呪力の本質
マトの変貌ぶりをみて狼狽する第一軍の新入りや、周囲にいた王国兵達。
事情を知る古参の魔術兵や兵長は、そんな彼らに説明をする。
「あれはマトさんの奥の手の一つだよ。呪術師として到達する終点の一部であり、禁断の領域なんだそうだ。最後に見たのは、たしか前任の御使い様のいた争乱の時期だったか、その時からか、エンリエッサ様にきつく使用を控えるように言われていたのは」
「では何故マト隊長は、その禁忌の術をお使いになったのですか兵長?」
「それはな、マトさんは誰よりも仲間を失う痛みを知っておられるからさ。仲間の危機を黙って見過ごすほど、冷酷にはなれないんだよ。お優しい方なのさ本当にな…、そんな方だからこそ俺達はついていくのさ。さぁ話はここまでだ!続きはまた今度、守備位置に戻れ戻れー!敵がくるぞっ」
「りょ…了解しました!」
マトの去った正門の城壁では、魔術兵長と、古参の魔術兵が中心となり指揮を引き継いでいた。
大事な部分が抜け落ちたかのような、どこか釈然としない話の後、新米達や王国兵達は配置に戻っていく。
セプト自治州の担当する城壁は、まさに修羅場となっていた。
黒獅子の軍旗を掲げた帝国の大部隊が、魔族一人の活躍に翻弄されている最中だった。
「あは、あはははっ、あははははは!あーはっはっはっは!」
飛び蹴りを放った後は、マトは己の腕に呪力を込め、重装歩兵達に肉薄する。
まるで紙でも切るように、驚くべき鋭さで鎧を切り裂き、狂ったようにケラケラと嗤っていた。
素手のみの破壊力でこれは異常であると、誰の目からみても明らかであった。
中央軍集団を襲った敵以外にも厄災の種がいることに、帝国軍は恐怖した。
それでもと、帝国軍は奮い起つ。
「何をしている⁉︎敵は単騎だ、討ち取って武功とせよ!城壁を駆け上る隊を、掩護せよ!あれは本国にも災いをもたらす、ここで討ち取れ!」
「装填いそが…しぇ…」
ボン
音と共に、馬上で指揮を執っていた士官の体が、マトの蹴り上げで上半身が遥か彼方に飛んでいった。
銃撃を行っても、撃った銃弾を端から拳で打ち落とされ、散らばる小石を拾いあげ、銃兵の頭めがけて投擲しその頭を次々に潰し、無力化していく。
セプト自治州の守備隊の目の前で冗談みたいな光景が展開されていた。
帝国軍の屈強な兵士達が、か細い細腕の女性に蹂躙され、その身体を鎧ごと切断されている。
千切っては投げ、千切っては投げ、辺りは壊れた玩具の人形のような帝国軍の兵士の死体がそこかしに広がる。
ついに敵わないと悟った帝国軍の部隊が城壁周辺から退却しはじめると、他の隊も追従していく。
その退却中の部隊にマトは、崩れた瓦礫を投擲し続け、帝国軍の部隊に死をふりまいていた。
やがて半刻の制限時間を迎える頃、纏った呪力に体力が底をつき、マトは王国の増援部隊と、セプト自治州の部隊に後のことをお願いしていた。
「オウコクヘイノカタ、セプトノカタ…、私はここらが限界だ…あとを頼むわね、私はここで、情勢を…見守…る」
「ご助力感謝いたします。後はお任せあれ!この場を責任を持って死守すると誓おう!セプトの名に懸けて」
「奮戦感謝いたしますマト殿」
「ふふ、それは…良かった…」
そう呟いた矢先に、マトは眠るように目を閉じた。
呪力を纏った反動が、その身を蝕んでる証でもあった。
左翼城壁の攻撃は頓挫し、右翼城壁もランバルディア藩主国が、敵に打撃を与えているところであった。
プリメールとプリメーアが、現在進行形で敵を壊乱させる中、グローリアス混成師団に止めをさす時が迫っていた。




