魔都イールガルでの論考褒賞(前編)
先の戦についての論考褒賞をイールガルで実施すると、リーゼ自身のお触れがでてからというもの、魔族の主だった部隊が魔都に集まりはじめ、イールガルを含めた周辺の宿泊施設は、どこもかしこも軍関係者で一杯となっていた。
宿側は、嬉しい悲鳴をあげる一方で、食材の確保に躍起となる。
食材の確保に躍起となった、その勢いに商人側も応え、イールガル全体で論考褒賞特需に沸いていた。
また人族と魔族は、国家間では未だに国交がなく対立しているのだが、民間レベルでは、商工ギルド中小の商会とは綿密に関わり、お互いの公益品の売買に精を出していた。
人族側も大きな商売のチャンスと捉え、怒涛の売り込み合戦が行なれていた。
「おい、ここからここまでの牛肉の加工をドルムント商会さんに依頼したい、どうだろうか?第二軍の兵士達は大食漢達がわんさかいる、とにかく量を用意したいのだよ」
「あそこは駄目だ魔族の旦那さん、今跡目争いで揉めに揉めている。ディルム商会はどうだ?値段のわりに丁寧な仕事をすると評判だ!」
「よし、じゃあそこで頼む!追加の注文をあげるかもしれん、人手を確保していてくれと、先方に伝えてくれるか?」
「あいよお安い御用でさっ!」
「おーい酒樽の納品はこれだけか?帳簿と数が合わないのだが!」
「その荷物はあそこ、この荷はあっちだ!急げよ、後続の荷馬車がつっかえてるんだ、捌け捌けー!」
物の大移動とともに、魔族達の大移動も当然おこる。
もちろん、余計な諍いやトラブルもついて回り、火消し役の者達も連日頭を悩ましていた。
素行不良の者が多い第二軍の兵士達が、やれ無銭飲食や、やれ器物損壊だ、など実に散々であった。
第一軍と第三軍の兵士達が、お互いの議論を曲げずに、ついには大規模な喧嘩に発展するなど、みんなが論考褒賞というイベントに酔っていた。
そこでエンリエッサは、イシュガルと共謀し一計を講じる。
二つ名持ちの者や、実力者達をイールガルを含めた周辺全域に派遣し、かたっぱしから、諍いを起こす者達を成敗して廻るというあらっぽい対策であった。
もちろん殺生は禁止であったが、とっちめる方法は、各々の自由であった。
「血の気が多いなお前達!私が直々に相手をしよう、さぁ全力でかかってきなさいな!遠慮はいらないよ」
「貴様ら、大事な論考褒賞前に、馬鹿騒ぎなどして!バンネッタ様もさぞお嘆きだ、私が貴様らの性根を入れなおしてやるぞ!」
レジーナや副官のティナは、脳筋故に拳で語るスタイルであり、端から見れば、指導という名のただの喧嘩であったのには、本人達は気づかなかった。
「おーいお前達、論考褒賞が楽しみなのはわかるが、自分から評価を落とすのは感心しないな。我らの同胞に迷惑をかけるなんて、悲しいと思わない?」
「まったく、実に嘆かわしい…」
ミミイとメメイ、ムメイの三姉妹は、意外にも相手を諭しながら、ガス抜きを行うというテクニックをみせた。
「ウナー!」
「…そうだね、プリメーア、馬鹿どもは根こそぎ、駆除しないと…。貴方は、そんな馬鹿なのか?」
プリメーアとプリメールにいたっては、ただの恫喝であった。
そんな彼、彼女らの活躍により事態は徐々に収束してゆく、熱気にのまれた者達もひとまずはなりを潜め、秩序と規律が戻っていく。
そして全員が待ち望んだ、論考褒賞が幕を上げる。
どれほどの褒美がもらえるのか、二つ名付きになるのか、そんな期待を胸に抱き、イールガルの夜は更けていく。




