ローガルド要塞戦線(3)
朝靄がようやく晴れ、太陽が昇りきり、時刻は昼をむかえようとしていた。
半月の軍旗を掲げる魔族軍と、太陽のシンボルマークを象る連合軍の軍旗が、ローガルド要塞に整然と立ち並ぶ。
各地で戦闘を展開していた魔族達は、一箇所に集結し、今は隊列を敷き連合軍と決戦するべく相対していた。
レジーナ麾下の空中部隊も、対空射撃が激しくなり、損耗を避けるためにローガルド要塞に一時後退した。
前線にはリビングデッドと骸骨兵の亡者達と、第二軍のティナ達獣人の部隊がそれぞれ展開していた。
「フトッチョさん、作戦と陣立てはどのように?バンネッタ様や他の業魔将の方々、リーゼ様からはなにか聞いておられますか?」
「いや、我々は特に指示を受けていない。主人であるエンリエッサ様からも攻勢にでよとしか、であるならば細かい事は後回しかな?なぁハッポウ」
「ティナ、貴方らしくないわ!このまま雌雄を決するべきヨ!」
「ふふ、そうねハッポウ。私は会戦以降気づかない内に小心者になっていたか、華々しくやりましょうか!盛大にね」
「第二軍、軍旗を掲げろ!槍を構えろ、射出式炸裂と大楯を携行しろ!バンネッタ様の誇りを示せ、進撃せよ」
「おや?やっとティナらしくなったね、フトッチョ俺たちも先陣に続くぞ、骸骨兵達!軍旗掲げ、エンリエッサ様に勝利を捧げるゾ」
「進め、進めー!」
第一軍、第二軍の主力部隊が、相対する連合軍に向け進発する。
互いの距離がジリジリと近づき、連合軍の軍旗が見えると、前列の炸裂弾と野砲が火を噴き、魔族軍が猛烈な制圧射撃を開始する。
それは相対する連合軍も同じであり、お互いに制圧射撃の応酬を繰り広げる。
連合軍部隊でも、魔族軍側の動きを確認しており、砲兵達はさかんに射撃を行い、弾を込めては狙いを定め、雨のように砲撃を繰り出す。
「敵影さらに接近、蟻の巣より増援を複数確認しております。次の目標点はどこですか少尉殿?」
「中央付近に集中させよ、あの辺りは敵の戦列が異様に濃い、嫌な感じだ」
「目標中央!攻撃を敢行せよ!」
砲兵達の射撃の中、天秤部隊も動きだす。装備を確認しながら、爆煙がもうもうと立ち込める中、走りだす。
「異端の尖兵を駆逐せよ、神気を武器に込め、一撃必殺を心掛けよ!あとはいつも通りだ、かかれ」
「異端に死を、聖女様に勝利を!」
人の限界を超えた動きをする天秤部隊達、彼らはただただ己の神のためという大義名分のもと、主人達が定めた敵を処理し続けてきた。来る日も来る日も…
彼らの手はすでに血塗れであり、敬虔なる信徒という名の、狂信の化物達でもあった。
目的もなく、手段を選ばず、敵を殲滅し続ける狂信者の群れ。彼らの悦びは、大司祭や枢機卿のお褒めの言葉を賜ることであり、年に何度かある、聖女様との謁見でもあった。
滅私信奉
彼ら独自の教義であり、唯一のルール。死を厭わず、目的に邁進し、異端と定めた者達をどこまでも追い詰める。
そんな彼らを率いるは、サソリの名を持つ白髪の神父。実名は無く、サソリと呼ばれる者。
天秤部隊『凶星』を率いる男性であり、熱心な異端審問官の一人。
帝国の戦乱の歴史の影には、常に天秤部隊の複数の部隊が見え隠れし、中央教会の裏の顔である。
「さぁさぁさぁ皆さん、異端に死を布教いたしましょう。異端共に、凄惨で陰惨で、逃れようのない死を!あまねく魔族達に死の救済を!もはや彼等は穢れきっている」
魔族達の軍勢に、横合いから猛然と襲いかかり、勢いそのままに近くの獣人の首を刎ね飛ばす。
狂信者の群れが次々に第二軍の陣に雪崩れ込む。
「死を、異端に死をっ!」
「光の神の前にて懺悔せよ!」
第二軍の陣に突入してきた天秤部隊達を、舌打ちしながらにその一人を袈裟斬りにするティナ。
そのすぐ横では、仲間である獣人が複数の天秤部隊に串刺しにされていた。
「異端異端と、五月蝿いんだよ馬鹿野朗が!こいつら一人一人並じゃないぞ、各自気合いれろ!舐めてかかると代償は死だけだ。」
「「おう!」」
剣戟が鳴り響き、銃火が轟き、戦場に死が蔓延していく。
天秤部隊と第二軍は戦闘状態に突入し、白兵戦が展開される。
連合軍の先頭部隊も、第一軍との交戦状態となり、本格化していく。
「血が血を呼び、怨嗟の声がこだまし、生者が死者となる混沌の地。あぁ、なんて幸福な時間。まさに楽園と呼ぶべき桃源郷ね、ねぇイシュガル?」
「そんな高尚なものではなかろうエンリエッサ、まぁ生か死か、シンプルな状況というのには変わりないな。聖人や勇者が現れるまでは静観せよとリーゼ様のお達しだ、バンネッタ理解したな?」
「けっ、了解だイシュガル…」
「まぁいいじゃないかイシュガル、私はバンネッタの豪快な性格は嫌いじゃないよ。けど勇者との一騎討ちは譲ってねバンネッタ?」
「はっ、リーゼ様」
戦場の上空には悪魔である業魔将と、御使いのリーゼが、手ぐすね引いて勇者達一行の登場を待っていた。




