旅人の話は面白かったという
シエラが起きたのは陽も落ちた夜更けだった。
眠気なまこを擦りながら彼女はベッドから起き上がり自室から出て行く。
城はいつの間にか全部の部屋に明かりが灯り、暗くない廊下がとても安心できる様になっていた。
だがその明かりには温かみがなかった。
それもそのはず、これはこの城の記憶で過ぎないのだから。
彼女が起きて廊下を歩くのと同時に所々から温かみのある視線が彼女を指していたが、慣れた様なシエラはそれを気にすることもなくどんどん先に向かった。
ダイニングルーム大きなテーブルの真ん中の席に座るといつも通りといった風にセイレンを呼んだ。
「食事を持ってきて」
これだけでセイレンは食事を待ってましたとばかりに持ってくるのだが、今日は来る様子がない。
不審に思ったシエラはもう一度言った。
「お腹が空いたから早く持ってきてちょうだい」
それでも返事はない。
苛立ったシエラは大きな声で呼んだ。
「さっさと持ってこいって言ってんだろぶち殺すぞ石像!!!」
城中……いや森中に響いたであろうその声に鳥達が逃げる様に羽ばたく音が後に響いた。
やっと聞こえたのか、セイレンが顔を出した。
「すみませんお嬢さま。今少し面白い話をしていたので」
「あ?またネズミと会話でもしてたのか」
セイレンが他の動物と会話できるのを知っているシエラがそう尋ねるとセイレンはその巨躯には似合わずに首を少しだけ横に振る。
「いいえ、来訪者と新しい栽培法とタネの使い方、あと農具やそのコツとフランスで流行っている面白いお話に花が咲いてさっきのお嬢様の声でようやく今が夜だと気づき…」
「…ちょっと待って、今人がいるってこと?」
シエラの目を丸くした美貌にセイレンは迷いなく「はい」と答える。
「お嬢様が寝た後に客人がいらっしゃって、何でも旅をしている方だというので丁重に迎えたら親切にも私に色々くれて、農業が好きだと言ったら品種の違う作物のタネを」
「ちょっと待ちなさい!なぜ私を起こさなかったの!!この城に入ったものがいれば誰であろうと報告する様にと言った筈でしょう!」
「すみませんお嬢様、話が面白くてすっかり忘れていました。本当に面白かったんですよあの人」
ぽりぽりと頭を搔く仕草をするセイレンに怒りを覚えつつもいつも通り帯刀していた剣を抜こうとす…。
「アレ? 私の剣……あ」
そうシエラは忘れていた。剣を自室に置いてきた事を。




