聖人との戦い
バンネッタ率いるイリトバ城塞所属第二軍は、魔法などの小手先に頼らず、武器を用い己の身体能力のみを信奉する戦闘集団であった。
戦術や戦略を重視するのではなく、直感を頼りに野生動物のような動きをする傾向がある軍団であった。
真っ向からの戦いをなにより至上とする。また、敵対者との一騎打ちを神聖視し、阻害する者には厳しい罰則があるなどの規則がある稀有な軍団。
エンリエッサ率いる第一軍は反対に魔術を重要視し、エンリエッサとその弟子達を中心とした魔術師の軍団である。
自然魔力の高い者達が集まり日夜新たな魔術の研鑽に励んでいる。戦術などにも重点がおかれ、効率的な闘争をのぞむ軍団。
エンリエッサ直下の高弟達は、それぞれ派閥が存在し、互いに競い合うことで軍団を維持していた。
そしてイシュガル率いる第三軍は、第一軍とは対極の魔導に重きをおく軍団であった。
魔導工学を組み込んだ兵器の開発、イリトバ城塞の拡張と強化など多岐にわたる任務に日々情熱を燃やす技術者集団のような軍団である。
また武具の補修や改修にも力を注いでおり、第三軍の武具を纏うということは、それだけでステータスの一つとなった。
それぞれが三千人程の部隊であり、残りの約千人程が領内の治安維持部隊であったりロート山脈の山中を闊歩する魔獣達などであったりした。
五百人程の軍勢を率いてバンネッタは、ポリーウット城塞都市跡を見渡す小高い丘に布陣していた。
副官と共に現在は、望遠鏡を覗きながら敵の出方を探っていた。
「ふーむ、皇国の部隊は生存者救助を主な任務としているな。聖人共はその護衛といったところかな。」
「バンネッタ様今なら勢いに任せて粉砕することも可能でしょう。是非先鋒は我らがゴブリン族にお任せください。」
「待ちな待ちな、ゴブリン族の細腕じゃ荷が重いだろう。ここは俺達オーガ族の出番だろうよ。」
「何を申すかここはあっしらの役目、でかいだけでは弓矢のいい的だ。それにオーク族は腹が減ってんだ。」
「皆の意見は分かった。では先鋒をオーガ族、中央をオーク族、後詰はゴブリン族で配置につけ!オーガ達は重装騎兵を全面に押し出し、小回りの効く短弓兵はゴブリン達に任せる!オーク共は遊撃にまわり機を見て突貫しろ!いいな?」
「かかれっ!」
バンネッタ指揮の元、揃いの赤甲冑を纏った魔族達がロート山脈に接近中の皇国の部隊に猛然と襲い掛かった。
対する皇国軍も襲撃を予知していたのか対応が迅速であった。
騎馬兵同士の乱戦となり、練度は共に互角といったところで、騎馬同士の競り合いで両軍に死傷者がでる。
オーガ達の重装歩兵の突破力は脅威的であり、オークとゴブリン達が、勢いのままに皇軍に襲いかかる。
対する皇軍も、練度の高い守備をみせる。オーガの重装歩兵の鎧の隙間に矢をつきいれ、数体を仕留め、曲射内で後方のゴブリンとオーク達を仕留めていく。
たまらず魔族達が再突撃を準備している最中に、不意に集団の一角が突出してきた聖人により崩れた。
少年のような顔をした兵士は、輝く短剣を振るい魔族達を屠っていく。それを確認するとバンネッタもすぐさま動き、少年の聖人と対峙した。
「あなたがバンネッタかな?俺はアイズっていう者だよ。そろそろ君には退場してもらうよ。勇者様の障害は我らが聖人が取り除かないとね〜」
「ほざけ大天使の狗が、その目障りな武器を砕いたら次はお前の頭を砕いてやる御使い様の邪魔をするな小僧。」
大天使に祝福を受けた武器を手に持つ者、大悪魔の加護を受けし武具を纏う者、それぞれの武器が交錯する時互いの陣営の兵士達はいつしか戦いに魅入っていた。
数合、数十合うちあっても互いに決定打が決まらない高度な技の応酬を繰り広げていた。
だがアイズは武器に宿りしコプラザの聖短剣の能力、俊敏化をフル活用しているのにも関わらず打ち倒せないことにアイズは、焦りを感じていた。
人を超えた速度で連撃をくりだすのに、相対するバンネッタは、なんでもないように捌かれていた。
突きも、袈裟斬りも、兜割りも、持ちうる技を全て出すものの、バンネッタの黒鎧に傷をつけるだけで、砕くには至らない。
「ぜっ…はっ…なんで当たらないなぜ見える?この速度に追いつけるなんてなんなんだよお前っ!おかしいじゃないか、僕は聖人の一人なんだ!」
「ふふふ能力に頼り過ぎだな歴代の聖人共はもっと手強かったぞ。まだまだ鍛錬が足りないな、特定の師はいなかったのか?荒削りの我流の動きが動きを邪魔している。さて聖人のアイズとやら、そろそろ飽きてきたなもう幕を引こうか?」
「なっ…⁉︎」
そう言うとバンネッタは、繰り出した聖剣の突きに、カウンターをするようにアイズを真正面から深々と串刺しにし、目線を合わせてアイズに囁いて告げる。
「なかなかに面白い手品だったよ、けどね動きが単調で読みやすかったよ。来世はもっと上手になりな…またな、小さな聖人君」
「がふっ…うう、血が止まらない。寒いな、酷く寒い…。勇者、…すまない僕は、ここまでみたいだ。…天使様、すいま…せ」
ゆっくりと大剣を引き抜くとアイズからはとめどなく血が噴き出し、やがて事切れて物言わぬ屍となった。
「アッハッハ、あー楽しいけど今回はここまでかな御使い様にご挨拶もまだだし、我が家に帰るぞお前達!」
その言葉を合図に規則正しく撤退していく魔族達。それを眺めながら、あまりにも規格外の強さに聖人の一人を失った皇国軍はただ後ろ姿を見送るしかなかった。
皇軍側は、撤退を知らせるラッパの音を聞くまで立ち尽くすことしかできなかった。




