5千年の先輩
セイレンが城の広間にある暖炉に薪を足して火の勢いを上げる。
その広間には焚べる石像の他に2人の男女の姿があった。
「…何だか驚かしてしまって申し訳ないです。せっかく泊めていただいたのに気味の悪いものを見せてしまって」
「いえ、こちらこそ…その…刺し殺してごめんなさい」
お互いに頭を下げて謝る不死者。
その姿にセイレンが苦笑して言った。
「悪いのはお嬢様でしょう、お客人は何も悪くはないですので安心してください」
ヒュン
と風を切る音とともにセイレンに一本の剣が突き刺さった。
シエラの愛剣だった。彼女が申し訳なさそうに落ち込んだ顔をベオに向けながら放ったのだ。
セイレンはそれでも口元を抑えるようにして笑うと、石の体に刺さった剣を抜き取って丁寧に床においた。
「まったく、お嬢様は癇癪を起こすとすぐに周りを傷つけて壊してしまう。私でなければ何人死んでいたことか」
「あんたに出会のがもっと早ければ使用人全員を殺さなかったんじゃないかなって少しは思ってる。その前に黙って薪を焚べていなさい」
嫌味を言われて嫌な気分になったシエラは目の前の光景に目を丸くするベオの顔に気がつくと、コホンと咳を一回してから改めてシエラは話を始めた。
「それはそうと、あなたも私と同じ不死なのよね?」
「そ、そうですね…」
「何年」
「はい?」
「不死になって何年だって言ってんのよ!!」
シエラの質問に不可解な顔になったベオにシエラは少し声を荒げて復唱する。
ベオはびっくりした様子で「5千年ぐらい…その前の記憶は無いから知らない…」と答えた。
5千年。
それはシエラよりも先に不死になり長い間生き続けてきたことに他ならない。
目の前の自分よりも長生きの不死者の存在に驚いて声も出なかったが、ベオは両手を振って恐縮し始める。
「イヤイヤイヤイヤ!! 私は生まれつき不死でそれ以外に取り柄もなくブラブラと世界を旅していただけです! むしろ霊薬で不死になったシエラさんの方がとても珍しく羨ましいですよ!…しかも美しいですし」
「…はぁ? 私はあの石ころを作った錬金術師に無理やり不死にされてこの城に閉じ込められてるだけよ! あー本当に頭にくる!!」