大天使
大天使サマエル、天魔戦争を生き延びた業魔将達同様、永き悠久の時の中で、魔族達との激戦を幾度となく経験している存在であった。しかし平時は、人の身の中に身を隠し、来るべき聖戦にむけて力を蓄えていた。
そもそもサマエル自身の本体は、天魔戦争のさいに激しく消耗し、人の身を依代に精神体のみが生存している状態であった。そして熾天使達に指示を出す天使側のブレーンの一人であった。
しかしながら、今は月に数度なら自身の肉体を顕現できるほどに回復している状態であった。
依代になっているイズマイル聖女の意識や自我は、サマエルによって奥に奥に封印され、聖女であると同時に大天使サマエルという役割をこなしていた。現在進行形で続くイズマイル聖女の悲痛な叫びは、サマエルによって黙殺されていた。まるで不要であるかのように。
教会の大広間で、虚ろな目をした聴衆をサマエルが一瞥した後、サマエルは言葉は熾天使達に言葉を発する。
「まずは此度の遠征の実情を聞きたい、熾天使ナナイ、偽りなき報告をせよ。君が感じたことや見聞きしたこと、主観でも構わない話してくれる?」
「はいサマエル様、此度の遠征は概ね成功であると考えますが、前線が膠着状態となっている現状はよろしくないかと。ここは前線以外にも、新たに戦線を拡大すべきと具申します。第2戦線を構築し、魔族側を圧迫するべきかと存じ上げますサマエル様。次なる攻撃目標は、融和政策を掲げるウェルドア王国がよろしいかと考えております」
「そーだねナナイ、魔族側に肩入れする国なんていらないね。ウェルドア王国は、この大陸の地図上から消し去ることにしようか。シルベスタはなにか懸念事項はあるかい?」
「はっ、攻撃目標といたしましてはナナイの案で問題はないかと。今やかのロート山脈の御使いの勢力は、もはや一つの国の規模と変わらない大きさです。これ以上の小細工は絶対に阻止したいところかと。あとは、南の魔族達を率いる、元業魔将の一柱の動向でしょうか?彼らが御使いと連携するとなると、なかなかに厄介でしょうな。後背を突かれるリスクは減らしたいところです!」
「ふむシルベスタの言も一理あるな、あの南の変わり者か。あ奴らが介入してくる可能性は捨てきれんな!クロスフィア、例の件の研究はどうだい?」
「はいサマエル様、研究はすこぶる順調にございます。素体の数が減少しつつありますが、必ずや近日中には成果を上げてみせましょう。南の守りは、近隣にいる聖人と軍を派遣し牽制すればよろしいかと考えます」
「ふむ、よろしいクロスフィア。例の件はより強力に推進しろ、素体の件は私が工面するとしよう。当面は北部方面攻略を最優先とする、各自備えてくれ。もちろん南にも留意するように、ナナイとクロスフィアは北部、シルベスタは南部を担当とする!」
「「サマエル様の仰せのままに」」
熾天使達とサマエルは、列席した参列者達に精神を同調し、次なる指令を次々に与えていく。
そんな中でサマエルは思う、今代の御使いの動きがなかなかに独特だと。先代は魔族の勢力図を塗り替えようとした。先先代は、策をめぐらして最後は策に溺れて、同胞を信じることができずに自滅して消滅した。
それぞれの御使いに個性があるが、今代の御使いは、自分達の生態圏を確立しようという節がある。
それはサマエルが、一度も出会ったことがない御使いであり、同時に脅威でもあった。次の相手の出方がまったく読めないからである。
サマエルが徐々に姿を現し始めたのは、この時からであった。




