束の間の平穏
魔都イールガルの一室にて、リーゼは危機に陥っていた。
それは勇者マークや、東の大陸の火山にいた赤龍と対峙した以来の窮地であり、なんとか脱出を図ろうとした。
しかしエンリエッサをはじめ、リーゼ付きの侍女達、エンリエッサの弟子であるマトが脇を固め、リーゼにジリジリと迫っていた。
リーゼが焦る理由、それはイールガルで行う予定である論考褒賞で着るリーゼのドレスが、背中の部分が大きく開き、肩が露出し、恥ずかしいから着ない着ないの一点張りであった。
「なんだこの服は!これではまるで痴女ではないか、私には我が父から頂いた大事な一張羅があるのだっ。それに、これを着るのはあまりに…」
「意外に乙女なんですねリーゼ様、たしかに闇の神よりの衣服は、大変お似合いにございます!ただ、格式高い服や、趣を変えるのもまた一興かと存じます!さぁリーゼ様お召し替えを、さぁさぁおはやく色々ありますので!」
エンリエッサは奇妙な手つきで近寄りながら、リーゼににじり寄っていく。
さらに周囲にいた者達も、リーゼを囲み、包囲網を狭め、あれこれとドレスを持って迫ってきていた。
やがて観念したリーゼは、抵抗を諦め、遠い目をしながらエンリエッサに全てを任せた。
「わかったよエンリエッサ、万事全て任せた。立派な淑女にしてよね、具体的に私は何をすればいい?」
「大丈夫ですリーゼ様、後はこの業魔将が一人、このエンリエッサにお任せ下さいね!リーゼ様は、この化粧台から動かないでください。私が、いいえ私達が、御使い様をレディにしてみせます!」
ふふふと、不気味な微笑みを浮かべるエンリエッサとマト、そして侍女達がそれぞれの作業に取り掛かる。
顔に化粧を施し、髪を柔かにまとめあげ、
衣服を完全アシストにて着替えていく。
リーゼ自身は遠い目をしつつ、虚脱状態な様子であった。
やがてひとしきりの作業が終わり、皆が一様に頷くと、鏡をリーゼの前に立たせ、自身の姿を確認させた。
「なるほど!こんなにも変わるものなのか、私もなかなかじゃないか、今度やり方を教えてよエンリエッサ!」
「私でよければ是非ご教授いたしますよリーゼ様、また次の機会にでも!」
鏡の前には、緋色の髪をまとめ、赤のイブニングドレスを着た、御使いリーゼの姿がそこにはあった。
うっすらとした化粧が、儚げな感じを演出し、手伝いをしていた侍女達も、思わず見惚れるほどであった。
別室では、イシュガルやバンネッタも衣装合わせをしており、イシュガルは見事なモーニング姿となっていた。
だが、バンネッタの衣装合わせは難航しており、なかなか彼に似合う衣装がないのが現状であった。
「ふーむ、なかなか着れる衣装がないぞイシュガル!お前のコレクションは素晴らしいが、どうなっているのだ?」
「私は貴様の頭の中が知りたいバンネッタ、鎧の上から服を着るなど正気が貴様は?破けるに決まってる、鎧と兜を置き、それから袖を通せ馬鹿者が!」
「ぬっ…⁉︎盲点であった…」
「…もう貴様はそれででればよかろう、戦装束であり、勝負服なのだろう?」
魔都イールガルでは、ゆっくりと和やかな時間が過ぎていくのであった。




