ミュンヘルト会戦(5)
マーク・ベルナドット
今代の勇者として様々な戦地を転々とす人類側の守護者であり、聖人達と共に魔族討滅の使命を帯びた若き勇者。
二十代半ばの蒼い短髪の髪色で、中性的な顔立ちをしていた。服装はラフな格好に、涼しげな出で立ちをしていた。
はぐれの知恵なき悪魔の群れを討滅した後、天使ナナイの勅命を受け、この国境線への戦いミュンヘルトに赴いた。
そんな彼の生まれは帝国の片田舎であった、爵位も持たない平民階級の、農家の三男坊としてこの世に生を受けた。
彼に転機が訪れたのは幼少期であり、中央教会の星詠みの巫女に才覚を見出され、以来家族とは離れ離れの生活となった。そんな彼を待っていたのは、過酷な修練の日々と、魔族との戦いであった。
勇者が誕生したということは、近い将来魔族の指導者たる御使いの出現を暗示していた。
前任者たる勇者も、当時の御使いであるエルトダインと刺し違えて、その命を散らしている。御使いと勇者は対をなす存在であり、神の代行人に等しい。
来る日も来る日も戦い続ける彼を不憫に思った天使ナナイは、同じ境遇の聖人達との暮らしにマークを導き、毎日の生活に彩りを添えた。
そんなマークが凶報を聞いたのはつい先日、皇国に赴任していた三人の聖人が相次いで討たれた事であった。
激しい殺意を漲らせ、天使ナナイの御告げを現在に至っている。
倒しても倒しても、湧いてでる魔族達にどうしようもない怒りを感じていた。
ティナとヲイス、ルルドに率いられた第二軍の決死隊は、三方向から連合軍の中央部隊に攻めよせていた。
銃火を恐れず、雄々しく戦う彼らに部隊は及び腰になっていた。
「銃剣を着剣しろ、長槍を構えろ!敵がくるぞ、ひたすらに前進せ…ばぁ…」
「ええい、引くな引くな!瀕死の奴らの悪足掻きに過ぎん、落ち着いて敵前列を狙…をぶっ…」
「ふん、馬に乗って指揮棒を振りわましていたらいい的だまったく。次だっ」
投げナイフや弓で部隊指揮や統率をとる者達を率先して潰し、部隊を撹乱していくティナ達、一名でも多くの友軍を救出し、予備陣地へと退避させ体勢を立て直しを図るために。
それでも徐々に追い詰められ、物量の差で強引になぎ払われていく第二軍。
装備は同胞や人の血に塗れ、武器は血と脂によって鈍らになったものを棄てては、辺りに無数に転がる武器を拾い、使えなくなるまで使用していた。
誰もが切傷や打撲、弾痕などのなにかしらの怪我を負っていた。
頑強に抵抗するヲイス達巨人の部隊に救われティナとルルドは、顔についた汗と血を拭い、しばしの息継ぎの時間をとっていた。
「ルルド何人残ってる?私のとこは、約半分くらいかしら。なかなかにしぶとい、自慢の部下達よ…」
「ティナの姐さん自分のとこも似たようなもんですよ、指揮系統を乱しに乱したがここらへんが退き際でしょう、後続を散らしながら別々に後退すれば生存の確率は上がりますよ…」
「ん…そうね、ヲイス達と連携しつつ私らも予備陣地に下がろうか」
「ゴーレム達はまだもちそうかしら?」
「ええティナ殿、それに山脈で創造した手持ちのゴーレム達が尽きたら、その辺の土砂や瓦礫から即席のゴーレムをあいつらにぶつけてやりますよ!」
「頼もしいわね、期待してる!」
ゴーレムを創り操る術師達にも、濃い疲労の色がでていたが決死隊の一員として彼らも気丈に振る舞っていた。
「ルルド?」
「ティナの姐さん…あれは⁉︎」
いつの間にか、ヲイス達がいた地点は無惨な巨人達の死骸が散乱し、ヲイスは一刀両断のもとに打ち倒されていた。
ヲイスは血反吐を吐きながら、同胞達に退却を勧める。
「ティナ、ニゲロ…勇者ガキタ」
魔族達の天敵である勇者が血を滴らせながら、こちらを見つめていた。ゆっくりとゆっくりと歩みを進め、距離をつめてきた。




