その身だけ欲する人間
シエラはどうしてこんなことになっているのか分からなかった。
1人で先に行ってしまった夫、ベオの安否と状況を確かめるため、彼が行ってから数分で後を追いかけることにした。
奇妙な叫び声城中に響くこの異常事態。
不死であるシエラでも未知の事態に若干の恐怖を覚える。
同じ不死のベオの身を案じるというのもおかしな話だったが、命が無限とシエラが思う以上に大切な彼のその体に傷が付くことに焦りを感じた。
矛盾した感情だ。
でもシエラにとってはそれほど大切な存在だった。
もしもの時は私も戦う。
そう思い部屋に置いてある予備の剣を手にシエラは、聞くのもウンザリするほどの奇声が轟く中庭に向かう。
シエラはその際ベオが使ったのとは違うもう1つの出入り口から中庭に出ようとした。
だから誰からも気づかれなかった。
物陰に隠れながら、すべての事情を聞いた。
本当なら素早くベオを助けに行きたかった。
黒い異形の化け物を瞬殺して悦に入りたかった。
でもそれは叶わない。
なぜか、この城から追い出し戻ってくることが出来ないはずのシエラとベオの娘、リイナが剣を持ちながらベオと対峙しており、その付近ではセイレンが右腕と足を砕かれて地面に転がっていた。
黒い異形はリイナの背後で、まるで付き従っているかのように待機している。
「リイナを…殺した?」
そっから先の会話にシエラは、心が体の外に出て行ってしまったかのような喪失感と、知りたくもなかった自身の出生の真相を知る。
この時の彼女はどう思ったのか。
苦しみ、悲しみ、哀しみ、憎しみ、怒り、恨み、不安、殺意、軽蔑、絶望……。
ありとあらゆる感情が出てきては頭と心の中を錯綜する。
シエラはこの感情を全く知らない。
ホムンクルスだから。
人工的に作られたから。
誰もシエラ自身に対して目を向けず、その身体だけを望んでいた器だからなのか。
空っぽ、昔自分に言った皮肉がまさに今だ。
不死を得ても、どうやっても、この狂気がなりを潜めても、結局シエラはそんなのは求められていなかった。
最初からシエラはいらない存在だった。




