ミュンヘルト会戦(3)
ローガルド要塞の城壁では、業魔将の二名が出撃したことにより戦意は最高潮に達していた。
第二軍団の兵士達は、盛んに雄叫びを上げ、軍旗を振り回しながら肩を組み合い、軍歌を歌ったりしていた。まだ戦いが終わってないのに、もう戦勝祝いのような様子をみせていた。
太鼓や角笛の音がどこまでも響き、守備側の兵士は自らの主人に同行できないのに悔しがり、同行する者達に土産話を話すことを約束させていた。
そんな様子に第二軍団の副将は愚痴を漏らしていた。
「馬鹿者共が、戦場に浮かれて!帰ったら鍛え直しだなヲイス、バンネッタ様はあれでお優しい方だからな。だから増長するんだ!まったく…」
「気持チハワカルガナ、アマリ厳シクスルト部下ハツイテコナイゾ…」
「ヲイスお前も甘いんだ!副将なのだからもっと引き締めろ!だいたいな私は常々だな…」
「まぁまぁティナの姐さんその辺で、そろそろ戦闘領域に入りますよ。今はやや拮抗していますが、こちらが不利なのは否めませんし。単発式のライフル銃をどうにかしないと、総崩れになりかねない厄介ですね」
「ムッ…」
「これはっ…想像以上ね…」
蒸せ返るような硝煙の香りに、もうもうと立ちこめる煙が晴れると、夥しい数の死体が積み重なっていた。
魔族側の死体の数が圧倒的に多く、中央に位置する部隊は今や、押し込まれて包囲されている状況であった。
ゴーレムの背の足場に野砲をくくりつけ、トーチカのように活用し、高所からの利点を活かし、頑強に粘る魔族の部隊もちらほらと散見されていた。
だが、その生存しているゴーレム達にも激しい銃火が浴びせられ、魔族側が円陣で展開している部隊の数は徐々に減少しつつあった。
「両翼は、第一軍の奴らが野砲を潰したからやや優勢だけど、ここは危機的な状況ね。ヲイス私はあいつらの脇腹を抉りにかかる。討ち漏らしを頼める?」
「任セロ…ティナヨ」
「ではいくよお前達、第二軍の底力見せてやろうじゃないか、姑息な武器の前に尻込みするなよ?」
「第二軍全軍突撃せよっ!このティナとヲイスの後に続けっ!」
崩れかかっている中央の隊列に対し、怒涛の如く攻め寄せるティナとヲイス率いる第二軍団の精鋭達、戦いはさらなる局面を向かえつつあった。
地上の戦いとは他所に、その上空でも戦端が開こうとしていた。
熾天使のナナイがエンリエッサと対峙し、互いに魔力を練り上げ、ただならねオーラを放っていた。
「ナナイ、ご機嫌よう昨日の夜以来かしら?貴方達天使がいい加減邪魔なのよ、リーゼ様の世界に貴方達はいらないの。どうせならいっそ私達の仲間にならない?貴方ほどの実力なら厚遇するわよ、まぁ返事はいつでもいいわ」
「馬鹿なことを、私はお前達の存在そのものを認めていないの。穢れた存在は私が浄化させる。一切の例外も認めない。もし仮に今までの悪行を認めるなら、懺悔と祈りの時間をあげてもいいわ」
「少し本気だったんだけどね、まぁいいやナナイ。所詮は天使か、悪魔とは相容れない存在みたいね」
「天魔の亡霊め今救済してあげるわ」
ミュンヘルト街道の上空では、天使と悪魔の激しい攻防戦が展開していた。
エンリエッサは青白く光る雷を身体に纏い、地上の骸骨兵達を自律行動に切り替えナナイへの対応に全力を注ぐ、懐からは天魔戦争から使い慣れ親しんだ小振りな短剣を取り出し、正面に構える。
その短剣からは、濃密な魔力が漂い負の力の要素が色濃く出ていた。
ナナイに対して閃光のような雷をいくつも放ちながら隙を窺っていた。
対するナナイは、光輝く長剣を右手に持ち、左手には磨きぬかれた純白の盾を装備し、迫りくる雷を撃ち払う。
神聖な気配に満ち満ちた光弾を次々に撃ち出し、エンリエッサに接近する。
神話の時代の再現のような戦いが展開され、両軍の兵士達は戦いを忘れ、しばし上空の戦いに見惚れていた。




