北部連盟の発足
帝国軍本土からの増援部隊を率いるグローリアス・フェルテ・ネルトは功績を積む事に焦っていた。
自分より秀でた兄弟達と常に比較され、なんとかして帝王に評価してもらおうと必至であった。自分にはこれができる、あれができると主張するたびに、帝王に徐々に遠ざけられていた事実がある。兄弟達は遠征を重ね、帝国の領土を直実に広げ、征服した国々を支配下に置くなどの活躍を見せる中、自分は領内の一地域の内政に携わるだけということに強い憤りを抱えていた。
それ故に、魔族との決戦の最中に自分が呼ばれるとは夢にも思わず、今回の遠征に並々ならぬ情熱をかけていた。
グローリアスは、出鼻を挫かれた事に、内心では腸が煮えくりかえっていたが、勇者様や聖人達の前では自重した。
「今にみておれよ、私がウェルドア王国を征服し、側面攻撃が成功したとなれば、奴らも態度を改めるに違いない。真に優秀な者ほど、周りに評価されにくいものだ。王国とは過去にも諍いがあったと聞くがどうなんだ特使殿?」
「ハイ殿下、魔族や亜人と共存共栄を目指す王国は、たびたび我ら帝国と事を構えております。我が帝国から逃げだした奴隷階級の者を大勢匿うばかりか、住処を追われた魔族達に住居を与えるなど、教会の教義を捻じ曲げる異端者共です。今回は王国に難癖をつけ、奴らを戦場に引きづり出すのが狙いです。その役目をぜひ殿下にとお願いする次第でございます」
「特使殿の期待に応えるよう善処いたしましょう、私は私の役割を演じるまでです。あの北の異端共を掃除してみせましょう特使殿」
「これは殿下、なんと頼もしい。私も殿下の姿勢を見習わなければと考えを改たにいたしました。これからは正に殿下の時代でしょうな」
(やれやれ、まったく馬鹿とハサミはなんとやらだな。帝王も兄弟達も、お前が成功しようがしくじろうが興味はないというのにな。ただ王国と争う口実作りが目的なのにな…)
糸目の特使は、妖しく嗤いながらその時を待つ。魔族達との戦火をさらに広げよとの密命を帝王から受け、粛々と実行していく。自分を拾い上げてくれた恩を返すために。
ウェルドア王国のジョン国王は憤慨していた。高慢ちきな帝王の名代を名乗る若輩者が、突然に最後通牒を突きつけてきたことに。またその内容があまりに荒唐無稽であった事にも、怒りに拍車をかけていた。
・現体制をすみやかに解体し、帝国の一自治州に降るなら、今までの蛮行に目を瞑ろう。
・現国王は退位した後に、グローリアス・フェルテ・ネルトにその軍事や内政、その他一切の利権を譲渡し王位を引き渡す事。そのさいに国王の身内を数名、帝国本土に人質として差し出すようにする事。
・現体制の国軍は直ちに武装解除し、帝国の部隊を受け入れる事。また、その際に帝国軍に無条件に協力し奉仕する事。
その他長々とした文字の羅列の最後には、二日間待つ、以上の事柄が実行されなければ実力を行使する、と一文の最後に添えられていた。
その長々とした文書を一瞥した後、暖炉にくべて跡形もなく焼き捨てた。
「くだらん、自分の我を通す、子供のワガママとまるで変わらん。私は断固としてこの要求はのまん、我が王国の意地を通す所存だ。諸君らも異存ないな!」
「ははっ!」
「陛下のお言葉に従います!」
「すでにランバルディア藩主国とセプト自治州から内々に共闘するという、密書が届いた。帝国の奴らに我々の意地をみせようじゃないか、身をもってな…」
案の定交渉は決裂し、対帝国を謳う、ウェルドア王国を中心とした北部連盟を立ち上げる。
永世中立を唱えるウェルドア王国、帝国からの逃亡奴隷達の国ランバルディア藩主国、帝国の傘下から離脱したセプト自治州。
そこにリーゼ率いる魔族達の、魔国も加わり対帝国の枠組みが築かれていく。
そんな状況に大天使サマエルはどこまでも嗤い、リーゼは敵のさらなる一手に備えていた。




