閑話 マトの夢
帝国軍を撃退し、王国側が盛んに鬨の声を上げる中、マトは深い深い眠りの中にあった。
呪力に身体を蝕まれ、体力も使い果たし浅い呼吸を繰り返しながら、時折呻き声を漏らしていた。
マトのいる王城の一角には、国王の善意で王国軍の過剰ともいえる警護がつけられ、魔族側の第一軍のメンバーが部屋の中で看病を続けているところだった。
功労者であるマトの姿が見えないのを心配したエドガー王子が、マトを探し回り、兵士の一人に居場所を聞き出し部屋に入ると、お見舞いの果物が置けないほど、見舞いの品がマトのベッド周辺に乱雑におかれていた。
そんな王子の来訪に気を利かせた第一軍のメンバー達は、簡単にマトに挨拶をして引き上げていく。
「では隊長、あっしらはこれで!はやく隊長の元気な顔を見せて下さいよ!約束ですからね?」
「周辺警戒より、隊長のお見舞いのほうが急務じゃないか?魔術兵長ー」
「隊長、じゃあ任務に戻りますよ!プリメールにプリ坊、隊長を頼むな」
「…えぇ任された。しっかり看病する、私とプリメーアが、全力で…」
「お前ら戻るぞ!元気になった隊長にどやされても俺は知らんぞ、真面目な奴はここにはいないのか〜?」
魔術兵長に恨めしげな視線を飛ばす者や、エドガー王子に野次を飛ばす者、プリメーアを抱えながらよしよしする者など、第一軍のメンバーが騒々しくどかどかと退出してゆく。
残されたプリメール達とエドガー王子は、マトを心配気に見つめる。
マトは夢を見ていた…
天魔戦争から数百年程経過した、遥かな昔にエンリエッサとマトは出会った頃の夢…微睡みの中朧げに…
各地で魔族の残党がくすぶり、大陸がまだまだ戦乱の火種を抱えている時代、人族側の魔族狩りが激しさを増していた頃に、マトはこの大陸に生を受けた。
荒れ果てた村の中、焼け落ちた集落に一人の少女がいた。
マト達の集落は、大陸に数多くある魔族の隠れ里の一つであった。
だが、三つ目の種族であったマト達の集落は、ただ『珍しい』というだけで取り囲まれ、興味本位に人族側に虐殺されるという悲劇の舞台となった。
ただ少女であるマトは、そんな現実を受け入れられずにいた。
「…ねぇオズワルドさん、みんな横になって起きないんだよ。私のパパとママも裏庭に倒れたままなんだよ!目を開けて起こすの手伝ってよ!私はコロン達と隠れんぼしてて、水瓶に隠れてただけなのに、コロン達もいないんだよ…きっと私を置いて意地悪したに違いないんだ!だからね?…オズワルドさん…」
「もう飴玉まけてとか、お店のお菓子も勝手に食べない…。いい子になるから、私を一人にしないでよ…、誰も、私以外誰も、動いている人いないんだよ…」
それからマトは一人、喉が枯れるまで嗚咽を漏らし、すすり泣き続けた。
どれだけ泣いたのか、どれだけ時間が経ったのかマトにはわからなかった。
道端に落ちていたナイフを見つけ、それを手に取り自分の喉に突き刺させば、辛い思いをせずに楽になれるのではと子供ながらに考えた。
そんなことを考えていると、不意に見知らぬ人から声を掛けられた。
紫髪を二つにわけ、ツインテールのようにし、髑髏の紋様の外套を着た悪魔。
「そう、君は楽な道を選ぶんだね?自暴自棄になって、自分で自分を終わらせる、そりゃあ楽だよ。けど悔しくない?奴らに復讐したくないの?君さえ良ければ力を授けてあげる、途方もない力だ。その力に君が溺れるかもしれない、君はどうしたい?」
「…私は、強くなりたい。貴方についていけば、私、強くなれるの?何を教えてくれるの?えーと…」
「いい返事だね、私はエンリエッサっていうのよ。一緒に答えを探しましょうか、この世の深淵には解があるかもしれないし、ないかもしれない。けどないならないで、作ればいいのよ」
「…?よくわからないよ」
一人の悪魔と、一人の魔族の従者の旅はしばらく続き、長き旅路の果てに、北のロート山脈に居を構え、村にして、街にして城塞にして…
「…⁉︎…っ!」
「…ト……ト⁉︎」
「マトっ!聞こえるのマト!」
懐かしい夢を見ていたかと思うと、自分の運命の師であるエンリエッサと、ラタニアにプリメール達が、心配そうに自分を眺めていた。




