戦略会議(後編)
ローガルド要塞を見渡せる連合軍側の本陣の天幕に、ネルト帝国からの増援部隊の面々が、挨拶をかねて訪れていた。
元々ネルト帝国は、大陸に覇を唱えた一大軍事国家であり、自国以外の国を二流と蔑む傾向のある選民意識のとても強い国家であった。
今は衛星国家として落ち着いた国々は、昔は帝国と結束して血みどろの争いをした過去があり、自治州を名乗る権利があるとはいえ、けして関係が良いとは言いがたい関係であった。
後からきたにも関わらず、いきなり側面攻撃に向かえという帝国軍に、連合軍を率いる将軍達は非難の声をあげた。
「随分と乱暴な物言いですな、ここは我々が奪還した土地であり、帝国の方々のご機嫌うかがいではないのです!わかっているのか貴方達は?ここは今、微妙な力の均衡地帯だ。安全地帯でぬくぬくとしていた者達に任せられんわ、お前達が側面攻撃するのが筋だろうがっ」
「ふふん、私が誰だかわかってないようだな、私はネルト帝の遠縁にあたるグローリアス・フェルテ・ネルトだ。二級の国々の者共が、我々と同じ立場で意見するか。お前達は、ただ黙って私の意見を聞いてればいいんだ。攻撃目標はウェルドア王国、及び徒党を組む周辺の小国だ。わかったらさっさと支度せよ」
「馬鹿な⁉︎同じ人の国を攻めろだと?お主正気か、魔族達との決戦中にどうして王国を攻める?理解しがたいな、理由を聞かせてもらえるかグローリアス殿?」
「簡単な事だ将軍、聖女殿下とネルト帝の直々の勅命だ。駄々をこねると言うなら、お前を軍事法廷に連行する。いいか、これは天の意思であり帝国の意思だ。歴史と伝統だけの国なんて、もはや古いのさ将軍」
「中立を国是とする王国を攻めるなど、どうしてできよう…」
「私達は、魔族と戦うために結束したのに、これでは何の為に戦っているのかわからないではないか!」
「グローリアス卿、よろしいか?私は今代の勇者マークである。この地には現在、御使いや業魔将など、数多の魔族側の実力者が結集している。また配下の者共も強力であり、対峙する軍団も、それ相応の者達が必要となる。それはお分かりかグローリアス卿?」
「なっ、何を言う、わかっている…」
「いいや、失礼ながらグローリアス卿はわかっておられない。つまりは、我々がこの地を離れたら、その引き継ぎを貴方方が受け継ぐこととなる。本国でぬくぬくとしていた貴方方が、その任を果たせるか私にはとても疑問だ」
「…⁉︎言わせておけば、良かろうそこまで言うなら我々が側面攻撃を受け持つ。その憎たらしい顔、覚えたからな!」
「何でも思い通りにいくと思わないことね、グローリアス坊ちゃん。マークの言う通り、貴方方はこの戦争を甘く見ている。盤上の遊戯ではないんだ、あんたの指示一つで人が死ぬのよ」
「痴れ者が、早々に立ち去られよネルト帝の威を借る者よ。供に命をかけた連合軍を侮辱するのは私が許さん!」
「へん、吠えてやがれ!」
どこかふてぶてしい顔をしながら、退陣していく貴族の子弟達。
実戦をあまり経験していない、煌びやかな装備を着こなしながら、一行は王国を目指す。
「三日持てば良い方ではないか元帥?経験の浅い者が率いる軍など、結果は見えているな…」
珍客が退出した後、元帥と将軍達は軍議を再開する。勇者や聖人も加わり、綿密な行動計画を立てていく。
物資の補給の妨害はあったものの、今や準備に抜かりはなく。出撃の号令を全軍が待ちわびていた。
ローガルド要塞、城壁は微妙に湾曲しており、その長大な城壁は見る者を威圧するかのようであった。城壁には、衛兵達が所狭しと並び、野砲にバリスタ、投石機に炸裂弾など、殺傷力の高い兵器群が連合軍を待ち構えている。
噂の御使いや業魔将に、空中部隊までいるのだから激戦は必至だろう。
力攻めを避け、持久策にて策を展開していく将軍達。指揮棒を振るい、伝令が各部隊に行き渡り、角笛やラッパの音が鳴り響く。
ローガルド要塞への攻撃が開始された。




