着陣
ウェルドア王国に、帝国から出陣した部隊が接近中という連絡を受け、マト達は行動を開始する。
業魔将や御使い様が、ローガルド要塞に布陣している中、北部条約に基づき、増援を送ると決定した。
王国からの伝令を労いながら、こちらからも、王国へ早馬を先発させる。
そしてリーゼガルドの中から、増援の隊員を選抜し、軍備を整えていた。
「プリメールとプリメーア、貴方達は初陣だ。勇気と無謀を履き違えては駄目だ、無理だけはしないように。それと、今日から正式な第一軍になる二人に、私から贈り物がある。プリメールには、第一軍の紋が入った紺の外套。プリメーアには、紋様の入った紺のスカーフをそれぞれ贈ろう」
プリメーアは、スカーフを巻かれている間、モゾモゾと身体をくねらせ、巻き終わると、第一軍のメンバーにスカーフを見せびらかしにいっていた。
「おっなんだなんだプリ坊、スカーフの自慢か?自分が一番って感じだなー」
「ふふ、プリメーア、あんまりはしゃぐとスカーフ失くすよ。そうなるとマトさんが悲しむよー」
プリメールは、マトの似姿に擬態した朱色の肌の上から、外套を身につけ、誇らしげにマトに感謝する。
「…マト、名前だけでなく、こんな物まで、改めてお礼、言います…」
「気にしないのプリメール、後はここを紐で結わいて…、よし完成。けどなんだか、自分に外套を着させてるみたいで妙な気分ね」
「じゃあラタニアにオギル村長、行ってくるよ。留守の間の事頼むわね、なるべく早く帰るようにするからさ。私、こう見えて悪運が強いの、だから心配しないで待っててほしい」
「はい、お任せをマトさん方の武勇を祈っております」
「マトさん、黙って私の前からいなくならないでね。私はもう、誰かが死ぬなんて事、体験したくない…」
どうにも不安気なラタニアをオギル村長が叱るも効果は薄かった。
そこでマトは大胆な行動にでる。
震えるマトを抱き寄せ、安心させる。
「マ、マトさん…」
「大丈夫よラタニア、それに私貴方が幸せな式を挙げるまでは、くたばるつもりはないからね。だから貴方には、笑って見送りしてほしいな」
「はい…、マトさん」
「これ、しゃんとせいラタニア!全く縁起でもない事を、ですがマトさん、くれぐれもお気をつけて」
「ありがとう村長、いってきます」
そんな様子を見ていたマトの部下達は、マトに向けてひそひそ声で囃し立てる。
「マトさんは両刀なんですか?」
「なんか今生の別れみたいでいいですね、こう、危険な恋みたいで…」
「エドガー王子もいるのに、マトさんは罪深い悪い人だ…。うら若き乙女の純情を弄ぶだなんて、自分にはできません」
マトが怒りだすと、隊列の隙間に蜘蛛の子を散らすように逃げだした部下達。
リーゼガルドを進発した軍勢は、三百人程であり、守備部隊の約三分の一程を選抜し、一行は王都を目指した。
それからの行軍は休息を入れつつ、五日の野営を挟みながら、ようやく王都の城門が見えてきた。
すでに城壁には、セプト自治州の軍旗と、ランバルディア藩主国の軍旗が翻っており、マト達の到着に衛兵達が歓声を上げていた。
「ご注進!紺の旗印に、紺の揃いの軍服、連絡にあったマト殿の軍勢が王都に着陣なされました」
「あれが噂の第一軍団か、一糸乱れぬ隊列は、まさに勇壮だな」
「先の会戦を引き分けた、強者達と聞き及ぶ、私達も負けられないな」
城門に詰めている各国の兵が口々に噂する中、マトはゆっくりと近づき、責任者に挨拶をする。
慌てて姿勢を正す城門守備担当の隊長、やや緊張した面持ちで、マトと握手を交わした。
「やー、任務ご苦労様!リーゼガルドより総勢三百人只今着陣した。国王陛下は謁見の間かな?それと隊長さん、私達の持ち場の分担はどうしようか?」
気さくに話しかけるマトの背後には、直立不動で待機する精兵達。
息をのむ番兵が声を振り絞る。
「将軍閣下からは、マト殿達にはこの正面大城門区画を担当していただきたいと、連絡を受けました」
「ん、了解!ではまず陛下に謁見に伺いたいのだが、頼めるかしら?供にはこの、プリメールとプリメーアを連れて行くが相違ない?」
「かしこまりました、陛下と各国代表の方は、奥の間に揃っております!」
「魔術兵長!少しお願い。それとこの辺の地形を確認しておいて、後はそーね…各国の兵士達と友好を深めるように、わかった?」
「はっ、マト様!」
命令を受け機敏に動く魔術兵長、マトは案内の者と一緒に城内の奥の間と呼ばれる、軍団指揮所に足を運ぶ。
「国王陛下お久しぶりでございます。寡兵での参陣となりましたが、第一軍の誇りにかけ、敵対勢力の打破に御協力いたします。本日は我が軍団の中でも精鋭である、プリメールとプリメーアを連れてきました。各国の代表の方方とは初めましてですね、都市リーゼガルドの第一軍マトでございます、以後お見知りおきを」
「久しいな、マト殿!マト殿が太鼓判を押すのだ、お二方の能力はさぞ高いのでしょう。早速ですが状況は逼迫しています、敵は遅くても数日中に王都に達します。なにか良い知恵があれば教えてほしいのだ。各国代表と私の意見では、籠城策が堅実だと思うが、マト殿の意見は如何に?」
「私も籠城策がよろしいかと存じ上げます、敵の総数が不明な以上、会戦はよろしくありません。皆さんには可能な限り、敵を王都の城壁に引きつける役目をお願いします」
「おお、なにかよほどの策がおありか?」
「その役目引き受けましたぞ」
「…マト、私達の、出番?」
「えぇプリメールとプリメーア、今回は食べ放題のお代わり自由よ、おまけに時間制限もないわ。プリメール、貴方が研究室の窓辺にいた小鳥にした事を、もっと派手にできるのよ思う存分ね…」
「…それは楽しみ、聞いたプリメーア?際限なく、してもいいってさ…」
意味ありげに嗤う三人。
マトとジョン国王達の帝国への挑戦が始まってゆくこととなる。




