風雲急を告げる
外界と隔絶された白黒の結界の中、業魔将エンリエッサと、聖拳ソロと聖灯リューティスの激闘が続く。
エンリエッサは懐より小振りの黒い小刀を抜き、様々な魔法陣を展開させては、聖人二人に向けて幾つもの術式を解き放ってゆく。
紫電の雷や、茨のツタに強酸の雨を降らせるなど、多種多様に仕掛けてゆく。
そのエンリエッサの術式の猛攻を、リューティスの聖なるカンテラから灯る暖かな光が、威力を緩和させながら、どうにか凌いでいく。
聖人二人で攻めたているのにも関わらず、まったく隙がないばかりか、互角以上に渡り合い、圧倒的な実力をみせつける業魔将エンリエッサ。
「近距離タイプの聖人と、補助的な力を持つタイプの聖人か。なるほどなるほど、貴方達は実にバランスのとれた実力者だ。けどね、そんな奴らと遥か昔から戦い、返り討ちにしてきた私は、貴方達から見てどう見えるのかな?率直な感想を聞かせてよ?ねぇ、ねぇったら。その口は飾りなのかな?」
「俺達から見たら規格外の化物だ、こんなのがあと数体、御使いの脇に控えていると思うとゾッとするよ」
「エンリエッサ、貴方は底がしれない。表情は笑顔そのものだが、時折だが仄暗い感情が見え隠れしている。私は貴方がとても恐ろしいわ」
口々に評価する聖人達に対し、エンリエッサはどこか不思議そうな顔をみせる。
キョトンとした府の落ちない顔で。
「ふーん、そんなふうに見えるのね。イシュガルとはまるで違う見解のようね、価値観や判断基準はやはり尺度に違いあるか…」
先程の人を小馬鹿にしたような表情から一転、どこまでも真面目そあな顔をみせるエンリエッサ。
その間にも、聖人達が間断なく攻め立てるが、右に左に攻撃受け流し、実体を捉えきれないでいた。
勇者マークと、御使いリーゼの一騎討ちは白熱していた。
聖剣セラフィスの全てを断絶する性質と、リーゼが生み出した名も無き魔槍が交錯する。
何度もマークは、御使いリーゼの持つ魔槍を断絶するが、その都度リーゼの原初の能力で復元されてゆく。
リーゼもまた、勇者の装備する天使と妖精達が祝福を受けた鎧を、砕くことができずにいた。
すでに長時間原初の能力を使用していたリーゼは、背中の紋様から刺すような痛みを感じ始め、勇者もまた、大幅な神気を消耗し、疲弊していた。
「まったく、厄介な装備で身を固めているわね勇者、そろそろくたばってくれると、凄く嬉しいのだけれど…」
「それはこっちの台詞さ御使い、原初の能力、初めて見たがユニーク過ぎる能力だな、応用も効き、多様な事がなせるなんて理不尽だよ」
「そりゃーどうも、勇者」
「やりづらい相手だよ君は…」
辺りの地形は大きく陥没し、近くの林は原初の能力で焼失、廃墟になっていた家屋は、勇者の聖剣により両断されて倒壊していた。
そんな戦いを終わらせる、帝国からの一騎の伝令が、連合軍の本陣に慌しく駆け込んできた。
息も絶え絶えに、蝋で留めた文書を司令部に届けた。
「何事か⁉︎騒々しいぞ!」
「ご無礼をお許し下さい将軍閣下方、一大事、一大事なのです。まずは…まずはこれをご確認下さい」
訝しむ将軍達の一人が、代表で書面を確認してゆく。すらすらと読み進める目線が、ある一点を見つめながら固まる。
「なんと書いてあるのか?南の魔族が一斉に蜂起して攻勢にでもでたのか?早く皆に申してみよ、書面にはなんと?」
「うっ…うむ、大変な事になった。帝国の皇帝陛下が御隠れになった。今は帝都フェルテネーブル全体が喪に服しているそうだ、ただ問題なのはそれだけではない、皇帝の後任を、聖女派と皇太子派とで激しく争っている最中なのだそうだ…」
「なんと⁉︎それは一大事ぞ、対応を間違えれば他国に混乱が波及するぞ。それになぜ聖女が政治の場にでてくる?きっと中央教会のあのでしゃばり共の仕業だろうな」
「帝国の国軍は、自国の領内の治安維持に手一杯な様子か、我らも退くべきだろうな。魔族共は混乱に乗じるでしょうか?」
「それはわからんな、御使いの機嫌一つでしょうか。勇者様や聖人の皆様がたにも、混乱を鎮めてもらわねば」
事態は思わぬ方向へと向かっていく。誰にも行方がわからぬままに…




