だ、確実に負の感情が集まってる。次に供物を用意しなければな」
シエラの口を借りて喋るソレはそこいらに落ちていた石をいくつか掴み、円状に並べ始める。
あまりにも杜撰な行為、しかしその顔は慎重な面持ちだった。
「…東西の神には弱小の証の石を、南北は力の象徴があるからさらに小さい石を……」
ブツブツとその手のものにしか分からない要説を口ずさみ、結界なるものは徐々に体をなしていく。
結界、魔法陣。
円陣の不可思議な文様を浮かべたそれから離れると呪文を唱え始めた。
「さぁ…私のようなただただ生きるしか能のなかった愚者に永遠を与えてくれた神よ、多くの信徒の声とただ1人の愚者の声を聞きたまえ。貴方の身体はここにある、貴方の全てを内包できる奇跡はここにある。望むがままにこの世界を変えられる、代えられる、還られる。この忌まわしき奇跡を内包する体を与えるのは申し訳ないが、それでもこの奇跡以上の肉体はこの世にはない」
そして、『』は自身の小指を切って魔法陣に投げ込む。
すると、魔法陣の結界が内から光だし並べられた石が黒ずんだ光沢を放ちながら光りだす。
ベオは何がおきているのか分からなかった。
だが、事を起こしているヤツはさらに言い続ける。
「贄はこの身、感情は悪意と恐怖。外なる世界に縛られた我が神よ、どうぞこの身に降りてきたまえ!!」
ヤツがそう言ったその時。
ベオは魔法陣の中央から異様な右手(黒い何か)が生えるように伸びてきたのを見た。
それは大きく、人2人分の太さがあった。
その腕は握りしめていた拳を広げ、シエラの頭上に伸びた。
「おぉ…貴方の姿をもう一度観れるとは…神よ私はここです!貴方の肉体はここにあります!!!さぁ入ってください!私はそこに転がる死体にでも入って貴方のお役目を果たしてみせます!!早く入ってください!!」
シエラの顔で、ベオですら見たこともないほど汚く醜悪な笑顔で両腕を広げ、腕の主である神を受け入れる態勢をとる。
ーあぁ、もうダメだったんだー
ベオは動けない手足から力が抜けた。
この状況をまだ理解しきれてないが、実際に神を呼ばれたのならもう無理だ。
神様を相手にして勝てるわけがない。
たとえ不死身でも、死なない体を持っても。
相手は死なない人間を創ることが出来る化け物、ただの化け物が相手にできるはずがない。
最愛の人を奪われ、何かに利用される。
それでも止められない。
(諦めよう…)
ベオは静かに、シエラの聞いたこともない歓喜の笑い声を聞きながら意識を沈めていく。
沈む…ただただ暗く、暗く…。




