閑話 南の第四軍
南の第四軍…
元は天魔戦争を経験した、魔族の軍団であり、率いるは元業魔将のギュンター老その人であった。
元というのは、別にギュンター老と他の業魔将と不仲や、意見の対立などではなく、単純にギュンター老自身が決断してのことであった。
理由は単純明解であり、三代前の御使い様の間近にいながら、みすみす当時の勇者に遅れをとり、その御使い様を護りきれなかった事を恥じたためであった。
エンリエッサやバンネッタ、イシュガルがそろってギュンター老を引き止めたのだが、これを固辞し、自身の二つ名までも位と共に返上し、直属の部下達を引き連れ南の地へと隠遁していた。
隠遁したからといって、全てを放り出したわけではなく、南の地で同族達を庇護し、人族との対立を続けていた。
何代も御使いが代替わりし、徐々にギュンター老の存在は希薄となっていた。
だが、業魔将達とは連絡をとり続け、細かな情報交換をしていた。
そのギュンター老に、今代の御使いリーゼから直々の召集令状が届き、さらに文面には連名で、業魔将達の名が書き連ねてあった。
「ギュンター様、召集令状には何と?決戦の日どりが書いてあるのですか?」
「いんや違うな、確かにローガルド方面での決戦の事も書いてあるが、決戦の最中に帝国の後背を撹乱し、大いに敵の足並みを乱せとのお達しだ。不覚をとった我らに、御使い様からの直々のご指名とはね。我々も奮い立つ刻だな?」
「各地に潜伏している同志を呼び集め、直ちに前進を開始します!目標は、帝国の国境線でよろしいですか?」
「けっこうけっこう、これより敵地国境線を目指しつつ、我ら第四軍の最終目標は、北のロート山脈である。決死の覚悟であたれ、挫ける事、諦める事なき様に、全軍に徹底せよ」
「はっ!」
仕立てのいいコートを小粋に羽織り、灰色の髪をオールバックに整え、額からは一本角のある悪魔ギュンター老。
彼の指示に抑揚良く頷き、部下に号令する副官のミノタウルス。
慣れた様子で部下を統率し、隊を組織してゆく様に、内心舌を巻きながらにギュンターは思う。
慣れ親しんだ南の廃城を飛び出し、未知なる土地に向け進軍する。
成功か失敗かはまさに、神のみぞ知る丁半博打のようなものだった。
「役者は揃い、舞台の幕が上がった。これより始まりますは、喜劇が悲劇か、第四軍の命運は如何に?まぁなるようにしかならんかね、包囲殲滅で全滅なんてオチは嫌だよねぇ、足掻いてやろうじゃないかみっともなく…ね?」
第四軍の果てしない旅が、こうして開始されていった。




