蹂躙せし者達
命令を受け、城壁下の大地に降り立つプリメールとプリメーア。二体共形を歪めているものの、外傷は無いに等しい。
「…さぁプリメーア、仕事の時間よ。私達にできることをしましょう。この高揚感、なんて言うのだろう…?あとでマトに聞いてみよう…」
プリメーアが身体を大きく動かし、同意を示す。プリメーアは身体をゆすりながら、胴体の口を何度も開く。
プリメールも身体を伸ばしながら、準備運動を始め、辺りを観察しつつ獲物を探す。彼らはひどくお腹が減っていた。
周囲にいる帝国軍の兵士達は、まだ二体の存在に気付かず、王城を盛んに攻めたてている。梯子を城壁にかけ、盾を抱え城壁をうかがう部隊。
そんな手近にいた帝国軍の部隊に、プリメールが襲いかかった。手から伸ばした突起物を数十本に枝分かれさ、額や胸、腹や腰など人体の急所を的確に刺し、生命力を簒奪する。
やがて数十人の、骨と皮だけになった犠牲者達を、横にいるプリメーアに渡すと嬉しそうに丸飲みにした。
プリメーアの身体の体積はすぐに膨張し、先程の倍はある身体になっていた。
そこから小型の分体を創り出し、周囲にばら撒いていく。
「…これはなんとも甘美な味わい、芳醇な香りの者もいれば、淡白な者、濃厚な者、多種多様ね…。生きようという意思が、私の身体の中を駆け巡るような…、プリメーアはどう?貴方は味とか気にするの?」
雑談を交えながら、辺りを掃討していく
二体は、まずは城壁下にいる者達を片付ける事に決めた。
帝国軍が異変に気付いたのは、城壁下にいたはずの部隊が幾つも壊滅し、連絡が分断されてからであった。
「なにが起きている部隊長?城壁下にいたはずの部隊はどこに消えた?奴らは一体何なのだ、説明せよ!」
「状況はまったく不明ですが、不測の事態となっているのは確かです。幸い左右の軍勢は健在です、我らの部隊で被害を食い止めこの混乱に対処いたしましょう」
「これはなにかの間違いだ、敵の城門が見えているのに、あまりに遠い。白の化物と朱色の化物の勢いがただただ凄まじい、どこまで増えるのだ奴ら…」
城門周辺はより悲惨だった。有効な戦術を見出せず、帝国軍の被害は拡大する一方であった。
「隊長!隊長ー!さっき戦死したピピンと同じ顔の奴がでやがった、ピピンだけじゃなく他の隊にいたはずの奴らも襲ってきてます!なんなんですかあいつらは、それに白色の球体の化物もキリがありませんよ」
「俺が知るか馬鹿野郎が、まずは生き残ることを考えろ!全員円形陣を敷け、それから奴らの中心の核を狙え、あれを砕けば畜生共を倒せる!やるぞ皆、銃兵斉射始めー!朱色の奴の触手と白色の球体には不用意に近づくな、距離をとれ」
「長槍繰り出せーー!」
「野砲持ってこい!クソ野郎共の土手っ腹に風穴あけてやれっ!」
帝国軍も必死だった、功績を挙げるための遠征でわざわざ死にたくはなかった。功名心はあるが、家族の為に恋人のためになど、理由は様々だが彼らにも意地があった。
そんな彼らの思いに応えるように、徐々にだが敵の動きが鈍くなり勢いがなくなったのに、帝国軍が奮起する。
プリメールは考える、無作為に分体を創れば敵は崩れると考えていたが、敵もなかなかにやる。
プリメールは生命力を簒奪した対象達に似た分体を産み出し、プリメーアは自身の体積に応じて分体産み出していたが、微小にした核をつかれ、分体の勢いを削がれつつあった。
そこでプリメールは収奪した者達を、自身の身体に一極集中させることを提案し、プリメーアもそれに応じ、雲霞のごとくいた分体を自身に吸収していく。
プリメールの身体は、朱く透き通った色から赤黒く煌めく色に変わり、どこまでも妖しい光を放っていた。
プリメーアもまた、無数にある分体達を取り込み、自身の体積をどこまでも膨張させ、王城の城壁以上もある白色の小高い山のような、圧倒的な高さとなる。
「…これは素敵だわ、とても素敵…。力が内から溢れる、プリメーアも大きいね。これで、どう対処するのかな?」
プリメーアが腕を振るうと、その腕はどこまでも伸び、触れた端から微小な分体達を敵にまとわりつけ、抵抗を続ける帝国軍の兵士達の生命力を簒奪していく。
プリメールもその巨体を活かし、帝国軍を圧殺し、轢き殺していく。圧倒的な質量に、攻撃の全てを無力化して…
再び勢いを取り戻した人外達に、帝国軍の部隊長は己の運命を呪った。
「あんなのどうすればいいんだよ、奴らはきっと御使いの分身達なんだ…。そうだ、これは悪い夢に違いない。俺は夢を見ているんだ」
プリメーアがどこまでも大きな口を開き、大地ごと帝国軍を丸飲みにし、自暴自棄となった部隊長を巻きこみながら咀嚼を繰り返していた。




