魔都見学
退却する魔族達を見つめながら、中央教会から派遣された残りの2人の聖人はただただ呆然としていた。
聖斧のボルドーと聖杖のフランチェスカは、自分達の聖なる武器に並々ならぬ誇りを持っていた。
アイズとは幾つもの死線を潜り抜け、共に任務にあたることの多かった仲間でもあった。
なかでも弟のように可愛がり、実の兄弟のように過ごしていたフランチェスカは激昂していた。
栗色の髪色を持つ生真面目な女性、だが感情の起伏が激しい激情家でもある。
「なんで止めるんだ!ボルドーの旦那、私達の仲間が目の前で殺されたのよ。私は我慢なんてできないし、するつもりもないんだから!私のこの聖杖にかけて、絶対に殺してやるんだから、よくもアイズをっ…」
「落ち着かんかフランチェスカ、業魔将を侮るな。奴らは単騎で聖人を討ち取る実力者だ。無策に仕掛ければ、次はお前が犠牲となってしまう。アイズを止めなかった我らにも責任はある。それにな、必ず復讐の機会は巡ってくる。今は耐えろフランチェスカ…」
「私は納得していないぞボルドーの旦那、ただ今は従うとしよう。アイズの遺体を綺麗にしないといけないし…」
「そうだな…」
そんなフランチェスカに口髭をはやした中年のボルドーが静かにたしなめていた。
積極論を唱えていたフランチェスカは、やがて慎重論を唱えるボルドーに折れ救助した住民と皇国の兵士達とともに緩やかに皇都へと退却していった。アイズの遺体を棺に入れ、フランチェスカの慟哭が魔族と皇国の兵士達が倒れた平原に虚しく響いていた…
イリトバ城塞へと入城したリーゼは、興味深そうに辺りを見回しエンリエッサに案内されながら説明をうけていた。
「ここが拠点となるイリトバ城塞です。しかしあくまでここは玄関口であり、中心は山脈の中にあります。リーゼ様まずはこちらに、この螺旋階段を下りた先が私達の住む都である魔都イールガルです。街の中は区画毎に整理され、一つの国が山脈の中にあると言っても過言ではありません。また、山脈の中でも日の光を浴びることができるよう、私の第一軍の精鋭達と共同で擬似太陽を再現することに成功しております。見て下さい!」
「ふむふむ魔術研究の成果の結晶ではないか。なかなか再現に苦労したんじゃないか?まるで外にいるのと変わらない環境だよ。街並みも統一感があって圧倒されるな現在も拡大中だったかな?魔族達の都としては申し分ないね」
長い螺旋階段を降りた先には、広大な街並みが扇状に広がるように建設されていた。
山脈の中と思わせないように天井は解放的になっており、擬似太陽の暖かな光が魔都イールガルに降り注いでいた。
街の中は住居は勿論、商店や娯楽施設人口的な川や泉まで存在していた。
「しかしリーゼ様ここがイールガルの全てではありません。この中層より下層に広がる区画こそ重要な施設が集中する魔都の心臓部となっています。結界の魔術紋や、魔術・魔導研究施設、周辺各地の景色を一望できる大水晶球、そしてこれこそが秘中の秘、邪神様と念話できる思念の鏡でございます!」
「なんと!そのような物がここにあったのかどのように使う物なのだ?イシュガルやエンリエッサの作品なのか?なんにしても素晴らしいさっそく使おう!」
「お待ちをリーゼ様、この魔導具は天魔戦争の時からの品でございます。陰の魔力が満ちる満月の夜に念話が可能となります。元々は、天使達との戦いにおいて陣頭指揮をとるために置いた物だと聞き及んでおります。簡単には使えないのです。」
「そうかせっかく我が父と話ができると思い舞い上がってしまった。今後重要な会議の際は、満月の夜を選ぶべきかもしれないな。」
「むっ…リーゼか?久しいなエンリエッサも息災であったか?お主達の忠義なによりも大義今後もよく励み我等の同胞を保護せよ!リーゼよ精進せよ…」
「我が父…」
「じゃ…邪神様…」
鏡が鎮座している夜天の間には、よく通る渋い声が広間に響いていた。
満月ではなく新月の夜ということにエンリエッサは激しく混乱し、リーゼは鏡にそっと布を置き今起きた出来事をなかったことにして部屋をあとにした。




