激突と退却
ネラフィムは注意深く相手を窺う、相手はミミイと名乗るハーピーであり、絶対的に有利な空を捨て、地上に降り立つのにはなにか必勝の策があるに違いないと警戒をしていた。
自慢の愛槍をひと撫でし、槍を中段に構え、渾身の突きを放つ。先端の厚みを最大にまでし、一気に勝負をかける腹積りであったネラフィム。
しかし、ミミイからは甲高い金属音がしたかと思うと、ネラフィムの槍はミミイの羽根により勢いが殺され、今は完全に動きを止めていた。いつのまにかミミイの全身はまるで、薄い金属皮膜のような鈍い光沢を放っていた。
「ちぃ、やはり一筋縄じゃいかないか!その身体、魔術の一種だな。自身の身体に鉄か重金属を、付与術に添加したところか。魔獣が魔術の真似事なんかしやがって生意気な!」
「ふん、聖人め侮るなよ。私の魔術の師匠はエンリエッサ様だ、まだまだ私の魔術はエンリエッサ様には遠く及ばない。だが、お前を打ち倒すぐらいはできると思うぞ?とくと味わえ!」
自身の奥の手である身体強化の付与術を、はやくも使うことになる事態にミミイは内心穏やかではなかった。
エンリエッサ様の指導の元、隊長と一緒になって覚えた魔術、まだまだ荒削りであるが実戦で使うのはこれが初めてであった。
自身の体を覆う金属皮膜のような光沢が浮かび、翼に意識を集中させ金属の密度を上げ、迫りくる聖人の槍を受け止めることに成功した。
さらにその翼に意識を集中させ、羽根の毛一本一本を、鋭い突起状の毛先に変化させ聖人と対峙する。
「へー器用なもんね、けどさ翼に集中した分、他が疎かになったんじゃないの?貴方の命はここで終わらせる!つけいる隙はいくらでもある」
「その前にあんたの命を貰うわ、綺麗な箱に切り取った首を入れて、大事な人に送ってあげるわ」
ネラフィムは止められていた槍をミミイから引き抜き、切り払いや刺突などを織り交ぜながら、ミミイの脆弱な部分を探っていく。
一方のミミイはというと、ネラフィムの激しい攻撃の前に防戦一方となる。左右の羽根を器用に使い、右を盾、左を矛のように使い分けネラフィムに対応する。
自身の羽根を弾丸のようにばら撒き、ネラフィムを肉薄させないように善戦していた。
だが今やネラフィムの槍は、柄を短くし、槍の穂先が巨大な武器のような厚みをなしており、重量にまかせた攻撃にミミイの金属のような皮膚に細かなヒビを幾つもいれていく。
戦闘経験の差が如実に表れ、だんだんと劣勢となるミミイ。そこへワームの群れが地中より横槍をいれた。
「ミミイ、部隊をまとめて速やかに後退しろ。第1波攻撃を躱された今、あとはずるずると消耗戦となる。今は体制を立て直し、部隊の消耗を避ける時だ。これはイシュガル様の命令でもある。ただちに行動しろ!」
言うやいなや、ワーム達とともに引き上げるムスト達。もちろん連合軍側の陣地を破壊しながらという、荒技をしながらに部隊を統率する。
「仕方ないですね、イシュガル様の命令とあらばここは後退しましょう。しかし忘れるなよ聖人、お前は私の獲物だ!半端者呼ばわりしたこと忘れないわよ、命拾いしたわね…」
「あんたがじゃない半端者?もうちょっとで討ち取れそうだったのに残念、次は付与術もっと上手くなってね」
「ぬかせ聖人!」
「メメイ、ヌメイ後退だ、後退!部隊を分けて撤収しろ、追撃を散らしながら合流するようにいいわね?」
「あいさー」
「あいあーいミミイ姉!」
小型の水晶球に連絡しながら、慌ただしく後退するミミイとメメイ、ヌメイの三姉妹の空中部隊。
ネラフィムは彼女達の迅速な行動に呆気にとられながら、半壊した自軍の陣地への救援に向かった。




