幕間 マトと人工生命体と(後編)
研究室にいるマテリアルイーターとライフイーター。
マテリアルイーターは所在無さげにうろうろし、今は研究室にある机や椅子を、白濁色の身体の中に入れ、ゆっくりと溶かしていた。
机や椅子を飲み込むと、ぽよぽよと楕円運動を繰り返しながら、マテリアルイーターは二体に分離して、お互いをつつきあって遊んでいた。
一方のライフイーターは、朱色の身体を変化させたマトの似姿のまま、研究室にいる者達や、窓から映る景色に熱心に見つめていた。
窓辺にいた小鳥からは、生命力を奪い、徐々に死に至る経過を食い入るように見つめ、実験でもしているようだった。
まるで個性がバラバラの二体に、気を取り直してマトは質問していく。
「まず最初にライフイーター、なんで君は喋れるんだい?マテリアルイーターは意思疎通程度なのに、不思議だよ」
「…それは、貴方方が、話していたのを真似たらできた。けど…あまり言葉知らないから、教えて」
「ふーむすごいなライフイーターちゃんは、いや君かな?マテリアルイーターは、どのくらい分体が作れるのかい?私が思うに、取り込んだ物の量に応じて、余剰分を分体として作るような感じかな、不思議な能力だ」
「マト様、マテリアルイーターは、分体を作らず、自身の体積膨張に能力を行使したら、どこまで大きくなるのでしょうか?私には見当もつきません」
マテリアルイーターはマトに対して、ぽよぽよと頭を縦に動かし、その仮説があっていると肯定の意を示す。
一人の弟子には、頭を左右に振り、わからないと意思表示をした。
「そーかそーか、マテリアルイーター君の能力は魅力的だ。数の暴力で敵を圧倒できるかもしれないね。じゃあライフイーターちゃんは、その生命力簒奪の有効範囲とかはあるのかな?」
「…わからない、私の、この突起物は、この部屋の端から端までは、届くと思う。あとは、直接取り込んだほうが、簒奪ははやい…それと、私も分体を作れるよ、生命力に応じてだけど…」
「なるほどなるほど、二体とも分体創造能力はありと、あとはその見え隠れする核が君達の心臓だと思うけど、それは分散させたりはできる?」
すると、マテリアルイーターは四体に分裂して、小さな核を四つに分けてこちらを見上げていた。
ライフイーターも、身体の中の核を細かくし、全身に散りばめてみせた。
「…この核は、任意に分散、分裂が可能。偽の核も、生成が可能です。ただ、この核に、深刻な傷を負うと、私達は、生命体としての、機能を失う…」
「素晴らしいじゃない、常に移動する心臓なんて!核のことはわかったよ、じゃあ最後に君達の名前を決めよう」
「…私達の名前?一号とか?ゼロゼロワンとか?呼び名、自分達の存在の証明?社会的な符号?」
ライフイーターは、不思議な顔をしたまま呟き続け、マテリアルイーターは、何がそこまで嬉しいのか、飛び跳ねながら、ぽよぽよと全身運動をしていた。
「ライフイーターちゃん、名前は自分という証みたいなものさ。マテリアルイーター君もそこでじっとしてて、今考えているから、朱色に白濁色…赤と白…色の根源たる原色…」
数分間うんうん唸る上司を、弟子達は心配そうに見つめ、スライム達もその時を待っていた。やがて、考えがまとまり二体に名前を告げる。
「よし決めた!色々と悩んだけど、ライフイーターちゃんはプリメール、マテリアルイーター君はプリメーア。それが君達の名前よ、大事にしてね」
「…私の名前、ライフイーターのプリメール、私はプリメール…うん、マト感謝、大事にする」
プリメールは、自分の名前を何度も呟き、創造主に感謝の意を伝える。
マテリアルイーターのプリメーアは、自分の名前を聞いてから、分体を増やし続けて、自身の感情を爆発させていた。
それからマトは、再び執務室にいるオギル村長とラタニアに会いにいき、プリメールとプリメーアを紹介した。
「オギル村長とラタニア、私の子供を紹介するわね」
「「えっ…お子様ですか⁉︎」」
ポカンと口を開けた二人に、ケラケラと笑いながら、第一軍の新しい仲間の紹介をしていく。
「…よろしく、ラタニアにオギル、私の名は、プリメールという」
プリメールがラタニアに擬態して、握手を迫るのにも二人は固まり、プリメーアがスライムのまま、器用に触手を伸ばし、握手を求めるのにまた固まっている状態であった。




