業魔将達の会議
都市部の中心部である城は、破壊の爪痕は少なかった。
その理由は魔族の捕虜達に被害を出さないようにというリーゼの配慮からであった。
それでも少なからず、戦闘の傷跡が城内につけられている。そしてそのことが影響し、城内には生き残りの人々が息を潜めていた。
悪魔が一刻も早くこの場を立ち去り、生存者を探す体力を温存しながら。
しかしリーゼ自身大きく疲弊し、身体からは絶えず蒸気が立ち昇っていたためこれ以上能力を行使することができなかった。身体に浮きでている模様が熱を持ち、その模様が赤く発光していた。
半日以上能力を使った反動によりオーバーヒート状態となっていたためである。
同時に身体への負荷を減らすための、一種の安全装置のような役割をしていた。
それでも息を整えながら、施錠された地下室の扉を破壊し、囚われていた魔族達を解放していく。
牢の中は酷い死臭がたちこめ、何人も動かない魔族の子供達が横たわっていた。
中には酷く暴行された形跡や、満足に食事が出されずに餓死した子供などこの世の地獄が広がっていた。
助けだせたのは十数人の様々な種族の子供達だけという結果に、リーゼは複雑な思いであった。
「ここにはお前達だけなのかい?他の大人達はどこに連れていかれたの?悪い奴らは、私が懲らしめたから教えてくれるかな」
「わからないんだ悪魔の姉ちゃん、親切にしてくれた人達は、兵隊に連れていかれて…体の悪い人も無理矢理に」
「僕らはここにいただけで…」
それでも
「さぞ名のある方だと存じます、私達をどうか連れ出して下さい。私達にできることならなんでもします」
「悪魔のお姉ちゃん、ありがとう!」
一番年長の子供が丁寧に謝辞を述べた、その言葉にどこか救われたような気持ちとなり、リーゼは確かな足どりで子供達と一緒にロート山脈へと歩みを進めた。
ロート山脈のイリトバ城塞の中心部に彼らはいた。
山の中腹部に鎮座している大きな水晶球に映しだされた映像に、三者三様の感想を述べる者達がいた。天魔戦争からの生き残りである古強者の業魔将達であった。
「今代の御使い様は、強く気高くそしてなにより可憐ではありませんか!先代や先先代の御使い様とは比べようもないわね〜。是非私が先導し、この城塞の玉座の間にご案内せねば!それにあの御力はもしや原初の力か、私の魔術と合わさればこの大陸制覇の日も近いわ。それはそうと、まずは御使い様のお召し物のお着替えを探さねば」
「自身の能力を把握しきれていないように見受けられる…。まだまだ発展途上ながらあの破壊力は侮れんな。能力を完全に制御された時ははたしてどれほどの力となるのか…。今後が大変楽しみなお方だ」
「いやぁ絶景絶景!あの城以外なんにもなくなったなー!細かいことは合流してからでよいではないか?まずは御身体の疲れを癒す場を設けなくては」
「城塞都市の後方の動きも気になる。皇国の軍勢だろうがその中に、聖人の気配が混じっている…牽制のつもりか?」
「私が引っ掻き回してこようか?我らの領域で動き回るのも癪だ。一当てすれば退散するだろう。聖人も討ち取れれば一石二鳥だとは思わない?」
「どうせなら皇都を狙おう。その方が色々と楽しそうだろ?奴らが慌てふためく様子はさぞ愉快だろう。地獄のような景色を演出できるかと思うと、わくわくするな?」
小柄な少女のような、髪を二つに分け髑髏の紋様の入った衣服を纏う死霊術師の悪魔、山羊の頭にタキシード姿の悪魔、そして黒い全身鎧の隙間から違った目や顔が覗く悪魔が意見を言い合っていた。
《深淵》のエンリエッサ
《探求》のイシュガル
《幽鬼》のバンネッタ
彼ら悪魔にはそれぞれに二つ名と呼ばれる大悪魔達から賜った呼び名を持っていた。
それらの意味するのは、大悪魔達からも認められたという強者の証でもあった。
討ち取った者は数知れず、勇者や聖人ですら返り討ちにし、神話の中の天使達とも互角以上の戦いを繰り広げたという。
そんな彼らの一番の関心事は、今リーゼに集中していた。
エンリエッサは尊敬と恋慕の感情を寄せ、イシュガルは知的好奇心、バンネッタは単純な興味という具合であった。
バラバラな議論を展開させる上司達に、回りにいる魔族の各部族の戦士達も生温かい視線を送っていた。
やがてリーゼを迎えにいくのがエンリエッサ、皇国軍を迎撃するのをバンネッタ、城塞の留守を預かるのをイシュガルとようやく決着がついた。
「待っていてくださいね御使い様…」
「フッフッフッ戦いの支度をせねば」
そんな二人の様子に頭を抱えるイシュガルにまったく気づかない二人組であった




