新生第二軍
ローガルド要塞に続々と到着する異形の集団。主義主張の違う各軍団で、山脈の守護を担当する魔獣の警備部隊はとりわけ異質であった。
言葉を発さず、鳴き声だけで意思疎通を図る彼ら、その集団に声を発する二名が集団を統率し、この地まで引率してきた。
暴食のレジーナ、虚無のムスト、と呼称される高位の魔獣達。一方は異界より召喚され、もう一方は創造された造られた存在である。
先の戦いでは、山脈を攻めた皇国の一軍を撃退した猛者達。やや硬い表情の第二軍の面々を見回し、ムストとレジーナは朗らかに挨拶する。
「初めましてかなティナ副官、僕はムスト。イシュガル様に創造されし者だ。今回この第二軍に臨時配属となった、お手柔らかに頼むよ。部下の魔獣を半数ほど連れてきた。荒々しい性格の者が大半だが、そちらに迷惑をかけないようにするよ。よろしく」
「こんにちは、私はレジーナと申します。私はエンリエッサ様に召喚されし者だ。ムストと同様今日よりしばらくお世話になる。色々と作法に疎く、そちらの流儀とは違うかもしれないが、追い追い慣れていくつもりなのでどうかよろしくお願いしますね」
第二軍の面々が挨拶するより先に、ムスト達が挨拶を行った。
言葉の通じない野蛮な魔獣と、一部の魔族は線引きした考えを持つ者がいるが、この二人はどこか違う認識を受けた。半人半竜の化物に、蠢めく影の人外が巧みに言葉を使ったのにしばし固まっていたが、返礼をティナが代表で行った。
「援軍感謝します。私はバンネッタ様の副官をしているティナと申します。我々の代わりに、手薄になっている前線の監視と見廻り、警備をお願いしたいのだがどうだろうか?第二軍全体で今は人手不足なのだ、頼まれてくれるか?」
「えぇもちろんですティナ、我々魔獣の力喜んでお貸ししましょう。では、私はさっそくハーピーとグリフォン、あとはインプ達を連れて偵察に向かいます、地上の前線はムスト頼んだよ?」
「また勝手に決めて、レジーナは。わかった任されたよ、君は頑固なんだから。ティナ副官達との調整はこちらで調整するからさ。ただし、無闇に敵陣を荒らし回るのは禁止だ。あくまで偵察だ、そこはわきまえてよ」
「ラジャー、じゃあいってくるムストにティナ。三個小隊私に続け、お空の散歩といきましょう」
「ギィーッ!」
「あっ待ってよレジーナ隊長〜」
慌ただしく先発するレジーナ達の空中部隊、空こそは彼女達の庭であり、領域なのだから。
編隊を組み、陣形を変化させながら飛ぶ姿は、あまりに堂々としていた。
「騒がしくしてすまないティナ副官、では僕達も前線の警戒に出発するよ。第二軍の方々は養生していてほしい、合同の慣熟訓練などは傷が癒えた後日に。じゃあ僕達も出発だ、一個大隊前進!残りは要塞前面に広く展開して待機、ティナ副官と第二軍の方々に従うこと、いいね?勝手したら許さないよ」
「あぁ助かるよ、無理いってすまないな。頼りにしているよ」
すぐさまにティナ達の求めに応じ、対応するムスト達に、ティナ達第二軍のメンバーは感心していた。
あの獰猛そうな魔獣達も、ムストの指示に従い、今は要塞前面にある防御陣地に広範囲に散らばり、すんなりと指示通りに動いていた。
「ティナ副官、私は誤解していました。姿形こそ違うが、彼らは我々の同志であり友人ですね」
「あの統率力は見習いたいですな、合同訓練が楽しみだ」
「えぇそうね、彼等となら…」
もう負けたりしない。という言葉を胸に、自らの上司バンネッタに今後の相談と指示を仰ぎに向かう。
連合軍の陣地には警戒を知らせる早鐘が何度も響く、上空に複数の敵影を視認し、バリスタや長弓、ライフル銃を上方に向け射撃姿勢に移る。
しかし彼等の目的はどうやら偵察であり、一定の高度からは降りて来なかった。先頭にいる半人半竜の魔獣に率いられた者達が、悠々と上空を飛行していくのを見送ることしかできなかった。
地上の魔族側の陣地にも動きがあり、骸骨兵やゴーレムしかいなかった敵陣に、魔獣達が闊歩するようになった。
この情報から連合軍上層部は、ローガルド要塞に、別の場所から戦力が増援ないしは増強が為されていると判断し、さらに慎重に情勢を探る動きを見せていた。
かつてロート山脈を攻めた生き残りの皇国の兵士達は、人喰いの魔獣達がやってきたんだと怯える始末だった。やがてその恐怖は前線一帯に広がり、しばらくの間膠着状態が形成された。




