ひとまずの終結
リーゼがミュンヘルト街道に急行するまで、供をしたイシュガルと意見の違いで一悶着あった。
イリトバ城塞の玉座の間にある大水晶球に映る映像に、リーゼは単身すぐさま援軍に動こうとしたが、イシュガルは頑なに拒絶の姿勢でいた。
「イシュガル、そこをどけ!こうしてる間にも我が同胞の軍勢が窮地に陥っている。エンリエッサとバンネッタは、我が軍にとって代えがたい逸材だ、失うわけにはいかない。」
「その志はご立派です。ですがこの転移魔法陣をリーゼ様に使わせるわけにはまいりません!かの戦地には、多数の聖人に勇者、さらには天使が現れたとの報告があがっています。万が一にも御使い様である、リーゼ様を失う事態を避けたいのです。何卒ご自愛下さいませ」
「そんなことは百も承知だ、だがリスクを避ける指導者など、指導者失格だ。それに自分の身ぐらい自分で守るさ、お前の忠誠心には感謝している。お願いだからそこをどいてくれる?私は行かなきゃならないんだ…」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ…」
しばし無言で見つめ合う両者だが、やがてイシュガルが折れて一つの提案をする。リーゼの気持ちを汲んだ折衷案という形で。
「ふー、わかりました。ではリーゼ様には私もご同行いたします。これが最低限の条件です。よろしいですね?」
「ふふふ、ありがとうイシュガル」
そしてローガルドまでを転移陣を使って急行し、この会戦の地に降り立った。
しかし多大な魔力を転移で消費し、さらに続け様に大規模な原初の能力の発現に、リーゼの体力はすでに限界に近づいていた。
リーゼの魔力の揺らぎを感じたエンリエッサは、ナナイと自身を囲む結界を霧散させすぐさま駆けつける。
「この勝負預けたぞナナイ!だが忘れるな、最後に勝つのは我々魔族だということを!」
「ふん、世迷言を!光の神の名の下に、お前達を根絶やしにすることこそが、我々の存在意義そのものだ。光ある世界にお前達の居場所はない!」
ナナイとエンリエッサ、互いに捨台詞を吐きながら、各々の陣営に戻っていく。
ナナイは勇者の側に、そしてエンリエッサはリーゼの元に。
「リーゼ様、大丈夫ですか?我々のために無理をさせてしまい申し訳ありません。殿は私エンリエッサが勤めます、どうか御身体をお休め下さい。」
「う…ん、エンリエッサすまないわね少し無理したわ。貴方も満身創痍でボロボロじゃない…。イシュガルお願いできるかしら?」
「はい、お任せをリーゼ様」
エンリエッサがリーゼの介抱をしつつ、後方の奥深くの陣に後退する。
リーゼが発生した火柱の前には、イシュガルを中心に無数の骸骨兵とリビングデット達が陣取り、味方が完全に撤退するまで敵軍の動向を静観していた。
臨戦体制を維持し、即応できる姿勢のままに。
勇者の側に舞い降りたナナイは、傷ついたマークを治癒術で癒していた。
利き腕は折れ、肋骨も何本も折れており見た目以上に重症であった。
ナナイに支えながら勇者達もまた、連合軍の中央部隊に後退していく。
殿には聖人四人が魔族軍と対峙し、互いにゆっくりと時間をかけながら撤退していく。
「ヤクトバーグ卿、奴らはいったい何者なんですの?私達と互角に戦える存在なんて、青白い肌をした赤目の人外なんて聞いたことがありませんわ」
「うむーわからぬなネラフィム卿、我が鎧を掻い潜る動きといい、そなたの槍を捌く技術、間違いなく業魔将の腹心だろうな…」
聖人四人もまた、油断なく構え、一部の部隊と供に、連合軍の部隊が完全に撤退するまでの間、魔族の軍の殿部隊を眺めていた。
これから何度も相見え、戦うであろう相手を睨みながら…




