幕間 ハーピーの三姉妹
ローガルド要塞近郊にある訓練地に、空中部隊の戦力増強の一環としてハーピーの三姉妹は、亜人やゴブリンの新兵達に空中機動のいろはや心得を、実技を交えながら指導していた。
紺色の士官服を着こなすミミイに、だらしなく士官服を着崩すメメイにヌメイ、訓練地にて今日も講義していた。
「よくきたお前達!ここは人魔が争う最前線であるローガルド要塞だ。その尖兵たるレジーナ隊長率いる空中機動部隊の役割は、日毎に重要性を増している。空は我々魔族の庭であり領域だ。我々は人にはない翼があり、強靭な羽根がある。お前達の入隊を私達一同は、心から歓迎する」
途端に色めき立つ新兵達に、珍しくメメイが声を張り上げ、一喝すると途端に辺りは静まりかえる。
「静かにしろ!」
「私達の現場は死と隣合わせだ、君達の相棒となる騎竜が傷つき、翼を失えばあとは死だけが待つ。連合軍も馬鹿じゃない、敵の対空兵器は日に日に精度を増し、より高度からの敵への攻撃が私達に求められている」
「私達の任務は、そんな奴らの頭上を抑え、打撃を与える事にあるんだよー。だから君達には、ここで生き残る術を身につけて欲しいんだよー」
「わかったかい?」
「「はい、誠心誠意努力します」」
居並ぶ新兵達に緊張感が走る、普段から生真面目なミミイさんだけでなく、常日頃なら騒がしいはずのメメイさんにヌメイさんも、今日はいつになく険しい顔をしている。
それだけに並々ならぬ情熱があるのが伝わり、訓練地は熱気に包まれる。
「では一班から三班は、編隊飛行の後に仮装敵の目標物に攻撃、四班と五班は、高高度からの目標物への爆撃訓練を行なう!では、かかれ!」
ドタバタと慌ただしく騎乗し、騎竜に振り回され、離陸直後に落下する亜人の新兵が何名かいた。
騎竜と息が合わず、編隊飛行中に列を離れ、単騎で飛行する者がいるなど、慣熟具合にはバラツキがみられた。
「こら!騎竜に振り回されるな、彼らを信頼せんと騎竜も不安がる。身体を預けろといつも言っているだろ!そこ、カリオン訓練生手綱を離すな、空中では命とりだぞ。まずは騎竜を信じろ!」
「はい、すいません!」
そんな中ミミイ隊に所属する先輩隊員達が、新兵達に檄を飛ばし、叱咤激励を繰り返していた。
三姉妹のハーピーは訓練地にある天幕から新兵達の慣熟訓練を眺めながらに、思い思いの感想を口にだす。
後進を育成するのも大事な事であり、成長すれば戦力の底上げになる。
ただなかなか訓練は難航し、彼女達が思い描く理想とはややズレていた。
「いやはや前途多難だね〜ミミイ姉、彼らを部隊に配属するようにするのは、時間がかかるよー」
「そうねヌメイ、けど焦りは禁物よ。後進の教育も重要な任務なんだから、真摯に取り組めば彼らにきっと伝わるわ。だから私達も頑張らないとね」
相変わらずの生真面目な姉に、見知った声がかけられる。
「けど頑張り過ぎはあまり関心しないなミミイ、適度に休憩を入れなさいと何度も言っているでしょう!」
「レッ…レジーナ隊長どうして…」
背後から隊長の声が聞こえ、慌てて振り向くミミイ。
だがそこにいたのは、隊長の声色を真似たメメイがニヤニヤしながら立っていた。簡単に狼狽した姉を、意地悪い顔で観察していた。
「甘いよミミイ姉、常に戦いに備えて状況に備えないと、突然の事で動揺するなんて先がおもいやられるわね」
「わーメメイ上手、今度はミミイ姉そっくりだー」
「あんた達〜、覚悟はいい?」
姉の狼狽した姿を見れて悦に浸るメメイとヌメイに、ミミイの怒りが沸点を迎えることとなる。
訓練生を一望できる天幕の中で、ミミイは自身の身体を付与術で硬質化させていく、彼女達にお灸をすえるために。
「わーミミイ姉、ストップストップ。それは駄目だよ、私達が悪かったよ!」
「冗談だったんだ、ごめんよ…」
だがミミイの怒りは頂点に達し、純真な想いを踏みにじられたと思い、不出来な妹達を折檻するべく、剣呑な気配を放つ。
「…っ!隊長だったと思ったのに、私の純粋な、純粋な気持ちをよくも…、この想いを馬鹿にされて、私は、私は…」
「や、やばい、ヌメイバラバラに逃げるよ!ミミイ姉目が本気だ、暫く雲隠れよ!」
「そ、そう、そうだねそれがいい!私達は先に隊舎に戻るから、新人君達は任せたよー!私達は緊急事態だから、…ね?」
「さ、左様ですか…」
近くにいた部下に急いで後を託すと、一目散に逃げる二人と、猛追するミミイ。
仲が良いのか悪いのか、ハーピーの三姉妹達の穏やかな時間が過ぎていく。
「数日に一回はこんな調子だなぁ」
毎度のことながらも、微笑ましく見送る部下の一人、けど今回はまずいことに、色々と長引きそうだと思う。
お調子者達の無事を祈る部下であった。




