幕間 マトと人工生命体と(前編)
業魔将であるエンリエッサが、都市リーゼガルドを離れてから数週間が経つ頃、責任者代行を務めるマトは研究に没頭していた。
魔族全軍で新戦力の増強が急がれる中、城の一室にて、マトと数人の弟子達は日夜人工生命体の創造に明け暮れていた。
創造の過程で行き詰まると、マトはラタニアにセクハラを敢行する強硬策をとったり、オギル村長と街の運営について意見を出し合うなど、研究以外のことに取り組むなどした。
今は、ラタニアを自分の膝上に抱えながら頬ずりしつつ、オギル村長と相談を密にしていた。
「もしもの話だがオギル村長、ローガルド要塞が抜かれ、連合軍の軍勢が雪崩れこんできたら、住民を連れ迷わず魔都イールガルを目指してほしい。非戦闘員が数多くいる都市だ、危害が及ぶのは避けたい。村長頼んだよ…私は、戦うことしか知らないからさ」
「マトさん…あのーくすぐったいんですけど、そろそろ離して下さい…」
まるで気にする素振りを見せないマトと、それに淡々と答えるオギル村長。どこか置き去りにされたラタニアは、少しぶーたれていた。
「マトさん、畏まりました。都市の住民達の事はお任せを、私達はエンリエッサ様に受けたご恩をお返しするために、出来ることならなんでもしましょう。それでお話は他にもございますか?」
「いいや村長、少し顔を見に来ただけさ。また研究室にこもるから、街のこと頼むわね。ラタニアも頼むわよ」
そう言うと執務室を後にし、薄暗い研究室へと戻っていく。
巨大なフラスコには、禍々しい朱色のスライムと、白濁とした色のスライムがそれぞれ蠢いており、中心には核のような物が見え隠れしていた。
やがてフラスコにヒビが入り、中のスライム達は霧散するいつもの失敗例だと、誰もが諦めていた時、形を失わず二体のスライムがそこに存在した。
朱色のスライムには生命力吸収の特性を付与し、様々な物に擬態する特性。もう一方の白濁色のスライムには有機物を取り込み、自身の体積を際限なく増やす特性を付与した。
【生命力簒奪】ライフイーター
【体積膨張】 マテリアルイーター
二体の人外は産まれ落ちるなり、研究室内にいるマトを含めた弟子達に、一斉に遅いかかった。
ライフイーターは身体をくねらせながらその身をマトそっくりに擬態させ、管のような突起物をマト達に伸ばし、マテリアルイーターは研究室全体を補食せんと、口を大きく開けた。
しかしマトが何事か呟くと、ピタリとその動きを止めた。
彼女が唱えたのは、スライム達の自壊を促す呪禁であり、上の句は唱えると動きが静止し、もし下の句を唱えるとスライム達は完全に自壊する。
「悪戯が過ぎるなお前達は、このまま呪禁を唱えたらどうなるか、試してみるかい?私はどっちでもいいけど」
するとマテリアルイーターの身体が縮み、体積は元に戻り。
ライフイーターは、マトの似姿から、次々に部屋の中にいる弟子達に擬態を繰り返して、またマトの擬態に変形した後に突起物を身体に引っ込めながら、ライフイーターがポツリと呟いた。
「………それは嫌、せっかく外に出たから色々したい…」
コクコクと頷いているマテリアルイーターと、マトと同じ顔の朱色の肌色をしたライフイーター。
一同は、スライム達の変化のしかたと、ライフイーターが普通に喋れた事に衝撃をうけていた。




